ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。   作:聖成 家康

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三十八話 愛を超越すれば、それは憎しみとなる

 

 アレックスは高笑いを響かせる。

 先の戦闘の戦果――あれだけの艦隊を相手に生き延びてみせたことにもそうだが、格納庫に納められた巨大な鉄塊の軍勢を見て、その圧巻さに思わず笑いが漏れたのだ。

 

 五機。五機の"ティターン•レギオン"が格納庫に屹立している。わざわざ格納チェンバーを増設し、専用の巨大ハンガーを用意した。

 地球でノーベル社の協力者たちに密かに造らせておいたものが、半年の期間をかけてようやく完成した。《ラウンズ》などという邪魔者がいなければ、この倍は造れていたであろうが。

 

「私の設計に狂いはなかったということだ。この機体の量産は問題ない――そうさ。この世界を正した暁には、"ティターン"系列の機体が覇権を握る……」

 

 一人高揚感に浸るアレックスの傍らで、啜り泣く存在がいた。

 タンパク質の塊――スピーラーという生体CPU。好き勝手して死んでいったあの男が拾ってきた、宇宙人類どもの作り上げたものは、皮肉にもどれも高性能だが、壊れてしまっては意味がない。

 そのスピーラーは、ひたすら震えて泣くばかり。死にかけの子鹿と差異はないではないか。

 

「貴様、生体CPUらしく私に従え」

「はっ、はいぃ……! 従う、従います……!」

 

 弱々しく鳴いたCPUに、アレックスはさらなる怒りを募らせる。

 勝利が目前にまで迫ってきているのだ。ここまで来るのに長かった。一度しくじりはしたが、ここまできて失敗は許されない。

 だからこそ、彼からすれば不穏分子は苛立ちの要因となってしまうのだ。

 

 "ティターン"はクローンや生体CPUにしか扱いようがない。乗せようと思えば乗せられるが……膨大な情報の処理で壊れて、機体そのものがお釈迦になるだけである。

 アーク連邦の置土産であるクローン技術は完全には使いこなしているが、大量生産には時間を要する。一度に大量消費すれば供給が間に合わなくなってしまう。

 少しでも空きを埋めるには、せっかく手に入れた生体CPUを調達する他ないが……この様子では、乗せるかどうか悩む。最悪薬を使えばいい。

 

 あるものは、すべて利用しなければ。

 人類がたどり着くべき理想の世界には、到底近づけはしないのだから。

 

「兵士はどうなっている」

「はっ。漏れはありません」

 

 数少ない技術者に確認を取る。

 不安になって自らの目で確認しに行く。格納庫の余ったチャンバーに設けられた、クローンの生産所。

 左右に並べられた培養ポッドの中に、まるで母親の子宮かと勘違いしているのか、空色の髪を靡かせる少女たちが背中を丸めて眠る。

 

 アルバ•クローン。ヴァルーツの第七皇女 アルバ•ドル•ヴァルーツの複製体を生成する技術。

 最初期のクローン体通称「プライム」から始まり、一○八体までは精巧な複製体が作られていたらしいが、前大戦で「プライム」が死亡したことを皮切りに、素体はその他のクローンとなり、その後のクローン体は劣化傾向にある。促進薬を使ってもアルバ本人よりも年齢の低い肉体、知能になり、酷い場合は(もっともここ最近はずっと)身体の形成が未発達であったりする。

 それでも無理矢理機体に乗せれば、ゲイズチェイサの操縦技術は遺伝子に刻まれているため戦力になる。

 

「生産を絶やすなよ」

「はい」

 

 アレックスは踵を返してブリッジに戻る。

 指揮官が戦闘に出なければならない戦場だ。完全無欠の彼といえど、休息は必然である。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 アークデブリ戦域に向かう最中、"ハンドレッド"は孤立してしまった。

 してしまった、という表現は似つかわしくない。艦隊が通る前の偵察代わりに使われた、という表現が正しいだろうか。"ハンドレッド"が先行し、もし待ち伏せされていればある程度処理してから艦隊を呼ぶ。道半ばで戦力を消費するわけにはいかないが、"ハンドレッド"のクルーたちからすれば納得がいかない。

 

 ――わけでもないようだ。

 

 この船には煉獄の凶星(まだバレてないらしい)、連盟軍の蒼き悪魔、そしてミスター•ウィザードがいるのだから。

 

《もし接敵すれば、戦力を無駄に消費したくない。君たちだけで出てもらえるか?》

「かなりの信頼だな、艦長」

《ミスター•ウィザード。君の能力は高く買ってはいる。()()()()という一点においてだけはな》

「ふ、無論だな」

《自覚あったのかよ》

 

 ヨハン艦長が珍しくノリツッコミを入れてきた。

 接敵した場合はウィザード、リアム、ミハイルの三人でどうにか退ける。敵もそう馬鹿ではない。よほどの大群ではない限り、船一隻に大部隊を仕掛けてはこないはずだ。

 

 全開したコックピットで待機するウィザードは、メカニックたちから差し入れられた食事を堪能していた。たまには、ハンバーガーというジャンクフードも悪くはないが、これに染まってしまう日が怖い。

 

「あんたはホント、変な人だよな」

 

 メカニックの一人が呆れたような言葉をかける。

 

「変――心外だな。私は私の道を突き進んでいるだけだ」

「それが変だっての……まぁ、おかげで退屈はしないけどな」

「そうそう。あんたが来る前の"ハンドレッド"は、どうにも堅苦しくて……あんたが来たのを皮切りに、リアム少尉とかルミナスちゃんとか、いいメンバーも増えたしな」

 

 いつも近くで、影で支えてくれたメカニックたちの意外な言葉を聞き、彼は心が和む――というよりは、心が昂ぶってついつい立ち上がってしまった。

 

「抱きしめたいな! 戦友! これはもう、言葉という道具では書き綴れん。共に語り合おうではないか!」

「なっ、なんで三人もいて俺なんだぁぁっ」

 

 メカニックの一人が追いかけ回される。残りの二人は宙を舞うハンバーガーを横目にため息を漏らした。

 休む暇もない――そう思っていた矢先に、敵襲を現す警報が鳴り響いた。本当に、休む暇もない。

 

 

「敵襲か。戦友よ、魂からの語り合いはおあずけだ」

 

 

 ウィザードはコックピットの方へすっ飛んでいき、すぐにハッチを下ろした。

 モニターが点灯するとすぐ、サブモニターにリアムの姿が投影された。

 

《ウィザード大尉、僕とミラさんが先行します。援護をお願いできますか》

「ほう。前大戦の英雄の援護とは光栄だな。了解したと言わせてもらおう!」

 

 まず"エフェクト二型"が発射台に立つ。

 カタパルトに接続されると同時に、作業用アームがビームライフルとシールド、そして背部に蝶を思わせるウィングユニットにマウントされた"フェアリア•スティング"が装着される。

 

《リアム•ソナタ、"エフェクト"行きます!》

 

 カタパルトが火を吹いてレールを駆け抜けていき、"エフェクト二型"を戦場の災禍へと送り放つ。

 ぐるりと一回転してバーニアを吹かした"エフェクト二型"は、蒼炎の軌跡を描きながら急進していった。

 

 続いてカタパルトに立つは"ヴィンテージ改"。大型化のオーバーホールを行ったために、既存のカタパルトの出力では"ハンドレッド"から打ち出すことはできない。

 "ヴィンテージ改"の背部に大型のワイヤーが接続。鎖のように彼女を引き留める。

 発射口の限界まで立ち、そこでようやくバーニアを吹かして浮遊する。

 

 ぎりぎりと軋む硬質ワイヤー。カウントダウンとともに、凶星を解き放つときまで彼女を抑え込む。

 

《"ヴィンテージ"、発進!! "ヴィンテージ"、発進どうぞ!!》

《"ヴィンテージ"、出るぞ》

 

 凶星を抑え込んでいた鎖が引きちぎられ、赤き彗星が紺碧を引き裂いてゆく。

 発進した"ヴィンテージ改"を見届けたウィザードは、遠くに見える青と赤の煌めきを見てほくそ笑む。

 

「こんな光景が見られるとは、何という僥倖!! 生き恥を晒した甲斐が、あったというもの!! 出るぞ!!」

《生き恥増えました。どうぞ》

 

 それに続き、"アマクサ"も宙を舞う。

 追いつけぬほどのスピードの二人に、必死こいて食らいつこうとしたが、二人はそれを上回ってくる。

 

 敵の数はやはり多くはないが、数的有利はあちらが取っている状況である。

 機体は"ペインレント"や"サーティペイン"であるところを見るに、プライムテラーズの奇襲だろう。奴らはクローン兵士を使っている故、兵力が惜しくないはず。だから、"ハンドレッド"一隻にわざわざ攻撃を仕掛けてくるわけだ。

 

 先手を仕掛けたのはミラ。

 "ヴィンテージ改"の腰部から飛び出るは、赤々とした戦斧――ビームアックス。

 鮮やかな赤の軌跡で宇宙を塗りつぶしながら、"ペインレント"の頭を叩き潰し、その重圧でボディをも破砕した。

 

 そのままの勢いで、もう一つのビームアックスも抜斧。

 二対の斧から放たれる強烈な斬撃が、二機、四機と敵機を撃墜してゆく。

 

 近接戦で相手にできず、彼女の阻害となりうる機体がいくつか点在し、包囲するようにビームライフルを放つ。

 無論、彼女にとっては何の支障にもならない。

 しかし、それらは"エフェクト二型"のビームライフルにより射抜かれ、爆炎を吹き上げていく。

 

 "エフェクト二型"を一網打尽にしようとした敵機は、目にも留まらぬ捌きのビームセイヴァーの織りなす剣戟によって返り討ちにされる。

 

《リアム? なぜ落とさないの》

《乗っているのは……アルバのクローンだからです。何も罪はない。殺されるべきではない》

《そう、甘ちゃんね》

 

 機体が変われど、彼の気持ちは変わらない。

 彼がそれを正義と信じてやまないのならと、ミラは大して気にも止めなかったが、彼女も自分の行動は変えない。敵はなんであろうと落とす。それが彼女のやってきた生き方だからだ。

 

 数が少なくなってきた。残っているのは、厄介な手練れのみである。

 

《行けっ! "フェアリア•スティング"!》

《行け、スティング!》

 

 放たれた各々のスティング。蝶の翅を思わせるひし形と、オーソドックスな赤い針のようなスティングが交差し合い、すれ違うごとにビームを放っていく。

 赤い光と光が交差して、一斉に機体を射抜く。

 

 刹那――その一帯で一斉に橙色の蓮華が咲き誇り、鉄塊が飛び散った。

 

 

 抜け目のない戦術に、ウィザードは食い入る隙もなかった。

 七年前は敵同士だったというのに、味方になった途端に完璧な連携を取るミラとリアム――反逆機兵レギオンファンにとって、この上なく待ち望んでいたシチュエーションだ。

 

 結局、ウィザードはただ傍観するだけで終わってしまった。それもそうだ。煉獄の凶星、蒼き悪魔、その戦いに介入しようというほうがおかしいのだ。

 

 

 

 お荷物状態ではあったが、不思議と身体が軽いウィザードは"ハンドレッド"に帰還して、二人の到着を先に待った。

 

「お荷物じゃないすか」

「そうだとも。さながら私は神輿で担がれた気分だった」

「すっげぇポジティブに変換しただけですよね」

 

 メカニックたちに迎え入れられる。

 機体は損傷すらないのだから、彼らの仕事はない。そのほうが助かるだろう。

 

 "エフェクト二型"、"ヴィンテージ改"が着艦し、船内は一時的に安堵の空気で満たされる。

 目的地に辿り着くまで、何度こんなことが起こるだろうか。艦隊と合流すれば多少の補給はできるとはいえ、船員たちの神経はすり減る一方だ。

 

 降りてきた二人と顔を合わせ、ウィザードは苦い笑みを浮かべた。手も足も出せなかったぞ、という冗談混じりの笑みと、いつまでこんなことが続くのだろうという苦笑の入り混じった表情を、仮面越しでも分かるよう浮かべる。

 

「……あの機体から、アルバの意志を感じました……おそらく、クローン兵士です」

 

 彼の沈む声が嫌なほど響く。その傍らに鳴る機体整備の音が、それをかき消してしまうほどに。

 フォローに困ったミラが口を開く。ただ、その眼差しに一縷の迷いもなかった。

 

「アルバ•クローン技術は私が知る限りでも、クローンの製造技術は前大戦末期まで発達していた。それが連盟軍に……ノーベル社に渡った以上、これからも途絶えない。テロメアの劣化が限界まで来て、生まれた瞬間に息絶えるようになるまで」

 

 リアムは震える手を抑える。

 彼にとっては、思い出したくもない光景だ。強く育った彼の心に唯一残る深い傷痕。それを掘り返される戦場に、いつまで耐えられるか怪しい。

 

「この世界は、もう()()()()()()()()()のだ。リアム•ソナタ。命をなんとも思わない世界に。だからこそ、懸命に生き長らえようとする命が果てしないほどの尊さを見せるのではないか?」

「わかっています……」

 

 トラウマは振り切らなくてはならない。いくら彼にとって辛い出来事であったとしても。

 

「では私が最たる例を見せようか。まずは原初の姿に戻――」

 

 ミハイルのぶん投げたピストルがウィザードの顎を穿ち、仮面が吹っ飛んだ。

 

 

 セクハラ、だめ絶対。

 

原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?

  • その旨を良しとする!!(YES)
  • 私は辞退させてもらう。(NO)
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