side しのぶ
数週間後、いよいよ私は新しい蝶屋敷に住む事になった。
「すごい広いね、姉さん!」
「そうねぇ。3人だけじゃあ持て余しちゃうわね。」
「いっそのことサイコロステーキを追放して、2人で住むのがいいんじゃないかな?」
「しのぶ、好きな子には素直になりなさい。」
「だから好きじゃないって‼︎」
久しぶりの姉さんとの同居も、サイコロステーキがいたら一気に気分が下がってしまう。あれほど楽しみにしてたのに、余計なもののせいで台無しだ。
「そんな事よりカナエさん、蝶屋敷で賭博場は開けますか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「しのぶ、お前には聞いてない。」
「あんまり鬼殺隊関係者以外は入れちゃいけないからねぇ。」
「じゃあ鬼殺隊士の憩いの場・賭博場を作りましょう‼︎」
「そんな事できるわけないでしょ‼︎」
「だからしのぶには聞いてねえって。」
ちなみに本人はアホな事を言い続けていた。憩いの場の意味を辞書で調べてきてほしい。それに、居候させてもらうんだから、もっと気を遣えっつーの‼︎
「姉さん、やっぱりコイツ追い出そうよ‼︎」
「ダメよしのぶ。」
「え〜、嫌だ〜‼︎」
こんな奴と同棲とか、姉さんは気が狂ったんだろうか?時々心配になる。
屋敷について自分の部屋に荷物を置いた後、私たちは居間に集まった。
「久しぶりの家族団欒って感じね、しのぶ、サイコロステーキ!」
「1人余計なものが混ざってない、姉さん?」
「家族団欒といえば、ちんちろですか?それとも丁半?」
「家族で博打をするな‼︎」
ここに集まったのには理由がある。
「そんなことより、屋敷の分担を決めるよ‼︎」
家事の役割分担だ。一つ屋根の下で暮らす以上、分担して家事をする必要がある。ましてや病院の仕事まであるのだ。この屋敷は以前からあった鬼殺隊用の病院施設を改築して作られており、病院の役割も担っている。私の医学・薬学の知識を見込んだ姉さんがお館様に提案して、病院と私邸を兼ねる事になったのだ。私も自分の力を皆のために役立てるのが嬉しかったので、この提案に乗った。だがその影響で、家事を3人で分担しないと回らなくなった。
「っても病院関係はお前しか出来ねえだろ、しのぶ。」
「それはそうね。だから正直に言って、私は家事までやる余裕ないかも。」
「しのぶは病院を頑張ってもらいたいからね!他のことは任せて!」
「ありがとう、姉さん!」
その中でも、私は病院担当だ。医学・薬学の知識があるのはこの中で私しかいない。だから私が1人でやるしかない。姉さんは柱の仕事があるため、巡回や後進の育成をやる事になるだろう。となるとサイコロステーキが必然と家事をやる事になるんだけど………コイツに出来るの?
「じゃあ俺は料理をやるか。」
そんな事を思ってたら、なんと当の本人が意外な事を言い始めた。私が提案する前に、いきなり家事を、その中でも特にめんどくさい料理をやると言い出した。
「「えっ⁉︎」」
「そんな意外ですか?」
「いや、だって料理って女の人がやるのが普通*1じゃないの?」
「俺の家では俺が家事全般をやってましたよ。父親は女を連れ込むために家の掃除をやらせてたし、母親は博打で忙しいから私の分まで飯を作れって。」
「なんか大変なお家ね………」
出来る理由が酷すぎる。相変わらず家庭環境は可哀想だと思うけど、それに負けないくらい本人が太々しい。この前も普通に金くれ、無理なら貸してとか言ってきたし。頼むから両親を反面教師にしてまともな人間になってほしかったな。
「なんなら病院食とかも作れますよ。しのぶが適当に診療してくれれば、それに合った飯くらいは考えられます。」
「すご………っ。」
「試しになんか作ってよ!私としのぶに!」
「いいですよ。適当に市場で食材買ってくるんで、金下さい!博打代も込みで!」
「姉さん、食材の分だけでいいからね。」
「分かったわ。」
「サイコロステーキ、金溶かしたら家出禁ね。」
「安心しろ、ちゃんと増やすから。」
「だから博打をするなって‼︎」
それにしても、コイツが作る料理が気になる。ぱっと見料理なんか出来なそうなのに、こんなに自信満々に言われると期待しちゃう。まあ、いつも自信満々だから大した事ないかもしれないけど。でも、料理してくれる以上はとてもありがたいものだ。
数時間後、いよいよサイコロステーキの料理が完成した。
「こんな感じでどうですか?簡単なものですが。」
「「おお^〜!」」
なんと美味しそうなものが次々と出てきた。鯖の味噌煮にほうれん草の和物、更にはにんじんと大根の味噌汁にほかほかのごはん。小さい時にお母さんが作ってくれたような、家庭的な雰囲気満載の料理だ。
「「いただきます!」」
さてと、お味は……………
「「ん^〜!美味しい!」」
絶品だ。どれを食べても優しい味がする。それでいてすごく暖かい。とても博打狂いの糞野郎が作った料理とは思えない、絶品だった。自分は料理がそこそこ得意ではあるものの、こんなに美味しいものは流石に作れない。だから、任務の合間に自分で適当に作ってたものとは比べ物にならないくらい美味しかった。
「ねえサイコロステーキ、これから毎日私に料理作ってよ!私アンタの料理好き!」
「博打やらせてくれるならな。」
「それは自分の金で!」
同棲してよかった‼︎こんな料理が毎日食べられるなら、中身がクソなくらい目をつぶれる!姉さん、ありがとう‼︎
「あら、しのぶ?それはもしかして結婚の言葉(プロポーズ)?」
「違うよ‼︎」
「俺はお前じゃなくてカナエさんがいい。」
「だからアンタの好みはどうでもいいって‼︎」
でも結婚はしないから。お金使い込まれそうだし。あくまで蝶屋敷の料理人として雇ってあげる。アンタをね!
そんなこんなで、蝶屋敷の役割分担は次のように決まった。*2
カナエ 家主・柱の定期巡回・継子育成
しのぶ 医師・薬剤師
サイコロステーキ 料理
隠(数人) 看護師・掃除・洗濯
蝶屋敷に住み始めてからは、忙しくも楽しい日々を送っていた。
「ん^〜、美味しい!アンタ料理だけはほんとすごいね!」
「お前も医療知識だけはすごいな。」
「ちなみに得意料理は何なの?」
「ステーキだ。ここじゃ設備が無いから無理だが。」
「えっ⁉︎名前そのまんまじゃん‼︎」
「両親がハマってたから家に設備があったんだよ。それで一番こだわって作れと言われてたな。だから得意になった。」
「相変わらず両親の影響なんだね………」
「まあな。」
そして、その中の一番の癒しがサイコロステーキの料理だ。コイツ本当に料理だけはすごい。普通にお店を出せるくらいだ。得意料理のステーキはまだ食べたことないけど、一度でいいから食べてみたいなぁ。
「ねえねえ、サイコロステーキ。しのぶのことどう思ってるの?」
「う〜ん。まあ、餌付けすれば機嫌が治るチョロい奴、ですかね。」
「誰がチョロいだって⁉︎」
「うるせえな。大当たりした時以外、でけえ声ってのは出しちゃいけねえんだよ。」
「そんな決まり無いでしょ‼︎」
「2人とも素直になりなよ〜♪」
だからこそ、性格と頭の悪さが残念だ。姉さんもこんな奴をお勧めしないでほしい。最近たまに来る悲鳴嶼さんも「尊い………」とか言って急に泣き始めるし。本当に勘弁してほしい。私はあくまで金を払って料理をやらせるくらいの、料理人くらいの間柄がいいのに。そんな事を思いながら、コイツの作った美味しい料理を満喫していた。