『知ってるか?壁ドンって犯罪なんだぜ?』 作:狐大総統
諸君はメンズアイドルをどれだけ知っているだろうか?有名どころでいえば、『鶴梨』、『一宮』、『菊地』などは知っている人もいるだろう。むしろ、アイドル個人個人よりはグループの方が知っている者が多いかもしれない。
そんなアイドルグループ、過去から遡れば、かなりの人数がいるワケだが、最近では日本アイドルに加えて韓国アイドルの方が主流になりつつある。それに影響を受け、日本アイドルも韓国アイドルの真似をするといった流れもあるわけだが、ひとまずそこはいい。
そんな華やかなスター達が集まるアイドル業界で、一世を風靡した存在を知っているだろうか?いや、知っているはずだ。
『彼氏にしたいアイドルランキング1位!』、『イケメンアイドルランキング1位!』、『男が憧れるアイドルランキング1位!』『今最も人気のあるアイドルランキング1位!』…、と挙げればキリが無いほどの超スーパースター!それが、この俺─
─氷室涼介だ!
『本日未明、メンズアイドルグループ『jaguar』の氷室涼介さんが、暴行の疑いで逮捕されました。』
…はい、俺逮捕されました。
◇◇◇
『本日未明、メンズアイドルグループ『jaguar』の氷室涼介さんが、暴行の疑いで逮捕されました。』
目の前にある大型テレビの画面上では、涼介が留置所にいる間に自動で録画されていた、ニュース番組が流れている。アナウンサーは、世間で人気の美人アナウンサーだ。ネットでは、『朝からあの人の笑顔を見ると元気を貰える!』、『マジ綺麗過ぎる!』、『理想の結婚相手像!』などなど、多くのコメントがあり、彼女の人気ぶりが窺える。
そんな人気アナウンサーは現在─正確に言えば過去ではあるが─涼介の逮捕について報道している。
おかしい。つい一週間ほど前までは、ヒットソングを歌い上げたことを笑顔で褒められていたというのに。なんなら、逮捕前日はこのアナウンサーと2人きりで食事にだって行った。
その食事中、彼女は涼介にこう言っていたハズなのだ─
─『もし、氷室さんが犯罪者になったとしても、私だけは氷室さんの味方でいますからね!』、と。可愛らしさ全開で、そう熱く宣言してくれた。
涼介は思った。『なんて心強い人なんだ!』、と。
涼介は今こう思っている。『撤回したい!』、と。
ちなみにこうも言っていた。
─『テレビで絶対に無罪だって主張してみせます!』、と。このときも可愛らしさ全開で、そう熱く宣言してくれた。
涼介は思った。『なんて良い人なんだ!』、と。
涼介は今こう思っている。『撤回する!』、と。
現実は非情だ。あのアナウンサーは、真顔で涼介の逮捕を淡々と報道している。
あのときの彼女は、いったいどこに行ってしまったのか。自分が留置所にいる短期間のうちに、誰かと心が入れ替わったりでもしてしまったのだろうか。それか、自分は夢でも見ていたのかもしれない。
涼介が、自分は睡眠不足か否かについて悩んでいると、スマホに電話がかかってきた。仕事用とは別の、完全プライベート用の赤いスマホだ。といっても、何人かは仕事仲間の連絡先も入っているが。
「はい、もしもし。」
『あ、もしもし?二条やけど、前科持ちナルシストさんのお電話番号で合うてます?』
電話口からは、聞き覚えのあるひょうきんな関西弁が聞こえてきた。相手は二条透馬。涼介と同じく、『jaguar』に所属している仕事仲間だ。
「はいはい、合ってますよ。ただ、ひとつだけ訂正してくれ。俺がカッコいいのは誰もが認めてる。だから、ナルシストじゃない。」
『ほーん、それはスマンかったな。ところで確認したいんやけど、お前が捕まった経緯、なんやったっけ?』
「ニュース見てないのか?暴行の容疑って出てただろ。」
『ちゃうちゃう、罪の話やなくてやな。詳細や詳細。窃盗かて、宝石盗んだんとお菓子盗んだんとでは随分違うやろ?いやあ、かの超人気イケメンアイドル様の暴行や。かっこいいお話が聞けそうですなあ。』
透馬の声は随分と楽しそうだ。
やれ、『ドラマみたいに殴ったんか?』や『あ、それとも不良みたいな頭突きやろか。ワイルドに歌ってるときとかカッコええもんな!』としつこく聞いてくる。
まったく、タチが悪い。
透馬は全部知っているハズだ。知ったうえでこれなのだ。勘弁してくれ。自分が悪かった。謝るから。
だが、謝ったところで透馬は追求を辞めないだろう。なにせ、透馬は怒っているのではないのだ。ツッコミたくてツッコミたくて仕方がないだけなのだ。
仕方ない。観念しよう。このままでは皮肉が延々と続きそうだ。
涼介は覚悟を決め、口を開いた。
「…ました。」
『え?なんて?』
「…して捕まりました。」
『アカンなあ、声が小さいわ。もうちょいハッキリ言うてくれんか?』
情けなさのあまりボソボソと答えていた涼介へ、透馬はやり直しを要求する。
そして遂に、涼介はヤケクソ気味に声を荒げ、それは部屋中へと響き渡った。
「女の子に壁ドンして捕まりました!」
『認めてないやつおるやんけ!』
室内には、ゲラゲラと下品な透馬の爆笑が響き渡る結果となった。
ただし、イケメンに限るとかありません。
イケメンだろうが、犯罪は犯罪です。
話は変わりますが、作者はイケメンになりたいです。
切実に。