side しのぶ
私たちは連れ帰った少女を風呂に入れた後、名前をつけることにした。
「名字も名前もねえのか。となるとまずは名字だが………胡蝶だとアオイと俺が仲間外れだし、他のがいいだろうな……」
「アンタは元から仲間外れよ。」
「なら神崎はどうですか⁉︎私と同じ‼︎」
「そしたらサイコロステーキが仲間外れになっちゃうわ〜。」
「別に良くない?」
「よくねえ‼︎」
「……………」
最初は名字から。サイコロステーキはともかく、アオイは仲間外れにしたくない。アオイを育ててくれた孤児院の人のためにも、結婚していないのに名字を胡蝶に変えるのも良くないだろう。となると別のか……
「ならば栗花落はどうだろうか?ちょうど栗の花が咲く季節だし……」
そんな事を思っていると、サイコロステーキが柄に似合わぬ事を言い始めた。目の前のアホな口からこんなオシャレな言葉が出てくるとは。前にも無理難題に対してかぐや姫みたいとか言ってたし、たまに頭がいい方向に壊れてる気がする。
「わぁ!おしゃれでいいわね♪」
「綺麗なこの子にピッタリです!」
「……………」
「アンタ、なんでたまに教養ある物言いするのよ……」
「両親から小さい頃、英才教育を詰め込まれたんだ。将来自分を養ってもらうために。」
「アンタの親本当毒親よね………」
「お嬢ちゃんはどう思う?」
「……………」コクッ
「可愛い頷き方だ!」
英才教育の結果、他人に養われたいという思いだけ受け継がれるという。完全なる失敗作だ。
「それじゃあ名字は栗花落として、名前はどうする?」
それはさておき、次は名前だ。この子は飛び立つような勢いで活躍して欲しいから………
「とびこ、カマス、すずめ、ハコベとかどうかな?」
鳥の名前にするか!
「「…………えっ?」」
それを言った瞬間、サイコロステーキとアオイが急に固まった。
「どうしたの、2人とも?なんか変な事言った?」
「思いっきりな。」
「えっ?どの辺が?」
サイコロステーキにキッパリと否定された。コイツに言われるだけならお前のが変でしょって言い返せるけど、アオイにまで首を傾げられてしまったので言い返せない。
「しのぶは天然だから仕方ないわよ〜♪」
「姉さん、私は天然じゃないってば‼︎」
「いや、天然だろ。」
「うるさいうるさい‼︎」
「やっぱりそうですよね。」
「アオイまで言うの⁉︎」
何故か私が天然ってことになってるし‼︎姉さんも慈悲の目で見ないで‼︎この中じゃ一番のしっかり者なのに‼︎アオイまで珍しく反対して‼︎どうなってるの⁉︎
「しのぶさん、あなたが言った事は………」
「何よアオイ………」
アオイが私を真剣な目で見つめてくる。本当に皆どうしたんだろう………?
「子供にサイコロステーキって名付けるようなものですよ。」
「えっ⁉︎」
そんな事を思ってたら、アオイにとんでもないことを言われた。えっ?私コイツの両親と同じくらいってこと………?
「いや………そうなの?」
「そうです‼︎」
「そう………なんだ………」
「まあ、しのぶは可愛いからそれでいいのよ〜♪」
「なんか慰められた気がしない………」
「俺の両親よりは愛情を感じるから全然いいけどな。気にすんな、お前は頭が悪いだけでいい奴だ‼︎」
「アンタは慰めるか貶すかのどっちかにしなさいよ‼︎」
なんかガッカリだ………。私そんな変かな?サイコロステーキや姉さんの方がよっぽど変なのに。特にサイコロステーキ。ムカつくからコイツに名付けさせよう。
「というか、そこまで言うならアンタが名付けなさいよ!」
「分かった。なら………カナヲとか?」
「カナエ姉さんと被らない?」
「エがヲになればこの子になるだろ?」
「
「いいわねぇ!」
「なんでちょっと上手いのよ‼︎ムカつく‼︎」
なんでコイツに出来て私に出来ないのよ‼︎ホントムカつく‼︎普段は頭悪そうな言動ばっかしてるのに‼︎
「お嬢ちゃん、どうかな………?」
「……………」コクッ
「よしっ、この子の名前は栗花落カナヲに決定‼︎」
「「お〜!」」
ということで、この子の名前が決まった。
その後、私たちは数ヶ月カナヲと一緒に過ごした………のだが、
「姉さん、この子全然ダメだわ!」
ある問題が発生していた。
「まあまあ、そんな事言わずに!姉さんはしのぶの笑った顔が好きだな〜♪」
「だって!自分の頭で考えて行動できない子はダメよ!危ない‼︎」
カナヲが自分の行動を人に任せっきりなのだ。確かに虐待を受けていた子は自分の意思を上手く出せず、指示待ちになってしまう傾向にある。しかし、ここに来て数ヶ月。そろそろ自分の意思を出して欲しい頃合いだ。むしろ出せるようになってくれないと、今後の人生が多難になると思う。カナヲ自身のためにも、なんとかしたいけど………
「じゃあ、この硬貨を投げて決めたらいいんじゃねえのか?なっ、カナヲ!」
「…………っ!」
そんな事を思っていると、サイコロステーキがアホな事を言い始めた。
「何言ってんの⁉︎運任せとか一番ダメでしょ‼︎」
「キッカケさえあれば、博打の才能は花開くから大丈夫‼︎いつか好きな遊びでも出来たら、カナヲだって変わるさ‼︎」
「カナヲを博打打ちにするんじゃないわよ‼︎」
しれっと博打の継子にしようとしてるし‼︎アオイと違ってカナヲは自分の意思で物事を決められないんだから、変な事を教えるなってあれほど言ったのに‼︎
「もう、その硬貨は没収‼︎」
「カナヲ、怖い姉ちゃんが来るぞ‼︎早くこっちこっち‼︎」
「……………っ!」コクッ
「逃げるな‼︎」
「3人とも、走ったらダメです!埃が舞うので!」
「そうだぞ、しのぶ。部屋の中で走るな!」
「アンタが走り出したんでしょうが‼︎」
「まあまあ、皆仲良しね〜♪」
しかしその日以降、私の願いは虚しくカナヲは硬貨を投げて行動を決めるようになってしまった。
そしてそこから数ヶ月経ったある日のこと。
「給料♪給料♪遊び放題♪」
久しぶりに給料が入ってウキウキしてたサイコロステーキが、数時間後に…………
「俺の………金が………全部………消えた………」
「あなた、何のために生きてるの?」
「カナヲ…………強すぎるって…………」
見るも無惨な姿で発見された。
「何があったの?」
「カナヲとチンチロやったら………ケツの毛までむしられた………」
「しのぶ師範っ!これは、その………サイコロステーキ先輩から誘われたので………」
「そう…………」
どうやらこのバカはカナヲにチンチロを教えて勝負を挑んだらしい。最近鬼殺隊に入ったカナヲからも金を取ろうとしたんだろう。その結果ボロ負け。給料を全て取られたとのこと。本当にアホ極まりない。
「よくやったわ、カナヲ‼︎これでこのバカも博打を辞めるわ‼︎」
「あっ、ありがとうございます!」
「カナヲ、許さねえ…………正味もう一周‼︎お館様から追い給料だ‼︎」
「サイコロステーキ先輩、こんなとこで何してたんですか⁉︎料理の時間ですよ‼︎早く台所に来てください‼︎」
「アオイ、待ってくれ‼︎俺にはまだやることが………あぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「いってらっしゃ〜い♪」
カナヲがちゃんと喋れるようになったことも嬉しいけど、それ以上にサイコロステーキが痛い目をみてくれたのが嬉しかった。そんな1日だった。