ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。   作:聖成 家康

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十八話 始末書ものだな

 

「ウィザード大尉。お食事です」

 

 

 アスカのはきはきした声音が、暗闇に木霊するのを聞き取ると、精神を統一していたウィザードは刹那の間それを中断した。

 

 

「感謝する――よく似合っているではないか」

 

 

 ウィザードがそう付け加えると、アスカは視線を落とし、やや頬を赤くする。

 白い襟詰めの軍服を纏った彼女の姿。彼からすれば、こちらの方が見慣れている。もっともこの船の中か、《ラウンズ》の基地内でしか見ることはできないのだが。

 

 

 タイトスカートが穿き慣れていないのか、彼女は少し歩きにくそうであった。

 

 

 食事を受け取ると、ウィザードは少し顔をしかめる。

 彼女が用意してくれたのは、脂っこいポークチョップと焼き飯、そしてコッテリとしたビーフシチュー。

 好きそうな物を用意したのだろうが――あいにく、彼は前世から健康志向なため、野菜と魚中心の食生活なのだ。彼にとって悪の塊のような食事。

 

 だが、この好意を捻じ曲げる方こそ悪だ。

 

 一日くらいで身体は変わりはしない。

 

 

「じゃあ、頑張って……? ください」

「待て」

 

 

 退出しようとしたアスカを、ウィザードは箸とスプーンを持ちながら制した。

 

 

「食べながらで悪いが、君と少し話がしたい」

 

 

 正直な思いを打ち明けると、アスカはきょとんとした表情ではあったものの、素直にその想いに応じてくれた。

 鉄格子の前に腰を下ろしたアスカは、どうしてか、少し口元を緩ませている。

 

 

「……君にとって、これまでは未知の連続だっただろう? 身体は大丈夫か」

「あなたにだけは言われたくないです」

 

 

 アスカは語気を強めるが、彼にはその理由がさっぱり分からない。気に障るようなことを言ったつもりはないのだが。

 

 

「大尉は……どうしてそんなに強いんですか?」

 

 

 脂っこい焼き飯を渋い顔で咀嚼するウィザードに、アスカはやや消えかかった声で尋ねる。

 

 強い、というのはどういう意味か。

 肉体的に――は、彼女のことだからあり得ない。

 

 

「私とて、万能ではない。どれだけ強靭な精神を持っているように見えても、そういう者はたいてい裏で悲哀を背負っているものだ」

 

 

 そう言いながら、彼は脳裏にリアム・ソナタの姿を思い浮かべる。

 彼が最たる例だろう。ファーストシーズン。リアムは”連盟の蒼き悪魔”と敵からは恐れられ、味方からはその絶大な強さを尊敬された。

 だが、彼しか分からない、分かり得ない大きな悲哀を抱えていたことを殆ど誰も知らない。

 

 

 彼女とて、きっとそのはずだ。

 この年の女の子が、大切な想い人を目の前で、しかも()()()()()()()()()()()()()()、哀しみに暮れない訳が無い。

 

 

「……君は強いさ。十分にな――でも、何か、周りにひた隠しにしている事があるのではないか?」

 

 

 ウィザードがそう言うと、彼女は肩を強張らせた。

 

 悲哀を抱え込むのは良くない。

 彼女の場合、特に。それを隠すために、原作では怒り狂って我を見失ってしまって――あのような結果(バッドエンド)になってしまった。

 

 

「……そんなこと」

「今の私は大罪人。牢屋に入った者のことなど、いないと思ってもらって構わない。君が吐露した言葉は、この牢に封じ込めると誓おう」

 

 

 何のフォローになるかも分からぬ言葉を添えて、ウィザードはそれ以降口を閉ざす。

 折り曲げた膝に顔を埋めたアスカも、暫くの間、黙り込んだ。

 

 

 かなりの間の静寂。牢屋という冷たい空間ゆえに、それは永遠のように感じられた。

 

 

「……だいすきだった人が、いたんです」

 

 

 アスカが、微かに震えた声で言葉を紡ぐ。

 今だけは食事の手を止め、その言葉に耳を傾けた。

 

 

「でもその人は、ボクの事を庇って、あのコロニーでの戦いに巻き込まれて死にました」

 

 

 聞きはしたが、ウィザードはその事実を知っている。セカンドシーズンアニメ序盤、彼女の少女らしからぬ悲痛な叫びは、今でも頭に残っていた。

 

 

「……ボクが女だから。弱いから。庇ってくれた……もうボクは、そんなの嫌なんです。ボクの大切な人が、ボクのせいで、目の前で死ぬのが」

 

 

 彼女は想い人――シン・リーダムだけでなく、幼い頃に父と母も、〈ヘヴンダウン戦争〉の犠牲となっている。あまりに悲惨な過去だ。

 

 

「だからっ!!」

 

 

 彼女は声を張り上げながら立ち上がる。

 

 ぽつ、と煌めく雫が冷たいコンクリートを濡らした。

 

 

「大尉がっ……大尉がっ……死んだって思った時は辛かった……苦しかった。大尉は……こんなボクの事を応援してくれて、女としてじゃなく、一人の人間として見てくれたのに……!!」

 

 

 語尾に進むにつれ掠れた声が漏れてゆく彼女を見て、ウィザードは食事どころではなくなった。

 

 ぜんぶ、良かれと思ったやった行動だ。

 それが彼女にとっては一時の苦痛となっていたと、知らなかった。

 

 彼女はその場に崩れ落ちて、すすり泣き始める。

 せっかく元気な彼女を見ることができたのに、また泣かせてしまった。

 

 人と関わるのは、事前に膨大な知識を持っていたとしてと難しいこと――人と人との関係の複雑さを、ウィザードは痛感する。

 

 そして、それを軽視していた自分を律したくて仕方が無くなる。

 

 

 彼はポケットからハンカチを取り出す。

 

 

(大尉気が利く……優しいな……)

 

 

 泣いていたアスカは、てっきり涙を拭うためにそれをくれるものだとばかり思っていたが。

 

 

 現実は違った。

 

 

「え……なんで咥えるんですか?」

 

 

 純白のハンカチを、彼はあろうことか自らの口に噛ませていた。

 そして、どこから取り出したのか、そもそも何故牢屋に持ち込めたのかも分からない小刀を取り出す。

 躊躇いもなく鞘から刀を引き抜いたのを見て、アスカは涙を引っ込めた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁっ!! 大尉待ってぇぇっ!!」

「武士たる者、失態はこの腹をもってして償わねばならん。それが武士道、ミスター・ブシドー!!」

「ごめんなさいごめんなさい! ボクが、ボクが悪かったですからぁぁっ!」

 

 

 

 

 騒ぎを聞きつけたアズチが事態を収め、アスカは今後独房への立ち入りを禁止されてしまった。

 

 アズチは騒ぎを起こした彼を、上官ではあるが本気で説教した。

 

 

「……久しいな、グレード准尉」

「今更か」

「今更だ。おちおち話せる状態ではなかったからな」

「誰のせいだと」

 

 

 嘆息の後に、アズチの顔に微かな微笑みが伺えた。

 

 

「……牢から出たら、今度こそその強さの秘訣を教えてもらう」

「約束しよう。みっちり体で教えてやる」

「それは結構だ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ――太平洋 海底。

 

 

 海底を進行中の戦艦――”ネオアーク・アイン”に帰還したファウスト・シューベル。

 

 あそこまでの徹底した包囲網を張りながら、敵を根絶やしにできなかった事に、苛立ちと後悔を覚えていた。

 

 

 ”レギオンMk-II”のコックピットから、格納庫のキャットウォークに降り立つ彼の出で立ち。

 艷やかな銀髪に、桃色の瞳。貴族の纏うような金を基調とした衣服で身を包む、聡明さを漂わせる男。

 

 ”マサムネ”、”ノーヴェ”から二人の〈スピーラー〉が降りてくるのを横目に、ファウストは足早に格納庫を出るのだった。

 

 

「ファウスト様、怒ってる……?」

 

 

 桃色髪をツインテールに束ねたマーチは、不安そうに主を見つめる。

 その横で緑髪のイガクが怒りに震えていた。

 

 

「あの変態野郎だ……!! アイツのせいで全部計画が狂ってる!!」

「イガク、あんなのが好きなの? キモ」

「ぶっ飛ばすぞ」

 

 

 

 ファウストはブリッジに辿り着くと、担当していたクルー達に敬礼される。

 しかし、一部の者は彼に見向きもしなかった。

 

 《プライムテラーズ》。結束連盟に不信感を抱く者達で結成されたその組織の実態は、未だ歪みのある関係である宇宙人類と地球人類が入り乱れたものだ。

 

 宇宙人類の再建を目指す者と、ただ単に結束連盟を潰したい者。一致するのは利害だけである。

 

 

「……あの男に繋いでくれ」

「はっ」

 

 

 ファウストはマイクを耳にはめ込み、部下に命じてある通信チャンネルへと接続させた。

 

 暫くすると、ホログラムが投影されて映像がリアルタイムで送られてくる。

 

 映像に映るは、薄暗い部屋で豪華なソファにふんぞり返るスーツ姿の男だった。

 金髪で青い瞳、若々しく見えながらも年相応の貫禄を感じさせるその男は、ファウストを見据えにや、と笑う。

 

 

《しくじったのか?》

 

 

 嘲笑うように言う男に、ファウストは渋々頷いた。

 

 

《《ラウンズ》、だったか? そうか、仕留められなかったか――まぁいい。もうヤツらを執拗に狙うのはやめにしよう》

 

 

 男の口から放たれた発言に、ファウストは激しく反抗する。

 

 

「何故だ。奴らを野放しにしておけば、私たちも、貴様たちの野望に影響が――」

《あの船を潰したところで、また別の部隊が出てくる。非効率、そうは思わないか?》

 

 

 この男の口車に乗せられる気がして虫唾が走ったが、ファウストは歯噛みをすることしかできなかった。

 

 

《それに、奴らを倒したら()()()()()()()()()()ではないか》

 

 男の衝撃的な発言に、ファウストは嫌悪感を顕にした。

 

「貴様は……! まだそんな事を」

《何を今更。私たちは()()()()()()()()。宇宙の人間、地球の人間、そんなことは直接的にはどうだって良い。我々〈ノーベルダイナミクス〉の利益となる事を選ぶ》

 

 男――アレックス・ノーベルは、そう言って高らかに笑った。

 ファウストの拳に、じりじりと力が込められていた。

 

 

《では、こちらの指示を引き続き仰いでもらおう。ファウスト――いや、()()()()()()()()()()よ》

 

 

 アレックスの言葉に、ファウストは胸を突き刺される。

 ――そうだ、俺は一度でも()()()()()恋心を抱いてしまったのだ。

 

 通信が切れた後、ファウストは足早にブリッジを飛び出していった。

 

 

 

「あ……ファウスト様っ」

 

 

 マーチとイガクにすれ違い、敬礼する二人を制する。

 自分はそんな人間ではない。彼と彼女の製作に深く携わっただけのこと。

 

 

「お(かしら)はいいのかよ。あの男は、()()()()だろ?」

「……イガク。君は視野が狭過ぎると何回言えば分かる」

「でも!!」

 

 

 突っかかるイガクを、マーチがどつく。

 ファウストは疲弊した風貌で自室へと吸い込まれていった。

 

 デスク照明を点灯させただけの、薄暗い空間で彼は思いを馳せる。

 

 

(ミラ……貴女は本当に)

 

 

 あの時感じた()()

 以前、もっと近くで、もっと親密に感じていた思念を、あの戦場で確かに感じたのだ。

 

 勘違いなどではない。

 

 だが、信じたくない。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()が、今度は地球人類側についているなど。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「反省してる?」

 

 

 独房で正座していたウィザードに、ミハイルが蔑むような目を向けた。

 彼が帰ってきて、彼女も厄介事が増えて辟易している。少しばかり良くない態度ではあるが、目をつむる。

 

 

「……しているようね。一応、本部には報告させてもらってね。さっき本部からの返信があったわ」

 

 

 ミハイルはため息の後に続けた。

 拒否権があるとは思えないが何の確認もなしに本部に報告とは、なかなか鬼畜の所業だ。

 

 

「貴方の活躍を、本部は凄く評価している。大事には至らなかった上に故意ではないために、今回は不問とする――との事よ」

 

 

 瞳を瞑っていたウィザードは片目を開ける。こんなときでも、顔を覆う仮面は外さない。

 

 

「本来なら銃殺が妥当なのに。本部も甘いわ――出なさい。”ハンドレッド”は今人手不足なの」

 

 

 まだ数日というのに、牢が解放された。

 態度から彼女の本心とは異なるのだろうが、甘いのは本部のみでなくこの船もではないか、とウィザードは心の中で微笑む。

 

 長らく座っていたためか、脚が少し麻痺している。トレーニングに励まなければ、と彼は鍛えられたミハイルの肉体を見据えながら連想した。

 

 

「聞きたいことがあるの」

「……なんだろうか」

 

 

 ミハイルは牢屋区画から出ようとした彼の前に立ち塞がり、サングラスで瞳を隠しながら尋ねてくる。

 彼女にとってサングラスとは、いろいろな意味がある。怒り、哀しみ、あるいは恐怖。今回はどれか、質問を聞かないことには分からないが。

 

 

「〈アルカナ〉――この言葉に覚えはない?」

 

 

 尋ねられたのは、あまりに予想外の事についてであった。

 

 〈アルカナ〉。

 それは、作中ではあまり深掘りされなかった()()()()()の名称。

 

 実を言うと、ファーストシーズンの終盤からその名前はちらりと出ていたし、存在そのものは判明していた。

 だがその詳細が明らかになるのは、セカンドシーズンの中盤――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 

 〈アルカナ〉は、どういうわけか()()()()()()()()などの第六感に関する能力がすこぶる優れている。

 

 リアムもミラもアスカも、振り返ってみれば異様に勘が鋭い場面がある――という伏線回収には、当時少し感心した覚えがあった。

 

 

「……〈アルカナ〉。ある論文で示された言葉らしいな。”第六感に優れた人類”――記憶は曖昧だが」

「そう……知ってるんだ」

 

 

 ウィザードの言葉に、ミハイルは声のトーンを落とす。

 

 

「……それを私に聞いてどうしたい? 私が〈アルカナ〉だとでも言いたいのかな」

「いいえ、別に。ただ――」

 

 

 サングラス越しの赤い瞳が、きり、と鋭くなる。

 

 

()()()()()()()()、それも()()()()()()を読んだことある人なんて、珍しいと思って」

 

 

 痛い指摘に、ウィザードは口を繕わざるを得なくなった。

 そういう設定であった事が頭から抜け落ちていた。原作の周回不足がもたらした失態に、彼はまた腹を切りたくなる。

 

 

「……ねぇ、この際聞くね。貴方、()()()()()()()()。私たちが知らないようなこと」

 

 

 その勘の鋭さは、流石はリアムに次ぐ〈アルカナ〉といったところか。

 この世界は自分の知るアニメの世界、だからこの先の運命を全て熟知しているなどと言ったら、また独房入りになるかもしれない。

 

 かと言って、明らかにはぐらかす訳にもいかない。

 彼女は完全にこちらを疑いにかかっている。

 ミラ・ヴァルーツであることを隠し、《ラウンズ》で活動している彼女は、彼のような怪しい者をそのままにはしておけないのだろう。

 

 ――まぁ、そんな彼女が他人の隠し事を暴こうとするなど、とんだブーメランであるが。

 

 

 ミハイルには、事が収束したら後々アクションをかけるつもりだった。

 だが、こうなってしまっては致し方ない。

 

 

「地球に降りた時、ある人物に会った。その者から聞いた」

「ある人?」

 

 

 嘘の織り交ぜられた事実ではあるが、この場を切り抜けるにはこれしかない。

 

 

「――リアム・ソナタ。”連盟の蒼き悪魔”と呼ばれた青年だ」

 

 

 その名を聞くと、漆色のグラス越しに映る真紅の瞳が、嘘のように小さくなった。

 

 

 

「リア……ム?」

原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?

  • その旨を良しとする!!(YES)
  • 私は辞退させてもらう。(NO)
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