ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。   作:聖成 家康

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三十七話 堪忍袋の尾が切れた!!

 

「ダイア。顔色が悪いけど」

 

 当然のように捨てた名を使ってくるミハイルの声がなければ、きっと彼は今も上の空であっただろう。

 

「勝手にそう呼ぶ……迷惑千万だ、ミラ」

「あら、私はべつに迷惑だなんて思わないけれど」

 

 蠱惑的に微笑みかけてくるミハイルに、ウィザードは少しばかり安らぎを得られた。

 そして今一度、彼を睨むように屹立する"ロインアストラル"の姿を見上げる。これに乗るアスカは、どれだけ酷い有様であったか。

 

「試運転はできないんですか?」

「シミュレーションなら可能だが」

「お願いします」

 

 アスカがそんなこと知る筈もなく、パイロットらしい行動を遂行する。

 そう……彼女は、自分が精神を崩壊させるほど追い詰められ、最終的には廃人同然になる世界を知らない。だから、ウィザードのように恐れることはない。

 もしも、仮にもしも、あの少女の言うことが嘘偽りのない本当の事ならば、アスカはここから、原作通りの結末になってしまう。

 引き金となるのは、やはりアズチの死……いいや、わからない。ここまで道筋が変わってしまえば、他の要因も増えてくるかもしれない。もしかしたら、とっくの前に変えるべき変数を見逃しているかもしれない。

 

「ウィザード大尉」

 

 アスカの声がして、彼は現実に引き戻された。

 

「模擬戦の相手、お願いできますか?」

 

 誠実そうな声音と柔らかな微笑み。砕ける前の硝子は、必然的にこんな輝きと温もりを孕んでいるのだろうと、ウィザードは肌身で感じる。

 

「分かった。相手になろう」

 

 ――迷いがある。

 声の震えと、張りのなさ。隣に居たミハイルが、一番それを分かっていただろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 模擬戦シミュレーション――各々の機体を仮想空間で再現し、実戦と同等の戦闘を体験できるシステムだ。

 

 ヘッドギアを被り、コックピットハッチを閉じれば、外に広がる格納庫の景色が一瞬のうちに果てしない宇宙へと塗り替えられた。

 

 仮想空間で操縦桿を握り、ウィザードは遠くに投影される"ロインアストラル"を目に入れる。

 

 "ロインアストラル"。まるで血涙を流す龍かのような見た目のその機体は、ルックスから人気は高いものの、ファンからのイメージはあまり快くない。むしろ悪い。

 アスカが自分を見失い、暴走するように戦争に身を投じ、もっと大切なものを失っていく様を描いていたときに、その機体は活躍してしまった。

 

 

 彼の脳裏に、かつて液晶越しに見た光景が浮かび上がる。

 

 

 

 ――

 

 

「貴女に何が分かる、ミラ•フォル•ヴァルーツ……!! みんな死んだ……!! 平和な世界のはずなのに……!! 戦争のせいでっ……!!」

 

 

 ミハイルの胸ぐらに掴みかかり、虚ろな瞳を怒りに歪める。

 サングラス越しの赤い瞳に一縷の涙と迷いが滲む。

 

 彼女の息遣い、歯の軋む音、その全てに怒りが宿る。まるで何かを覆い隠すように。

 

 

「ボクは、ボクは貴女が!! 答えを見つけるまで戦い続けろというから戦った!! なのに、今は戦うななんてどういうつもりなんだっ!! ボクはまだ、まだ何も見つけていないじゃないかぁっ!!」

 

 

 拳銃を引き抜きそうになるアスカ。唇を噛んだまま、子供相手に何も言い返せないミハイル。

 

 そんな中でも戦争は起こる。宇宙でまた一人、仲間が死んでいく。

 

 

 ――

 

 

《余所見してる場合ですか!!》

 

 赤く走る閃光。"ロインアストラル"のビームセイヴァーが、目前にまで迫っていた。

 こちらも間一髪で獲物を引き抜き、なんとか応戦する。

 鋭い光を帯びた"ロインアストラル"のおぞましい眼が彼を凝視する。

 

 "アマクサ"の軋む関節に構わず、スラスターの出力を上げる。

 すると、相手も負けじと出力を上昇。

 背部のウィングユニットから放出される煉獄の粒子が、蒼炎と混ざり、凄まじい推進力を"ロインアストラル"に与えた。

 

 なんとか弾き返すも、もはや残像が見えるほどの高速機動に翻弄され、防戦一方に追い込まれてしまう。

 あれだけの量のクレナイ粒子と、ウィングユニットに組み込まれたクレナイ粒子由来の撹乱粒子を組み合わせれば、分身とも言える残像を生み出すことができる。

 

 死角から放たれる、"ロインアストラル"の両肩部ビーム砲。凄まじい出力を誇り、かすっただけでも致命傷になりうるそれを寸前で回避し、奥手を早くも解放する。

 

 

「ゆけ、スティング!!」

 

 

 蜘蛛の子を散らすよう放たれたスティング。

 "アストラル"を包囲する赤糸の網。されどそれは、寸前の所で掠めることすらせず、彼女の機動性に逆に翻弄される形となる。

 

(まさか、これほどとはっ……!)

 

 "ロインアストラル"の機動性、そして瞬間的火力はあまりにも想定外だった。画面越しでは分からない気迫が、それを後押ししている。

 

《そういえば、大尉と戦うのは初めてですねっ! 何度も訓練してるのに!》

「そうだな。ようやく君も、私の頂に踏み入れる権利を得たということだ」

《なら――早速超えてみせます!!》

 

 腰部に納めた剣を引き抜く"アストラル"。

 その対となる剣の柄を合体させ、巨大なハルバードを完成させた。

 

 機体の背丈を優に超えるそれのビーム刃を展開し、"アストラル"は突撃する。

 雄々しくも、どこか恐怖すら感じるその様に、再びかつての情景が重なった。

 

 

――

 

 

 返り血を浴びるかの如く、ハルバードを振るいゲイズチェイサをなぎ倒す。

 爆ぜる爆炎は飛沫となり、"ロインアストラル"の鉄肌を荒々しく撫でる。

 

 それでも向かってくる敵ゲイズチェイサ。

 戦争は終わらない。その理由は分からない。

 汚い奴らが利権を求めるから? 人が人を憎むから? それとも、自分のような戦う力を持つ者がいるから?

 

 頭を支配する鬱憤を発散するかのように、アスカは叫びながら機体を繰る。

 関節の軋む音が、悲鳴のように響き渡る。

 

 ハルバードを分離。双剣を双方向から挟み撃ちにするゲイズチェイサの胸元に突き刺し仕留める。

 そのまま背後から奇襲する一機に回し蹴りを仕掛けて、振り向きざまにビーム砲で焼き払った。

 

「なんで……なんでそうも簡単に人を殺せるんだっ!! 死んでしまえっ!!」

 

 明らかな矛盾を孕んだ自らの言葉に、もはや気に掛けるだけの余力は残っていない。

 倒しても倒しても湧いてくる敵を見据え、アスカの視界は次第に、"アストラル"の光学センサから通して見える戦場しか映さなくなった。

 

 

 

 ――

 

 

   

 ハルバードによる追撃――ではなく、寸前で双剣へと分離し、凄まじい連撃を仕掛けてくる。

 連撃といえど、一撃一撃の威力は半端ではない。スラスターのもたらす推力、ゲイズチェイサそのもののパワーが剣戟に破壊力を帯びさせていた。

 

 "アマクサ"の武器一本では抑えきれない。

 自らの機体の損壊も厭わず、スティングによる奇襲を仕掛けた。

 

 しかし、ビーム照射前に回避。

 スティングが二つ、切り払われて沈んでいく。

 爆炎に紛れ、今度はハルバード形態による斬撃が彼を襲った。

 

「ぐっ……!?」

 

 揺れるコックピット。システムの中とはいえ、かなり心身ともに響くものだった。

 

「強くなったな、アスカ!」

《当たり前ですっ! もう、ほんの少し前のボクとは違いますよっ!》

「良き剣戟だ。交えた数を必ず覚えておく!」

 

 スラスターの逆噴射。蒼炎が二機を焼いた。

 もっとも、一番弊害の大きいのは"アマクサ"であるが、意表をついて彼女の間合いからの脱出に成功。

 

 残ったスティングとライフル、バルカンを一斉照射しながらその場を離脱。

 当然、がむしゃらにばら撒いた弾幕は彼女に通用するはずもなく、弾道が鮮やかな赤い残像を貫いて虚しく溶けてゆく。

 

「ならば、強くなった君に聞こう! 君は、その力で()()()()()?!」

《もう、誰も彼も二つや三つに分かれなくていい世界を作りたい! 戦争のない世界にしたい! ボクはそのために戦うっ!》

 

 あの時と同じ質問、そして同じ回答。

 彼女の望み、それはすなわち分断のない世界。

 かつて自らが女性であることに嫌悪を覚え、そのために失ってきたものがある彼女の望みとしては、これ以外にないと言える。

 

 

《大尉こそ、なんのために戦ってるんですか!?》

 

 

 ウィザードの息が詰まる。

 

 唯一、あの時と違うこと。彼女からの問いかけ。

 今まで自らを奮い立たせるべく口にしたことはあっても、誰かに向かって戦う意義を伝えたことはなかった。

 

 なぜ、戦うのか。

 

「軍人に戦う意味を問うとは、ナンセンスだな!!」

《こればっかりははぐらかさせません! ボクは大尉に言われて見つけたんです! 大尉のを聞くまで、この戦いは終わりませんよ!》

 

 完全に戦局の主導権を握る彼女が強気にそう言い放つ。

 軍人に戦う理由を問う――極めてナンセンス。だが、彼にとっては軍人としてではなく、一人の人間として、すべての結末を知るものとしての意味はある。

 それを、誰かに言ったことはない。

 尤も、自分ですらあまりはっきりしていなかった。

 結末を変える――とはよく言ったものだが、その結末すら、今この時に元通りになろうとしているのだ。

 

 "アストラル"が目前に迫る。

 ビームセイヴァーで応戦するも、ハルバード相手では鍔迫り合いの分が悪かった。

 赤く眩い粒子の幻影が網膜を突き刺し、彼の焦燥感を煽った。

 

 何を口にすべきだ。今まで、必死に護ってきた少女に向かって、正直にそれを伝えるべきなのか? いいや、それが正しい選択とは思えない。

 本来ならとっくに満身創痍の彼女がここまで立ち直れたのは、彼女自身の精神力あってこそだ。ウィザードはあくまで手助けをしたに過ぎない。

 かと言って、曖昧な答えを出すわけにもいかない。今、目的を失いかけている彼にとって、戦場では迷いとなる。

 

 私は――。

 

 振りかざした拳の影が、プラスチックケースに覆われたボタンに被る。

 

 今更――彼女の結末が歪んでなるものか。

 結末は変わらない。そうだ。そのとおりかもしれない。

 

 なら、転生者として、すべての結末を知るものとして、最後まで抗い続けるほかあるまい。迷っている暇などあるはずがない。

 

 

「――世界の歪みが正されるまで、私は抗い続ける!! それが私の答えだ、少年んんんんんっ!!」

 

 

 プラスチックケースが砕け散り、無重力に流される。

 モニターを覆う自爆までのカウントダウンが――あっという間にゼロとなる。

 

 

 視界が爆炎に包まれ、気が狂いそうになるほどの熱が体を包み込んだ瞬間、現実世界に引き戻された。

 

 

「む?」

 

 

 現実の冷えた空気が頬を撫で、彼はしばらく硬直した。

 三話から続けてきたお決まりと違くない?

 

 コックピットから出ると、身につけていた仮面が吹っ飛ぶ勢いで、アスカに殴られた。

 

 

「ふざけるなぁぁっ! あんな戦い、ボクは認めないぞっ! もう一回! もう一回ですっ!」

「いや、アスカ、話を聞け。私は何も自爆しよう(未来への水先案内人になろう)としたわけでは」

「言い訳無用だっ!!」

 

 子供のように訴えかけてくるアスカは目に涙を浮かべていた。勝負が気に食わないだけではなく、きっと、大切な人が目の前で爆散したショックもあるのだろう。申し訳ないことをしてしまった。

 だから、迷ってはいられないということだ。

 

 

(それにしても……)

 

 

 ウィザードは仮面をつけながら考えに耽る。

 システムの世界とはいえ、《フォースレヴシステム》はゲイズチェイサの中に普遍的に存在するブラックボックス。そのまま機体を仮想空間に転送すれば、()()()()()()()()()()()――《アルカナ》(仮)のウィザードならば発動できるはずだが。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「アリア、イガク。ようやく君たちにも出番を与えられる」

 

 

 デブリ帯に逃げ込んだ"ネオ•アーク"の艦内。格納庫に座り込んでいた《スピーラー》の二人に、ファウストは優しく微笑みかけた。

 マーチには申し訳ないことをしたと、彼の心には依然として傷が残っていた。()()()()()使()()()()()()()とするような彼の心にも、それなりの良心は残っているのだ。

 

 《モードレッド》はかつてない好機を掴もうとしている。

 地球同士でいがみ合う奴らは、今や双方消耗している。

 減りに減った戦力も、残りのクローンを放出すればなんとか補えるし、機体ならまだいくらでも引っ張ってこれる。指揮官が戦場に出なくてはならぬ状況には変わりないが。

 

「ファウスト様、アタシたちは最期まで貴方に仕えます。共に戦えなかったあの子の分も」

「与えてくれた新兵器、必ずや使いこなしてみせます」

 

 アリアとイガクは、アーク連邦でよく用いられていた胸に手を添えるジェスチャーで応じた。それは単なる敬礼よりも意味の深いものだ。

 

「ありがとう」

 

 鉄の男にから一縷の笑みが綻ぶ。

 そして、踵を返した彼の顔にはすぐに冷徹さが蘇る。

 

 ミラ――ふとした時に思い浮かぶのは彼女のことばかりだ。あれだけ説得しても、戻ってきてくれない。そもそも、彼女が地球側につく理由なんてないのに。

 アルバも失った今、彼らアーク連邦の残党に残されている選択肢は()()()()のみだ。

 

 

「ブリッジに継ぐ。経路変更だ。行き先は――《アークデブリ戦域》。同胞たちの墓に、勝利を手向けにゆく」

 

 

 

原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?

  • その旨を良しとする!!(YES)
  • 私は辞退させてもらう。(NO)
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