side しのぶ
サイコロステーキの傷も完治し、今日からまた任務となった。
「しのぶ、怪我治ってないことにして休ませてくんない?」
「無理。ちゃんと働いて。」
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
私を瓦礫から庇ってくれたあの勇敢さはなんだったのか。あの瞬間だけ別の人が乗り移ってたんじゃないかと、度々思った。そして、今も思っている。
「無事に治ったんですね、サイコロステーキ先輩!良かったです!おぉぉぉぉぉぉぉぉん‼︎」
「アオイ、治っちゃったよ。だからまた仕事だよ………」
「しのぶの治療のおかげね!」
「それはそうですね。しのぶ、ありがとな!」
「別に私は仕事をしただけだし……///」
「それじゃあ、引き続き入院するぜ!」
「それはダメ。早く行くよ。」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「「いってらっしゃい!」」
という事で、私は嫌がるサイコロステーキを無理矢理引っ張り、任務のある新橋へと向かった。
私たちは鉄道の街、新橋へとやってきた。西欧風の駅舎に力強く並ぶ汽車と線路たち。ここから西は東海・関西を経て山口の下関まで一本の線路が伸びている。本州の最西端だ。遥か遠い地まで続いている線路に思いを馳せていると………
「よしっ、鬼はいないな。じゃあ帰るぞ。」
真っ昼間にも関わらず、着いて早々サイコロステーキが帰ろうとしていた。
「この時間に出るわけないでしょ‼︎帰るな‼︎」
「でもよ。今回は強い鬼なんだろ?病み上がりにはキツすぎるぜ。柱とか呼んだ方がよくね?」
「私たちがその柱だよ‼︎」
「俺は弱い鬼専門の柱なんだよ。」
「そんな柱いるかぁ‼︎」
琵琶鬼の時はもっとすぐ戦ってくれたのにな。コイツにとってはあの鬼は弱い部類なのかもしれない。確かにそう思えるだけの実力はあるけど、ならば他の鬼にも怯えず挑んでほしい。
それはさておき、鬼退治の下調べをしないと。
「で、今回目撃情報はどの辺だ?」
「無限列車という夜行列車の中だって。」
「列車の中?駅に出るとかじゃないんだな。」
「そうみたいね。」
今回は夜行列車に出没する鬼の退治だ。向かわせた隊士たちが次々に行方不明になっていることから、恐らく相手は十二鬼月だろう。またいずれも乗車後に行方不明になっていることから、出没先は列車内とみて間違いない。
「ちなみに今列車は車庫の中か?」
「そうだけど………」
「車庫はどの辺だ?」
「う〜んと、多分あれじゃない?」
そう言って私が指差した先には、一つの建物があった。そこに向かって線路が伸びており、恐らく中には沢山の列車があるだろう。中は薄暗いため、鬼は昼間そこで息を潜めている可能性が高い。
「ちなみに、車庫や列車を壊すのは無しね。」
「安心しろ。ちゃんと別の作戦を思いついたから。」
「本当に大丈夫かなぁ?」
「よしっ、ちょっと待ってろ。」
どうやらサイコロステーキは破壊や火事以外の方法を思いついたらしい。何やら手紙を書いているが、一体何をするつもりなんだ………?
しばらくすると、隠がやってきた。恐らくサイコロステーキが鎹鴉に手紙で持ってくるように言ったものだろう。
「お待たせしました!」
「ありがとう!ついでに博打用の金もくれるか?」
「えっ⁉︎」
「そんなもの隠に頼むな‼︎」
「なるほど、冗談でしたか………」
「冗談ではないんだがな。」
このバカの発言はさておき、隠が持ってきたのは何やら大きな鉄製の箱だった。下に車輪が付いており、押して運べるようになっている。
「あとこれ、はけです!」
「おう、助かるぜ!」
そして、何故か塗装用のはけももらっていた。どういう事?
「しのぶ、これ持って車庫の中に入るぜ!」
「本当に大丈夫なの………?」
「安心しろ、大丈夫だから!」
「そうかなぁ…………」
私は不安になりながら、サイコロステーキと一緒に車庫の中に入った。
中に入ると、サイコロステーキは車庫の窓を開け始めた。
「しのぶ、全部の窓を開けてくれるか?」
「うん、いいけど………」
車庫の中は薄暗いので、昼間でも日光が届きにくく、鬼の隠れ家に有効だった。その状態を無くすために窓を開けて、日光を取り入れる。確かにいい作戦だ。後は列車に乗り込んで、日光を利用しながら鬼を退治するのだろう。だけど、ならなんではけと謎の箱が必要なんだろう?そもそも箱の中に何が入っているのかも知らないし…………
そんな事を思っていると、
「よしっ、じゃあ開けるか!」
サイコロステーキは無限列車の入り口に立ち、箱を開けた。するとその中には、見たことのある紫色の液体が入っていた。間違いない、藤の花を液状化したやつだ‼︎
「それって藤の花の毒………」
「オラァ‼︎」バシャァン‼︎
そして、サイコロステーキはそれを思いっきり無限列車にぶちまけた。
「ちょっとアンタ、何してんの⁉︎」
「今日から無限列車はサツマイモ塗装になるぜ‼︎」
「勝手に色変えちゃダメでしょ‼︎」
「お前も手伝えよ‼︎」
「嫌よ!」
思いっきり列車を藤の花まみれにするつもりじゃん‼︎はけで隅々まで塗ろうとしてるし‼︎真っ黒な列車が紫になっちゃうよ‼︎
「分からねえのか?鬼が列車内にいるなら、藤の花流せば隠れられなくなるだろ‼︎そして外に出てきたら日光で一網打尽だ‼︎」
「分かるけども‼︎勝手に塗装するのも器物損害だから‼︎」
「いいだろ、無限サツマイモ列車‼︎カッコよくて!これで売れたら手間賃いただくぜ!」
「売れないし金もらうな‼︎」
ほんとコイツはバカなんだから‼︎ちゃんと強いんだから普通に戦えって言ってるのに‼︎そんなんだからいつまで経っても給料が復活しないんだよ‼︎
「つべこべ言わず塗るぜ塗るぜ‼︎俺色に染めてやるよ‼︎」
「列車が可哀想‼︎」
「強く〜♪なれる〜♪理由を知った〜♪」
「歌うな‼︎」
私の制止もお構い無しに藤の花の汁をぶちまけるサイコロステーキ。呑気に歌いながら列車を染めていく。コイツはもうダメだ。バカすぎてお手上げだ。この間かっこいいと思った気持ちを返してほしい。
「鬼狩りか。予想以上に早かっ………って藤の花⁉︎日光⁉︎」
「おはよう、鬼よ。そしてさようなら♪」
「こんな馬鹿に俺は殺されるのか⁉︎なんて惨めな………悪夢………だ………」
そして、列車の壁から現れた鬼を藤の花と日光の挟み撃ちでそのまま倒してしまった。しかもその鬼の瞳には下壱と書かれてあった。下弦の伍に続き、下弦の壱まで討伐。しかもこの間は気付かぬうちに上弦の伍まで討伐していた。無駄に実績だけは溜まっていくのが何とも言えなかった。
列車を無事に藤の花に染め上げた後、サイコロステーキは満足そうに帰路に着いた。
「あ〜、いい仕事したぜ〜♪これで給料復活だな!」
「どこがよ⁉︎また停止になるでしょ‼︎」
「そしたらお館様に博打挑めばいいだろ。」
「お館様と何しようとしてんのよ⁉︎」
自分が散々迷惑をかけているお館様に悪びれもせず博打を挑める図々しさ。本当に呆れる。ちなみにお館様は勘で未来が分かるらしいから、博打で負けることはないだろう。挑んで一文無しになってしまえ‼︎
そんな事を思いながら歩いていると………
「おいしのぶ、あれ見ろよ。」
「あれ?」
サイコロステーキが何かを見て立ち止まった。気になったので彼が指差す方向を見てみると………
「小さな女の子が縄で縛られてる………」
「おっさんに、な。」
悪人ヅラのハゲ親父と、その人に縄で縛られて歩かされている小さな女の子がいた。その子の髪はボサボサで、目もうつろだった。きっと虐待されていたのだろう。その姿があまりにも可哀想だったので、私たちは放っておけなかった。
「ちょっとすんません。」
「なんだぁ?随分頭の悪そうなツラしてんなぁ?」
「はぁ⁉︎俺は頭悪くないが⁉︎」
「その発言が充分頭悪いだろうが‼︎」
サイコロステーキがおっさんに話しかける。頭の出来はトントンといったところか。
「それはさておき………その女の子、俺にくれませんか?将来の嫁になりそうな予感がするんです。」
そんな事を思っていたら、サイコロステーキの頭の出来が更に悪いことが判明した。
「どんな言い方よ⁉︎」
「何言ってんだよテメェ‼︎つーか、隣の女は違うのかよ?」
「はい‼︎コイツは博打の金くれないので違います‼︎」
「「それは当たり前だろ(でしょ)!」」
コイツにとって嫁とは、博打のお金をいつでもくれる銀行のような存在らしい。もちろんそんな存在に私がなるわけもない。本当にカス野郎だ。
「ちなみにお嬢さん、お名前は?」
「…………」
「ねえんだよ。親がつけてねえんだ。」
「俺の親ですら
「お前の親おかしいだろ………」
それにしても、可哀想な女の子ね。親が名前すらつけてくれないなんて。存在自体が親にとって邪魔だったのだろう。何とかしてあげたい。
「それとよぉテメェら。コイツとそんなにお喋りしたけりゃ金を払いな!」
「払う?博打で勝つのはダメですか?」
「ダメだ。俺は確実な金が欲しいんだ。」
なるほど、それなら話は早い。隣のバカは放っておいて、こうするしかないでしょ‼︎
「じゃあ買いますよ、この子を。これで足ります?」バサッ!
こうして私は懐にしまっていた金を沢山ばら撒いた。そしてすぐさま縄を切り、女の子の手を取って走り抜けた。
「「なっ⁉︎」」
「待ちやがれ!」
「早く拾った方がいいですよ!人も多いですし、風も強いですから!」
「俺の博打資金、俺の博打資金‼︎」
「アンタは拾ってないで帰るよ‼︎」
「どうしてだよぉぉぉぉぉ⁉︎つーかお前、こんだけ金あんならよ。ちょっとくらい俺に分けてくれたっていいじゃねえか‼︎」
「アンタにやる金は一銭も無いわよ‼︎」
ついでに金拾いに夢中になってるバカの首根っこを掴んで連れ帰った。コイツはこんな時にもなんでこうなのか………
「…………!」
「おっ、嬢ちゃん目が輝いたな!安心しろ、これから楽しい生活が待ってるぞ〜!」
「心配しなくていいからね!」
「コイツは怖いから要注意な!」
「コイツはバカだから言う事を聞かないようにね!」
「…………!」
ただ、小さい女の子には優しくしてくれる。アオイの事も歓迎してくれたし、なんだかんだ歳下の面倒見がいいところはあるのかも。人の事を見捨てたりはしないし。そういうところはいいんだから、もっとアホなところを直して欲しい。そんな事を思いながら、私たちは女の子を連れ帰った。
カナヲ初登場!ようやくタグにいるメインメンバーが出揃いました。