side しのぶ
新しい蝶屋敷で住み始めてからしばらくたったある日のこと………
「カァァァァァ‼︎胡蝶しのぶ、
鎹鴉が次の任務を伝えにやってきた。
「ごめん、今から手本引き*1しに行くから無理。」
「行くな‼︎話聞け‼︎」
「鬼が弱そうなら聞こうじゃねえか。」
「弱くなくても聞け‼︎」
コイツは相変わらずすぐ博打に逃げようとする。仕事のやる気もない。本当に料理以外はクソな男だ。
鎹鴉の話を聞いたところ、那田蜘蛛山というところにどうやら複数の鬼がいるらしい。今までに何人か隊士を送ったが、音沙汰が無いとのこと。十二鬼月級の可能性もあるから、最近階級をうなぎのぼりに上げている私たちに白羽の矢が立ったのだ。
「すまん、俺は断る。」
「その選択肢は無い‼︎」
「なんでだよ⁉︎俺は弱い奴専門なんだよ‼︎」
「そんな分類無いから‼︎とにかく行くよ‼︎」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎俺を連れて行くなぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
行きたくないと泣き喚く糞野郎。鬼殺隊ならどんな鬼にも立ち向かうべきなのに。本当に呆れる。ぶん殴りたいぐらいだ。それやったら隊律違反になっちゃうけど。
泣き喚くサイコロステーキを引き摺って、私は那田蜘蛛山までやってきた。そこは物静かなのに、どこか不気味な雰囲気を感じる山だった。
「さぁ、行くよ‼︎」
「バカ言え‼︎まだ夜だぞ‼︎」
「夜に行かなきゃ鬼が出てこないでしょうが‼︎」
サイコロステーキはそんな山を目の前にしてゴネ始めた。鬼殺隊は夜にしか活動しないのに、コイツは何を言ってるんだろうか?
「隊士が何人も死ぬような強い鬼なんだろ⁉︎なら昼に一度山を下調べした方が、勝率が高い‼︎」
そんな事を思っていると、結構真っ当な考えを持っていた。確かにこのまま強敵の住む未知の地に突っ込むよりは、地形を知っていた方が動きやすいだろう。
「昼なら鬼も出ないから、下見ができる。作戦だって立てられる。そう思わないか?」
「………それもそうね。」
「ということで、一旦昼になるまで撤収だ。」
「分かったよ。」
雑魚相手には舐めプをかますけど、強敵相手なら慎重になるんだな。アホなところもあるけど、意外と頼りになるかも。そう思った初日の夜だった。
近くの街の宿で一夜を明かした後、私たちは昼間に再び那田蜘蛛山に戻ってきた。
「よし、探索するか!」
サイコロステーキは昨夜とは打って変わり、意気揚々としている。絶対に鬼に会わないということが嬉しいのだろう。こんな鬼殺隊士、普通いるだろうか?
あと、彼は何故か背中に大きな箱を背負っていた。ここによる途中で買ったものなんだけど、中身がとても気になる。
「ねえ、背中のそれ何?」
「ん?油だが?」
油?その量を?鬼退治に油を使うって聞いた事ないけど………
「そんなに何に使うの?」
「それは着いてからのお楽しみだ。」
なんかろくでもないことを企んでる気がする。心なしか少しニヤけてるし。気持ち悪い。
しばらく私はサイコロステーキと一緒に、山の中を歩いた。
「隊士の亡骸も多いな………隠を呼んで運び、弔わせるか。」
「アンタにそういうまともな心があったのね。」
「うるせえ‼︎つーか、お前はこれ見て大丈夫なのか?」
「悲しさと怒りは沸くけど恐怖は湧かないから大丈夫。」
「それ大丈夫なのか?」
意外にも彼は常識的な心を持ち合わせているらしい。逃げるのが好きでありながら私を見捨てなかったりなど、なんだかんだ仲間を思いやる節はある。
そんな事を思っていると…………
「おおおお、鬼………?じゃ、ないですよね…………」
草むらの陰から怯えながら出てきた鬼殺隊士の女の子がいた。青い髪の小さい子で、歳は私たちより少し下くらい。細いつり眉で目もくっきりとしており、ちょっと私に顔が似てるとも思える。こんな昼間に生きてる隊士がいるのは不自然。だが様子から察するに、鬼から隠れて一夜を過ごしたのだろう。
「この女は鬼みたいな性格だけど、違うから安心しろ。」
「このバカは無視していいよ。」
「は、はい…………」
この感じだと、鬼に対して相当な心的外傷を負っているように見える。余程相手が強かったのだろう。隣の糞野郎のようにただの腰抜けならケツ叩いて前線に復帰させるけど、どうやらこの子はそうではなさそうだ。恐らく精神病を発症してしまった可能性もあるな。このままでは今夜は戦えないだろう。
「あなた、名前は?」
「神崎アオイ………です………」
「私は鬼殺隊士兼鬼殺隊専属医師の胡蝶しのぶ。こっちのバカは賽子厚切焼肉。」
「サイコロ……ステーキ?」
相変わらず名前を言って驚かれるサイコロステーキ。初見の人はびっくりするだろう。まあいいや。話を続けるか。
「とりあえずあなたを病院に送るから、ここで隠を待ってて。」
「えっ、えっと………私、怪我はしてなくて………」
「心の怪我をしている可能性があるの*2。とりあえず今日は病院で休んで。」
「すいません………こんな腰抜けで………」
「安心して。隣のバカはもっと腰抜けだから。」
「ごめんな、アオイ。医者が鬼より怖くて。」
「いえいえ………ありがとう……ございます………」
ということで、私は神崎アオイを蝶屋敷病院に送ることにした。恐らく私の見立てだと、彼女はもう刀を握れないだろう。隠に転向かな。本人がどう思ってるかはまだ分からないけど。
アオイを見届けた後、私たちは山をくまなく捜索した。
「鬼の隠れ家、全然見つからねえな。木漏れ日で死にそうだから、外には居ないはずなのに………」
「広いからね。分担したけど探しきれないかも。」
「こうなったら、あれを使うしかねえな。」
「あれ?」
流石に山が広いとのこともあって、2人じゃ地形を把握するので精一杯。これ以上はどうしようもないと思うけど……
そんな事を思っていると、サイコロステーキが背中の箱を下ろして開け始めた。確か中には油が入っていたはず。
「ねえ、サイコロステーキ。その油どうするの?」
「これを山に撒く。」
「撒いてどうするの?ぬるぬるにして鬼でも滑らせるの?」
「いや、違うな。それだと俺たちも滑っちまうだろ。」
「確かに。」
「とりあえず、油を撒いて引き上げるぞ。もう一回来るのは夜明け前だ。」
「また戻るんだね。」
「ああ。」
滑らせて戦いやすくするわけでもない。だとすると一体なんだろう?そんな事を思いながら、私はコイツと一緒に、油を撒いて下山した。
夜明け前、私たちは再び那田蜘蛛山の前までやってきた。
「で、この短時間で鬼を探すの?」
夜明け前となると、短期決戦になる。その短い時間で広い山を捜索するのは不可能だ。もしかして、油が目印になるとか?
「いや、その必要は無い。」
「は?どういう事?」
鬼を探す必要は無い?どういう事?言ってる意味が分からない…………
「何故なら山を燃やすから‼︎」ボッ‼︎
嘘でしょコイツ⁉︎山の中に火を放ったんだけど⁉︎
「何してんの⁉︎山火事になるでしょ⁉︎」
「そしたら鬼が隠れるところが無くなるだろ?」
「勝手に山燃やしちゃダメでしょ‼︎誰かの土地かもしれないんだよ⁉︎」
「鬼退治したんだから感謝してくれって感じだ。」
「アホ‼︎」
だから死体を撤収させてたの⁉︎油撒いたのも燃えやすくするためだし‼︎ここから木が全部無くなったら色んなところに迷惑をかけるのに‼︎
「ああもう、火を消さないと‼︎」
「そんな事してる場合じゃねえ‼︎俺らまで燃えないように逃げねえと‼︎」
「で、でも………っ‼︎」
「つーかお前消すもん何も持ってないだろ。」
「それはそうなんだけど………」
「後のことは誰かが考えるだろ。とりあえず退散‼︎」
圧倒的他責思考。最悪お館様が責任を取ってくれるとか考えてるのだろう。ホントクズ。藤襲山でも火をつけてたし、自分が良ければなんでもいいって感じなんだろう。
そんな事を思いながらしばらく逃げていると、
「僕たちの静かな暮らしを邪魔しやがって…………っ‼︎人の山に火をつけるとか、頭おかしいのか………っ⁉︎」
白くて小さな子供の男の鬼が山から出てきて、私たちのことを追いかけてきた。どうしよう、珍しく鬼の言うことに納得してしまう私がいる。
「おっ、ちょうどいいくらいの鬼が出てきたじゃねえか。こんなガキの鬼なら、俺でも………って、目に下伍って書いてある⁉︎」
「本物の十二鬼月じゃん‼︎」
「逃げるぞしのぶ‼︎全力で‼︎」
なんと見かけによらず本物の十二鬼月。下から二番目とはいえ、とても私たちで勝てる相手ではない。だからといって、このままおめおめ逃げるのも………
「血鬼術 刻糸………」
「ん?あれ太陽じゃね?」
「「えっ?」」
そんな事を思ってたら、なんと太陽が出てきた。ここは山の外で草原。つまり太陽がそのまま降り注ぐわけで………
「お前ら、僕をハメたな………っ‼︎」
それを浴びた鬼は、いくら十二鬼月といえどすぐさま死んでしまった。
「しのぶ、言っただろ?夜明け前に戦うとこういう勝ち方が出来るって。山に残った鬼も隠れる場所が無くなって死ぬだろうし。」
「すごっ………」
「どうだ、俺すごいだろ?」
「悔しいけど認めるわ。」
「よっしゃあ‼︎」
格上の相手に頭を使って勝てる方法を探す。余計な危険にも遭わないことで、より確実に勝つ。私の毒も変わった方法だけど、それ以上に変わった方法で勝つ。コイツ、料理以外にもすごいところあるんだね。雑魚相手には舐めプして余計な怪我をするけど。
「じゃあ、1人で放火の責任取ってね♪」
まあ、その方法が割とバカだけど。しかも今回は人の山だし、怒られるじゃ済まないだろう。そうなったら、コイツも反省するかな?いや、しないか。
「残念だな、しのぶ。お前も俺と一緒に油を撒いたから同罪だ♪」
「ふざけんなよ‼︎」
そんな事を思ってたら、私まで巻き込まれた。目的も知らせずに油を撒かせやがって‼︎ホントコイツは、バカでクズなろくでなしだ。そう思った日だった。