ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。 作:聖成 家康
十話 何と言う僥倖!!
ここは、涅槃か?
微睡みの中にいるような感覚。
酷使し過ぎた筈の身体が不思議と浮かぶように軽く、頭はどこかに引っ張られるようにぼうっとしていた。
目を開けば、そこに広がっていたのは宇宙とは似ても似つかない、純白に満たされた空間。きらりきらりと目を突き刺してくる微小な粒子は、よく見てみれば各々が嘘のような色彩を宿していることが、辛うじて分かる。
「次はどんな世界なのだろうか」
ウィザードは――否、
自分が見知った、しかも大好きなアニメの世界に転生できるという機会は、早々ないだろう。ましてや、それを自覚して生きることなど。
それを安々手放した――叶わなかった者から石やら槍やら投げられそうな、冒涜的行為であることは分かっている。
だが、その身を削って、世界の運命を変えたかった。変えずにはいられなかった。
アスカ・カナタ。
「反逆機兵レギオン」セカンドシーズン最終話。怒りに身を任せたまま戦うことしかできなかった、戦い以外で報われる方法を教えられなかった彼女は、その精神を削り、最終的には人形同然の存在になり代わる。
ミハイル・バジーナ――もとい、ミラ・ヴァルーツ。
ファーストシーズンで人の可能性に触れた彼女だが、自分を信じて着いてきたアスカの末路を見据え人という存在に絶望し、激しい憎悪を抱く。
この変化がなければ、「劇場版 反逆機兵レギオン アルバ・チルドレン」は存在し得なかったが、その落差には胸が痛む。
ファーストシーズン主人公 リアム・ソナタ。
彼が一番の被害者ともいえる。
何も知らない学生であった彼は、レギオンに出会い、乗り込み、戦争によって深く傷ついた。
”連盟の蒼き悪魔”という異名を背負うほどの力と引き換えに、達観的で、ミラ以上に世界に絶望していた彼の姿は、骸を見ているようだった。
アスカとも戦うことになる展開は、主人公と主人公の対決で、胸は高ぶったが、境遇を踏まえると苦しくて仕方がなくなる。
「次また機会があるのなら……アナザーレギオンシリーズ……否、こんなものは強欲か。ほんのひとときでも、あの世界を味わえたのなら――」
静かに目を閉じた彼は、頭に電流が走る感覚を覚えた。
ばっ、と身体を起こすと目の前に見覚えのある顔が現れる。
赤い目、白い髪――いつしかコロニーで出会った気が合いそうだと感じた少女だった。
「キミは……やはり、私と同類なのか? だとしたら運命! そう、キミと私は運命の赤い糸で結ばれている! てんびん座の私にはセンチメンタルな――」
「運命……ふふ、運命ねぇ」
少女は冷徹な声音を、キラキラとした純白の、永久とも思える空間に響かせた。
「あなた、
その声音に鋭利さが増す。
勇気は彼女に訝しい念を抱き、いつものような態度をぐっと引っ込めた。
「釘は刺した筈よ。Destiny、それは受け入れるもの。いわば目的地、歪めてはならないものなのよ」
少女のか細い手が頬に触れる。
感触はない。ただ、それがどれほどの冷たいものであるかは、その血色の無さを見れば容易に分かった。
「……君は何者だ?」
「ふふ、あなたなら分かるんじゃない? ヘンタイさん」
少女はこちらを嘲るように笑う。
あなたなら、この言葉に勇気は妙な違和感を覚える。
――まさか、この少女も。
「とにかく、あなたには責任を取ってもらわないと。
勇気の胸元が、ヒリヒリと熱くなってくる。
刹那の後に、頭に凄まじい激痛が走った。
合旗勇気は――否、ミスター・ウィザードはその広い空間で一人もがき苦しみ、微睡みから覚めるのだった。
◇
「あの。大丈夫ですか」
何やら聞き馴染みのある、果てしなく愛おしい声に耳をくすぐられながら目を覚ます。
彼の目に飛び込んできたのは、紺碧のそれとは違う、澄み渡るような青空だった。
「地球か……我ながら運が良い」
記憶は曖昧だが、あの青空は間違いなく地球の証拠。
”ネオアーク”の巨大砲台の射線をずらしたと言えど、あの至近距離であれだけの質量を浴びれば、満身創痍の量産機は制御不能になる。
そのまま木偶の坊の如く宇宙を放浪し、運良く大気圏に呑まれた――都合が良すぎる生き長らえ方だ。
海岸に打ち上げられたウィザードは上を向いたままピクリとも動かない。
「……ノーマルスーツ……じゃない、パイロットスーツ……? それにこの仮面は……」
身体が痛すぎて、起き上がる気もなれなかった彼だったが、その声をはっきりと聞き取ると壊れたオモチャのようにびくんと飛び起きる。
「っ!!」
浜辺にかかっていた海水の飛沫を散らし、一人の青年が後退りする。
「リアム……ソナタ……」
パーマのかかった艷やかな茶髪、女子のように繊細な肌に包まれた美形な顔。心配になるほど細身な肉体は、白のワイシャツと青のジーンズ、黒いロングコートを纏っていた。
「反逆機兵レギオン」ファーストシーズンの主人公 リアム・ソナタ。
彼がずっと会いたがっていたキャラクターが、そこに立っていた。
「……あなたは人類結束連盟の人ですか? なんで連盟の人がそれを――ゲイズチェイサのパイロットスーツを着てるんですか……!」
リアムはこちらを好意的に思ってはいない様子だった。
――案ずるな。記憶は曖昧だが、私は単にコロニー修復作業をしていただけだ。
「会いたかった、会いたかったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
本音と建前が逆転し、ウィザードは抑えが効かなくなって、獣のように彼へ飛びつこうとした。
リアムはノールックでそれを避け、ウィザードは軽々と受け身を取って体勢を立て直す。
「な、何なんだ。あなたは……!」
「私の名を聞くか。いいだろう、あえて名乗らせてもらう。ミスター・ウィザードであると!!」
声高々に名乗り上げたウィザードを、リアムは最高潮の警戒心で睨む。
睨んだ顔もサマになる……のような色事しか、彼の頭にはなかったが。
「ふふ……ははは!! なんという
「さっきから何の話をしてるんです!! あなたは!!」
ウィザードが一人声高々に笑うのを、リアムは本気で気持ち悪く思っていた。
海辺に人が倒れてると思ったら、パイロットスーツを着ていて、その上中身がこんな変人だったなんて。
「リアム! 楽しそうだけど、どうかした?」
遠方から浜辺にやってくる、一人の娘。
見覚えのある短めな空色の髪と、白いワンピースの裾を忙しなく揺らしながら小柄な娘がリアムの元へ駆け寄ってきた。
翡翠色の瞳をぱちくりとさせる娘は、被った麦わら帽子が風で飛びそうになるのを押さえながら、ウィザードの方を見る。
「……この人――」
「来ちゃ駄目だ、アルバ」
ファーストシーズンのヒロイン アルバ・ヴァルーツ。そう、彼女はミハイルの――ミラの実の妹である。
セカンドシーズンのリアムはアルバともう一人、共に戦場を駆け抜けた仲間と共に、地球にある離島でひっそりと暮らしている。
前作で傷ついた彼の状況を鑑みるなら、当然のことだ。
自分はたまたまそこに流れ着いた、こんなにも運が良いことが、他にあるだろうか?
「ごほん。どうか、警戒しないでほしい」
「本気で言ってるんですか……?」
何食わぬ顔で言うウィザードを見て、リアムはいよいよ青ざめる。
「私は人類結束連盟所属のパイロット、階級は大尉だ。地球の衛星軌道上にある連盟の宇宙支部が設立されているコロニーは知っているかな?」
「えぇ……まぁ」
「今大変なんですよね?
リアムの返事のあと、アルバが聞き捨てならない情報を付け加えた。
あのコロニーに小惑星など激突していない、激突したのは
彼女がここから情報を得られるとすれば、テレビやスマホ。となると
「……あぁ。私はそれの破砕作業に加担していてな。機体を酷使し過ぎた故、ここまで流れ着いた」
「それで生きてるなんて……」
リアムは驚愕の意を漏らす。
ウィザードも、我ながらびっくりだ。自分の状態についてもだが、そんな嘘がすらすらと出てくるような事に。
「機体も失って路頭に迷っている。せめて移動手段さ――うっぐっ!?」
ウィザードは語尾を跳ねさせたかと思えば、膝から崩れ落ち、砂浜に倒れ込んだ。
それを見た二人は大慌ててで駆け寄ってきて、彼の様態を伺った。
「だ、大丈夫ですか?!」
「酷い熱……やっぱりゲイズチェイサで大気圏通るなんて無茶だったのよ」
倒れた仮面の変態を運ぶことに、リアムは抵抗があった。
しかし、一部始終を見ていないアルバからすれば単なる「漂流してきた怪我人」のため、ここで見捨てる判断をするのは彼女の目からすると薄情者に映る。
でも、あんな変態を家に招いて何も起こらないわけがない――。
リアムは吐き出したいモヤモヤを抱えながらも、ウィザードを自宅へと運ぶのだった。
原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?
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その旨を良しとする!!(YES)
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私は辞退させてもらう。(NO)