ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。 作:聖成 家康
「私一人でレギオンを……ね」
ミハイルはコックピットの中で、苦渋を吐露する。
艦長から告げられたのは、荷が重いものの、自分のこれまでの戦績を加味すれば、なるほどと納得できてしまう命令だった。
たった一機で三機を、それもレギオンという高性能機を抑えろという並の兵士なら発狂しそうなものだ。
「また私の敵になるか、レギオン」
七年も続く忌々しい因縁に、ミハイルは歯噛みする。
始まりの敵、そして今自分でさえもレギオンに乗り込んで戦っている。これから先、レギオンの呪縛は常に付いて回る。自分から断ち切らぬ限りは。
《ミハイル大尉》
ノイズ混じりの声を聞き、ミハイルは視線をサブモニターへ寄せた。
そこに映っていたのは、息を呑むような光景だった。
パイロットスーツに身を包み、ヘルメットを被ったアスカ・カナタの姿――すでにゲイズチェイサのコックピットに乗っていることは、冷たい背景からよく分かった。
「貴女……!! 何を……!?」
《ボクも戦います》
「戦うのは駄目だって――」
ミハイルは声を掠れさせながらも、今すぐ彼女をそこから引きずり出したい思いを押し殺した。
今さら無駄だ。そこに乗った人間を、乗ろうと思った人間を引き戻すことなど。
「――怒りに身を任せては駄目……そんなことをしたら、貴女は」
《……確かにボクは怒っています。戦争しそうとする人たち、それを隠そうとするあなたたちに対して。何もかも、めちゃくちゃにしてやりたい気持ちでいっぱいです》
冷ややかに言った彼女の瞳が、一瞬、めらめら燃えたような気がした。
《……でも……ボクには
そう言う彼女の姿が、誰かと重なった。
まるで、魔女に化かされたような気分になったミハイルは、それ以上の反論をすることができなかった。
◇
《敵艦からゲイズチェイサ発進!! 数……三十です……!!》
絶望的な宣告に、アズチの息を呑む声が通信に紛れ込んだ。
敵艦からは大量の”スケアリー”が発進してくる。
ウィザードは驚く事はしない。なぜなら、こうなることすら、彼は知っているのだから。
「私が道を開く。准尉が先行しろ」
《……上手くやれよ》
「それは上司である私のセリフだ」
赤い”ヴァリアンス”は、ロケットランチャーとビームライフルを携え、スラスターを爆ぜて猛進してゆく。
それを追わんとする”スケアリー”を、赤々とした弾幕で妨害した。
「反射と思考の融合。バイオマスターシステムの真価を見せてやる!!」
”ガーゴイル”が構えるは、ビームピストルとサーベル。
両翼広げし黒の魔物は、継ぎ接ぎの機械兵を殲滅せんと、蒼き軌道を描きながら宇宙を駆け回った。
奇襲してきた”スケアリー”の攻撃を避け、回避ざまに腕を切り落としてから、トドメの猛乱射を叩き込む。
味方の爆炎を盾に、密かに先行していた機体の放った斬撃を切り結んで相殺し、弾き飛ばしてピストルを撃ち込む。
セイヴァーを宙へ投げ、即座にもう一丁のビームピストルを抜き取れば、乱れ撃たれる赤き流星が紺碧を染め上げた。
ピストルを納めて、再びセイヴァーを手に取った瞬間、散り散りに分断された”スケアリー”の軍勢をたった一機で掻き乱していく。
「ぐっ……ここまでの機動は、機体どころか私にまで負荷が掛かるか」
ヘルメット内部に広がる鉄の香り。それは勇ましさの証明。ウィザードは後ろめたくなど思わなかった。
「!! この反応っ……!!」
頭に稲妻が走る。
振り返った”ガーゴイル”の刃と、擬似荷電粒子の結晶体が激しく衝突した。
刃を砕かれ、紺碧の大地に投げ出された”ガーゴイル”のコックピットで、ウィザードはまたも吐血する。
《アッハハハ!! 吹っ飛んだ! 吹っ飛んだよ!》
九尾の怪人――”ノーヴェ”は、二対のビームセイヴァーを構えながら、中に乗る残忍な乙女の声を響かせた。
《見た目は大層なのに、手応えは他の一つ目と大差ない……! アリアの予想、当たってる!!》
”ノーヴェ”のパイロット――マーチが、彼の痛いところを突いてくる。
だが、ウィザードは屈することはない。
「あえて言おう。ゲイズチェイサの性能差だけが、勝敗を分ける絶対条件ではないさ」
《《煉獄の凶星》の真似事……? 腹立つのよ、そーゆーの!!》
”ノーヴェ”と激突する”ガーゴイル”。
機体が軋むのを察知した途端、メインモニターが赤く発光する。
「持ち堪えろ!! 気合だ!!」
機体を鼓舞しながら、敵の剣をサーベルで押し返した。
くるりと翻り、”バハムート”の懐目掛けて斬りかかった”ガーゴイル”に、死角から体当たりを仕掛ける機体が現れた。
《ここで死ね、変態野郎!!》
ギラつくツインアイ――大太刀の矛先で紺碧を映す”マサムネ”が、そこには立っていた。
斬り落としたはずの脚部は、多少見劣りするものの、元通りに修復されていた。
(もう修復が終わったというのか……!! ええい!!)
結局、運命は変えれないのか!?
”ネオアーク”の巨大砲塔。あれの起動には、三機のレギオンのクリムゾンリアクターが必須だ。
裏を返せば、”マサムネ”が行動可能になったということは
あれを撃たれ、コロニーを落とされれば――辿るのは
幼き少女が怒りに呑まれて。
気高き女性は全てを恨んで。
傷ついた青年は全てを諦める。
脳裏に過る、むせ返るような鬱展開。
あんな物を間近で見るなんて、御免だ。
「――そんな道理……!! 私の無理でこじ開けるッッ!!」
翔び立つ”スティング”。
その逃れようのない包囲網を、”ガーゴイル”は空を駆けるように回避し、”ノーヴェ”に斬りかかった。
《何っ!?》
「切り捨てッッ――」
砕け散る、”ノーヴェ”の擬似荷電粒子。
「――ごめぇぇぇぇぇぇぇんッッ!!」
煌めくような幻惑が消え失せる最中、赤き一閃を繰り出した”ガーゴイル”の背後で、橙色の装甲が弾け、片腕が飛ぶ。
《気持ち悪いのよ! 宇宙サムライ!》
《よくもマーチをっ!!》
後退する”ノーヴェ”と入れ替わりで、”マサムネ”が大きく振りかぶりながら猛進。
繰り出された重々しい斬撃をも、彼は安々受け止める。
「武士道、ここに極まれり!!」
《ポエムじみたことばっか言ってんなよ!!》
◇
ぶつかり合う”バハムート”と”サウザンド”。
その黄金の装甲は、耐ビームコーティングが施されているとはいえ、物理的なエネルギーも乗るセイヴァーを防ぐことは不可能。
大型ビームセイヴァーは、脚部セイヴァーの物量を遥かに上回っていた。
上手いこと片翼の竜王の間合いから抜けたられたが、次は大型ビーム砲の射線に入ってしまう。
厄介な相手だった。
故に、その動きには微かな違和感がある。
「母艦を守ろうとしている……?」
鹵獲された”アストラル”の奪還――にしては、切り結んでは距離を取っての繰り返しのそれは、かなり消極的な動きに見える。
”バハムート”は極太のビーム砲で辺り一帯を薙ぎ払い、”ヴァリアンス”を二、三機殲滅する。
爆散する仲間を惜しみながら、ミハイルは竜王に立ち向かった。
「私は……私はどうすれば……!!」
それは、今この戦況をどうすれば打開できるか――その渇望ゆえに漏れた嘆きではあった。
だが、彼女は密かに助けを求めていた。
どうすれば、この憎しみの連鎖を終わらせられる?
どうすれば、宇宙も、地球も、はたまた人と人も、境目を際限なくさせられる世界を実現させられる?
そんな世界でないと、また悲劇は繰り返し、挙げ句は取り返しがつかなくなる。
《その金メッキ、アタシが剥いてやるわよ!!》
大型ビームセイヴァーの重圧が、”サウザンド”の関節系統をぎしぎしという悲鳴を上げさせた。
揺れるコックピットで、ミハイルは歯噛みする。
――やはり迷いがある。
あの時、〈レギオン〉の頭を飛ばして、無我夢中に戦った、怒りのままに戦った時とは大違いだ。
そんなミハイルの目を刺激したのは、どこからともなく、竜王を滅殺せんと飛んでくる赤い閃光。
血潮のような煌めきの後、
「”アストラル”……? アスカちゃん……!?」
《裏切り者がノコノコ出てきたわね。ちょうどいいわ、まとめて始末よ!!》
アスカはコックピットの中で憎き声を聞き、溢れ出る怒りを噛み殺した。
着慣れないノーマルスーツ、生体電気受信のために背部コネクタと接続している背中の抑えがたい異物感。
アスカはそれら全てを我慢してでも、今、ここで
「バッハ監督……!! ボクは貴方を許さない……!!」
《その呼び方……へぇ。アナタ、あのメカニックの小娘ね。アタシに勝てると思ってるわけ!?》
「勝てる勝てないじゃない!!」
腕、脚、頭が飛び出し、戦闘機形態から人型形態に変形した”アストラル”は、変形と同時にビームセイヴァーを抜刀し、”バハムート”へと斬りかかる。
降りかかるGに、アスカはむせ返り、ぐっと食いしばる。
歯茎から漏れ出す血と、鼻から垂れてゆく血液が感じる嗅覚を鉄一色に染め上げた。
大切な人を奪われた。
自分が女という、か弱い存在だったから。自分を庇って死んだ。
その事実を、彼女は受け入れたくなかった。
だから、ひたすらに周りを拒絶し、全てを破壊して、現実そのものを変えてしまおうと暴走していた。
自分の力の無さを痛感させられた時、アスカはそんな自分と向き合えた。
向き合えたからこそ、自分が何をやるべきか、今のアスカにははっきり分かる。
「もう二度と、ボクみたいな目に遭う人を増やしたくない!! そのために、お前を倒す!!」
《やってみろよ!! クソガキがァァッ!!》
◇
「この感覚……ふ……撒いた種が実ったか」
頭に走る電流。
単なる勘に過ぎないが、彼は不思議な満足感に満たされる。
それを糧にし、彼は戦況を立て直そうと奮闘した。
”ノーヴェ”と”マサムネ”は、いくつか被弾が見受けられるも、まだ撃墜には到底至らない。
《この変態、まだ動くのか!?》
《もう機体がボロボロなのに!!》
それに反して、”ガーゴイル”は満身創痍だった。
片腕は切り落とされ、モノアイの稼働するレールは半壊し、その利便性を失っている。
断面図からは電流が漏れ出て、もう、その命が長くないことを容易に伝えていた。
「貴様らの負けだ、反逆者」
ウィザードはにやり、と笑う。
遠方の高熱源反応をレーダーが捉え、忙しなく電子音が鳴り響く。
《しまっ――》
《あぁぁっ……!! アリアに叱られる……!!》
絶望する二機のレギオンのパイロット。
その視線の先には、火炎と黒煙を腸から漏らす巨大な戦艦の――”ネオアーク”の姿があった。
母艦を守ろうとしていた”スケアリー”はウィザードの方に気を取られるか、その船に執拗に取り付いてくるしぶとい
「赤い”ヴァリアンス”、かつてミハイル・バジーナ専用機だったそれには、戦艦一隻など容易に撃沈できる力がある!! よくやってくれた、アズチ・グレード!!」
――だが、あれだけでは駄目だ。
巨大砲塔は三重――いや、それ以上のOガイア装甲で守られており、そのものの破壊は困難。
いくら赤の”ヴァリアンス”が高火力だと言えど、母艦を沈めるなど無理だ。
しかし、あそこまでやってくれたならば、その想いに応えねばあるまい。
「下がれグレード准尉!! この場は私が引き受ける」
《何を……する気だ……!?》
途切れ途切れの呼吸の荒い声音。
彼とて、もう限界だ。
満身創痍の”ガーゴイル”は、二機のレギオンを引き付けながら、アズチの乗る機体の撤退を支援した。
その最中、”スティング”の猛攻を逃れそびれ、片脚を撃ち抜かれてしまうが、アズチが帰還するまで彼は逃げなかった。
《仮面――ウィザード大尉!!》
「私に構うな!!」
サブモニターに映った彼は吐血をしていた。それは、彼の奮闘が一目で分かる名誉の証。
ウィザードは思わず微笑む。
《俺は……信じて待つ!! その強さの秘訣を、必ず教えろ!!》
その言葉を聞き、ウィザードは”ネオアーク”へと飛翔する。
猛追するレギオン二機の攻撃網の、やっとの思いですり抜けながら、黒光りする鯨のような艦が爪先まで来る位置へとやってきた。
”ネオアーク”の武装が一斉に”ガーゴイル”を捉えるも、腹を括った彼の前では、そんな物は止まって見えた。
《この大馬鹿野郎ども!! とっとと所定位置につけっ!!》
《は、はいっ!》
アリアの怒号が響くと同時に、”バハムート”の放った大型ビーム砲が”ガーゴイル”の足を止めた。
その反動でボディへ対空砲を何発か貰い、電気系統へ引火した影響か、コックピットで火花が舞い散った。
「なんの……これしきっ!!」
”バハムート”、”ノーヴェ”、”マサムネ”が母艦に集結した。
その三機は”ネオアーク”の砲台に設けられた円盤状の土台に着地し、そこから伸びていたコードを自らの機体の腹部あたりにあるプラグに接続。
”ネオアーク”の船体が紅に発光。
溢れ出る赤い粒子は、さながら彗星のような輝きを織りなして、紺碧の深淵を照らす。
未だ止まらぬ対空砲やミサイルを退ける”ガーゴイル”のモノアイが、その船を捉えた。
「やむを得ん……!! 我が身とともに散れ!! ”ガーゴイル”!!」
ウィザードは苦渋の決断を下す。
振り下ろした拳は、直したばかりのプラスチックのカバーを破壊し、その下に秘められていたボタンを叩き押す。
メインモニターを埋め尽くすは、自爆への警告を促す赤い表示。
刹那の猶予の後、その表示は瞬く間に大量の別表示によって埋め尽くされた。
”
”ガーゴイル”が、
目の前の彗星にも負けず劣らずの赤き粒子を放出しながら、光速とも言えるスピードで”ネオアーク”に突撃した。
対空砲とミサイルの弾幕を潜り抜け、赤く輝く黒き魔物は、船体に張り付いた。
《なっ!? あの変態!!》
《早すぎる!!》
”マサムネ”と”ノーヴェ”が動こうとしたが、アリアがそれを制する。
《狼狽えんな!! あんな機体一機で、どうにかなるわけないのよ!!》
巨大砲台の射出口が、徐々に赤熱。
収束していくクレナイ粒子の輝きは、静脈に流れる血液に酷似しており、紺碧の空を容易く塗り替えられそうなほどの色彩を放っていた。
「どれほどの性能差であろうと……!!」
”ガーゴイル”はひたすらにスラスターから蒼炎を吐き出し続ける。
片腕ではどうしようもない。
機体そのものを船体に激突させ、関節系が凄まじい絶叫を上げようと、”ガーゴイル”は猛進し続けた。
ミハイルとアスカが奮闘し時間稼ぎをした。
アズチが血反吐を吐きながら戦艦の出力を低下させた。
全ては自分の思いを貫いた結果。
その責任は相応の行動で返さねばならない。
「今の私は、阿修羅すら凌駕する存在だっっっっっ!!!!」
スラスターのみならず、関節から、露出した排熱溝から、推進剤を燃焼させた蒼炎が噴き出て、”ガーゴイル”に推力をもたらす。
ぎぎ、と船が軋む。
三機のレギオンはその音に気づきながらも、もはや引き返せず、己らが果たすべき作戦への絶対的信頼を崩すことをせず、エネルギーを供給し続けた。
刹那――炸裂する紅。
竜王の放つそれとは、比べ物にならないほど高出力のビームが、一切の衰えを見せることなく紺碧の空を駆け抜けてゆく。
数千キロメートル先の人類結束連盟のコロニーからも、その輝きは観察できた。
血に染まった天の川を思わせるそれは、人が大量に集まる中心部は辛うじて退けて、防衛システムが集中している外壁部分を、轟々と貫いていき、深淵に浮かぶ鉄箱の一部を爆炎で染め上げた。
砕け散ったコロニーの破片。
それは、地球に入るまでに大気圏で燃え尽きるであろう規模であった。
◇
「ウィザード大尉っっっ!!」
アスカ・カナタは悲鳴を上げる。
撤退していく敵部隊など顧みず、自らの背中を押してくれた、素性も知らない――もっと接したかった、もっと信じてみたかった大人の名前を叫んだ。
コロニーは落ちたのか、とか、敵はどうなったのか、とかよりも先に仮面の変態の行方が気になるなんてどうかしてる――彼女はそう思いながらも、無意識にそうした。
《レーダー機能しません!! これは……大量のフェーズ0粒子が宙域に広がっています!!》
《総員退避せよ!! この機を逃すな!!》
そんな彼女の耳に、ノイズにまみれた通信が入ってくる。
《私の事は無理に追うな。直ちに地球に帰還して、体勢を整えるんだ。奴らは
それが告げたのは、絶望的な事実。
目を背けたくなるような言葉の後、彼は続けた。
《だがあえて言うぞ、覚えておくがいい!!!!》
原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?
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その旨を良しとする!!(YES)
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私は辞退させてもらう。(NO)