side しのぶ
柱になってからというもの、私は毎日サイコロステーキから金をせがまれてた。
「しのぶ、頼む‼︎金を貸してくれ‼︎今度吉原で高額の賭博場が立つんだ!」
「ダメ。返すあてないじゃん。」
「半年後に無限の給料入ってくるから‼︎」
「ダメったらダメ。」
「ふざけんなよ‼︎元はといえば、お前が俺の給料を無しにしたからだろうが‼︎」
「アンタが山燃やすからでしょ‼︎逆ギレはやめてよ‼︎」
本当にコイツはろくなもんじゃない。どうしてここまで負け続けるのに続けるのだろうか。学習能力があまりにも無さすぎる。あと人に金を借りるな。
「なぁ、アオイからも何か言ってやってくれよ。」
「先輩、真っ当に働いてください‼︎」
「酷い‼︎酷すぎる‼︎カナエさ〜ん‼︎助けてください!」
「あんまりしのぶを困らせちゃダメよ♪愛想尽かされちゃう♪」
「愛想は元から無いから。」
アオイがしっかりしているからよかったものの、下手に純粋な子だったら染められてたかもしれない。本当に教育に良くない男だ。柱を剥奪した方がいいんじゃないだろうか。
そんな事を思っていると、
「そういえば、今日の買い物当番はしのぶさんとサイコロステーキ先輩でしたよね?」
アオイが嫌な事を思い出させてくれた。蝶屋敷では必需品を当番制で買いに行っている。今回は量が多いため、2人となっているのだが………コイツと2人きりで買い物をしなければいけないのだ。
「そうね。ほんと嫌………」
「2人で逢引き、楽しんできてね♪」
「楽しめないから‼︎」
「しのぶ、ついでに賭博場に寄ってくれ。」
「打つ金無いからね?」
「いってらっしゃいませ!」
「いってきます…………」
このバカは本当に博打のことしか考えていない。私が見張ってないと、買い物のお金さえ溶かす可能性があるし。ほんと憂鬱。そんな事を思いながら、私はサイコロステーキを連れて屋敷を出た。
太陽に照らされる中、市場までの道を歩きながら、私はサイコロステーキを説教していた。
「アンタねえ、そろそろ学習したらどうなの?」
「学習?これでも賭博の勉強はしっかりしてるぞ?サイコロの出目の流れというのはな………」
「それで通用してないんだから意味ないじゃん‼︎というかそもそもやるな‼︎」
「そんな無理難題を言われても困るんだが?かぐや姫にでもなったつもりか?」
「無駄に教養ある返しやめてくれない⁉︎」
こんなのが鬼殺隊最高位の柱。これでも仕事は真面目にやるのかと思いきや、そんな事もない。飲んだくれだった前炎柱みたいにまともだった時期もない。継子なんかとったらどうなっちゃうのだろうか?まともに教えてくれるのか?とても不安になる…………
ベベン!
そんな事を考えていたら、急に琵琶の音が鳴り、地面が消えた。
「えっ⁉︎何何何⁉︎」
「どういう事だよ⁉︎つーかどっから琵琶の音聞こえたんだ?」
「全然分かんないんだけど⁉︎」
しかも私たちはそのまま落ちて、知らない屋敷の中に放り込まれた。そこは超巨大なお城の中で、上下左右がごちゃごちゃという不可解な空間だった。
「しのぶ、とりあえず何かに捕まるぞ‼︎」
「そうだね!」
幸いすぐに見つけた床にしがみつくことができた。床といっても崖にしがみついてるような感覚。だけどこのままだと危うく落下死するところだったから、一旦は助かった。
「おらよっと!」
サイコロステーキは掴んでた床をよじ登った。私も早くよじ登らないと………。そう思うのだが、憎たらしい事に身体がうまく動いてくれない。完全な筋力不足だ。ずっと鍛えてるのに、全然力がつきやしない。また同じ事で足を引っ張ってしまうのか………
「おらしのぶ、引っ張るぞ。オラァ‼︎」ぐいっ!
そんな私の腕をサイコロステーキが掴んで引っ張り上げてくれた。さっきまであんなに喧嘩してたのに、嫌な顔一つせず。
「ありがとう………」
「落ち込まなくていいから、出る方法を考えるぞ。」
「うん………っ!」
なんだかんだで助けてくれる。そういうところはホントいいかも………
「おっ、あんなところに好みの女がいるじゃねえか。話しかけるか‼︎」
「いや、そんな事してる場合⁉︎」
「とうとう来ましたね………」
「ほら、アイツいい声してるぜ‼︎美しい………」
「惚れるな‼︎」
ダメなところの方が多いけど。
私はサイコロステーキと一緒に黒髪黒服の女の元に向かった。のだが………
「いや、アイツ鬼じゃん‼︎」
その女はなんと鬼だった。しかも手元に琵琶を持っている。さっきの謎の琵琶の音は多分アイツの仕業だろう。となると、謎の瞬間移動もあの女の血鬼術か?これはマズイな。幸い鬼殺隊士はいつでも鬼を殺せるように日輪刀を常備しているが、あまりに急すぎて心の準備が出来ていない。
「まあ鬼だが、口説いても問題ねえだろ。」
「どこの世界に鬼を口説く鬼狩りがいんのよ⁉︎」
「俺に惚れたら味方になってくれると思わないか?」
「鬼が味方になるわけないでしょ‼︎」
「残念ながら、貴方に惚れる事だけは絶対にありません。」
「どうしてだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎」
「当たり前でしょ。」
それなのに、このバカは悠長に口説こうとしている。そして当然フラれた。しかも強い言葉で。当たり前だ。アンタを好きになる女なんているわけないでしょ。
「自分でも分からないのですか?自分の悪いところを?」
「あまり思いつかないが………」
「「なんで⁉︎」」
「敢えて挙げるとすれば、運量が少ないところか。」
「「そこ⁉︎」」
どうやらコイツは生粋のバカらしい。自分の悪いところすら理解しておらず、考えた結果すら博打。思わず鬼と口が合ってしまった。
「本当に博打狂いは屑ばかりですね………反吐が出ます。」
「分かる。」
「お前、博打狂いを屑だと………っ⁉︎俺たちは真剣に勝負事に挑んでるんだぞ⁉︎勝てばお金が稼げるのに。それを屑と一括りするなんて………っ‼︎」
「いや、屑でしょ。何言ってんの、アンタ?」
しかもあの鬼は博打狂いが嫌いらしい。そりゃ惚れないわけだ。珍しく私も鬼の意見に賛成だ。むしろ博打狂いを好きな女なんでいるのだろうか?いや、絶対いない。
「私の元夫は博打狂いでした。」
「嘘だろ⁉︎既婚者だったなんて………」
「がっかりするとこそこ⁉︎」
「おかげで生活は貧しく、私が琵琶奏者として稼いだ端金でなんとか生きていました。しかしある日、私の唯一の仕事用の着物を夫が博打のために売り払ってしまったのです。その事に逆上してしまった私は、琵琶調整用の金槌で元夫を殴り殺しました。」
どうやらこの鬼も生前は苦労していた様子。博打狂いは勝手に金を使うから、本当に生活が苦しくなる。逆上して殺したことは許されないし許したくないけど、博打狂いの夫を持ってしまった事だけは同情する。
「それはその男が弱かったからだろ。でも俺は違う。めちゃくちゃ強い。」
「コイツもすぐ金無くしてるから一緒よ。」
「でしょうね。貴方から滲み出る博打狂い特有の頭の悪さは筋金入りです。」
「は?俺は頭いいが?」
頭いいが、じゃないんだよ。その返しが既に頭悪いんだよ。
「一緒にいる貴女も分かるでしょう?さっさと別れてしまったらどうです?」
「別れるもなにも付き合ってないから。上がコイツの面倒を私に押し付けてくるだけ。」
「そうなのですね。てっきり夫婦かと………」
「「冗談でもそれだけは嫌だ‼︎」」
「2人で同じ事を言ってますね。」
というか、知らない人や鬼から見たら、私たちって恋人同士に見えるの?ホント勘弁なんだけど。他の誰かの悪ふざけでやらされてるって分からないのかな?
「とにかく、私は博打狂いが嫌いです。ですので貴方を殺します。そうすれば、いい音色も奏でられるでしょう。」
「「いい音色?」」
そんな事を思っていると、鬼がおかしな事を言い始めた。いい音色?まさかコイツ………
「元夫を殺したある日、震える手で弾いた琵琶は多くの感銘を受けました。それ以来、演奏前に必ず人を殺しているのです。そうして殺めてゆくほどに、音楽は深みを増し、演奏は高みへと登っていきます。憎き博打狂いならば、更に素晴らしい音になるでしょう。だから死んでください。私の演奏のために。」
とんでもない狂った鬼だった。いい琵琶の音が鳴るから人を殺す?いい演奏のために人を殺す?たまったもんじゃない。自分の金や名誉のために関係ない命まで巻き込むとか、ホントどうかしてる‼︎これだから鬼は嫌いなんだよ‼︎
「すまんな。お姉さん。俺は博打がしてえから死ねねえんだ。だからお前が死んでな。
「協力するよ。こんな鬼、生かしておくわけにはいかない‼︎」
「やるぞ、しのぶ‼︎」
ということで、私はサイコロステーキと一緒に琵琶女殺人鬼を倒す事になった。