side しのぶ
京極屋に入った私たちは、早速ある部屋に通された。
「この部屋余ってたから使うといいよ。狭くてごめんね。」
「ありがとうございます。」
そこは8畳ほどの和室で、狭いとは全然思えなかった。ただなんだか懐かしさを感じる内装で、南向きかつ2階な上に日当たりも抜群。潜入任務にしてはこれほどないまでにいい場所だった。化粧用の鏡なども置いてあって、まさに遊女の控え室らしい部屋だ。
「何かあったらここに来ればいいんだな。」
「そうね。」
「来る………?」
階段からも近いため、サイコロステーキが迷わずに来れる………
「来るもなにも、ここで2人だねぇ。」
「「はぁ⁉︎///」」
っておんなじ部屋⁉︎嘘でしょ⁉︎
「突然のことだから、余ってる部屋がここしかなくてねぇ。」ニヤニヤ
「にしても………っ!///」
「他の遊女の部屋に俺が行けばいいでしょう!」
「それはダメでしょ‼︎」
「あたしゃ仕事があるからこの辺で。」
「「ちょっと‼︎///」」
だから狭いって言ったの⁉︎そういう問題じゃないでしょ‼︎なんで私がコイツと同じ部屋なのよ⁉︎あり得ないんだけど………っ‼︎コイツが余計なこと言うからこんな目に遭っちゃったじゃん‼︎
「くそっ、こうなったら他の遊女を口説くしか………っ!」
「アンタじゃ無理でしょ‼︎」
「はぁ⁉︎俺の顔をよく見てみろ‼︎」
「自分が見なさい‼︎はい、鏡‼︎」
「おお………っ!カッコ良すぎて惚れちまったぜ♡」
「バカじゃないの⁉︎」
当の本人は相変わらずだし……っ!どこから来るのよ、その自己肯定感‼︎マジで一度頭の中を調べてみたいわ。きっと重大な欠陥があるはずだから。
「それはさておき、挨拶回りだ!」
「アンタやけに張り切ってるわね………」
「初出勤日に先輩方に挨拶するのは常識だろ?」
「急に頭良くならないでよ!」
「ついでに好みの女の子を探せるし♪」
「絶対そっちが本音でしょ!」
それはさておき、私たちは挨拶回り、もとい鬼探しをする事になった。今は昼だから、さっき外に出てたやり手婆さんは違うだろう。また、日の当たらない所にいる人が怪しい。とりあえず、北側に面している部屋を探すとするか………
私たちは、まず自分たちの部屋の向かいの部屋から挨拶する事にした。
「すいませ〜ん!」
「は〜い…………えっ?」
出てきたのは小さい女の子。こんな小さい子がこんなところで働いている事実に胸が苦しくなりながらも、様子を観察する。部屋は北側にあるとはいえ、窓は開けっぱなし。つまりは日光が普通に入っているので、この子は鬼じゃなさそう。
「男の人………なんで?」
「どうもこんにちは。俺の名は
「さ、サイコロステーキ⁉︎」
しゃがんで目線を合わせてから話しかけるサイコロステーキ。こういうところはホントちゃんとしてるよね。
「このお店に本番指南役としてやってきた、今を代表するモテ男さ!」
「えっと…………」
「どう?俺と結婚するのは………」
「困ってるから変な絡みやめなさいよ‼︎」
こういうところはちゃんとしてないけどさ‼︎遊廓の裏側に男がいるだけでも混乱するのに、中身がアホじゃ余計可哀想だ。どうしよう、コイツを外につまみ出した方がいいかな?
「私は胡蝶しのぶ。この人の言うことは無視していいよ。」
「えっと…………私は………まな、です………」
「まなちゃんか!よろしくな!」
「よろしくね。」
それにしても、この子なんだか怯えているな。確かにサイコロステーキみたいな、歳上のヤバい男がいたら怯えるだろうけど………。どうやって話しかけようか?
そんなことを思っていると、
「まな、ちょっと教えて欲しいんだけどさ。これ読める?俺文字が読めなくて………」
サイコロステーキが懐から紙を取り出して女の子に見せた。アンタ文字普通に読めるよね?なんなら無駄に学があった気がするけど………。何か考えがあるのかな?とりあえず、邪魔しないでおこう。
「えっと………き、ぶ、つ、じ、む、ざ、ん?」
「おお!そう読むのか!ありがとう‼︎お前、賢いな!」
「ど、どうも…………///」
紙に書いてあるのは鬼舞辻無惨。鬼の王の名前だ。この前炭治郎君が教えてくれた。何故か平仮名で書いてあるが、これは読みやすくしたものだろう。まさか鬼舞辻への手がかりを探ろうとしているの?
「よしっ、それじゃあ他の人にも挨拶してくるか!」
「あっ、あの…………」
そんな事を思っていると、まなちゃんが何が言いたげだった。
「どうしたの?」
「えっと………隣のおっきな部屋にいる人………蕨姫花魁………なんですけどっ、」
隣人のこと?まさか隣人と揉めたりしたのかな?それともあれかな?お局的な怖い人とか?
「私が昨日っ、怒らせちゃって………だからまだ怒っているかも………ごめんなさい………」
やっぱりね。どこにでもいるよね、そういう怖い女の先輩。自分が無能のくせに後輩に威張り散らかす奴。鬼殺隊にも居たなぁ。すぐにサイコロステーキにナンパされて以来、私たちに近づかなくなったけど。
「安心しろ、まな!コイツの方が怖いから!」
「誰のせいだと思ってんのよ⁉︎あっ、まなちゃんは悪くないからね?」
「なんか………ありがとうございますっ!」
「「どうも!」」
それはさておき、私たちはまなちゃんに別れを告げて、隣の部屋へと向かった。
隣の部屋に着くと、襖を開けた途端、
「蕨姫花魁〜!世界一のモテ男が挨拶に来ましたよ〜♪」
隣のバカがやらかした。
「人の話聞いてた⁉︎」
「女ってのはなぁ、かっこいい男を見たら機嫌が治るもんなんだよ!」
「私の機嫌がずっと悪いのはなんでだと思う?」
「それはお前が短気だからだろ。」
「違う‼︎」
まなちゃんが言ったこと聞いてた⁉︎今めっちゃ怒ってるって言わなかったっけ⁉︎そんな事言ったら絶対怒るに決まってんじゃん‼︎
「はぁ?アンタめちゃくちゃブサイクじゃない?そんな汚い顔でアタシの部屋入るんじゃないわよ‼︎」
ほら、めちゃくちゃ怒ってるじゃん‼︎しかも散々な言われようだし‼︎これじゃあまともに会話出来ないって‼︎
「お前………しのぶはブサイクじゃねえだろ‼︎」
「私のことじゃないでしょ‼︎」
「アンタの事よ‼︎なんなの、このバカ男⁉︎」
「はぁ⁉︎バカって言った方がバカだろ‼︎お前、脳みそついてんのか⁉︎」
「それはこっちのセリフよ‼︎」
案の定子供みたいなケンカしてるし‼︎コイツらなんなの⁉︎さっきまなちゃんに話しかけたように優しくすればいいのに‼︎自分の機嫌を大切にし過ぎよ‼︎蕨姫花魁もこんなバカの話なんてまともに受けなくていいのに‼︎
「まあお前はバカだから、この文字読めないだろうけどな!」
そんな事を思っていると、サイコロステーキがさっきまなちゃんに見せた紙を取り出した。鬼舞辻無惨、しかも平仮名書き。こんなの大体の人が読めると思うけど…………
「はぁ⁉︎き、ぶ、つ、じ、む、ざ、ん、でしょ⁉︎」
ほら、読めるじゃん。花魁って意外と教養が………
「きゃあ⁉︎」ニョキッ‼︎
そんな事を思っていると、蕨姫花魁の胎内から禍々しい色をした手が生えてきた。嘘でしょ⁉︎しかもその手が彼女の身体を潰した⁉︎
「ぎゃあぁぁぁぁぁ⁉︎む、無惨様⁉︎なっ、なんで⁉︎」
狼狽する蕨姫花魁。その顔はだんだんと白くなってゆき、ついに瞳が人間のものではなくなった。上弦の肆*1。コイツが目的の上弦だったのね。にしても、なんで謎の手に殺されようとしているんだ?まさかサイコロステーキが攻撃したの?
「おいバカ‼︎あのお方の名前を遠方で言ったらダメだろうがぁ‼︎」グシャ‼︎
「お兄ちゃん、アタシそんなの知らなかったぁぁぁぁぁ‼︎」グシャ‼︎
しかも背中から別の鬼が生えてきたが、その鬼も手によって潰された。そして上弦の肆は瞬く間に潰されて死んでしまった。一体何が起きてるの………?
「ねえ、サイコロステーキ。何これ?」
「炭治郎が言ってたんだ。鬼は無惨から離れたところでその名前を言うと、体内の無惨細胞によって殺されるって。」
そんなカラクリがあったんだ。だから紙に書いて名前を言わせて、鬼かどうか判別していたのか………
「そんな自分の仲間が減るような事をわざわざ………」
「そうだよな。自滅になるから違うとも思ったんだが、どうやら本当らしい。よっぽど名前を知られたくないようだな。」
「鬼舞辻もバカなのね。」
「そうだな‼︎」
にしても、自分の優秀な部下すら殺すって、ホントバカな奴なのね。普通に戦ったらまず勝てない上弦なのに、刀すら抜かずに倒しちゃった。まあ私たちにとっては、楽に倒せる画期的な方法だからいいけど!炭治郎君もよく見つけたわね。こんな方法。
「よしっ、それじゃあ任務も終わったし、ちょっくらチンチロしてくるぜ‼︎」
「アンタ金あったの?」
「う〜ん、無いや。しのぶ、貸して‼︎」
「無理。」
「大人しく貸せよぉぉぉぉぉ‼︎」
まあ、コイツも鬼舞辻並みにバカだけど。
その後、宇髄さんと合流した私たちはさっきの方法を述べた。
「そんな派手なやり方があったとはなぁ。」
「証人が3人になったので、柱合会議で共有しましょう。」
「だな‼︎」
このやり方なら、鬼がまともに会話してくれたら殺しやすくなる。逆にまともに会話出来ない鬼や、鬼舞辻そのものには効果が無いだろう。だけど上弦を簡単に倒すことができれば、最高戦力を保ったまま鬼舞辻に挑めるかもしれない。
「で、あっちの方もすぐ終わったんです?」
「須磨さん‼︎するわけないでしょう‼︎///」
「マジでコイツとは何もないんで‼︎///」
「え〜‼︎」
「「え〜、じゃない‼︎」」
そんな明るい未来が見えた1日だった。