サイコロ男と毒女   作:スピリタス3世

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第十六話 博打打ちのいない休日

  side しのぶ

 

 絵描き鬼の退治からしばらく経ったある日のこと。

 

「っしゃあ休日だ‼︎今日は浅草の賭場で大儲けだぜぇぇぇぇ‼︎」

 

 サイコロステーキがいつになくはしゃいでいた。それはそうだ。なんせ久々の外での博打だもの。最近ずっとカナヲに負けてたから、ろくに外の博打に行けなかったんだよね。

 

「どうせ負けるのに、何が楽しいの?」

「うるせえしのぶ‼︎今日こそは勝つんだよ‼︎カナヲも稽古で来れないし‼︎」

「もうカナヲに勝つの諦めてるじゃん。」

「アイツに勝つのは無理だ。しかもまだ奥の手・彼岸朱眼を残してるんだぜ?」

「それ失明の可能性あるから、絶対博打なんかに使わせないでね。」

「分かってるよ!」

 

 ちなみにカナヲがいる日はもっぱらパチンコ作りをやっていた。そんな未来の博打なんか作れるわけないのに、よくやるよね。しかも予算が足りなくなったら、お館様に追加給料をもらうつもりらしい。こんな好き勝手やりやがって。柱を降格させられればいいのに。

 

「とにかく、俺は博打に行ってくるぜ〜。」

「行ってらっしゃい。」

「ちなみに当たったら夜通しで遊ぶからな!」

「明日の朝にはちゃんと帰ってきてよね。」

「それは分からんぞ〜?」

「帰ってこい‼︎」

 

 という事で、サイコロステーキは嬉しそうに屋敷を出て行った。

 

「いってらっしゃいって………まるで熟年夫婦みたいじゃない、しのぶ?」

「仲良しでいいと思います!」

「羨ましいです……」

 

 そしてその刹那、姉さんとアオイとカナヲが草むらから出てきた。

 

「3人とも⁉︎いたなら言ってよ‼︎出てきてよ‼︎」

「だって2人の仲を邪魔するわけにはいかないでしょ〜!」

「師範と先輩、お似合いです……」

「だから違うって‼︎何度言ったら分かるの⁉︎」

「私もいつか愛する人とああなりたいです!」

「こうなったら終わりだからね、アオイ⁉︎」

 

 姉さんは私の方を見ながらニヤニヤしている。またアオイは羨ましそうな眼差しでこちらを見てくる。悲鳴嶼さんやお館様然り、この隊の人たちはいつまで勘違いしているのだろうか。

 

「でも最近満更でもないんじゃないかしら?」

「時々………顔赤いです……」

「ご飯の時とかすごい笑顔でしたよ!」

「アレはアイツのご飯が美味しいだけだから‼︎ホントにそんな気は無いって‼︎」

「これは照れてますね。」

「そうねぇ〜!」

「ですね………」

「違う‼︎」

 

 確かにいいところもあるけれど、それでも絶対に恋仲なんかにはならない。私はもっと理性的でカッコよく、賢い人がいいのに。

 

「とにかく私買い物に行ってくるから!」

「「「そう言って後をついていったり……」」」

「しない‼︎」

 

 そんな事を思いながら、私は屋敷を後にした。

 

 

 

 

 実を言うと、今日は私も休日だ。今までは休みの日とか不要だと思って働き続けてたけど、サイコロステーキに強く言われて変えた。

 

「しのぶ、少しくらい休め。仕事が多いなら手伝うから。」

「私に休む暇なんてない。一刻でも早く鬼を全滅させなきゃ……」

「適切な休養が大切なのは、医者のお前なら分かるだろ?」

「それは……まあそうだけど………」

「という事で休む!仕事が多いなら俺がお館様に掛け合うから!いいな!」

「うん、分かった…………」

「ちなみに俺は週休7日でよろしくな。」

「それじゃあ無職じゃん‼︎サボるな‼︎」

 

 それ以降たまにこうして休みの日を作ってる。こういう日は屋敷でのんびりしたり、こうしてお買い物をするのが楽しみだ。今日は服やお菓子でも買おうかな?こういう些細な事を楽しむことも、アイツがいなかったら無かったんだろうなと時々思う。

 

 

 

 そんな事を思いながら百貨店に入ろうとした時………

 

「カァァァァァ‼︎カァァァァァ‼︎賽子厚切焼肉(サイコロステーキ)ィィ‼︎」

 

 鎹鴉が私を呼び止めた。急にどうしたんだろう?サイコロステーキを名前を呼ぶなんて………。まさか、博打に向かってる途中に………?

 

「博打デ大当タリィィィィィィ‼︎」

 

 すごいしょうもない事だった。

 

「そんなどうでもいいこと伝えるな‼︎」

「本人ガ伝エヨトノコトォォォォォ‼︎」

「そのために鴉を使うんじゃないわよ‼︎全く………大丈夫、あなた疲れてない?」

「ダイジョウブ‼︎アイツ、ウマイ飯クレタァァァァァ‼︎」

「そう。それは良かったね。」

 

 自分の勝利を伝えるために、わざわざそんな事までするの⁉︎本当にくだらない奴ね‼︎

 

「ソレジャア、蝶屋敷ニ向カウナリィィィィィィ‼︎」

「お疲れ様………」

 

 しかも屋敷の皆にまで伝えるつもり⁉︎カナヲと姉さんは稽古中だし、アオイも仕事中なのに⁉︎本当にバカじゃないの⁉︎帰ったら説教ね‼︎せっかくの休日だというのに、バカのせいで余計に疲れてしまった。とりあえず、一旦買い物に集中しよう。バカの処理はその後だ。そんな事を思いながら、私は百貨店の中に入った。

 

 

 

 

 久しぶりの百貨店は多くの人で賑わっていた。鬼殺隊に長くいるせいで曜日感覚が壊れていたが、どうやら今日は日曜日らしい。すれ違う人皆が楽しそうで羨ましい。私もお父さんとお母さんが生きてたら、あんな風に買い物してたかな……?

 

「ねえ、お父さんお母さん!あの服買ってよ!」

「しのぶはこの洋服がいいのかい?」

「でも高いわねぇ………カナエは何が欲しい?」

「私は大丈夫よ〜。しのぶが可愛ければなんでもいいもの〜♪」

「姉さん、ありがとう!」

「金が足りないなら博打で稼ぎましょう‼︎」

 

 ちょっと⁉︎アンタは私の回想にまで邪魔してくるんじゃないわよ‼︎私の家だと、アオイとカナヲなら拾って育てる気はするけど、アンタだけは有り得ないっつーの‼︎

 

 全く………せっかくの休日なのにアイツのことばかり………。服じゃなくて喫茶店にしようかな。ちょうど百貨店に入居している喫茶店があったはず。そこにしよう。

 

 

 

 

 そう思って私は階段を登り、上の階に向かおうとした。すると………

 

「階段が………動いてるっ⁉︎」

 

 なんと階段が自動で動く奇妙な光景に出くわした。

 

「お客様、これはエスカレーター*1といいまして、そのまま乗れば大丈夫ですよ〜。」

「は、はい………」

 

 店員に声をかけられながら、私は恐る恐るエスカレーターとやらに足を乗せる。するとそれは私を乗せてそのまま動き続け、とうとう2階に到着したのだった。

 

「す、すごい………」

「そのまま降りてくださいね〜。」

「はい………っ!」

 

 こんなものが日本にあるんだ‼︎すごっ!これを皆にも言おうかな。鎹鴉を使えば………って、それアイツがやってる事と一緒じゃん‼︎こんなもののために鎹鴉を使うなって、アイツに言われかねない‼︎どの口がって思うけど、ここは帰ってから伝えることにしよう。説教と一緒に。

 

 

 

 

 その後、私は無事辿り着いた喫茶店でコーヒー*2を飲んでいた。今まで飲んだことなかったから試しに頼んだけど………これ、苦いわね。そんな事を言ったら、アイツにバカにされるのかな………

 

 って、なんでサイコロステーキが出てくんのよ‼︎いつもいつも‼︎せっかくの休日なんだから、アイツのことなんか考えたくないのに‼︎もう、コーヒー飲み込んで、アイツのことなんか忘れよう‼︎きっとそれがいい!

 

 

 

 その後、私はもう一度百貨店を見て回ったり、街を散歩したりして久しぶりの休日を楽しんだ。こういうのもたまにはいいわね。時々サイコロステーキの事が思い浮かんだのが嫌だったけど。とにかく、この楽しい時間はあっという間だった。気づけばもう夜。帰ったらご飯が楽しみだな………って、アイツは今日博打でいないんだった。

 

「わぁ〜、かわいい女の子だ〜!ちょっとお時間いいかな?」

 

 そんな事を思っていたら、男の人に声をかけられた。めんどくさいな。適当にあしらって帰ろう。

 

「すいません、この後予定があるので。」

「そんなつれないこと言うなよ〜。俺が幸せにしてあげるからさ!」

 

 そう思いながら、顔を上げると…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の名は童磨。今夜は月が綺麗だね!」

 

 そこにいたのは、虹色の瞳で、左に上弦、右に弐と描かれた鬼だった。

*1
大正3年に日本初として東京の三越呉服店に導入された。

*2
大正時代にはすでに広まっていた。

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