ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。   作:聖成 家康

36 / 45
三十四話 ユミルの日

 

 "エレムルス"は躊躇なく〈ユミル〉内部へ侵入した。

 事前に知っていての行動なら、なおさら無謀だ。発射まで相当な間隔があるとはいえ、ここまで傲慢とは。

 

「お前に構っている暇はないッ!! あれを壊されるわけには……!!」

 

 ビームブーメランで"ハルジオン"を牽制。

 その隙に、ミハイルも内部へと侵入する。

 

《大尉、どうした。作戦区域から離れているぞ》

「敵に勘付かれた。〈ユミル〉が危ない」

《何……!? そんな奴が……!?》

 

 艦長も驚いている様子だ。

 それもそうだ。単騎で敵陣に乗り込む人間など早々いない。

 

 粒子コンデンサが腫瘍のように立ち並ぶ筒状の空間。

 "エレムルス"の四眼が睨みを効かせる。

 

《ほう、クレナイ粒子コンデンサ……なるほど、仕組みは"レーヴァテイン"と大方同じということだ》

 

 クレナイ粒子。それはまるで生き物かのような物資。

 フェーズ0から3まで存在し、0はせいぜい電波妨害くらいしか能がない。しかし高熱を有する3はこのような兵器の中に限るが、フェーズ0を熱を有する2へと変貌させる。

 

 この〈ユミル〉はその性質を活かした兵器だが――フェーズ3粒子を供給するコンデンサを破壊されると、その威力が限りなく落ちる。

 

 

 阻止しなければ、この戦争に勝つためには。

 

 

 "エレムルス"の巨大な爪に似たマニピュレータが、コンデンサを叩き潰す。

 フェーズ3粒子が弾け出て、不安定な粒子ゆえに無重力空間であれどすぐ消滅した。

 

 コンデンサは奥に進むほど増える。

 "エレムルス"はそれを察知し、奥に進んだはずだが――。

 

「消えた……?」

 

 セイヴァーを引き抜いた"サウザンド"。

 警戒する黄金の騎士の、頭上。コンデンサの影に身を隠す"エレムルス"の四眼が、不気味に光り輝いた。

 

 

《死にに来たかぁッ!!》

 

 

 強襲する"エレムルス"のビームクロー。"サウザンド"のセイヴァーがそれを受け止め、鮮やかな火花が舞い散る。

 

 ここでは下手にビームが使えない。フェーズ3を触発させ高エネルギーが蔓延すれば"サウザンド"も"エレムルス"もタダでは済まない。相手もそれは留意しているようだ。

 

 二機の攻防に、"ハルジオン"が乱入する。

 ハルバードによる力強い攻撃で、"サウザンド"は激しく吹き飛ばされた。

 

 コンデンサに激突する"サウザンド"。背部装甲が焼け焦げ、コックピットが赤く染まる。

 

《ここまでだな、ミラ》

《貴様のような〈アルカナ〉のなり損ないは、粛清される運命なのだ》

 

 半壊する"サウザンド"を、無傷な二機が見下ろす。

 煉獄の凶星も地に墜ちた。その確固たる証明である状況だった。

 

「〈アルカナ〉のなり損ない……ふふ……そうか。私は」

 

 あの子達(リアムやアルバ)のように、〈アルカナ〉の本質には至っていない。単に勘が鋭いだけの人殺しにすぎない。

 

 ――お姉ちゃんの、バカ!!

 

 妹の言葉が脳裏を過る。

 きっと、自分はもう存在価値がないのだろう。自分のやるべきことを見定めても、結局迷って、最後は男に振り回されて、朽ちていく。それが煉獄の凶星の末路。後世に語り継がれたら、きっと笑われる。

 

 

 ここで死んでも、きっと、何も変わらない。

 未来ある若者たちがいる。可能性の獣である〈アルカナ〉がいる。

 

 もう終わりにしよう。

 兄への復讐から始まった、この波乱の人生を。

 

 

 ――君は、絶対に迷ってはいけない。たとえ、振り切るものがどれほど大きかろうと。絶対にだ

 

 

 モニターに映る攻撃態勢に入った二機を視界に入れ、目を閉じようとした彼女の脳裏に、あの男の言葉が浮かぶ。

 

 

 

 振り下ろされるハルバード。

 しかし、そこに"サウザンド"の姿はなかった。

 

《何ッ!?》

 

 ファウストは驚愕する。

 残されていたのは潰れたコンデンサと――"サウザンド"の右腕。ビームライフルが握られたままの、トカゲの尻尾かのような身代わりか。

 

 しかし、二人は血相を変えた。

 

《まさかっ……!!》

《正気か!?》

 

 発射寸前で切り離されたビームライフル。上空に逃げた"サウザンド"のバルカンが、その銃身を切り裂いて、中に溜め込まれた粒子を破裂させた。

 

 ポップコーンのように弾け散る粒子。

 コンデンサへ誘爆するのを厭わないその攻撃は、二機を怖気づかせるのには十分であった。

 

 

 頭が軽い。

 目の前の状況が、手に取るように分かる。

 

「まだだ、まだ終わらんよ!!」

 

 そうだ、まだ終わるわけにはいかない。

 あの男に演説させる――あれだけ馬鹿なことを言い出して人にまで頼んできたのだ。何がなんでも遂行させてやる。

 

 そのためには――。

 

「貴様達が、邪魔だ!!」

 

 ビームブーメランを放ち、スラスターを全力で吹かす。

 

 ブーメランと本体、双方が敵機を翻弄するよう駆動。

 敵がそれに慣れてきた時を見計らい、もう一基のブーメランを投げる。

 

 二対の円月を追えば良いのか、手負いの本体を追えばいいのか。度重なる意表返しに、二人は一瞬の迷いを見せる。

 だが、たとえ一瞬であれ、彼女は取り逃がしはしなかった。

 

《っ……スティング!!》

 

 やはり遠隔兵装に頼る"ハルジオン"。奴は射出直後、どうしても隙が生まれる。

 その隙を突き、"サウザンド"は青銅の騎士に突撃。満身創痍の機体であれ、鉄塊であることに変わりはない。"ハルジオン"は激しく吹き飛び、スティングの命中精度が低下した。

 

 刹那、"エレムルス"が追撃に入る。

 ビームセイヴァーを引き抜き、"サウザンド"の背後を取るも――。

 

 駆け巡っていた紅の円月が、"エレムルス"のマニピュレータを二本切り落とす。

 セイヴァーを手放した"エレムルス"はツインアイを光らせる黄金の狂戦士を目の当たりにする。

 

「おのれっ……!」

「遅いっ!!」

 

 スラスターから得た推進力を脚部に乗せ、渾身の蹴りを"エレムルス"の腹部に叩き込んだ。

 激しく吹き飛ばされた異形のゲイズチェイサは、数秒前に見た光景と同じように、コンデンサに激突し力無く倒れ伏せた。

 

「っ……!! もうだめか……」

 

 コックピットに警報が鳴る。

 "サウザンド"の関節系から煙が噴き出て、電気系が火花を吐き出している。

 十分だ。

 ミラは二機が少しでも動けない間に、逃亡を図る。

 三重構造になっている〈ユミル〉内。重厚なハッチを開き、居住スペースへ移動する。〈ユミル〉が使用されても、Oガイアの三重構造により、居住スペースには一切の害が

ないようになっている。

 

 

《ミラ……そうまでして俺を拒むか……!》

 

 

 軋みを上げながら立ち上がる"ハルジオン"は、そのモノアイに、暗闇へと消えてゆく黄金を見据えた。

 すかさずスラスターを吹かし、慎重にその後を追うのだった。

 

 

《おのれぇ……!! この私を、貴様のような出来損ないが愚弄するかァッ!!》

 

 

 プライドに傷がつき、激昂するアレックス。理性を失い、本来の目的を忘れて黄金のゲイズチェイサを追跡する。

 

 

 

 ◇

 

 

 "サウザンド"を放置し、なけなしで光学迷彩を施す。

 別働隊に拾ってもらうか、それとも作戦終了までここで鳴りを潜ませるか。あの二人が自分をどうするか、ミハイルにとっては未知数のため、頭を悩ませる要因になっていた。

 

 居住スペースは資源採掘基地が主要なために、限りなく狭い。作業員の住宅と、多少の娯楽施設が立ち並ぶ程度だ。

 ミハイルは拳銃を引き抜き、万が一に備える。この〈ユミル〉内に、不確定要素が潜んでいる可能性だって否定できないのだ。

 

 ミハイルはヘルメットを外し、久々の酸素を体いっぱいに吸い込む。

 ここ最近、パイロットスーツからの酸素供給ばかりで気が滅入っていた。

 

 なんだか、開放された気分だ。

 今なら何だってやれる。そんな気がする。

 

 彼女が隠れ蓑にしようとしたのは、大きな劇場だった。ここなら薄暗く、姿を隠すのにはうってつけ――だが、あの二人に限っては、どこに逃げようと執拗に追ってこられるのである。かくれんぼを楽しめないのは、〈アルカナ〉ゆえの宿命だ。

 

 劇場のステージに立ったミハイル。気分はすっかりお姫様か何かだ。

 そんな彼女の目の前を、弾丸が突き抜けた。

 

「銃を降ろせ、ミラ」

 

 観客席から姿を現したファウストが、鬼のような形相で拳銃を向けている。次は多分、外してもらえないのが直感でも分かる。

 

「お前に命令される筋合いはない」

「貴女はいつから……いや。貴女は最初からそうか。傲慢で気の強い、面倒臭い女だ」

 

 二人がそう話していると、ミハイルの肩を弾丸が撃ち抜いた。

 粒になる血しぶきを見て、ファウストは目を丸くする。

 

 観客席の入り口に立つのは、スーツ姿のアレックス。額に汗を滲ませ、憎悪で顔を歪めていた。

 

「ミラ•フォル•ヴァルーツ……!! この私をコケにしたことを、あの世で悔いろ!!」

「待てアレックス。この女は殺させない」

「黙れェッ!! この女は殺したほうが世のためだ!!」

 

 醜いプライドに溢れた声音が響く劇場内。

 続けて銃弾が放たれるも、彼女の頬を掠めるに終わる。

 

 粒になる血液を横目に、ミハイルは不敵に微笑む。前髪をかきあげながら、挑発するように片目を閉じた。

 

「ここを狙ってみろ。あぁ、無理か。ゲイズチェイサに乗らなければ何もできない男だからな。みっともない」

 

 その言葉を受け、アレックスは一心不乱に銃を乱射した。ファウストはその状況に、思わず客席に身を隠す。

 アレックスの弾は一つも当たらず、逆に彼女の銃弾を肩に受けた。アレックスは慌てて客席の陰にその身を預る。

 

「っ! ミハイル大尉!」

 

 ーーアスカの声がした。

 

「アスカ•カナタ……!! ミラを誑かしたのは貴様か!!」

「……?」

 

 見知らぬ人から身に覚えのない罪を着せられ、首を傾げるアスカ。

 A区域にいる彼女がここまで到達できるということはーーあの男も、すでにこのコロニー内にいる。

 

 しばらく静寂が訪れる……が、その平穏はすぐに崩された。

 

 唐突に劇場のスピーカーが吐き出すのは、和風なテイストのBGM。事情を知らぬ者は困惑、事情を知る者も困惑する中、からくりが動く音が響き渡る。

 

 劇場の中央が勢い良く開き、中から上昇式の床が現れる。

 

 

「お楽しみのところ失礼する。〈アルカナ〉の諸君」

 

 

 その床には仮面の男ーーウィザードが仁王立ちしていた。

 ファウストとアレックスは拳銃の存在も忘れ、その光景に唖然とする。

 

 吹き出しそうになるアスカの隣、ミハイルは無の表情を貫き通していた。

 

「貴様だな……このうざったい気配は!!」

 

 ファウストが頭を抱えながら彼に拳銃を向ける。

 彼は一切動じず、ある一点だけを見つめていた。

 

 アレックス•ノーベル。ただ一人を。

 

「……アスカ、ミハイル。君たちに見せよう。この仮面が、なんのために存在しているのか」

 

 彼の指が、初めて自ら仮面に触れる。

 その端を掴み、勢い良く無重力に投げ捨てた。

 

 

「あなたと決別するためですよ、()()

 

 

 投げ捨てられた仮面は、静けさの中をただ漂うのみだった。

 

「兄上って……」

「……ダイア•ノーベル。やはり……」

 

 ミスター•ウィザード。そのふざけた名前は偽名に過ぎない。

 本来の彼がこの世界で名乗るべき名前は、ダイア•ノーベル。ノーベル•ダイナミクスの社長候補である人間であったのだ。

 

 ミハイルやアスカは、流石といったところか、顔を見ただけで正体を予測出来ていたらしい。

 ノーベル家は代々、アレックスのように社長の座を継ぐのが常識ーーしかしダイアは社長の器量に向いていなかったようだ。結果、地球連盟軍人として戦場では戦果を上げた……とはいえアニメ本編では、おそらくモブだ。名前すら出てこない。

 

 暫くして、アレックスの笑い声が劇場に木霊する。

 

「誰かと思えば、出来損ないの弟か。会社を背負う覚悟もない、戦うことしかできない能無しめが」

「会社? 貴方の会社はもはや存在しないも同然だ。古い考えで、あの会社は滅んだのですよ」

 

 話し方が明らかに変わった彼を見て、事情を知る二人はこう思う。

 

 

(まともに話せたんだ)

 

 

 もはやスポットライトはウィザードを一斉照射しているに等しい。誰もが傍らに立つ二人のことなど気にしてはいない。

 

「生意気を言うようになったなーーここで、死ねっ!!」

 

 血相を変えるアレックスは、拳銃を持つ手に力が入る。

 しかし、その直後、建物が激しく揺れた。

 

 地球の地震を思わせる激しい横揺れ。

 ミハイルはアスカを庇うようにしながら、ウィザードに目配せする。

 

 ーー分かっている。

 

 と言わんばかりに、ウィザードは微笑む。

 コロニー内に鳴り響く警告。それは、〈ユミル〉が作動した何よりの証明だ。

 

「フフフ……ハハ!! 勝ったつもりか、旧世代の凡人ども!!」

 

 皆が逃げる最中、アレックスだけは高笑いを上げる。終始高みから発言する彼だが、此度はそれが際立っていた。

 

「あれを発射すれば勝てると? 馬鹿げたことを言う。我々は滅びん。この世に動乱を無くそうという、愚かなる意志がある限りな」

「負けるのは貴方だ。兄上」

「戯言を」

 

 

 瓦礫が彼らを阻むかのように落下してくる。劇場に崩落の兆候が見られた。

 ウィザードは銃をしまう。兄であるアレックスは、彼がまるで予見していたかのように、同じく銃を納め、劇場から姿を消した。

 

 

 原作と同じなら、〈ユミル〉が発射されてもこの戦いは終わらない。

 

 だから、自分が変える。ゲイズチェイサに乗って争いにより変えるでも、仮面の道化を演じてコソコソと変えるのでもない。この仮面に誓い、自らの意思で、自らの意思で、この世界を変える。彼の決意は揺るぎのない、まっすぐとしたものだった。もうこの身がどうなろうと関係ない。

 

 まさに反逆。

 歪んだ世界への、真っ向からの反逆だ。

 

 

「そうさ。私こそが〈レギオン〉だ」

 

 

 彼のきり、とした瞳を歪な仮面が再び覆い隠す。

 道化を演じる顔を見られるのは、やはり、未だに慣れないものである。

 

 

 

 ◇

 

 

 

《〈ユミル〉発射まで、残り四十%。エネルギー充填率、やや足りません。コンデンサに障害がある模様》

《構わん、取りこぼしは大尉に責任を取らせる》

 

 

 似たような会話が繰り返され、〈ユミル〉に紅蓮が灯る。

 煮え滾る紅蓮は、事情を知らぬ者が見れば真なる太陽かのような魅惑的な輝きを孕んでいた。

 

 地球に放たれれば、軽々一つの国を潰せる兵器。

 それが今、人間に向けて放たれようとしている。

 

 そんな恐ろしいことが、この世にあるだろうか?

 例えるなら、工業機器に人間をぶち込むような行為だ。

 殺すために、戦争に勝つために、破壊兵器を人に向けて撃とうとしている。

 

 〈ラウンズ〉の者達は皆、薄々感じていた。

 これが本当に正義なのか、正しいことなのか。

 

 そんな思いとは裏腹に、〈ユミル〉のエネルギー充填は臨界点に到達。

 煉獄の輝きが、紺碧の中域を鮮やかに彩っていた。

 

 

 だが、その輝きが見られたのは〈ユミル〉だけではない。

 

 敵艦隊の前線に出てきた五隻の船。

 それは大型の砲台を携えたーーコロニーを落とそうとした戦艦だった。

 

 三機のゲイズチェイサからのエネルギー供給を受け、臨界点に到達しかけているその砲台からも、鮮やかな煉獄が煌々と照らしていた。

 

 

《撃て》

 

 

 

 静寂。

 

 

 刹那ーー血染めのように、真紅に染まる宇宙(そら)

 鮮血の大河が、〈ユミル〉の砲口から吐き出される。

 

 対して、その射線上からも血の大流は生み出された。

 五対の赤き大流は、荒々しく流れ、大河とぶつかり合う。

 

 激突するエネルギーの塊。

 血飛沫を散らすような刹那の拮抗の後、激突地点で凄まじい鮮血の爆炎が発生。

 ゲイズチェイサや戦艦を巻き込みながら、宙域のど真ん中に新たなる太陽を生み出して、エネルギーは失われていった。

 

 

 敵艦隊は四分の一が消失。正直、あれだけの苦労の末の成果とはとても思えない。

 

 

 〈ラウンズ〉には、絶望の大気が流れ込んでいた。

 

 

 

 そんな中、その宙域ーー否、全世界にむけて一斉通信が始まった。

 

 

「なんだ……?」

 

 

 誰しもが、サブモニターに目を向ける。

 そこにいたのは、劇場でスポットライトに照らされた仮面の道化師であった。

 

 

《諸君。まずは、はじめましてという言葉を謹んで送らせてもらおう。私は人類地球連盟の独立武装組織〈ラウンズ〉の一人、ウィザードと言う者である》

 

 

 流れてくるのは、演説。気味の悪い言葉遣いの、意図の分からぬ演説。

 だが彼の佇まいは、普段そんなことを言っている時よりも明らかに輝いて見えた。

 

 

《ーー〈ラウンズ〉。そう、諸君らは初めて耳にするだろう。私は此度、地球、宇宙の君達にその組織の存在を明かしに来た。世界では君達の知らぬ地で、知らぬ血が流れ、知らぬ憎しみの連鎖が起こっている。我々はそれを、この平和な世で武力をもって制圧する組織である》

 

 

 ウィザードは包み隠さず、世界に向けて言い放つ。

 新たな動乱が始まる。何も聞かされていないものは、絶望に絶望を上塗りされた。

 宇宙を悪役に仕立て、地球を味方につける。その策略が丸見えだったからだ。

 

 だが、彼は違った。

 

 

《その前に、私の正体を明かそう。私はダイア•ノーベル。死の商人 ノーベルの息子であるーーそう、私の背には父の掌で散っていった者達の憎悪と悲哀が背負われている》

 

 

 彼は仮面を取った。

 その仮面の下には、ふざけた言動が嘘かのような硝子細工のような顔が隠れていた。

 

 彼は仮面を再びつける。なんの意味があったのか、おそらく見ている誰も理解していないだろう。

 

 

《諸君!! 目を覚まそう!! と、心の底から言わせてもらう!! 私は〈ラウンズ〉で、数多の戦いを見てきた。戦いというのは千差万別。自らの血筋のプライドのため、自らの才能の保身のため、戦争に勝つためーーそして、平和を心から祈り、あえて武器を取る者すらいた》

 

 

 彼の口から人物の影が吐露される。

 心当たりがある者も、ない者も、誰しも彼に不覚にも魅入られていた。

 

 

《我々が戦うべきはなんだ!! 地球を食い物にする地球の人間か? 超越者気取りの宇宙の人間か? いいや違う。それはーーーーーーーー誰にとっても同じとは限らない》

 

 

 かなりの間があった。完全にコントの間ではないか。

 そう突っ込むものが、地球や宇宙のどこかにいなかったとは否定できない。同時に突っ込んだ者すらいただろう。

 

 

《そう。我々がやるべきは、敵を見ることではない。己と戦うことだ。手を取り合う……それができたら、〈ラウンズ〉というものは生まれていないーー諸君!! 君たちが戦うべき、それは己自身だ!! 己を乗り越えたものだけが、等しく、誰かと対等に戦う権利がある!!》

 

 

 彼を言い切ってから、悪役のごとく不敵な笑みを浮かべた。

 

 

《抱きしめたいな!! 人類よ!! なんと愚かで、なんと美しい!! まさに眠り姫だ!!》

 

 

 彼の言葉がスピーカーを唸らせた。

 これが全世界にと考えると、少し寒気がする。

 

 

 

「……ほんと、坊やね」

 

 

 ミハイルは赤き粒子の残留が漂う宙域を見据えながら、かつての光景に思いを馳せる。

 どんなものを見せるかと思えば、ろくでもない理想論を語るだけの、いつものあの男だった。

 

 だが、あの男に変えられたのも事実。

 あの男が自分を縛るものを取っ払って、自由にしてくれたーーような気がする。

 

 

 あの男なら、と余計な希望も抱いてみる。

 

 

 その仮面の下に、何を秘めているのか。

 誰にも推し量ることは不可能なのかもしれない。

 

原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?

  • その旨を良しとする!!(YES)
  • 私は辞退させてもらう。(NO)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。