ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。   作:聖成 家康

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四十二話 さあな、口が滑ったとしか言いようがない

 

 突如として乱入してきたウィザードに、ミハイルとファウストはその時だけ同じ思いを抱いた。

 ”入ってくんじゃねえよ”と。

 

 しかし彼は、問答無用で戦闘に加入した。

 

《貴様、また我々の邪魔をするか》

「邪魔ではない。私は必然的な介入をしに来たまでだ」

 

 ファウストは彼女のもの以上に怒りを募らせる。

 余計な存在、イレギュラー。彼からすればウィザードは完全に邪魔な存在としてしか見られていないのだろう。地味にショックである。

 

 だが、ミハイルの手でこの男を殺させるわけにはいかない。

 どうやっても結末が変わらないというのなら、ミハイルがファウストをその手で殺め、自責の念に駆られるという結末は揺るぎようがないはずだ。そうなれば、ミハイルはその名を捨てて《煉獄の凶星》として人としてのぬくもりを捨て歩いていくだろう。

 

 ”ハルジオン”のハルバードが、”アマクサ”の眼前に迫る。

 目の前で煌めく赤い粒子が、二人の網膜を等しく貫いていく。

 

《貴様だけは殺してやる。ノーベルの置き土産めが》

 

 彼とは、決して分かり合えないのだろう。

 彼にも、自分なりの理想や正義があるに違いない。それを抱かずに戦場に出てくる者は、相当な狂人だ。

 

 原作でミハイルが彼を殺して、人類に絶望するほどのひどい自責の念に駆られたのは、彼にもまだ人の心が残っていたためだ。

 彼は、本当はミハイルと言葉を交わしたいだけだったのだ。しかしながら、彼女に裏切られたという絶望が彼を憎しみの権化にしてしまった。

 ――「帰ってきてよかった。もう一度、あなたに会えて」。

 原作での彼の最期の言葉は、ミハイルの心に深い傷をつけ、彼女の人生そのものを否定したも同然である。

 今、進むべき道を見つけた彼女であれば彼をその手で殺めても何もかもを見失わずに済むか……?

 

 ウィザードはそんな考えを振り切った。

 原作と同じ結末にはさせない。アスカもリアムも、そしてミラも。

 だから、ファウストは彼女に殺させない。

 

「大尉! 君は少年のところへ行けといっただろう!」

《あなたこそ何をしてるの。アスカを一人にしたの!?》

「彼女はもう一人ではない。一人なのは君のほうだろう」

 

 ウィザードの問いかけに、ミハイルは唇が揺れる。

 ――《レギオニス》よ、力を貸してほしい。

 

 彼が深く念じたとき、不思議と感覚が研ぎ澄まされて宇宙ではない、どこか別の空間へと飛ばされた感覚を覚えた。

 ”ヴィンテージ”のコックピットにいるはずのミハイルが、すぐ近くにいるようにも感じられた。

 

「ミハイル・バジーナ。君の正義はなんだ」

「私の……正義」

 

 ミハイルは声を掠れさせる。

 父の理想を目の当たりにし、自身の人生と向き合った。そんな彼女はいったい何のために、こんな戦争に身を投じるのか。それはもう、父や母の復讐のためでも、道具にされる妹の複製品の無念を晴らすためでもない。

 自らがやりたい、突き進みたいと思った道を歩むためではないのか。

 

「私の歩みたい道……そうさ、今までの私にはそれがなかった。だから、戦う意味を見失って、迷う日のほうが多かった」

「では、それはなんだ」

 

 ウィザードは満を持して聞いた。

 ミハイルの口が閉ざされた。

 

 彼女の心の奥にある、酷い靄による鬱蒼とした思いが直に伝わってくる。

 まだ迷っている。残してしまった因縁を前にして、また彼女は迷おうとしているのだ。

 

「彼との因縁を振り切れないというのなら、私が手本を見せてやる!!」

「は……」

 

 

 意識を現実に集中させた。

 ”ハルジオン”との戦闘は、幾度も刃を重ねて拮抗するような踏んだり蹴ったりな状態が続いている。

 彼女との対話を終わらせた後に、その状況は爆発的に変化する。

 

 ”アマクサ”の放つ回転切りが、彼の機体の姿勢を大きく崩す。

 スラスター目掛けて、”アマクサ”は次なる刃を叩きつけようとする。

 

 しかし、そう簡単にはいかず”ハルジオン”の足蹴により妨害。

 一度距離を取り、ビームによる撃ち合いを幾度か繰り返しながら距離を詰めていき、再び刃を交えて拮抗する。

 

 実力は同程度。いくらか彼のほうが上といったところだろうか。

 ゲイズチェイサの性能差だけが勝敗を分ける絶対条件ではないことを示す良き教材ではあるが、《アルカナ》としての才覚の差が如実に表れているような気がしてならない。

 彼は自身の第六感的な感覚を、《レギオニス》による産物だとは思っていないだろう。

 対してウィザードは、《アルカナ》の能力を対話の一種と捉えている。彼のように感覚的な使用は難しい。

 

 とはいえ、こんなところで落とされてたまるか。

 ウィザードは気合を入れ、もはや軋みのほうが目立つようになってきた操縦桿を本気で握りしめ、ガチャガチャと音を鳴らして操縦に身を投じた。

 

 一、二、三と、三重もの赤い斬撃の軌道が同じ宙域を彩った。

 ぶつかり合うたびに鮮やかな飛沫が舞い、さらに宙域を赤く染めんとする。

 

《鬱陶しい害虫が、さっさと堕ちろッ!!》

「害虫だと、私は確かにお邪魔虫だが、害を加えるつもりはない!!」

《その汚い口をいい加減閉じろ!!》

 

 ”アマクサ”と”ハルジオン”の戦闘は、素人では目で追うことはできなくなっているほど激化している。

 スラスターの蒼炎、セイヴァーの描く軌跡、飛び散るクレナイ粒子。そのどれもが、戦闘という行為に似合わぬほど鮮やかであった。

 

 刹那、”ハルジオン”の姿に異変が起こる。

 

 背部の骨組みのようなウィングユニット。それが翼のように展開されたのだ。

 

「ここでそれを使うか……! どうやら私は好敵手のようだな」

 

 ウィングから溢れ出る赤紫色の粒子。それが翼膜を構築していくにつれて、光が吸い込まれていくかのように奴の周辺の空間が歪み始めた。

 ステルスウィング”ファントムヴェール”……”ハルジオン”の切り札といってもいいだろう。

 

 瞬きをした時、奴の姿が消える。

 次に瞬きをすれば、激しい衝撃がコックピットを襲う。

 

 右腕が宙を舞う。

 光学迷彩により姿を消した”ハルジオン”の猛攻が、早くも”アマクサ”を追い詰めつつあった。

 

 効果時間に達し、”ハルジオン”は再びその姿を現す。

 幸いなのは発動時間の短さ。だが、それでも彼の技量が合わされば、「何時でも奇襲を可能にする兵装」として運用できる。

 

 いつかスキを見つけ、先のミハイルと交わしたような対話に持ち込めないだろうか……?

 いいや、おそらく無理だろう。ミハイルもウィザードも、互いに《レギオニス》の存在を認知し、言葉を交わさぬ感覚的な会話が、単なる第六感の延長ではないということを理解していたからこそ成せたのだから。

 

 なら彼とどうやって分かり合えばいいか。

 

 幾度となく剣戟を重ねて,早数十回といったところか。”ハルジオン”は堪忍袋の緒が切れたかのように、拮抗時でも容赦なく攻め込むようになってきた。疲労がじわじわとたまる中、この変化はウィザードにとっては堪えるものである。しかも、奴はステルスウィングによりたびたび姿を消してくる。左腕を落とされ、防御するすべがなくなった暁には――彼のコックピットは焼かれているだろう。

 

 姿を消し、執拗に重い一撃を叩き込む。

 ウィザードが捌ききれなくなるのも時間の問題だった

 

「ファウスト・シューベル、貴様は何か勘違いをしている」

《いまさら何を――》

「ミラ・フォル・ヴァルーツは、君にいまだ()()()()()()()()!!」

 

 痺れを切らしたウィザードの爆弾発言に一番早く反応したのはミハイルだった。

 

《いやあああああっ!! なに言ってるの!!》

 

 

 ミハイルの悲鳴まじりの(というかほとんど悲鳴)声を聞いて、ウィザードはほくそ笑み、ファウストは一時固まった。ここは本当に戦場か?

 

「これまで特段なにも言わなかった故、そう判断させてもらった」

《ふ、ふざけるな!! お前の思考回路はどうなっているんだ!!》

「言葉なきものは、私の身勝手で勝手な偏見によって解釈される! 以後気を付けることだな」

《あ、あいつの真ん前で言うやつがどこにいる!》

 

 二人の言い合いを前にして、切れそうになっていたファウストの堪忍袋の緒はとうとう限界を迎えた。

 

《貴様ら、戦場という場で愚かな言動を重ねてくれる!》

 

 ファウストは冗談が通じないのか、容赦なくビームライフルを乱射した(当然です)。

 

 二機はそれらを難なく回避。ウィザードは短い嘆息を自ら浴び、覚悟を決める。

 

「外宇宙からの来訪者よ、しばらく私の自分勝手に付き合ってもらおうか!」

 

 ”アマクサ”の眼光がギラリと宇宙を突き刺す。

 スラスターを吹かして急発進し、”ハルジオン”と取っ組み合いになる。手と手を重ね、武器すら交わさぬ原始的な争いに。しかし、ここまで近づいてもなお、彼にはスティングという秘密兵器がある。チャンスはほぼ一回だ。

 

《ふざけるな!! 穿て、スティン――》

 

 目障りな人間を消しにかかったファウストの目の前が、唐突に霧がかかったように霞む。

 撃たれた? それとも酸素不足か? 一瞬のうちに巡らせた思考をかき消すように、彼の脳裏に浮かんでくるのは人のシルエットであった。

 

 白い肌、絹のようにきめ細やかな空色の髪はくっきりとくびれのある腰あたりまで伸びている。

 くる、と振り向けば、それは紛れもないミラの顔がそこにはあった。

 

「なんだこれは……幻か……?」

 

 流石のファウストでも困惑せざるを得なかった。しかし、その困惑はただちに別のものに塗り替えられることになる。

 

 ミラが顔だけでなく、体まで完全に振り向いたときだった。

 

 豊満な果実が――。

 

 

「うわあああああああああああっっっっ!!!!????」

 

 

 飛び込んでくる甘い香りと、刺激の強すぎる光景。

 一気に現実世界へと意識を引き戻された彼は、顔面を真っ赤に紅潮させ、その鉄の仮面を完全に年頃の青年のものへと変えていた。

 

 

 通信回線に響き渡る彼の悲鳴を聞き入れて、ウィザードは満足そうに頷く。

 

《貴様……!! 人の頭の中にずけずけと入り、なんという破廉恥な妄想を!! 恥を知れ!!》

「私に責任転嫁とは。やっていることが思春期男児ではないか」

《殺してやるぞ、ダイア・ノーベル!!》

 

 ミハイルだけが、その状況をうまく把握できていなかった。

 

 ”ハルジオン”のモノアイが彼の心情を模すかのようにギラリと点灯。

 ハルバードを折る勢いで握りしめ、”アマクサ”を真っ二つにせんと渾身の一撃を放った。

 

 されど、その一撃は動揺によって矛先がぶれてしまう。

 自らの精神を惑わせたウィザード本人を無茶苦茶にぶち殺したいという願いと、図らずとも見てしまったミラの姿に触れたいという邪念が彼を鈍らせた。

 

 斬撃は”アマクサ”に難なく回避され、背面に回り込まれた。

 

《しま――》

「これで終わりだ!」

 

 ”クロワノトキサダ”による静かなる一閃。

 ”ハルジオン”のスラスターを破砕し、一際大きな爆発を轟かせた。

 

 完全に動けなくなったところで、”ヴィンテージ”が追撃に入る。

 

「!! よせ、ミラ――」

 

 ウィザードの制止も効かず、赤い凶戦士は問答無用で刃を振るう。

 しかしその刃はコックピットを穿たず、四肢を切断するのみであった。

 

 ダルマにされた”ハルジオン”のモノアイが暗闇の中へと消えていき、幾多もの命を殺めたハルバードは宇宙の彼方へと消えていく。

 

《しばらくそこで、頭を冷やしなさい》

 

 ミラはそう言い残し、颯爽と宙域を離脱していく。

 取り残された”ハルジオン”と”アマクサ”。

 

 満身創痍であるものの”ハルジオン”のコックピットは無傷。

 つまり、ファウスト・シューベルは生存しているのだ。

 

 原作とは圧倒的に異なる展開が、ウィザードの前で巻き起こっていることに、彼は喜びを混乱を隠せなかった。

 

(ミラ、私はまだ君の言葉を聞いてはいないぞ)

 

 

 

原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?

  • その旨を良しとする!!(YES)
  • 私は辞退させてもらう。(NO)
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