ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。 作:聖成 家康
敵艦の沈黙を確認した”ハンドレッド”の艦内は、どんよりした空気に満たされている。
とはいえ、その空気感の要因はあれだけの敵を退けた疲労感によるものであり、大半のものはウィザードのことを
ただ一人を除いて。
「なんで!! 大尉はまだ生きているかもしれないじゃないですか!!」
”ハンドレッド”のブリッジに、アスカの怒号が響き渡る。
お茶を嗜んでいた茶髪のオペレーターは、迷惑そうに耳を塞ぐ。
「ここで時間を潰せない。私たちは直ちに結束連盟コロニーに向かって、地球に降りなければならない。敵の目的は
ヨハンは冷酷にそう言う。ただ、それは
アスカは歯噛みする。
ふと、自らの行動を心内で反復した。
”アストラル”なら彼の元に行けた。
それができなかったのは、自分に力がなかったから。それをできるだけの、勇気がなかったから。
脳裏に蘇るのは、
優しくて、恋愛的な感情を超えて家族とまで思っていた少年の笑顔がぼんやり浮かぶ。
それは、目前で爆発が起こり、自分を庇って死んだ彼の顔で塗り替えられる。
頬に散った血の嫌な温もり、ぐったりのしかかってくる彼の重み、立ち込める黒煙と生臭さの混ざった異様な匂い。
吐き気が込み上げて、アスカは言葉を詰まらせる。
――大尉も、ボクが弱いから。
「っ……」
アスカは一目散にブリッジを飛び出した。
その瞳には一杯の涙が溜め込まれていた。
ミハイルは一歩踏み出したはいいが、それから移動する気力を無くし、こつんと壁に激突する。
「彼女からすれば、薄情者に映るかもしれないが……私は、何もウィザード大尉を愚かだとは言わん。むしろ、彼がああまでしてくれなければ事態は最悪な方へ傾いていたやもしれない。そうだろう?
ヨハンは軍帽を深々被る。
「私は大尉ですよ」と、ミハイルは苦笑を浮かべながら返すが、彼は何事もなかったかのように会話を終わらせる。
「バジーナ大尉、君も休め」
「……はい」
ミハイルは声のトーンを落とし、アスカの残り香を追った。
「艦長。あの戦艦の残骸、調べなくてよろしいのですか?」
オペレーターの言葉に、ヨハンは呆れたように返す。
「そんなヒマはない」
「は、はいっ! すいません!」
だが彼女の提案も一理ある。敵の素性が分からないというのが、《ラウンズ》にとってかなりの痛手である。
単なる民兵組織なのか、それともそのバックに何か大きな物がいる組織なのか。
戦艦とレギオン――その二つのキーワードだけで、単なるテロリスト組織であることは疑わしく思えてはくるが。
とはいえ、あの戦艦を放っておくわけにはいかない。
《ラウンズ》の別動隊へ残骸の回収を頼んだが、真実を知れるのはいつになるか分からない。
「私はいつになったら休めるのかな」
ミハイルは彼女の事を慰めに行こうとしたが――どう接していいか分からない。
この年になって、人との接し方がいまいちピンとこないのだ。十六歳から戦争に関わってきて、それ以外何も知らない女だから、当然か。
廊下を泳ぐように移動し、自室にたどり着いたミハイルは軍服の上着を脱ぎ捨てて、重力区画なのを良いことに、ベッドへ身を預けるのだった。
うす暗い部屋だと、ミハイルはついその薄暗闇に色々なことを投影してしまう。
仮面を被り、ゲイズチェイサを赤く塗って戦争にのめり込んでいたあの頃。
十八という若さで沢山の人を殺めた。
――実の兄さえも。
自分なんて、やることさえ果たしたら死んでしまえばいい。そう思っていた。
でも、今こうして生きているのは、自分の脳裏に深々と刻まれている、印象深い少年の残した呪いがあるからだ。
――貴女も生きてください。
「リアム……」
ぼそ、と呟いても彼は来てくれない。
君が言ったから、君が私に生きろなんて言ったから、愚かな人間がまた一人、こうして世界を汚しているのよ?
その責任を早く取ってよ。だから、早く私の前に現れてよ。
ミハイルは膝を丸めて蹲る。
次に思い浮かぶのは、とてつもなく変人で気持ち悪くて、できれば友達だと思われたくはないけれど、自然と惹かれる不気味とまで言える魅力を秘めた彼。
あんなふうだけれど、機体の操縦も軍人としての心得もしっかりしていて、ミハイルと引けは取らない。
――この《ラウンズ》で唯一、頼ってもいいかな、なんて思えた人間だ。
「また、一人で頑張らないと」
ミハイルは起き上がり、気合を入れる。
彼はいないのだ。
今《ラウンズ》のパイロット達を導けるのは、自分しかいない。
ただでさえ落ち着きのない新人がいるのだ。ウジウジなんてしている暇があったら、子供の手綱の扱い方を学んだ方がためになる。
上着を羽織ろうとしたミハイルは、艦長の命令を思い出して、またベッドに身を預けるのだった。
◇
「アルバ、どう?」
ベッドに寝かせられたウィザードは、高熱で魘されながら、アルバに看病されていた。
彼からすると、大好きなアニメのヒロインに看病されているという興奮必至の状態ではあるが、さすがに高熱には抗えなかった。
リアムは離島にあるログハウスで、静かな生活を送っている。
さざなみの音、時折聞こえるカモメの囀り、木々のどよめき。傷ついた身体、心を癒やすにはもってこいな場所である。
「まだ苦しそう……病院に送ってあげたほうがいいのかな」
「……うちで何とかなりそうだと思うけど。それに――」
ベッドの側に置かれた棚の上にある、おぞましい鬼の面を思わせる仮面に、リアムの視線が寄った。
「
「お姉ちゃんみたい……な?」
アルバのやけに神妙な面立ちを見て、リアムは苦く微笑んだ。
それを見てから、アルバは口を手で塞ぐ。
彼にとっては、仮面の女のことでさえ思い出したくない嫌な記憶だ。
元はと言えば、あの出会いが彼の運命を捻じ曲げたのだから。
「反逆機兵レギオン」ファーストシーズン。
その物語は、結束連盟の原型となった人類地球連盟の基地に、宇宙国家組織 アーク連邦の部隊が攻め込むところから始まる。
基地周辺の街で学生生活を送っていたリアムは、偶然か必然か、連盟軍のゲイズチェイサ〈レギオン〉に乗り込むことに。
そこで出会った、ミラが操縦する赤いゲイズチェイサ――《煉獄の凶星》との因縁を刻むことになる……。
戦いの最中、彼は敵と見なしていた彼女にも戦わなければならない想いがあり、苦しんでいることを知った。
自らの血筋、ヴァルーツ一族の悪行。
それによって生まれた悲劇と狂気の産物「アルバ・クローンズ」。
妹を模して作られた使い捨ての道具、それの行く末を目の前で見守っていた彼女だって、無理やり戦わされる羽目になったリアムと、比にならないの哀しみを背負っていたに違いない。
リアムはそれを知ってから、次第に何とも思わなくなっていた自らの”戦争”という行為に、酷い罪悪感を抱くようになった。
「リアム、ちょっといいか」
部屋のドアから顔を覗かせるのは、銀髪の男。アロハシャツを纏い島生活を満喫している彼は、ファーストシーズンでリアムと戦いを共にした戦艦 ”ゼロ”の元艦長 レイ。
彼に連れられたリアムは、居間で流れていたテレビの画面を目の当たりにする。
『先日、衛星軌道上のコロニー ”アルテミス”が小惑星衝突によって中破しました。小惑星とコロニーの破片はゲイズチェイサ部隊によって解体され、地球への影響は皆無でした』
映し出されるはニュースキャスターの言葉通り中破しているコロニー――”マスター・ルナ”。
丸い惑星や衛星を彷彿とさせる鉄の塊の一部は、何かにごっそりと抉られたように崩落していた。
「……なんらおかしくない。破損箇所も小惑星がぶつかったと思えば、あぁそうかと納得できるような映像だ。
レイはコーヒーを啜りながら、テレビを怪訝そうに見つめた。
彼らがこうして、離島で生活を営んでいるのにはリアムの心の傷を癒す……以外にも、もう一つ理由があった。
どちらかと言えば、その理由のほうが大きい。
レイは統一政府樹立後も軍人だった。
だがそのやり方に疑問を抱き、すぐに軍を離れた。
そんな彼を、
人類結束連盟が
「情報操作……ですか」
「確証はないが、信用もない。奴らは
コーヒーを飲み干したレイは立ち上がり、シンクへまっすぐ向かった。
「……僕はどうする、べきなんでしょう」
そう呟いたリアムを見て、レイは先刻までの態度とは一変し、どこか反省したような態度で返事を返す。
「お前はもう、戦争になんて――世界のことになんて関わるな。”連盟の蒼い悪魔”だろうが、
丹精を込めて淹れられたコーヒーを差し出されたリアムは、目を伏せて、崩れ落ちるようにイスへ腰を下ろした。
原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?
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その旨を良しとする!!(YES)
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私は辞退させてもらう。(NO)