side しのぶ
今日も今日とてサイコロステーキと一緒の任務。もう1年以上も一緒。正直うんざりだ。
「いつになったら私は別の人と任務できるの?」
「おそらく、俺が柱になったらか?」
「そこまでかかるの……」
毎回2人で1体の鬼を倒してるから、昇格の早さも同じくらいになるはず。ちなみにこれまで倒してきた鬼は30体くらい。あと20体で一応柱だ。柱になれば、流石に合同任務ではなくなるだろう。そこまでコイツと耐えなきゃいけないのは嫌だけど。
「ちなみに俺は柱になったら金だけ貰って辞めるから、その時までの付き合いだな。」
そんな事を思ってたら、クソがクソみたいな事を言い始めた。
「嘘でしょ⁉︎柱の任務はやらないの⁉︎」
「当たり前だろ。そのために続けてるんだから。」
「ホント最低………後学の育成とか十二鬼月の退治とかはどうすんのよ……」
「そんなの知らん、好きにやってくれ。俺は博打がしたいんだ!」
どうやらコイツは自分のことしか考えていないみたいだ。
「アンタを特例で昇格させない事って出来るのかな?」
「そんなのできましぇ〜んw」
何ができましぇ〜ん、だ‼︎ムカつく笑顔しやがって‼︎不幸になる暗示をかけてやる‼︎
「どうせなら無限の給料全部博打で溶かせばいいのに‼︎」
「おいやめろ‼︎俺の不幸を祈るな‼︎」
「すぐ博打で溶かして鬼殺隊に戻ってきそうだね!」ツンツン
「嫌だぁぁぁぁ‼︎それ聞いたら鬼殺隊辞められなくなるだろぉぉぉ‼︎」
「いつもお金が無いし、よく負けるのかな?」ツンツン
「今は下振れてるだけ‼︎下振れてるだけだから‼︎」
どうせ下手くそなんだし、諦めて鬼殺隊続ければいいのに。私はバカな彼を人差し指で小突きながら、からかい続けた。
しばらく一緒に街の中を歩いていると、ある長屋の一室の前でサイコロステーキは立ち止まった。
「ただいま〜♪」
「嘘でしょ⁉︎アンタの家なの⁉︎」
どうやら彼の家らしい。意気揚々と扉を開け、玄関にあった藤の花のお香を焚いて寝っ転がり始めた。中に人は誰もおらず、すごい静かな雰囲気だった。こんな夜なのに、誰もいないって………
「そうだぜ!今は俺1人しかいないけど。」
「えっと………両親は?」
「どっちも鬼にさせられた挙句、酔っ払いの隊士に殺されたぞ?」
「そうだったんだ………なんかごめん………」
「気にすんなよ。親とのいい思い出全然ねえから、むしろ1人で気楽さ!」
「そう………」
前に女好きの父親と博打好きの母親がいるって聞いてたけど、こんなに大変だったとは。普段脳天気だから、私みたいに悲しい思いを一切してないのかと思った。人は裏で大変な思いしてるんだなぁ。
「でも気遣ってくれるならお金ほしいぜ!」
「ふざけないで‼︎やっぱ気にしないことにする‼︎」
「くそっ!実話で泣き落とせると思ったのに!」
「アンタホントねぇ…………」
まあ、コイツが糞野郎なのに変わりはないけど。嘘じゃないだけましか。
それはさておき、サイコロステーキは任務中なのにもかかわらず、帰宅してくつろぎ始めた。
「それよりサイコロステーキ、任務は?」
「この街で目撃情報入ってるんだろ?なら夜明けまで待てばよくね?」
「なんで待つの?」
「この時間から戦ったら疲れるじゃん。」
「楽するんじゃないわよ!」
やってる事は完全にサボりだ。ご丁寧に藤の花のお香まで焚いて、完全に寛ぐつもりらしい。なんなら寝過ごすんじゃないか?そんな不安さえある。自分の住む街の人が鬼に困っているというのに、呆れるくらい呑気な人だ。ホントムカつく。
「
「た、確かに………」
そんな事を思ってたら、意外と真っ当な意見を言った。確かに人間は鬼に体力面で劣る。だから短期戦に持ち込み、更に日の出を利用する。納得の作戦だ。とても目の前のバカな脳みそから出た内容とは思えない。本当にこの人はサイコロステーキなの?
「それに、家帰ってきたら遊びたくなるからな‼︎」
「それが本当の理由でしょ‼︎」
サイコロステーキだった。
しばらくすると、彼は棚からあるものを取り出した。
「サイコロ………?」
「呼んだか?」
「いや、アンタの手に持ってる方よ。」
「ああ、これか。」
名字の賽子と物体のサイコロが紛らわしいのはさておき、彼はサイコロ3つとお椀を取り出した。これはもしや…………
「これはチンチロ用のやつだ。」
「家にあるの⁉︎」
「当たり前だろ。」
やっぱり‼︎このバカ、家でも博打やってるのか‼︎
「ところでしのぶ、お前今いくら持ってる?」
「私はやらないから‼︎」
「は?お前賭け事を断る失礼な奴だったのか?」
「失礼はアンタだよ‼︎それに今は任務中でしょ‼︎どこに仕事サボって博打やるバカがいるのよ⁉︎」
「ここにいるぞ。」
しかも私を誘うつもりだったの⁉︎博打なんかやるわけないのに‼︎さもやるのが当然みたいに誘いやがって!仕事中だし、ホント最悪な男………。こんな奴は無視しよう‼︎
「あぁ、もう‼︎ホント呆れた‼︎私1人で鬼を狩ってくるから‼︎アンタは好きにしてたら?」
「そう怒る事ないのに………」
「怒る事だよ‼︎」
「あっ、鬼を瀕死の状態にして玄関に置いといてな。最後は俺がやるから。」
「元気な状態で送りつけてやる‼︎」
「はぁ⁉︎お前ふざけてんのか⁉︎俺が博打できなくなったらどうするんだ⁉︎」
「悪い癖がなくなって最高‼︎」
「ホント性格の悪い女だな………っ‼︎」
「アンタにだけは言われたくない‼︎」
ということで、私はろくでなしを置いて家を出る事にした…………
ガシャァァァァン‼︎
のだったが、なんと爆音で家に鞠が突っ込んできて、あっという間に屋根を吹き飛ばしてしまった。
「「えっ?」」
あまりの一瞬の出来事に、思わず私もサイコロステーキも固まってしまった。鞠が家を壊した?そんな威力になることってあるの?
「おっ、俺の家がぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
サイコロステーキが時間差で絶望しているのはさておき、こんな威力の鞠を人間が蹴ることが出来るだろうか?いや、無理だ。だとすると、目撃情報のあった鬼がくる…………っ‼︎
「おお!こんなところに鬼狩りがおったか‼︎面白いのぅ‼︎返り討ちにして食ってやるのじゃ!」
きた‼︎通路側から女の無邪気な声‼︎発言からして、間違いなく鬼‼︎ここで仕留めにいく‼︎
「サイコロステーキ、鬼だよ‼︎行くよ‼︎」
「待て、しのぶ‼︎今は玄関にお香が置いてある。だからしばらく中から覗いて、敵の様子を見よう。」
「藤の花のお香じゃと?こんなものは、鞠で蹴飛ばしてしまえ‼︎」ガシャァァァァン‼︎
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
様子見する間もなく破壊されるお香。絶望するサイコロステーキ。藤の花が玄関に散らばり、余計に入りにくくなってはいるが、この鬼に通用するのだろうか?恐らく壁を破壊してそこから入ってくる事を選ぶだろう。
「ぬっ⁉︎お香が散らばって入りにくいのぅ‼︎どうすればよいのじゃ⁉︎」
アンタもバカなんかい‼︎お香ごと消し飛ばせるわけないでしょうが‼︎
「今のうちに裏口から逃げるぞ、しのぶ‼︎」
「逃げてどうすんのよ⁉︎ここで仕留めなかったら街の人に迷惑でしょ‼︎アンタの知り合いとかいるでしょ‼︎」
「うちの家は親があんなだから腫れ物扱いされてたんだ‼︎だから街の奴らに情なんか無い‼︎」
「でも、鬼を狩るのが鬼殺隊の仕事でしょ‼︎」
「柱とか強い奴呼べばいいだろ‼︎俺は雑魚狩りしかやらん‼︎」
「こんの…………っ‼︎」
そして、慌てて逃げようとするサイコロステーキ。私を置いてくつもりがないのは感心するけど、逆にそれ以外はダメダメだ。
「私は十二鬼月だから藤の花もいけるはず………ぎゃぁぁぁぁぁ‼︎やっぱやめとくのぅ‼︎」
「おいしのぶ‼︎相手は十二鬼月だって‼︎俺たちじゃ敵うわけないだろ‼︎だから逃げるぞ‼︎」
前門のバカと後門のバカ。本当にイライラする。もうどうにでもなってしまえ‼︎
「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き‼︎」
「ぎゃぁぁぁぁぁ‼︎」
こうして私は、玄関から外にいた鬼に向かって高速で踏み込んでいき、そのまま突いて毒を注入し倒した。相手は十二鬼月とは名乗っていたものの、それほどの強さは全く無く、瞳にもその証拠は見られなかった。
「ほら、鬼倒したから。安心して。」
「賽の呼吸 壱ノ目 双六!」
ただ、サイコロステーキは私に手柄を取られたのが悔しかったのか、いきなり剣を持って私に向かって突っ込んできた。嘘でしょ………流石に仲間を殺すほど酷い人間じゃないと思ってたのに………。仲間の命だけは見捨てないような人だと思ってたのに………
「ぐわぁぁぁぁ‼︎」
そんな事を思ってたら、私の上から鬼の悲鳴が聞こえた。どういう事?
「えっ?」
「お前の上から黙って襲いかかってきた鬼がいたぞ。お前は気づいてなかったけど。」
「あっ…………」
そう言われて後ろを見ると、確かに別の鬼が死にゆく様子が見られた。鞠鬼を倒してこれで全部だと思っていた。
「ごめん、油断してた………」
「そういう時はありがとうだろ!」
「あり………がとう………///」
なんだかんだ私のことを助けてくれる。本当は逃げ出したいはずなのに。なんなら私を見捨ててもおかしくないのに。9割悪いところだらけなのに、残り1割に意外といいところがある。
「あと、そういう時は金だろ‼︎」
「ごめん、油断してた。アンタはそういう奴よね。」
「うるせえ‼︎あと、他に鬼がいないか探すぞ。」
「うん!」
そんな男に、私は毎回振り回されている。
任務後、私たちのところに姉さんがやってきた。
「しのぶ〜、サイコロステーキ〜、聞いて!私柱になったわ!」
「ホント⁉︎姉さん凄い!」
「流石です、カナエさん!俺が見込んだ女なだけあります!」
「アンタは何様のつもりよ‼︎」
どうやら柱になったらしい。入隊してたった一年で柱。本当にすごい人だ。隣のバカとは違って、本当に尊敬できる。
「それでね、私の屋敷を建てる事になったんだけど……また家族で住まない?」
「ホント………いいの?」
「いいわよ!」
「ありが………とう………」
「しのぶ⁉︎そんな泣かなくていいのに〜!」
そして、姉さんとまた一つ屋根の下で暮らせる。同じ家族として。その事実が本当に嬉しくて、つい涙が出てしまった。
「それじゃあよろしくね、しのぶ、サイコロステーキ!」
「「えっ?」」
そんなのも束の間、姉さんのあり得ない発言で涙が引っ込んだ。
「俺も………ですか?」
「姉さん、コイツは要らないでしょ‼︎」
「だってさっきお家が壊れちゃったんでしょ?そしたら住むとこ無いわよね?」
「いや、まあそうですけど………それはこれから探そうと思ってましたし……」
「なら一緒に住もうよ!しのぶも喜ぶし!」
「喜ばないから‼︎姉さん、こんな奴捨てた方がいいって‼︎」
「本当ですか………?俺、カナエさんと同棲出来るんですか⁉︎」
「こらそこ、はしゃぐな‼︎」
コイツと同棲⁉︎あり得ないあり得ない‼︎私の大好きな胡蝶家に、こんな金に汚い博打狂いは要らない‼︎
「ということで、しのぶとサイコロステーキ、同棲決定〜!」
「カナエさんと住めるなら………しのぶのことは我慢しましょう‼︎」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
こうして、私はサイコロステーキと同棲するハメになってしまったのだった………