side しのぶ
ドタバタな刀鍛冶慰安旅行が終わって落ち着いたころ、私は蝶屋敷で姉さんたちに詰められていた。
「ねえ、しのぶ?なんで何もなかったの?あれだけ準備したのに?」
「姉さん、鬼が出たって言わなかったっけ?」
「「「がっかりです!」」」
「勝手にがっかりされても困るんだけど⁉︎」
「部屋に入ってすぐ一線越えれば間に合ったと思います……」
「カナヲ、雰囲気って知ってる⁉︎」
「一線越える気はあったんですね!」
「ちちちち、違うからね、アオイ⁉︎///」
アオイに確信を突かれてつい動揺してしまう。あの時はお酒とラッコ鍋のせいで完全におかしくなってた。今だったら絶対ああいうことにはならない………多分。うん、そういう事にしよう。
それにしても、渦中の人が居ないな。
「そういえば、サイコロステーキはどこ行ったの?」
「そんなに好きな人のことが気になるんですね!」
「違うから‼︎///」
サイコロステーキだ。料理の時間まではまだあるし、昨日は徹夜で博打していたわけではない。それに、参謀としてお館様のところに行っているわけでもない。
「確か部屋に居たような………?」
アイツが部屋に引きこもってるなんて、珍しいな。まだ寝たらりして。
「師範、呼んできてくれませんか……?」
「「「お願いします‼︎」」」
「わかった。」
「そのまま部屋から出てこなくても………」
「姉さん、変なこと言わないで‼︎///」
とりあえず様子を見に行ってみるか………
そして、私がサイコロステーキの部屋に着くと………
「単勝、複勝、馬連、馬単、三連複、三連単………」
中から訳のわからない呟きが聞こえてきた。
「アンタ、何してんの?」
「おっ、しのぶか⁉︎びっくりした‼︎」
「ごめん、急に声かけて。なんか変なこと呟いてるから気になって。」
「これか。今度やる柱稽古について考えてたんだ。」
「アンタが真面目に仕事することあるのね。」
「俺は常に真面目だぞ?」
「嘘つけ‼︎」
柱稽古。今度開催される柱主催の合同稽古のことだ。柱じゃない一般隊士が各柱の屋敷を回っていき、それぞれが考えた稽古を受ける。またそれと同時に、柱同士で稽古をして鍛える、という内容のものだ。十二鬼月を全滅させた結果、鬼の出没がぴたりと止んだため開催する事になった。
「それはそうとして、内容は短距離走で決まったんじゃなかった?」
「それは知ってる。」
「じゃあさっきの独り言は何?」
「それはな………」
サイコロステーキ自体は柱ではなくなったが、私たちの屋敷には姉さんがいる。そのため、蝶屋敷で1種類の稽古を実施する事になったのだ。柱稽古とあって、担当は姉さんなんだけど………コイツは何を考えてるんだ?
「100年後の未来では競馬という博打が流行ってる、と夢で見たからな。それを人で再現しようと思って、つい。」
「なにしようとしてるのよ⁉︎」
稽古に博打を持ち込もうとしてたの⁉︎ホントアホなんだから‼︎鍛錬にまで金を賭けるんじゃないわよ‼︎
「競馬ってのは速い馬がどれか当てる博打でな。それを人間でやるんだ。誰が速いか金を賭ける。単純にみえて複雑なんだ。」
「金を賭ける必要無くない⁉︎」
「あのな、しのぶ。戦場では命がかかってるだろ?でも稽古で命をかけるわけにはいかない。そこで代わりに金を賭けるんだ。そしたら緊張して稽古に臨めるだろ?」
「要らない緊張まで持ち込むんじゃないわよ‼︎」
「ちなみに走る側も走る側で金を集めて賞金にする。これで見るのも走るのも全力というわけだ‼︎」
「早く捕まっちまえ‼︎」
稽古の目的は強くなる事なのに‼︎それを履き違えるな‼︎あと賭博は犯罪‼︎何回も捕まりかけてるんだから、そろそろ反省すればいいのに‼︎
「みんな〜、しのぶをサイコロステーキの部屋に閉じ込めるわよ〜♪」
「「「「「おー!」」」」」
「姉さんたちは余計なこと考えないで‼︎///」
「早く出るぞ、しのぶ‼︎///」
「分かってる‼︎///」
そんな事を思ってたら、危うく一緒の部屋に閉じ込められそうになったので、慌てて出る事にした。ホント、姉さんたちは余計なお世話を焼くんだから‼︎
しばらく姉さんたちと柱稽古について話し合った後、私とサイコロステーキは禰豆子さんのところに向かう事になった。柱稽古の裏では鬼舞辻討伐用の薬製作が進んでいる。今日は珠世さんや愈史郎さんと一緒に禰豆子さんの採血をする時だ。
「皆さん、お待たせしました!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。今来たところです。」
「珠世様を待たせるとは、無礼な連中め‼︎」
「お前は一生待ってろ‼︎」
サイコロステーキと愈史郎さんが喧嘩をしている横で、珠世さんはすごく戸惑っていた。サイコロステーキの体たらくに申し訳ないと思っていると、
「ところで、あの人は一体誰なんです?」
珠世さんが禰豆子さんの方を指差した。するとそこには………
「ぜんいつ〜!」
「むーむーむーむー?」
「ぜんいつ〜!」
「むーむーむーむー?」
禰豆子さんと戯れる善逸君がいた。
「彼は我妻善逸君、禰豆子さんの自称旦那です。」
「サイコロステーキさんといい、自称旦那って流行ってるんですか?」
「流行ってないです。」
そんなもの流行らせてたまるか。どいつもこいつも謎に自信だけあるのやめてほしい。サイコロステーキに至っては複数人の自称旦那を名乗ってたし。最近は全然言わなくなったけど。
「何してるの、善逸君?」
「しのぶさん、禰豆子ちゃんが喋りそうなんですよ!」
「とてもそうは見えないけど?」
「俺の勘です!」
「善逸、お前じゃなくて俺が言わせれば喋るかもしれないぞ?」
「いや、サイコロステーキ先輩は無理でしょ。」
「なんだと⁉︎」
「無理だろうな。」
「うるせえ愈史郎‼︎」
禰豆子さんは薬で治さない限り、喋らないと思うけどなぁ。
「でも治療は効いています。私の経験からすると、もしかしたらそろそろ何か起きるかもしれません。」
「そうなんですか?」
「珠世様がおっしゃってるんだぞ?合ってるに決まってるだろうが。」
「でもしのぶが疑問に思ってるんだぞ?分かんねえだろ!」
「「あぁ⁉︎」」
勝手に代理戦争始めてる男どもはさておき、珠世さんがそう言うのか。一緒に共同研究してみて分かったけど、この人はすごい人だ。医者としての腕前なら、長年の経験もあり正直私より上。だから頼りにしている。その人が言うんだから、本当に何か起きるのかもしれない。
「ぜんいつ!」
「むーむーむーむー?」
「ぜんいつ!」
「むーむーむーむー?」
それにしても、彼はどれだけ彼女に自分の名前を覚えてほしいんだろうか。まあ彼の場合は一途だからいいか。前のサイコロステーキみたいに手当たり次第に声かけてないし。
「ぜ〜ん〜!」
「むーむー?」
「い〜つ〜!」
「むーむー?」
言葉を区切って言いやすくする善逸君。でもしばらくは喋らなそう。善逸君には悪いけど、今から製薬会議を始めるか〜。
「ぜ〜ん〜い〜つ〜!」
「むーむーむーむー?」
「ぜ〜ん〜い〜つ〜!」
「むーむーむーむー?」
「もう少しなんだよなぁ。」
「もう少しなんだよなぁ。」
喋った⁉︎嘘でしょ⁉︎しかもそこだけ⁉︎全然意味わかんないんだけど⁉︎
「「「「えっ⁉︎」」」」
「やった〜!禰豆子ちゃんが喋った〜‼︎」
「いやいやいやいや、そこだけ喋るの⁉︎」
「すごい現象ですね………私もここまでとは思ってませんでした……」
「くそっ、俺が喋らせようと思ってたのに‼︎」
「アンタは張り合わなくていいのよ!」
「っしゃあ‼︎珠世様の勝ちだ‼︎」
「愈史郎さんは何の勝負をしているの?」
珠世さんですら理解できていない様子。そりゃそうだ。普通もう少し簡単な言葉を喋るだろうから。これはもしかして、禰豆子さんの体内で何か起きてるかもしれない。鬼を人間に戻す、活気的な物質や現象が発生しているのかもしれない!
「これは大きな一歩になるかも!珠世さん、採血してみましょう!」
「そうですね!愈史郎、手伝ってくれる?」
「はい!もちろんですとも!」
「しのぶさん、珠世さん!俺も手伝います!」
「「お願いします、善逸君!」」
「結果が分かったら教えてくれ。飯作って待ってるぜ。」
「ありがとう、サイコロステーキ!」
こうして、私たちは鬼全滅への大きな一歩を踏み出した。そしてその数日後…………
「カァァァァァ‼︎
半歩後退した。