ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。   作:聖成 家康

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四十六話 レギオンという存在だ!

46話 レギオンという存在だ!

 

「大尉——!!」

 

 声にならぬ悲鳴が、アスカの喉元から搾り出される。

 

 満身創痍の"アマクサ"。

 深々と刻まれた焼き傷は、彼の乗り込むコックピットを確実に捉えてしまっていた。

 

 よくない妄想が頭を過る——否、もはや妄想ではないのかもしれない。

 

「あぁっ……あぁぁ!!」

 

 こんなことが、こんなことが起こるなんて。

 あの人なら大丈夫だと、安心して任せていいと思っていた自分を酷く呪った。

 

《アスカ!! しっかりしろ!!》

 

 アズチの怒号にも等しい激励ですら、今の彼女には雑音としてしか響かなかった。

 

《バイタルはまだある……! 諦めるな》

 

 彼の言葉は慰めでしかない。

 仲間の安否を示すバイタルメーター。ウィザードのものは、まだ反応だけはあるものの、風前の灯にも満たない微かなものだった。もはや時間の問題だった。

 

 "エレムルス"の狂気の眼光が二人を捉える。

 隻腕になってなお、パイロットは無傷なのだ。まだ戦意喪失するはずもなかった。

 

 隻腕の巨神が"ウロボロス"の腸を捉える。

 寸前で回避行動を取るも、クローの先端を掠めて火花が散った。

 

 そこに、"アストラル"が割って入る。

 みしみしと軋む関節。ビームセイヴァーを携えるのもやっとなマニピュレータを、震える手で制する。

 

「お前だけは……!!」

 

 ——怒りに呑まれるな。

 あの人の言葉が脳裏を過る。怒りに身を任せたら、その先に待ち受けるのは破滅のみ。わかっているのに、どうしても煮え滾る憎悪を噛みこらえることが困難だった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 "ハンドレッド"の一同は、青ざめていた。

 リックとディアスが再起不能になった"ヴィンテージ"、"エフェクト"を回収。ミハイルとリアムが無事に生還した。

 

 にも関わらず、"アマクサ"を捉えた光学センサの映像に釘付けになり、各々絶句していた。

 

「ウィザード大尉……バイタル低下。"アマクサ"、戦闘継続は不可能……」

 

 ルナがぽつ、と呟く絶望的な言葉に、ヨハンは息を止める。

 

「しぶとい男だ」

 

 生きてはいる。だが手の打ちようがない。ヨハンは彼に賭けていた。いつもいつも、逆境を覆したのはあの男だったが——今回ばかりは賭けに負けてしまった。

 

「な、なんとか! なんとかなりませんか! 出せる機体は? 応急処置をすればまだ!」

 

 リアムが必死の形相で訴える。この時代の技術なら、生きてさえいればやりようはある。彼ほど気合のある人間なら尚更だ。

 

「機体はある。だが、補給を受けられていない。すでに負傷した兵士の手当で医療物資は手一杯だ」

「そんな……」

「直に本隊が到着する。この戦い勝てはするさ。損害が彼一人で済んだとすれば、安いものだろう」

 

 冷酷ながら、されど非常に軍人らしい意見だ。

 本隊が到着すれば、満身創痍の"エレムルス"一機を追い込むことなど容易い。今ここで下手に増援を送るほうが無慈悲というものだ。仮に彼を回収できたとしても、助かる保証などどこにもない。

 

「僕たちは彼に何度も助けられた。こんな恩を仇で返すような真似……」

「俺とて、こんなことはしたくない」

 

 ヨハンの脳裏には、かつての戦友の姿が浮かぶ。

 

「少尉。レイに、代わりに謝っておいてくれ」

 

 

 ◇

 

 

 宙域を漂っていた"ハルジオン"は、ミハイル達が仕留め損なった"ティターン"が抱え込み、共に降伏。"ハンドレッド"に鹵獲されていた。

 

 "ハルジオン"のコックピットを開けるミハイルは、中で屍のように途方に暮れるファウストを、蔑むように見下ろした。

 

「……なぜ殺さない」

「捕虜への暴力行為は重大な規定違反だからね」

「そういう話云々ではない。なぜあのとき、私にトドメを刺さなかった」

 

 憎たらしい眼光を突きつける彼。頬や腕、脚に数多の切り傷が見られた。なるべく中身を傷つけないようにやったつもりだが、加減とは実に難しいものだと彼女は実感する。

 ミハイルはため息混じりに答えた。

 

「さぁ、それはあの男に直接聞きなさい」

「……っ、あの俗物めが」

 

 ファウストは吐き捨てるように悪態をつく。

 

「お姉ちゃん!!」

 

 格納庫に文字通り飛んできたアルバ。息を途切れ途切れにしながら、緊急を要する事態を口にした。

 

「ウィザード大尉が致命傷を負って……!」

 

 ミハイルは一度瞳を縮めたが、すぐに目を伏せ、冷静さを保つ。

 要するに、自分の応急処置キットが余っていないかということだろう。

 

「"ヴィンテージ"にある応急処置キットは、負傷した他の兵士にあげてしまった。多分、この船にはもう無いじゃないかしら」

 

 残酷な事実を告げる。

 アルバは泣きそうになりながら、彼女の背後にいる人物に気がつく。

 

「ゲーテくん……」

 

 感情の混濁が起こっていた。とっくに死んでしまったと思っていた人が、目の前にいたのだから。

 ファウストは瞳を閉じる。

 

 自分が生かされた意味。彼にはそれが全くわからなかった。戦場で負けたのだから殺せばいい。なのにあの男も彼女も直接手を下そうとはしなかった。

 

「ファウスト様っ! お怪我、お怪我してないですか!? 」

 

 "ティターン"の亀裂から出てきた一人の少女が、箱を抱え込んだままファウストの側に降り立ち、忙しく横に揺れた。

 

「……ありがとうマーチ。だけどそれは君のための治療キットだ。私にはあまり効果がない」

「そんなぁ……ファウスト様、いっぱい怪我してるのに……」

 

 彼女は"スピーラー"、いわばナノマシンとタンパク質で構成された単純な人造人間。"スピーラー"用の治療キットは、流体ナノマシンで穴を塞ぐだけの簡易的な治療しかできない。尤も、彼女らはそれで十分なのだが。

 

 マーチが手渡した治療キットを受け取り、ファウストは苦笑を浮かべながら彼女の頭を撫でた。

 道具として生み出された彼女たちに情を抱く。皮肉にも彼は、自身が憎んだ女と似たような境遇にあったのだ。だからこそ、何もしてやれなかった。ただ使い潰すだけで、何も。イガクもアリアも道具として消耗されただけに過ぎなかった。

 

 手渡された箱を見て、彼はしばらく考え込む。

 

 そしてミハイルの胸に、それを押し当てた。

 

「……何のつもり」

「それは貴女が一番よくわかっているはずだ。煉獄の凶星。私は、この子たちを勝手に作り、戦争の道具としてきた。多少の愛情を持ちながら、それを十分に注いでやれなかった」

 

 マーチを一瞥し、ファウストは告げる。

 

「この治療キットは、人間に対してはあまり効果がない。せいぜい止血程度にしかならないだろう。その男がいつ負傷したのかは知らないが、今施せば多少の効果は望める」

「……彼が嫌いじゃなかったのかしら」

「私を生かした罰だ」

 

 ミハイルは微笑みながらキットを受け取る。

 しかし、もう一つの問題があった。

 

「……間に合わない」

 

 "エレムルス"との戦闘宙域は、"ハンドレッド"から最も離れた地点だった。最速で向かったとして、今艦内に残る機体なら数十分。それまで彼自身が保つか、そしてアスカやアズチらが耐えられるかが問題だった。

 かなりの速度を出さなければならない。内臓全部が潰れる勢いの。

 

「お姉ちゃんでも無理なの?」

「その速度に耐えれる機体があるか、あったとしても、今の私が耐えられるか」

 

 いくら煉獄の凶星であった彼女でも、その疲弊状態で気絶せずにそこまで辿り着き、まともに治療キットを使えるかどうか。同じく希望のあるリアムも同様だろう。

 

 

「ファウスト様だぁっ!!」

 

 

 格納庫に響き渡る明るい声音。

 アルバのクローンが勝手に部屋を出てやってきた。〈アルカナ〉の力でファウストの気配を察知したのだろう。

 

「わぁっ! アルバ様も、ミラ様もいる! やったやったぁ!」

 

 ファウストに思わず抱きつきながら、黄色い声を発して飛び跳ねる。

 

 無垢な彼女を見て、ミハイルは嫌な記憶が蘇った。

 煉獄の凶星としての全盛期。アルバ・クローンを捨て駒のように扱っていた頃の記憶が、今の似たような状況と結びつく。

 

 ミハイルは思わず首を横に振る。

 理論上はいける。しかし、彼女に残る倫理がそれを許さなかった。

 

 アルバは隣でそんな彼女を見て、ある程度察した。

 とはいえ、彼女も同様に言葉が出ない。

 無垢なこの子を使い捨ての駒にするなんて。

 

「ミラ様、わたしいいよ!」

 

 いつの間にか、目の前に来ていたアルバ・クローンが純粋無垢な笑顔を浮かべていた。

 油断した。〈アルカナ〉の力で、レギオニス経由で思考を読まれたのだ。

 

「すっごく速く飛んで、あの仮面の人を助ければいいんでしょ! わたし、できるよ!」

「駄目……!!」

 

 ミハイルはすぐに否定する。

 そんなことを命令すれば、自分はまた同じ過ちを繰り返してしまう。またこの子を、ただ捨て駒として生まれた存在にしてしまう。

 

「お姉ちゃん……」

 

 アルバは言葉が出ない。自分と同じ顔をしたものが、自ら死にに行こうとしているのだから、感情の整理が追いつかない。

 

「ねぇ、わたし、ミラ様の役に立ちたいよ!」

「……駄目だから……」

 

 彼女の肩を強く持ったまま、その場に蹲る。

 お願い。また私に同じことを繰り返させないで。

 

 しかし同時に、今死にかけているあの男との記憶が脳裏を過る。自暴自棄になっていた自分をあるべき方向に導いてくれた仮面の男。彼がいなければきっと今頃、自分は路頭に迷っていた。

 

「み、ミラ様!」

 

 そんな中、マーチが声を上げる。

 

「私は……使うために、つくられた。だから、誰かの役に立てるのがすごく嬉しいの」

 

 舌足らずな説得が、微かに彼女の心を溶かす。

 それでも、この子が良くても——。

 

「お姉ちゃん、やらせてあげよう」

「……アルバ……」

 

 アルバが涙を貯め込んだ瞳で訴えてくる。

 

「お姉ちゃんが苦しいのは分かる……けど、人を殺すために生まれたこの子達が、人を生かすために使われるのなら……私は、私はそれでいいと思う」

 

 クローン、道具。その事実はどう足掻こうが覆らない。この子達が人として普通に生きていけるのが幸福とばかり考えていた。実際そうなのかもしれない。

 非常に心苦しかった。また無垢なこの子を道具のように使うのは。でも——人を殺してばかりだったこの子たちが、人を生かすことができるなら。

 

「……ごめんねっ……ごめんなさい……!」

 

 ミハイルは彼女を固く抱きしめる。

 冷たい。この子は人の形で作られた道具に過ぎないだと嫌でもわかる。でも、この子は今この上なく暖かい感情に満ちている。

 

 

「泣かないで、ミラ様」

  

 

 

 

 

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