side しのぶ
私たちは同じ1つの部屋に案内された。しかも敷かれた布団は1つだけな上、2人分の枕が置いてあり幅も広め。完全に恋人同士の扱いだ。
「とりあえず、温泉行ってきたらどうだ?///」
「そうね………///」
ここにいても落ち着かない。心臓の鼓動が上がり続け、身体がもたなくなりそうだ。とりあえず1人で温泉に行って、一旦落ち着こう。うん、そうしよう。
そんな事を考えながら、温泉のある場所に着いたのだが………
「あれ?もう1人は?」
「私1人で入ります。」
「ダメです。」
「はぁ⁉︎///」
なんと断られた。
「いや、なんでです⁉︎ここに旅行に来た人は、皆1人で入ってるじゃないですか⁉︎///」
「胡蝶様とサイコロステーキ様は一緒に入らせるよう、指示があったのでw」
「そんな指示要らない‼︎とにかく入らせて‼︎///」
「もう、仕方ないですねw」
どいつもこいつもなんなのよ⁉︎私たちがそんなに面白いかなぁ⁉︎素直になれない若人とか思ってるんでしょ⁉︎はい残念、私は素直になってるから‼︎
そんな事を思いながら、私は温泉の中に入った。中は他に誰も入っておらず、先ほどまでの喧騒とは打って変わって穏やかな空間があった。紅葉の葉がところどころに浮かぶ趣深い温泉で、今までの疲れを全て忘れさせてくれるような場所だった。ほんと、1人で来てよかった。もしサイコロステーキと一緒に温泉入っていたら、今頃ドキドキして、色んなところが…………いや、何考えてるの私⁉︎これじゃあまるで変態みたいじゃん‼︎やめたやめた‼︎一旦アイツのこと考えるのはやめよう‼︎
その後私は温泉を出て部屋へと戻った。中には既にサイコロステーキは居なかった。一体どこに行ったのだろうか?まあ、おおかた刀鍛冶の人と博打してるんだろうな。またすぐにお金を無くしたりしてw
そんな事を考えてると、料理が運ばれてきた。
「へい、お待ち‼︎」
サイコロステーキによって。
「なんでアンタが運んでるのよ⁉︎」
「お前には想像つかないだろうけどさ………」
「何よ、勿体ぶらずに言いなさい。」
「刀鍛冶の人と高額の博打してさ、手持ち無くなったから働かされた。」
「やっぱり‼︎」
しかも理由も理由だ。コイツは私が温泉入ってる間に全額溶かしてきた。そんなに長時間じゃないのに。ホント頭が悪いんだから‼︎
「お前が金貸してくれたら、こんな事にはならなかったんだけどな。」
「まさか財布から盗んだんじゃないでしょうね?」
「安心しろ。盗んだのはお前の心だけだ‼︎」
「惚れてないっつーの‼︎///」
そろそろ気づいたらどうなのかな?自分が博打に向いてないって。お館様もこんな奴に給料出すのはやめた方がいいと思うよ。今は鬼退治すらしてないんだし。本当にお金をドブに捨ててるようなもんだ。
それはそうと、コイツが運んできた料理は旅館らしい本格的なものだった。刺身のお造りにぐつぐつ煮えたラッコ鍋、ちょこんとした茶碗蒸しにお味噌汁、旬の野菜づくしの和物にご飯。更には日本酒*1。そして中央にはなんと、美味しそうなサイコロステーキがあった。
「サイコロステーキ⁉︎」
「呼んだ?」
「違う!料理の方!こういう旅館のご飯には珍しいと思って………」
「そこだけ俺が作ったからな。ちょうど設備があったから働かされたんだ。」
「そういうことね!」
なんとサイコロステーキの得意料理、サイコロステーキをサイコロステーキが作ったという。遂に食べられる日が来るなんて!来てよかった!コイツがいてよかった!
「いただきま〜す!」
「いただくぜぇ。」
ということで、私たちは夕ご飯を食べる事になった。さてと、コイツが作ったサイコロステーキの味は…………今までの肉の常識を覆してきた。口の中でとろけるような滑らかな感触に、刺激として効いてくる胡椒と塩。全てが私の予想を上回る、完璧で最高な芸術品だった。
「美味しい〜♪」
「そうか。俺のも食うか?///」
「うん!ありがとう‼︎」
「おう……///」
ホント、サイコロステーキと出会えてよかった。こんなにも美味しい料理を作ってくれるなんて。自分もそこそこ自信があったけど、コイツの料理を食べたらそんな事は忘れた。どうでもよくなった。それくらい美味しい。なんだかんだ大切に思ってくれるし、魅力的な人だよね。
「ねえ、サイコロステーキ?」
「どうした、しのぶ?///」
「これからも、それこそ鬼舞辻を倒した後でも………私に料理を作ってくれる?」
「お、お前が養ってくれるならな……///」
「いいよ!」
「ありがとう………///」
鬼舞辻を倒した後でも、人生は続いていく。その中に、あなたが居てくれたら嬉しい。柄にもなくそんな事を思ってしまった。その事に気づいた途端、なんだか少し恥ずかしくなってしまった。きっとお酒で酔ってしまったからだ。うん、そういう事にしよう。
「お酒もおかわりしよ///」
「飲み過ぎんなよ?気をつけろよ?///」
「うん……///」
だから私は、もっと飲んで誤魔化そうとした。
食事も終わり、少し時間が経った頃。私はある事に気がついてしまった。
「はぁ、はぁ………///」
「どうした、しのぶ?///」
「い、いや、なんでもない………///」
身体が恐ろしいくらいに火照っている事を。今回の食事にはサイコロステーキに紛れて、ラッコ鍋が入っていた。更にはお酒。サイコロステーキ以外はサイコロステーキが作ったものじゃないから、これは完全に刀鍛冶やお館様の思惑じゃん‼︎完全にそうさせるつもりじゃん‼︎
「大丈夫か………?水、飲むか………?///」
「大丈夫だって………///」
ダメだ。サイコロステーキを直視できない。鼓動は上がり、息が荒くなってしまう。普段はしっかり働いている頭も、今日は待ったをかけてくれそうにない。それに、こうなってようやく気づいた。私、この人が好きなのかもしれない。
「そうか。じゃ、俺は夜通し博打してくるから、大人しく寝とけ///」
さっきお金無くなったって言ってたくせに。やめてよ。行かないで。気を遣わないでよ。
「やだ……///」
「や、やだってなんだよ⁉︎///」
「ここに居て。一緒に寝て///」
「おっ、お前!酔いすぎだって‼︎///」
「嫌………なの?///」
「嫌、じゃねえけど………///」
私の思い、全て受け止めて…………
「「下弦、参上‼︎」」
「病葉、ここが刀鍛冶の里か〜♪」
「そうみたいだな、釜鵺。とりあえず誰から殺す?」
「まずはあそこで泊まっている恋仲どもじゃね?」
「そうするか。」
は?なんで今、鬼?ふざけるなよ。何してくれてんだよ。私たちの時間を返せよ。せっかくの雰囲気が台無しじゃん。
「「お邪魔しま〜す!」」
「死ね…………」
「し、しのぶ……………?」
「おい病葉、なんかやべえぞ‼︎あの女キレてるって‼︎」
「こうなったら…………逃げるしか‼︎」
「蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角。」
「「ぎゃああああああああ⁉︎」」
こうして、私は怒りのままに下弦2体を殺した。その後も鬼に刀鍛冶の里が見つかったとのことで、急遽移転作業の手伝いをする事に。せっかくの時間を台無しにされ、無駄に疲れ、何もなかった事にされる。本当に最悪の休暇だった。