side しのぶ
絵描き鬼の退治からしばらく経ったある日のこと。
「っしゃあ休日だ‼︎今日は浅草の賭場で大儲けだぜぇぇぇぇ‼︎」
サイコロステーキがいつになくはしゃいでいた。それはそうだ。なんせ久々の外での博打だもの。最近ずっとカナヲに負けてたから、ろくに外の博打に行けなかったんだよね。
「どうせ負けるのに、何が楽しいの?」
「うるせえしのぶ‼︎今日こそは勝つんだよ‼︎カナヲも稽古で来れないし‼︎」
「もうカナヲに勝つの諦めてるじゃん。」
「アイツに勝つのは無理だ。しかもまだ奥の手・彼岸朱眼を残してるんだぜ?」
「それ失明の可能性あるから、絶対博打なんかに使わせないでね。」
「分かってるよ!」
ちなみにカナヲがいる日はもっぱらパチンコ作りをやっていた。そんな未来の博打なんか作れるわけないのに、よくやるよね。しかも予算が足りなくなったら、お館様に追加給料をもらうつもりらしい。こんな好き勝手やりやがって。柱を降格させられればいいのに。
「とにかく、俺は博打に行ってくるぜ〜。」
「行ってらっしゃい。」
「ちなみに当たったら夜通しで遊ぶからな!」
「明日の朝にはちゃんと帰ってきてよね。」
「それは分からんぞ〜?」
「帰ってこい‼︎」
という事で、サイコロステーキは嬉しそうに屋敷を出て行った。
「いってらっしゃいって………まるで熟年夫婦みたいじゃない、しのぶ?」
「仲良しでいいと思います!」
「羨ましいです……」
そしてその刹那、姉さんとアオイとカナヲが草むらから出てきた。
「3人とも⁉︎いたなら言ってよ‼︎出てきてよ‼︎」
「だって2人の仲を邪魔するわけにはいかないでしょ〜!」
「師範と先輩、お似合いです……」
「だから違うって‼︎何度言ったら分かるの⁉︎」
「私もいつか愛する人とああなりたいです!」
「こうなったら終わりだからね、アオイ⁉︎」
姉さんは私の方を見ながらニヤニヤしている。またアオイは羨ましそうな眼差しでこちらを見てくる。悲鳴嶼さんやお館様然り、この隊の人たちはいつまで勘違いしているのだろうか。
「でも最近満更でもないんじゃないかしら?」
「時々………顔赤いです……」
「ご飯の時とかすごい笑顔でしたよ!」
「アレはアイツのご飯が美味しいだけだから‼︎ホントにそんな気は無いって‼︎」
「これは照れてますね。」
「そうねぇ〜!」
「ですね………」
「違う‼︎」
確かにいいところもあるけれど、それでも絶対に恋仲なんかにはならない。私はもっと理性的でカッコよく、賢い人がいいのに。
「とにかく私買い物に行ってくるから!」
「「「そう言って後をついていったり……」」」
「しない‼︎」
そんな事を思いながら、私は屋敷を後にした。
実を言うと、今日は私も休日だ。今までは休みの日とか不要だと思って働き続けてたけど、サイコロステーキに強く言われて変えた。
「しのぶ、少しくらい休め。仕事が多いなら手伝うから。」
「私に休む暇なんてない。一刻でも早く鬼を全滅させなきゃ……」
「適切な休養が大切なのは、医者のお前なら分かるだろ?」
「それは……まあそうだけど………」
「という事で休む!仕事が多いなら俺がお館様に掛け合うから!いいな!」
「うん、分かった…………」
「ちなみに俺は週休7日でよろしくな。」
「それじゃあ無職じゃん‼︎サボるな‼︎」
それ以降たまにこうして休みの日を作ってる。こういう日は屋敷でのんびりしたり、こうしてお買い物をするのが楽しみだ。今日は服やお菓子でも買おうかな?こういう些細な事を楽しむことも、アイツがいなかったら無かったんだろうなと時々思う。
そんな事を思いながら百貨店に入ろうとした時………
「カァァァァァ‼︎カァァァァァ‼︎
鎹鴉が私を呼び止めた。急にどうしたんだろう?サイコロステーキを名前を呼ぶなんて………。まさか、博打に向かってる途中に………?
「博打デ大当タリィィィィィィ‼︎」
すごいしょうもない事だった。
「そんなどうでもいいこと伝えるな‼︎」
「本人ガ伝エヨトノコトォォォォォ‼︎」
「そのために鴉を使うんじゃないわよ‼︎全く………大丈夫、あなた疲れてない?」
「ダイジョウブ‼︎アイツ、ウマイ飯クレタァァァァァ‼︎」
「そう。それは良かったね。」
自分の勝利を伝えるために、わざわざそんな事までするの⁉︎本当にくだらない奴ね‼︎
「ソレジャア、蝶屋敷ニ向カウナリィィィィィィ‼︎」
「お疲れ様………」
しかも屋敷の皆にまで伝えるつもり⁉︎カナヲと姉さんは稽古中だし、アオイも仕事中なのに⁉︎本当にバカじゃないの⁉︎帰ったら説教ね‼︎せっかくの休日だというのに、バカのせいで余計に疲れてしまった。とりあえず、一旦買い物に集中しよう。バカの処理はその後だ。そんな事を思いながら、私は百貨店の中に入った。
久しぶりの百貨店は多くの人で賑わっていた。鬼殺隊に長くいるせいで曜日感覚が壊れていたが、どうやら今日は日曜日らしい。すれ違う人皆が楽しそうで羨ましい。私もお父さんとお母さんが生きてたら、あんな風に買い物してたかな……?
「ねえ、お父さんお母さん!あの服買ってよ!」
「しのぶはこの洋服がいいのかい?」
「でも高いわねぇ………カナエは何が欲しい?」
「私は大丈夫よ〜。しのぶが可愛ければなんでもいいもの〜♪」
「姉さん、ありがとう!」
「金が足りないなら博打で稼ぎましょう‼︎」
ちょっと⁉︎アンタは私の回想にまで邪魔してくるんじゃないわよ‼︎私の家だと、アオイとカナヲなら拾って育てる気はするけど、アンタだけは有り得ないっつーの‼︎
全く………せっかくの休日なのにアイツのことばかり………。服じゃなくて喫茶店にしようかな。ちょうど百貨店に入居している喫茶店があったはず。そこにしよう。
そう思って私は階段を登り、上の階に向かおうとした。すると………
「階段が………動いてるっ⁉︎」
なんと階段が自動で動く奇妙な光景に出くわした。
「お客様、これはエスカレーター*1といいまして、そのまま乗れば大丈夫ですよ〜。」
「は、はい………」
店員に声をかけられながら、私は恐る恐るエスカレーターとやらに足を乗せる。するとそれは私を乗せてそのまま動き続け、とうとう2階に到着したのだった。
「す、すごい………」
「そのまま降りてくださいね〜。」
「はい………っ!」
こんなものが日本にあるんだ‼︎すごっ!これを皆にも言おうかな。鎹鴉を使えば………って、それアイツがやってる事と一緒じゃん‼︎こんなもののために鎹鴉を使うなって、アイツに言われかねない‼︎どの口がって思うけど、ここは帰ってから伝えることにしよう。説教と一緒に。
その後、私は無事辿り着いた喫茶店でコーヒー*2を飲んでいた。今まで飲んだことなかったから試しに頼んだけど………これ、苦いわね。そんな事を言ったら、アイツにバカにされるのかな………
って、なんでサイコロステーキが出てくんのよ‼︎いつもいつも‼︎せっかくの休日なんだから、アイツのことなんか考えたくないのに‼︎もう、コーヒー飲み込んで、アイツのことなんか忘れよう‼︎きっとそれがいい!
その後、私はもう一度百貨店を見て回ったり、街を散歩したりして久しぶりの休日を楽しんだ。こういうのもたまにはいいわね。時々サイコロステーキの事が思い浮かんだのが嫌だったけど。とにかく、この楽しい時間はあっという間だった。気づけばもう夜。帰ったらご飯が楽しみだな………って、アイツは今日博打でいないんだった。
「わぁ〜、かわいい女の子だ〜!ちょっとお時間いいかな?」
そんな事を思っていたら、男の人に声をかけられた。めんどくさいな。適当にあしらって帰ろう。
「すいません、この後予定があるので。」
「そんなつれないこと言うなよ〜。俺が幸せにしてあげるからさ!」
そう思いながら、顔を上げると…………
「俺の名は童磨。今夜は月が綺麗だね!」
そこにいたのは、虹色の瞳で、左に上弦、右に弐と描かれた鬼だった。