ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。 作:聖成 家康
「あ、目が覚めましたか?」
ぱちり、と目を開く銀髪の男を見て、アルバは様態を彼に尋ねる。
「具合はどうですか?」
「仮面は」
「?」
開口一番の台詞に、アルバは思考停止するも銀髪の男は構わず続ける。
「私の仮面はどこだ」
「…………あ、あぁ……こちらに――」
鬼の面のような仮面を差し出すと、銀髪の男は驚きの速さでそれを着用し、何事もなかったかのような澄まし顔をする。
アルバがどうしていいか分からずいると、彼のほうからアクションを仕掛けてくる。
「ここから一番近い街はどこだろうか」
「えっ? そのお体で外出を?」
「治ったさ」
「いやいやいやいや! 数時間お眠りになられただけじゃないですか!」
アルバはお化けでも見るような目でウィザードの事を凝視した。
たしかに外傷はないが、海水に長時間晒された影響からか、四十度近くの高熱が出ていたのだ。それが数時間で、しかも眠っただけで完治するなどおかしな話である。
「まだ眠っておられた方がいいですよ。せめて外出は控えたほうが」
「治ったと言った」
「何も聞いてない……」
何を言っても無駄だ、とアルバが肩を落とした所で、騒ぎを聞きつけたリアムが部屋の中に入ってくる。
リアムは多少身構えたものの、すぐに冷静になって彼に話しかけた。
「お、おはようございます……ミスター・ウィザードさん」
「おはよう、リアム・ソナタ」
息を吐くように自分の名前を言う彼に違和感を持ち、リアムは顔を歪めた。
「どうして、僕の名前を?」
「免許があると言った」
「会話になってませんよ」
早くも出鼻をくじかれ、心が折れかけるリアム。
リアム・ソナタは妙に
そんな彼がコミュケーションにさえ苦労するこの男は、もはや人間なのかと疑わしくなってくる。
(思考が全く読めない……
リアムは心の中で歯噛みする。
この男が、自分たちを始末しに来た連盟側からのスパイでない保証などどこにもない。
それを証明し、早々に出ていってもらわないといけないのに。
――というのは、さっき彼が作ってきた建前であり、本音は
最悪アルバやレイまで危ない。
「……アルバと言ったな、少し席を外してくれるか」
「リアム……知り合いなの?」
「わからないけど、言う通りにしてあげて」
アルバは状況を飲み込むのに苦労していそうだったが、それが追いつかない間に退室した。
リアム・ソナタ――主人公と、ミスター・ウィザード――彼を
◇
『”ハンドレッド”、大気圏突入シークエンスに入る。耐熱コーティング剤添付、電力供給を排熱システムに集中。エンジン出力を大幅に低下。各クルーは衝撃に備えよ』
長らく紺碧の海を漂っていた”ハンドレッド”の目下には、青々とした澄み渡る星――地球の大地が広がっていた。
アスカは艦を覆うシャッターが遮断される前にそれを見てみたくて、外の様子をよく伺えるフロアにこっそり忍び込んでいた。
生まれの星、地球。
火星の空気には慣れてしまっていたけれど、地球の重力の感覚は未だ根強く身体に染み付いている。
懐かしい。
同時に、二度と戻らない幸せがあることも知る。
両親は〈ヘヴンダウン戦争〉で死んだ。
父はゲイズチェイサのパイロットとして、母は戦場で彼を支えたメカニックとして。
火星に移住して、ハイスクールに入学。
そこで出会った青年 シン・リーダムの事はよく覚えている。
明るくて、かっこよくて、ちょっと不器用だけど料理もできる家庭的な人。
寮で一人だった自分にいつも料理を自慢にしに来ていた記憶がある。
ふと、楽しい記憶を塗り替えたのは、血なまぐさい呪い。
自らにのしかかる大切な人
「ぅっ……ぉ……え"え」
アスカは堪らなくなり、その場へ吐瀉物をぶちまけた。何も食べてないからか殆ど胃液だ。
強酸が通り抜けたに等しい喉が、焼けるように痛い。
荒くなった呼吸を整える。
大切だ、そう思った人はみんな死んだ。
父も母も、シンも、そして――ウィザード大尉も。
強くならなくてはいけない。
いいや、
でないと大切な人ができても、すぐに死んでしまう。
故郷を見据える彼女の瞳が、おぞましいまでに鋭く尖っていた。
血染めの瞳には、青く澄んだ大地の色が付け入る隙間もない。
大気圏突入まで残りわずか。
ミハイルはそれを経験しすぎて、身構えることすらしなくなった。
ふと、部屋を出た廊下で立ちつくしている人影が目に入る。
アズチだった。立ちつくしている、というのりはふわふわ浮かび、無重力に身を預けているというのが正しい。
「グレード准尉、どうかした? 何かに掴まってないと、頭打つわよ」
「……バジーナ大尉」
アズチは今さら彼女の存在に気がついたらしく、ひどく驚いていた様子だった。
「……ウィザード大尉のこと、気にしてる?」
「――俺は、あそこに行かなくてよかったのでしょうか。大尉が必死で状況を変えようとしていた、あそこに」
どうして誰も彼も、あんな変態のことを気にかけるのか――。
疑問が沸かずにはいられないが、ミハイルとてその気持ちは十分に、痛いほど理解できていた。
「あの人は……はっきり言って
「でも――」
「君は人間でしょ」
ミハイルの指摘に、アズチは口を繕う。
この戦場には
ミハイルは自分もその一部ではないかと、薄々感じ始めていた。
”レギオン”。
連盟の蒼き悪魔と呼ばれた、その機体のパイロットも、おそらくは人を辞めた何か。
だがミハイルには、その何かというのが分からない。
「
「……え」
そう尋ねられたアズチは、困惑の声を漏らす。とはいえ、その困惑は質問の内容よりも、突然名前で呼ばれた事に対するものだった。
どのみち、彼にその質問の意味は理解できない。誰かに話しかけられている感覚、など意識することすらないからだ。
「具体的に言えば、頭に直接、得体のしれない何かが語りかけてくる……みたいな」
「……さぁ。大尉はあるのですか?」
ミハイルは彼の問いかけに答えようとしなかった。
アズチのため息の後、皮肉じみた言葉が彼女の耳に入る。
「俺は大尉と違って、戦争一筋というわけではありませんから」
「……私で良かったね」
怒ることもせず、ミハイルはアズチに別れを告げた。
◇
「あなたは、どうして僕の名前を知っているんですか? ――連盟のパイロットとおっしゃっていましたが」
リアムの警戒した視線がウィザードを突き刺した。
どうしたって、この仮面と自白した所属を背負ったウィザードは、彼には疑われる宿命のようだ。
「……当たっていたか。リアム・ソナタ。かの”レギオン”のパイロット、〈ヘヴンダウン戦争〉の英雄」
「…………そう、ですか……そんなに、僕は」
彼の言葉に、リアムは脱力した。
それには安堵というよりも絶望という比喩のほうがよく似合う。
”君はアニメの主人公で、私はその熱狂的かつ情熱的かつ狂気的かつ爆裂的なファンだ”と告げた所で、自分への印象が”単なる変態”から”頭のネジが飛んだ異常者”になることを恐れた、彼なりの嘘だった。
「もう満足かな? 私の願いも可能ならば聞いて欲しい」
「え、えぇ……」
リアムは心ここにあらず、と言った雰囲気で頷いた。
「見たところ此処は離島のようだが。最寄りの都市はどこだろう? できれば、連盟の拠点がある所が望ましいが、無くても構わない。一刻も早く復帰せねばならないのだ」
「……その必要はないですよ」
ぽつり、と言うリアム。
その様子にウィザードは眉をひそめた。
「此処は連盟の所有地ですから。僕が連絡を取りますので、迎えならいつでも呼べますよ」
「……ほう。それはありがたい」
と礼だけは述べたが、ウィザードはまだ吐き出したい気持ちが山程あった。
ずっと憧れてきた、ずっと会いたいとまで願っていた人物が目の前にいる。
なのに、彼がここまで大人しくできているのは奇跡に等しい。
だが、今のリアムは――例えるならガラス玉。
先の大戦――〈ヘヴンダウン戦争〉では、宿敵であるミラ・ヴァルーツの妹、今彼と同棲しているアルバ・ヴァルーツのクローンを、数多もその手で殺めた。知らずのうちに。
罪もない、戦うためだけに作られてきた哀れな彼女らを殺すなど、彼からすれば大罪にも等しい行為。
その罪悪感は、いまも彼を蝕み続けている。
彼はどう言葉をかけて良いのか分からなくなる。
何か語りかけてやりたい、だが、
ウィザードは考えに考え、頭が破裂しそうになる。
彼とて、ここまで特殊な人間関係は持ったことがない。正解が分からないのだ。
「何か飲みますか。いま、持ってきますので」
リアムが部屋を出ようとした時、その足取りは、何かによって阻まれる。
彼の腹部に回されるガッシリとした手。
それは、ウィザードのものだった。
細々した枯れ木のような体躯を、一縷の身動きもできないようにがっちり固定し、みしみし軋むほどに、ウィザードは彼を抱きしめていた。
会って間もない彼を、である。
「な、なにを」
「君を後ろから抱きしめている」
「イカれてるんですか……!?」
リアムは必死なって藻掻くも、ウィザードは彼を離さない。
当然だ。軍人として正規の訓練を積んできたウィザードと、単なる一般市民出身のリアムとでは力量は歴然の差だ。
「離してください――離せっ!!」
「ふふふ、君を守るものはどこにもない。一糸まとわぬ姿、君がこの世に生を受け、一番に母親に見られた姿というものを私にも曝け出したまえ!」
「この年になってから親父にも見られたことないのに!!」
「ならば尚更、私が君の秘境の第一発見者になってやろうではないか!!」
どたばたどたばた、何事かと聞きつけてやってきたアルバが部屋に入ってくる。
「リアム? ウィザードさん? なにを――」
扉を開けた彼女は、目前で繰り広げられるそれを見て絶句する。
ベッドに倒れ込む男二人。
それはまさに――。
「あ、アルバ……」
「痴れ者め。邪魔をするな!」
アルバはあんぐり開けた口のまま、言語化された悲鳴をあげた。
「な、何してるの!? リアム!! お、お母さん!! そんなふしだらな真似許しませんよ!!」
「あ、アルバっ! 誤解! 誤解だって!」
無言で歩み寄ってきたアルバに、人間とは思えない力で引き剥がされたウィザードは、病み上がりにも関わらず激しく壁に激突させられ、しばらく動かなくなった。
「リアム、大丈夫?」
「僕より彼の方を」
「なんで?」
その騒ぎを聞きつけレイまでやってきて、三人はこっぴどく叱られることになる。
アルバとリアムに関しては、「なぜ?」という疑問しか頭に残らず、ひたすらウィザードのことを恨むしかできなかった。
原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?
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その旨を良しとする!!(YES)
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私は辞退させてもらう。(NO)