ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。 作:聖成 家康
「ぅああぁっ……! ごめんなさい……ごめんなさいっ……! プライム……! 僕は、僕は取り返しのつかないことをした……!」
個室から漏れる掠れた声を、リアム•ソナタのものと説明しても、おそらく誰も首を縦に振らないだろう。
アルバ•クローンも、《アルカナ》のなり損ないのようなもの。《アルカナ》同士特有の精神波を過剰に受けてしまった影響だろう。古いトラウマが呼び起こされたのだ。
「大丈夫よ。大丈夫だから」
アルバの包容あってか何とか収まりがついたものの、しばらく戦えるような状態ではなくなってしまった。
沈んだ表情のアルバが出てきて、部屋の前で待っていたウィザードとミハイル、そしてアズチを一瞥する。
「……リアムのあんな姿。もう見なくていいと思っていたのに」
腫れた目に虚を抱きながら、アルバはミハイルの胸元へ顔を埋めた。
アズチはその光景を、複雑そうに眉間へシワを寄せながら見つめていた。
ウィザードは彼へ冗談を投げかけた。
「憎きヴァルーツの娘がこんなにも弱ってるいるが、何かご感想はあるかな」
「何もない。ただ同情するだけだ」
そう言って、静かに瞳を閉じる。
ウィザードの口から笑みが綻ぶ。アーク連邦そのものを激しく憎んでいた彼の口から出る言葉とは思えない。
「もうアスカに殴られたくないのでな」
「フフ、抱きしめたいな」
アズチは以降、彼に対して口を利かなかった。
「お姉ちゃん。お姉ちゃんたちは何と戦ってるの。何のために戦ってるの」
ミハイルはしばらく葛藤し、彼女の肩を抱き寄せる。
「……私にもわからない。私には、あなた達のような若者がいいように使われているようにしか見えない。無論私も」
サングラスをかけるミハイル。黒いレンズに、一縷の輝きが垣間見えたのを、ウィザードは見逃しはしなかった。
――結末は変わらない。
彼女の言葉が、現実味を帯びてきている気がする。
無理矢理曲げたものが、無理矢理軌道修正させられているような。この状況はそう表すのが無難なのかもしれない。
「俺たちの任務は《ユビキタスブレイン》を、火星圏に送り届けることだ」
明瞭さが珍しく思える声が聞こえ、その先に視線を向ければ、一際暗い顔をしたヨハンが立っていた。彼は四六時中暗い顔だが。
「アルバ•ヴァルーツ、ミラ•ヴァルーツ。かつてのアーク連邦の皇族がこの船に揃うとは思ってもみなかった」
ヨハンは嘆息混じりに言う。こんな面倒事を抱える彼に、流石に同情せざるを得ない。
「……リアムは、あなた達の都合の良いように事を動かすために、あんなに苦しんでいるんですか。ヤマト中佐」
「中佐か。君の思っているほど、中佐とは偉い役職じゃない。俺とて君の言う
ヨハンの冷たい声音は鉄に響いて鼓膜を震わせてくる。
敵も味方も、狂っている。とても戦後とは思えない。いくら連盟軍側の、地球側内部の争いだとしても、あれだけ大きな戦争のあとにこうも戦いを続けるとは。
地球は今でこそ緑化政策が進んでいるが、七年前は至るところが荒れ地であり、気候変動も今以上に激しい。地球は戦いに没頭している暇などないはずなのだ。
「ヨハン艦長。答えてほしいことがある。ユビキタスブレインとはなんだ?」
「言ったはずだ。情報統制用の高性能スーパーコンピュータだと」
「そうではない。中身のことを指している。「私とはなんだは」と尋ねられ「ダイア•ノーベル」と答えるのではなく「我慢弱く、落ち着きのない。しかも、姑息な真似をする輩が大の嫌いときている。ナンセンスだが動かずにはいられない男」と答えてほしいのだ」
ヨハンは彼を鼻で笑い、冷たい視線をアルバに向ける。
その視線の意図があまりにも分からず、彼女を恐怖で満たした。
「アルバ•クローン。まだ劣化前の正常な発達が行われていた個体の
彼の言葉が、辺りを一気に凍てつかせる。
唯一の救いは、この場にリアムがおらず、彼の言葉が耳に入らなかったことか。
アルバは絶句し、半ば放心状態になる。彼女がとりわけ、というだけでミハイルも動揺を隠せていなかった。
対してウィザードは、さほど驚いてはいない。作中でユビキタスブレインの正体は明かされなかった。ファンの中には「人の脳回路を組み込んでいるのではないか」という考察もあったが、見事に当たっていたとは。
「アルバ――いや、ルミナス•ルナテリア。君は戦争という世界で敵も味方も清く正しいと思わないほうがいい。彼のように傷つくだけだ」
ヨハンは静かに言葉を紡ぐ。彼らしくない冷酷な言葉――否、彼ももはやこの状況が限界なのだろう。柄でもないことを言い出している。気怠げではありながらも、ある程度の人情を持つ人ではあった。
「なら、せめて貴方だけでも清らかでいるべきではないか。ヨハン艦長。人の命を預かる立場である貴方だけでも」
ウィザードは彼を諭すように言う。彼の虚ろな瞳が、一瞬だけ柔らかに歪む。
「君が代わってくれ。俺には、もう何が正しいのか分からない――俺は、レイのようにはなれない」
ちら、と彼の片眸がアルバを見据えた。
「レイさんは、度々ヤマト中佐のことを話してくれました。『謝りたい』と、ずっと」
リアムが告げなかったことを、彼女が代弁した。
彼の瞳に、微かな光が灯る。レイ•コンゴウとヨハン•ヤマト。古き戦友である彼らの仲に何があるのか、外側から見守る存在でしかなかったウィザードには分からない。せいぜい会話から察せられる程度だ。
「……俺は連絡は寄越さない。するならお前からしろと、全て終わったら伝えてくれ」
ヨハンは踵を返し、再びブリッジに帰ってゆく。
屈強な精神の持ち主である艦長ですら、あれだけ疲弊する環境だ。彼の言う「全て終わったら」を、なるべく早く引き寄せなくてはならない。
食堂方面からやってくる二人の人影――リック、ディアスがアルバと目を合わせ、穏やかな笑みを浮かべた。
「アルバお嬢様。お綺麗になられましたね」
「ディアスおじさん……! リックさん……!」
「相変わらず私はおじさん呼びなんですね」
二人の顔を見て、アルバの表情に光が灯る。
ずっと偵察部隊として格納庫と戦場を行き来していた彼らとアルバは、初めて顔を合わせたようだ。
「小さい頃、あなたに高い高いをせがまれて痛めた腰の感覚が蘇りましたわ! はっはっは!」
「変わらない、あの頃のままですね」
腫れた目のまま、彼女はくしゃっと笑う。作り笑顔ではない、純粋なものだ。
「私も幼き頃は空に憧れていた。アルバ嬢よ、高みを目指す君の気持ちは存分に理解できる!」
「なんの話です?」
水を差したウィザードに冷たい目線が突き刺さる。つくづく空気が読めない、なのに我慢弱くて、そのくせ落ち着きがない男だ。
二人との再会を噛みしめるアルバは、だんだん声が沈んでいった。
「……なのにどうして、あの子は変わってしまったんだろう」
「ゲーテ――ファウストのこと?」
ミハイルの言葉に棘が宿る。
ウィザードはそれに寒気を覚えた。
「生きているのか……? トリオン家の息子が……」
「信じらんねぇ。とっくに暴徒にでも殺されたのかと思っていたぜ」
リックとディアスが驚愕する傍ら、アルバの声がポツリと響く。
「あんな子じゃなかった。どうして――」
「あの男は、私が殺す」
悲哀をかき消すよう、凍てつく憎悪があたりに満ちる。
「私が殺して、全て終わりにする」
◇
【エクスノア】。そこはかつて、アーク連邦最大の要塞基地だった。コロッセオを思わせる形状の衛星。中心にぽっかりと穴が空いた、抜け殻のような形となって宙域を漂っている。
かつてのゲイズチェイサ、戦艦、基地外装の残骸は全て回収されてはおらず、デブリとなって辺り一帯を覆い尽くしている。さながらエクスノアの残骸を取り囲むようにして。
ミハイルは、その様子を見て何か想う所があるようだ。
「話がある」
宙域に到達して早々、ミハイルが彼に面倒な話題を持ち込んでくる。
「墓参りがご所望か」
「正解」
冗談のつもりだったのだが――意外と真剣な声音が返ってきて、ウィザードは戸惑いの色を漏らす。
「できればリアムと一緒が良かったけど、無理に動かしたくないから……君で妥協する」
「ほう……だがそれをあのヨハン艦長が許すかな?」
「どうせあの中に入ることになる。早いか遅いかの違いだ」
ミハイルはウィザードの襟を掴み、引きずるようにして格納庫へと連れ去った。
「……? 大尉。作戦開始までまだ時間がありますよ」
一番面倒なのに見つかった。リアムから引き継いだ"ウロボロス"のメンテナンスをしていたアズチが、疑念マックスの目で二人を見つめる。
「少し確かめたいことがあるの。艦長によろしく言っておいて」
「仮面のを連れて行く訳があるのですか」
「女性一人じゃあ不安でしょう?」
「貴女のセリフではないと思うのですが」
アズチのいかなる詮索をも躱し、ウィザードは"ヴィンテージ改"のコックピットへ詰め込まれた。
ふんわりと漂う香水の香りが、ウィザードの喉奥をきゅ、と引き締めさせる。
「なぜ私は機体に乗せないのだ」
「二機もいたら目立つでしょう」
彼の気持ちも露知らず(分かっていてあえてやっているのかもしれないが)、ミハイルは容赦なく機体を発進させた。
メカニックたちからの警告が聞こえてきたが、それにも構わずである。
帰ってきてからが怖い。特にヨハンの怒号とか、ヨハンの叱責とか、ヨハンのゴミを見るような目とか。
「それで、誰の墓参りだ?」
「……父。グランの研究施設が残っているはず。七年前は行く勇気がなかったから」
グラン•ヴァルーツの研究施設……?
ウィザードは黙り込み、思考に耽った。一体、それは何に関連するものだ? 原作では父親ではなく、彼女の兄であるボレアスの《アルカナ》に関する危険な研究にフォーカスが当てられていた。というより、父親が何かを研究しているなどという描写はなかったはずだ。
「父は、ゲイズチェイサの発案者だった。勿論、兵器としてではなく、人類すべてが宇宙に行くための足がかりとして。加えて《アルカナ》論の発案者でもあった。けれど、そのどちらも、兄に望まぬ方向に利用された」
ミハイルは沈んだ声音で語る。
確かに、《アルカナ》論の発案者はグラン•ヴァルーツだ。それは原作でも語られていたし、ウィザードも知っている。だが、中身については語られるどころか、言及や補足さえされていた記憶がない。
幾多ものデブリを乗り越え、エクスノアの残骸にたどり着いた"ヴィンテージ改"。
穴だらけのドッグに機体を着地させ、二人はヘルメットを着けてエクスノア内部に降り立った。
「流石に空気はないか。酸素パックは十分?」
「十分だが、私はよく喋るからな。長居はできん」
「ふふ。そうそう、こういう冗談が欲しかったの」
ミハイルはそう言った彼の額あたりを指で小突いた。
冷え込む基地内部にも、瓦礫が流水のように浮遊する。
中には白骨化した死体も垣間見え、かつての戦いの記憶が嫌でも思い出される。
「こんな有様で、研究施設など無事なのか?」
「父は生真面目な人だった。きっと、未来に託しているはず」
彼女にしては、どうにも説得力に欠ける理由に思えたが、ウィザードには響いた。親子の絆、なんと美しきことか。
何度目かの右折、三回目の左折の後に、ミハイルはようやく足を止めた。
一際頑丈そうな鉄の扉。外壁が剥がれ骨組みが見えている周りとは対象的に、そのチャンバーだけは煤汚れで覆われる程度であった。
だが、流石に扉は半壊しており、中の様子が首を突っ込むだけで伺えるほどである。
「開けられる?」
「無茶を承知かね」
「なら手伝って」
ミハイルと協力し、扉をこじ開ける。阿修羅すら凌駕する存在なら、一人でこの無理をこじ開けることもできたであろうが、なかなか上手くはいかない。女性の手を借りなくてはならないとは。
軍人二人で力み、ようやく扉が開いた。最後は腹を立てたミハイルの渾身の蹴りが炸裂し、「これに限る」と謎のドヤ顔が入ったが。
中は光の一切存在しない完全なる闇。
ピストルに付いているライトが無ければ、踏み入れることすらままならなかっただろう。
無重力の空間なのに、そこには凍てつく空気さえ感じられた。かつて何に使われていたのか、そこは生活感溢れる場所であったことが推測できる。宙を舞うマグカップやクッション、お菓子の紙くず……一体、ミハイルの父はここで何を研究していたというのか。
奥の部屋までたどり着くと、デスクに固定された大型のコンピューターが、取り残された子供のようにぽつりと点在していた。
奇跡的にも、まだ電源は生きているらしく、ミハイルの操作によって息を吹き返した。
「……やっぱり。データが残ってる」
表示されたモニターの画面には、いくつかのデータファイルが羅列されている。
タイトルは《アルカナに関する論文》だ。いつしかウィザードが読んだこともないのに読んだと嘘をついたものである。おそらく、データとして保存されているからこれが原本なのだろう。
――ミハイル。君は何をするつもりだ?
原作において、彼女はこんな行動はしない。精神をやられてしまったアスカへの対応、ファウストの件で自身を執拗に追い詰め、悩んでいたから当然と言えば当然か。それらが無い今の世界線ならば、彼女は何をしてもおかしくない人間である。
タイピングし、パスワードを入れる。
何度か失敗したが、十回程度で成功。データファイルにアクセスし、中身を閲覧できる状態にした。
ウィザードの隣でそれを食い入るように読んだ後、幽霊でも見たような目で、彼の方を一瞥する。
「……」
見ろ、ということなのか。彼はその意図を汲み取って、資料に目を通した。
――
《アルカナ》とは、『来たるべき対話の時』に備えて進化した人類の総称である。
尤も、その対話の相手は決まっている。
我々にとって今、最も身近であり、最も憎んでいるもの。
《クレナイ粒子》――否、ここでは粒子という名は相応しくないか。
太陽系の外、███ 銀河の惑星 ███を起源とする、我々人類とは根本から異なる粒子生命体。
私はこれを《レギオニス》と命名した。
原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?
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その旨を良しとする!!(YES)
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私は辞退させてもらう。(NO)