「賽の呼吸 弐ノ目 丁半」は実際のゲーム「丁半」に基づいた技だよ!サイコロを2個振って出た目の和が丁か半か、いわゆる偶数か奇数かを当てるゲームなんだ。実際の型では丁が出たら反撃成功、半が出たら反撃失敗さ!
side しのぶ
最終選抜を終えた私は、サイコロステーキと共に藤襲山の麓で話していた。
「よっしゃ合格!鬼もいっぱい殺したし、金いっぱい入ってくるだろ‼︎」
「入隊試験に受かっただけでお金入るわけないでしょ。」
「嘘だろ⁉︎俺の入隊祝い金倍増・博打計画は出来ないというのか⁉︎」
「………ホントアホね。」
「だったら鬼倒した意味無いじゃん‼︎ふざけんな‼︎」
「鬼退治の練習でしょ!」
どうしてこの男はこんなに頭も性格も悪いのだろう。普通に考えてまだ仕事じゃないんだから、お金なんか入るはずないのに。それに金が貰えないなら鬼を倒さないとか、ホント屑極まってる。
まあ、こんな男のことばかり考えても意味無いか。それより姉さんだ。私と姉さんは鬼に殺されそうになったところを悲鳴嶼さんから助けてもらった。そして復讐のために鬼殺隊への入隊を志願。しかし悲鳴嶼さんは素直に首を縦に振らず、ある条件を課した。それは最終選別まで別々の育手の元で育てられ、両方とも選別を合格すれば入隊を認めるというもの。姉さんは私よりも何倍も強いから大丈夫だと思うけど、もし死んでたらと思うと………お願い、生きてて‼︎
そんな事を祈りながら、麓で待っていると………
「しのぶっ、戻ったわ!」
「姉さん‼︎」
「元気で良かったわ!嬉しい♪」
「姉さんこそ………っ‼︎」
姉さんが出口から出てきた。しかもとても元気に。本当に良かった。これでまた大好きな姉さんと一緒に過ごせる。鬼を倒すことができる。あまりの嬉しさに、思わず目から涙が溢れてしまった。
「しのぶ、いい彼氏にも巡り会えたのね!素敵よ!」
「「は?」」
そのため、隣にいるバカの事をすっかり忘れてしまった。
「違う!コイツはそんなんじゃない‼︎」
「そう?とても仲良さそうに見えたけど?」
「どこが⁉︎」
「喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない♪」
「そんなのただのことわざ‼︎」
「俺はお姉さんの方が好みです。」
「アンタの好みは聞いてない‼︎というか姉さんを狙うな‼︎」
「悲鳴嶼さんに言っておくわ〜。しのぶが彼氏作ったって♪」
「言わなくていいから、こんな事‼︎」
こんな奴と恋人なんて、冗談じゃない。金を巻き上げられた挙句、博打で全部溶かすに決まってる。コイツはコイツで姉さんが好きとかほざいてるけど、大切な姉さんをこんな奴に渡す気もない。それに、悲鳴嶼さんは恋愛話が好きだ。あの人に言ったら、絶対からかわれるに決まってる。ホント、コイツのせいで最悪だ………
その日以降、何故か私は毎回コイツと合同任務をさせられるようになっていた。それも途中で合流するとかじゃなく、最初から最後までずっといる。
「ねえ、なんで毎回アンタがいるのよ!」
「知らねえよ。俺もお前じゃなくてお前の姉ちゃんみたいな、歳上美人の方がいいのに。」
「私もアンタじゃなくてもっとちゃんとした男がいいわよ!」
「仕方ねえだろ。アンタらの恩人(悲鳴嶼さん)がお館様に進言したらしいから。」
「なんでそんな事言うのよ、あの人………」
確かにそんな事言ってたな。恋仲の男女で合同任務を組ませれば、連携も取れるしお互いを死なせたくないから本気になるって考えは分かるけども。だからといって、コイツとだけは最悪なんだけど‼︎
「博打好きに女好きと同伴………私はゴミ処理係じゃないっつーの‼︎」
「仕方ねえだろ。父親が女好きで母親が博打好きなんだぜ。遺伝だよ。」
「人の家族にこんな事言うの申し訳ないけど、ホント最悪な親ね!」
「安心しろ。俺もそう思うから。だから俺がこんななのも仕方ない‼︎」
「仕方なくない‼︎直せ‼︎」
親のせいだと言って自分の屑さを直さない。それがまた屑っぷりに拍車をかけている。
そんな事を思っていると、
「アレは12の女か………まだ食べ頃ではない……」
「俺よ、ここは引き上げるぞ‼︎片方は未熟で片方は男、食っても仕方無いだろう‼︎」
「キリキリキリキリ………」
気持ちの悪い三つ子の鬼に遭遇した。この近辺で女の子を拐って食べているという最低な鬼は、おそらくコイツらだろう。本当に腹が立つ。さっさと殺したい………っ‼︎
「サイコロステーキ、いくわよ………」
「しのぶ、下がってろ‼︎コイツら弱そうだから3体とも俺がやる‼︎」
「は?」
と思ったら、隣の糞野郎が飛び出していった。どんだけ手柄が欲しいのよ。強い鬼相手にはすぐ逃げようとするのに。
「俺が弱そうだと………っ⁉︎腹立たしい‼︎」
「冷静になれよ。相手も弱そうじゃないか。」
「キリキリキリキリ………」
「爪で引っ掻くつもりか………だが無意味‼︎賽の呼吸 弐ノ目 丁半‼︎」
「コイツ………っ、自分から攻撃を受けに来ただと⁉︎」
相手の攻撃を避けられそうなのに、わざわざ反撃技に持っていくサイコロステーキ。それって確か、半分の確率で失敗する技じゃ………
「半がでちまった⁉︎痛ぇぇぇぇぇぇ‼︎」
「「何がしたいんだ、コイツ…………」」
「丁なら反撃成功なのにぃぃぃぃぃ‼︎」
アイツは案の定失敗して、受けなくてもいい攻撃を受けた。その見事なまでのアホっぷりに、鬼ですら混乱している様子。
「アンタ、なんで受けたのよ?どう見ても避けられたでしょ‼︎」
「丁が出る流れだったんだ‼︎さてはあの鬼、出目を操作しやがったな⁉︎」
「そんな事できるわけないでしょ‼︎」
「くそっ!俺の人生、なんでこうも下振れ続きなんだ………っ‼︎気づいたら金無くなるし……っ‼︎」
「それはアンタがバカなだけ‼︎」
ただ、鬼の攻撃を真正面から受けたのに全然元気な様子。傷ついて血こそ流せど、大きな損傷になっていない。それはすなわち強いって事。私だったらもっと大きな怪我になっているのに。羨ましい………
「おい俺よ‼︎このバカ人間を殺すぞ‼︎ついでにあのチビ女も‼︎」
「冷静になれよ、俺。あの女は沼に落として熟成させるべきだ。」
「キリキリキリキリ………」
まあいいや。とりあえず私はこのクソ鬼を殺すとするか………
「蟲の呼吸
旋回するように周囲を走りながら、何度か突いて毒をばら撒く。広範囲に毒を散らすため、沢山鬼がいるときに使う型だ。
「くそっ、毒かよ………っ‼︎痛いっ、死ぬ‼︎ぐわぁぁぁぁあ‼︎」
「冷静になれ、俺よ………これは………効く………」
あっという間に鬼は私の毒で瀕死に。
「残りはアンタだけね………」
「キリキリキリキリ…………」
歯軋り鬼だけは生き延びたが、あと一突きすれば死ぬだろう。というかこの程度の雑魚じゃ、サイコロステーキが攻撃を受けるまでもなかった気がする。
「危ない‼︎俺の手柄が‼︎賽の呼吸 参ノ目
「キリキリキリキリ………」
すかさず横薙ぎの一閃を放つサイコロステーキ。歯軋り鬼に命中し、倒すことに成功する。なんだ、普通の技出せるじゃん。それをずっと使えばいいのに………
「よっしゃ‼︎中当たりだぜ‼︎」
「は?」
えっ?これも普通じゃないの?
「中当たり?」
「サイコロの出目のうち、大当たりが1個、中当たりが1個、小当たりが1個、外れが3個だ‼︎手本引きっていう博打から出来た型だぜ‼︎」
「ちなみに外すと………?」
「反撃を受ける。」
「バカじゃん‼︎」
なんでこれも博打なのよ⁉︎しかも弐ノ目丁半と一緒で半分の確率で失敗だし‼︎弐ノ目はまだ反撃だから仕方ないのかもしれないけど、この参ノ目は先制攻撃よ⁉︎自分から仕掛けにいってるのに攻撃を受ける可能性があるとか、頭おかしすぎるでしょ‼︎
「にしても痛えな、あの鬼の攻撃‼︎身体がヒリヒリするぜ‼︎」
「ああもう!手当するからじっとしてて‼︎」
第一相手は大したことなかったんだから、そんな博打せずに普通に倒せばいいのに。ホントバカ。身体の手当じゃなくて、頭の手当が必要な気がしてきた。
「ありがとよ、しのぶ!お前の手当ホントすごいな!薬も効くし。流石だぜ!」
「昔から得意なの。普通よ///」
ただ、素直に褒められるのは悪くない。コイツバカだけど、案外いいところあるのかも………
「雑魚2体分の俺の手柄を奪ったことも許してやるよ!」
「毒盛っていい?」
「やめろ‼︎博打が出来なくなるだろうがぁぁぁぁ‼︎」
前言撤回。とっととくたばれ、糞野郎。そんな事を思った1日だった。