ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。 作:聖成 家康
宇宙に滞在させていた《モードレッド》の艦隊と合流したファウスト。
地上で起こった悲劇に衝撃は受けていれども、もはや立ち止まることすら許されない境地に達したことを自覚していた。
”ノーヴェ”を失ったことは、彼らにとっては凄まじい痛手だ。
ただでさえ機体状況が芳しくないのに、貴重な戦力であるレギオンタイプを失うとはかなりの損失であった。
とはいえ、宇宙に飛び立てたことで唯一の《モードレッド》用の工廠にアクセスできるようになった。
”ヴァグ”や”ヴィシャス”という型落ち品に頼らずとも、新しい機体が手に入ることだろう。
「アルバ様、お気分はいかがですか」
大気圏突入時の窮屈な宇宙服から解放され、放心状態になっているアルバがいる部屋を、ファウストは覗き込んだ。
彼女はどこか虚ろであった。
ファウストからしてみれば、不思議でならなかった。
あのような環境に身を置いていた頃よりも、よっぽど誇らしい責務に就けるというのに。
「……宇宙は久々でしょう。酔いが激しいですか?」
無重力に慣れていないような彼女に寄り添い、丸みを帯びた肩を優しく包んだ。
アルバ・ヴァルーツは母親似だ。情けのない父親の面影など、どこにもありはしなかった。
本来なら、良い人と結ばれるべきであったろうに――地球で過ごす期間が長すぎた。
「ゲーテくん。お姉ちゃんの事、覚えてる」
「……はい、よく覚えております」
できることなら思い出したくない者の名を述べられ、ファウストは反射的に歯に力がこもる。
「三人で遊んだよね……お姉ちゃんは、ゲーテくんのこと本当の弟みたいに可愛がってた。生きてたら、もう一度くらい、会いたかったな」
懐古を抱き微笑みながら言うアルバに対し、ファウストに宿るのは憎しみのみだった。
――そうさ。あの人はいつだって、おれのことを愛してくれていた。
そう思っていたのに。あの女は自分の気持ちを裏切った。
――古い考えでは、世界に変革は訪れない。
あの日、彼女に吐き捨てられた言葉が脳裏によぎる。
信じていたのに、愛していたのに。
どうして、おれを裏切るような真似をした。
何故、宇宙を見捨てるような行為に走った。
あの女のことを考えるほど、募るのは憎しみばかりだ。
「……ミラ様は、生きていらっしゃいますよ。大戦の後、お会いしました」
ファウストの言葉に、彼女の双眸がみるみるうちに丸くなり、光が灯る。
「……嘘……」
「本当です――今、どこで何をしておられるのかは定かではありませんが」
あえて真相は伏せた。
実を言うとファウストも、確信を得たわけではない。しかしながら、あの時――地球軍との交戦中に感じた気配は、間違いなくあの女のものだ。
「会いたい……お姉ちゃんに会いたい……」
号哭を押し殺した声で切実な想いを吐露するアルバを、ファウストは優しく抱き寄せてやる。
強張る身体を力強く抱きしめ、ファウストは決意を固めた。
――この際だ。
あの女のことを利用してやる。
「会えますよ。アルバ様が、ご自身の使命を果たしてくれるのなら」
◇
「人形の調教はどうかね」
木星を発ったばかりの《プライムテラーズ》の母艦 ”ガニメデス”のブリッジに佇むアレックスは、背後に立つ人間に視線を送る。
「なかなか骨が折れる。俺ァ、ああいうのは向いてねぇよ。社長殿」
焦げ茶色の髪を一本の尾のように束ねた男――ジャックは八重歯を覗かせながら答える。
「フフ。そうでもないように思えるのは私だけかね」
その瞳に宿る狂気的までな自信を見透かしたアレックスは彼に歩み寄る。
「君は戦争が好きなのか?」
「戦争じゃねぇさ。俺が好きなのは奪うことだ。戦争はそれをやるための手段に過ぎねぇ」
「ほう、それは実に合理的な考えだ。君のような賢い人間は、これからの時代、生きていくことに然程苦労せんだろう」
アレックスは椅子に腰掛けながら、聡明さを漂わせる表情のまま淡々と意見を述べた。
鋭い三白眼がぎり、と細くなる。
「君に適した世を作ってやろう。私についてきてくれたまえよ」
「そうしてくれんなら、喜んで」
ジャックはそう言い残しブリッジを出る。
警戒はしていたが、彼はあの男が好きだった。世間一般で言う
あの男の理想とやらに興味は無いが、自分の理想の世界にはすこぶる興味がある。
枯れ果てることを知らぬプリミティブな欲求を満たす為には、今はこの男につくのが懸命な判断だった。
「お嬢ちゃん、いい加減働く気になったか?」
自身の部屋に置いた”人形”に、ジャックは嘲笑うように語りかけた。
ぼろぼろになった桃色の髪、一丁前に絶望したような表情を作る顔は、以前よりもやせこけて見えた。
「……ファウスト様……」
「俺ァもうお前さんを使うのは飽きちまったぜ。奪うものなんかありはしねぇ」
空っぽな人形に宿った一縷のモノ――尊厳さえも奪ってしまえば、それこそ、これはただの入れ物だ。
彼は快楽が欲しいわけではない。
ただひたすらに
「”エレムルス”はどうか?」
格納庫を訪れたアレックスは、プラグにつながれ、念入りなメンテナンスが行われているゲイズチェイサを見上げた。
その
頭部は二対の二本角のようなアンテナが施され、カメラセンサは四つも存在していた。
「アレックス様が設計された機体です。抜かりはありませんよ」
「メンテナンスは任せた。私も前線に出ることになるだろうからな」
「アレックス様が出陣なさらずに良いよう、我々も尽力いたします」
二人の整備員に敬礼され、アレックスはブリッジへと戻っていった。
◇
”アマクサ”修復の報告を受け、ウィザードはコックピット内で待機していた。
四肢を失ったのにも関わらず、ここまでの早さで修復できるのは”ハンドレッド”整備班の優秀さが伺えた。
(奴と同じ世界に転生とは、何の因果か)
ウィザードは鉄の天井を見上げながら、ため息を吐露する。
あの男に殺された同僚や先輩は数知れない。
人を殺すことを楽しむ極悪犯にも関わらず、彼には奇妙な人望があった。
彼を崇高する宗教団体がいつの間にかでき、彼に味方する女性も多かった。
ウィザードは――合旗勇気は、有明真純に肩入れする女性に、彼を逮捕し死刑にさせたことへの報復として刺殺させられた。
そんな男の、ある意味呪縛から解放されたと思っていた矢先に、こうなった。
あの反応を見るに本人で間違いない。
《ウィザード大尉? 大丈夫ですか?》
「……少尉か。どうした」
アスカの声がして、ウィザードは返事だけを口にする。
コックピットハッチを開けると、目を赤くしたアスカがそこに立っていた。
また、泣かせてしまったらしい。
自分はこの子を苦しめたくないのか、苦しめたいのか、わからなくなってきた。
「アスカ。すまなかった。君の気持ちを無下にするようなことをしてしまって」
「――そうじゃありません」
俯き気味になりながら、アスカはぽつ、と呟いた。
「いつもの大尉らしくなくて。心配なんです」
アスカの言葉に、ウィザードは思わず瞳孔を丸くする。
「ちょっと変だけど、こっちまで笑えてくるような人が、ボクの中での大尉です。でも今の大尉は……そうじゃない」
コックピットにまで小柄な身を乗り出しそうになりながら、アスカは問い詰めた。
――図星である。今の彼は、冷静さを欠いていた。
捨てたはずの過去の呪いと向き合う以外の手段を絶たれ、またしても
アスカの顔に曇りが滲んだ。
せっかく、より良い方向へ導くことができた彼女を悩ませることは、彼にとっても本望ではない。
だが今はそれと同等くらいに、ウィザードは切り捨てなければならぬ恐怖に足掻いている。
「心配をかけているようだな。心配するな。私は死なない」
「……失礼します」
彼女の双眸が一瞬、何かを訴えるように彼を捉えてから、アスカはそそくさと姿を消した。
ウィザードは彼女を追うようにコックピットを降りるも、すぐに見失ってしまう。
(らしくないな。私としたことが)
戦場という場で悩み、苦悩する
戦場では悩めば死ぬ。だが、人は悩まずにはいられない生き物だということを分からされる。
特段何もしていないのに、どっと疲れた彼を休む間もなくけたたましいアラートが襲った。
《敵襲あり! 総員、戦闘配置につけ! 繰り返す、敵襲あり! 総員、戦闘配置につけ!》
艦長の声に急かされるよう、ウィザードは”アマクサ”に搭乗するのだった。
◇
赤い光線が至る所で駆け抜けては、何かに直撃し、眩い球体を紺碧へと生み出す。
《プライムテラーズ》と《ラウンズ》の戦いは、激化していく一方であった。
宇宙という無法地帯で、奴らはゲイズチェイサを量産する方法を確立している。
地球人類といっても、全員が《ラウンズ》や結束連盟の味方ではないということだ。
”ペインレント”の中に、見慣れない機体がいくつか混ざっていた。
《敵の新型だ! 侮るな!》
アズチの警告で、ウィザードはその機体に目をやった。
いつしか”マサムネ”のパイロットが代わりに搭乗していた機体――”サーティペイン”。バイザータイプのセンサを持つ機体色は薄い青色に塗り直され、武装もシンプルな物に成り代わっている。
”サーティペイン”の相手を先陣を切り引き受けたのは、ウィザードだ。
引き抜かれたセイヴァーを”クロワノトキサダ”で受け止め、パワー勝ちし、その刃を弾き返す。
体勢を崩した隙を突き、スティングによる一斉照射で串刺しにした。
大したことはない。ただの
二機同時に襲い来る”サーティペイン”。
一機を蹴りによって退けつつ、片方の攻撃を目視で回避。
的確な射撃で一機を宇宙の藻屑へと変え、再び立ち向かってきた一機を、自らの光刃の餌食に変えた。
大量のクレナイ粒子が散り、ほのかにコックピット内の気温が上昇する。
《敵の増援、零時の方向! ミハイル大尉!》
《総員、発射直前で”メガ・クレナイカノン”の射線から退避せよ》
”サウザンド”の背で折り畳まれていた”メガ・クレナイカノン”が、ついに展開される。
覗く砲口と巨大なトリガー。”サウザンド”のクリムゾンリアクターと直結でエネルギー供給がされ、レギオンのOSで直感的な発射が可能となる代物だ。
《標準、敵ゲイズチェイサ部隊及び戦艦。発射五秒前――》
四、三、と刻一刻と刻まれていくカウントダウン。
早急に撤退しては敵に悟られる。なるべく自然に射線上を脱し、確実に命中させる必要がある。
カノンを構えた”サウザンド”。
宇宙の全てを飲み込んでしまいそうな巨大な砲口から、真紅のエネルギーが迸り始め、赤熱が激しさを増していく。
今にも溜め込まれたエネルギーが全放射されようとしたその時だった――。
何かを察した”サウザンド”が砲撃体勢を解除し、即座に回避行動をとった。
カノンを狙ったビームが、あらぬ方向から飛んでくる。そのきらめきは場にいた誰もを震撼させた。
「来たか、《モードレッド》……アーク連邦の亡霊ども」
ウィザードがそう呟き、凄まじい憎悪を感じる方向へと機体を向き直らせる。
隊列を成すは、紺色の装甲を持つ人型が腕を前方にして寝そべっている姿を彷彿とさせる戦闘機だった。
《《ゲイズスレイア》か……!?》
世間一般的には、あのような局地用の戦闘機をゲイズチェイサとは区別して《ゲイズスレイア》と呼ぶ。
だがあれは、”アストラル”のように飛行形態――GS形態へと変形する、まごうことなきゲイズチェイサなのだ。
紺色の機体が一斉にビームを発射し始める。
《ラウンズ》の機体を狙うように思われたが、それは《プライムテラーズ》の隊列の方へも放たれている。
戦場は第三陣営の登場により、一気に混乱の災禍へと誘われてしまった。
《こいつら、新手か!?》
《こんなことして……何になるってんだ!!》
アズチとアスカが焦燥に駆られる中、ミハイルの”サウザンド”だけは、冷静に対処しているように見えた。
「このプレッシャー……まさか」
懐かしさを覚えながらも、自らの神経がずぶずぶと押し潰されるような凄まじい圧力に、ミハイルは戸惑っていた。
そんな彼女の目に、一機のゲイズチェイサが映る。
青銅色の鎧を纏った騎士を思わせる風貌。
フルフェイスの兜を彷彿とさせる頭部から、一段と恐ろしさを増したモノアイが覗き、背部には骨組みだけのように見えるウィングユニットが取り付けられていた。
その機体――”ハルジオン”は、大型のハルバードを抜き取り、”サウザンド”目掛けて斬りかかってきた。
攻撃を防げば、光刃の放つクレナイ粒子が織りなす赤い光が、目と鼻先で狂ったような乱反射を織り成した。
頭に走る電流のような感覚。
そこで初めて、ミハイルはこの機体に乗る者の正体を察知する。
「ファウスト……!!」
「ミラ。まさかここで出会えるとはな」
”ハルジオン”を駆るファウストも、刃を交える
「この”ハルジオン”。貴様に、見くびる
脳裏によぎる記憶で、自らの憎悪に油を注いだ。
戦場で会ったが最後、訪れる決着はどちらかの死のみである。
混乱の一途をたどる戦場においても、”アストラル”と”アマクサ”は、被弾することなく戦闘を継続できていた。
”アストラル”が形態変化と同時に、紺色のゲイズチェイサを斬り落とす。
藻屑へと変わるその機体の爆炎を煙幕代わりに、”サーティペイン”が剣幕を仕掛けてきた。
四方八方が敵だらけで、息つく隙間すらも無かった。
《……! 大尉……! 何か、何か来ます!》
アスカの言葉に、ウィザードは最大限の警戒を張り巡らせる。
(〈アルカナ〉である彼女が警戒するだけの存在――そんなもの、
それは物語の結末を、この世界の行き着く先を知っているウィザードだからこそ得られる確信であった。
遠方から光速で接近してくる、白銀のゲイズチェイサがあった。
それは、これまでのゲイズチェイサとはあまりに違う異形な風貌。
肥大化した腕部を有する巨人を彷彿とさせる、四つのカメラセンサを鈍く光らせるその機体は、掌部のビームライフルを照射。
高火力の攻撃を辛うじて回避し、”アマクサ”と”アストラル”は臨戦態勢に入る。
《このうざったらしいプレッシャーは貴様だな、”アストラル”のパイロット》
この存在が、アスカ・カナタの極限にまで堕ちていた精神を深く、深く抉り取るのだ。
原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?
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その旨を良しとする!!(YES)
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私は辞退させてもらう。(NO)