ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。 作:聖成 家康
"アストラル"と"エレムルス"が激突する。
双方満身創痍でありながら、"エレムルス"のほうが微かに優勢であった。
それに、"エレムルス"は秘密兵器を腸に携えている。それも優勢たる所以と言えよう。
「お前は、殺す!!」
《とっととやってみせろ。羽虫が!》
戦闘はかつてないほど長期化している。最早戦争の体を成していない。単なる殺し合いだ。憎悪と憎悪、信念と信念のぶつかり合い。その戦場には、頭にノイズが走るかのようなドス黒い感情で満ち満ちていた。
——こいつだけは殺してやる!!
アスカの中にあるのはそれだけだった。
弱い脈拍を繰り返すウィザードのバイタルを横目に、アスカは機体を無理矢理駆動させる。
四肢が軋み、あらゆる系統がダメになる音が響いていた。それでも、今この場で止まるわけにはいかない。
あの人の犠牲を、無駄になんてできない。
「違うっ……!!」
アスカはひとりでに叫ぶ。認めようとした。認めたくない事実を。
「あの人は死んでない……! 大尉はまだ死んでないんだっ!!」
"アストラル"のビームライフルが"エレムルス"に向かって乱射された。
耐ビームコーティングが弾く——かと思われたその弾道は、立ち塞がる巨腕を貫いて突き進んでいった。
《おのれっ……!!》
激しい近接戦の影響か、その他の影響かは定かではないが、ビームコーティングが意味を成さなくなってきている。
勝てる。三人で繋いだものが、今実ろうとしているのだ。
「絶対に死なせない……!!」
まだバイタルは途絶えてはいない。
諦めるな。怒りを抑えて、冷静になれ
アスカは様々なものが渦巻く心臓を掴むように、自らを滾らせるものを沈めた。
苛立つ"エレムルス"の背後に影が迫る。
煌めく光刃が、ギラギラと燃え盛りながら巨神の喉笛を切り裂こうとした。
"ウロボロス"のハルバードの凶牙が迫るも、"エレムルス"は回避行動を取り、掠めるだけで終わる。
しかしすかさず乱射されたビームライフルが、防御する"エレムルス"の装甲を確実に削る。
「准尉……!」
サブモニターに映るアズチの姿を見て、アスカは絶句した。
バイザーが割れ、額から鮮血が滴っていた。攻撃が掠っただけでこれだけの被害を受けたのだ。
《動じるな! 大したことはない。もう一度喰らったらマズイがな》
アズチは強がりながらも悪態をつく。目を伏せ、睨みを効かせる"エレムルス"を見据えて苦渋を滲ませながら言う。
《……"アマクサ"を沈めたあの攻撃はまだ底が知れない。接近戦は控えるぞ》
「……はい」
返事はしたが、難儀であった。
相手もあの隠し武装を前提とした戦いを強いてくる。それに抗うのは、普通に戦うよりも圧倒的に厳しい所業だろう。
でもやるしかない。
「死なないでください……! 大尉!」
◇
また深い微睡みの中に落ちたようだ。
ウィザードは、ぼんやりとした空間の中で苦笑を零す。
「ここに来てしくじるとは、生き恥も良いところだ」
分かっていながら尚抗えなかった。
これが運命なのか。自分という存在は早々に消えるべきだった。だがそれに抗って、そのために世界そのものを歪めてしまった。
弦を限界まで振り絞れば、次第に維持することが難しくなるのと同じだろう。早々に受け入れるべき運命に抗い続けた、その代償を思わぬところから、防ぎようのない形で降り掛かって来る。
「クソ……!」
ウィザードは悔しさを吐露する。
ここまでやったのに。ここまで抗ったのに。これまでの努力が——自分だけのものではない、アスカもミラもリアムも、各々受け入れるべき運命に抗った努力が、水泡に帰す。彼女らに悲惨な運命がやってくる。
「動け……! あと少しでいい! あと少し、もう少し持ちさえすれば!!」
その願い虚しく、ウィザードの意識は次第に遠のいていく。
終わってはいけない。半端な道程では。
自らのブシドー——進むべき道を、こんなところで手放すわけにはいかないのだ。
◇
数秒前。
"ハンドレッド"から一機のゲイズチェイサが、測定不能の速度で発進した。
アルバ・クローン——おそらくは、現存する中で最後の完成品——が乗り込む"バヴィロン"は、即座にフォースレヴを発動し、赤い軌道で宇宙を塗りたくりながら猛進していった。
それだけの速度ならば、いくらゲイズチェイサの制御ユニットが機能するとはいえ、いつ身体が砕けてもおかしくはない。
しかし、アルバ・クローンは痛みを知らない。
明確に言えば、痛みを覚えても、それを恐れない。兵器として作られたのだから、不要なものであるためだ。
最低限に備えられた内臓がひしゃげる音がコックピットに響き渡る。鼓膜の内側から、骨や筋肉の軋む音がガンガンと打ち付けていた。
だが、彼女は何も恐れない。
ひたすらに、使命を果たそうと躍起になっていた。
初めてパイロットスーツを着させてもらえた。
出発するときに、目一杯抱きしめてもらえた。
嬉しかった。だから応えたかった。
彼女にあるのはそれだけであった。
破片を纏いながら漂う、骸のような機体が見えてきた。
アルバ・クローンは機体を急停止させ、その機体に飛び乗る。
「よいしょっ……!」
開きかけたコックピットから中に入る。
血の雫が漂う真っ黒な鉄の箱。そこに生死を彷徨う仮面の男が収まっていた。
「仮面の人、しっかり!!」
ファウストから教わった緊急キットを使用する。
初めてのことだったからかかなり苦戦した。まずは疑似タンパク質で穴を塞ぐ。そこからそれが崩れないような処置を施す。そして最後に、痛みを鎮める薬をパイロットスーツ越しに投与。
ぎこちない手つきでかなり時間がかかったが、なんとか処置を終えた。
しかし、すぐには目覚めない。
当たり前だ。生死を彷徨っていた人間に応急手当を施したからといって、機械的に復帰できるわけではない。
だが彼女はそれがわからなかった。
「おーい! 起きてー! 仮面の人ー!」
何度も呼びかける。返事がないのを見て、彼女は不安に襲われた。
自分は失敗してしまったのか?
彼女にとって最も恐ろしい予想が頭を過る。
あれだけ応援してくれたのに、あれだけ労ってもらえたのに、期待してもらえたのに、それに応えられないなんて。
絶望する彼女の頭に電撃が走る。
即座に"バヴィロン"に乗り込み、迎撃態勢を取った。
"エレムルス"の凶爪を、ビームセイヴァーの一筋で受け止めた。
耐えきれず態勢を崩し、"アマクサ"に機体をぶつけ、その放浪を加速させてしまった。
《死に損ないがまだいたか!!》
「駄目だよ!! 仮面の人は起きるんだから!!」
信じよう、仮面の人を。自分を信じてくれた人たちが信じているあの人を。
——あぁ、そうか。
これが、皆が自分にしてくれたことなんだ。
信じるって、こんなにも力になることなんだ。
「やっぱり……嬉しいなぁ……」
"バヴィロン"の中、笑みが綻んだ。
信じられるって、嬉しいことだ。
だから——。
「絶対に起きて! 仮面の人!」
その場に走る電撃のような感覚を噛み締めながら、勇猛果敢に"エレムルス"へと立ち向かう。
《私が葬ってやる!》
しかし、捨て身の攻撃は失敗に終わる。
軽々避けられ、死角からコックピットを穿かれた。
蹴りつけられ宇宙に放り出された機体は、間髪入れず爆散し、辺りに大量のクレナイ粒子を解き放った。
——
"ハンドレッド"艦内。
"バヴィロン"のロストを確認したミハイルは、湧き出る悲哀を噛み殺す。
あれがあの子の望んだことなら。
——刹那、彼女の頭に流れ込んでくるは、レギオニスが伝えてきた、あの子の残した最後の意思だった。
「ミラ様、ありがとう! 私を信じてくれて!」
あの子の純粋無垢な笑顔が、堪えていた彼女の感情を溢れさせた。
「ごめんなさい……! 私はまた貴女たちを、使い捨ての道具としてしまった……!」
「そうじゃないよ。ミラ様は私を信じてくれた、私はそれがすっごく嬉しかった!」
使い捨てる前提として作られた彼女たち。
それに信頼を寄せ、人同然として扱うのは、おそらくミラくらいであろう。
堪えていた涙が溢れてくる。
「他の子達も、ぜったいそうだよ! みんな、ミラ様に信じてもらえて、ぜったい嬉しかった! だから、泣かないで! ミラ様!」
——
「……お姉ちゃん」
立ち尽くしたまま涙を零し続ける姉を、アルバも同じものを堪えながら眺めていた。
赦された気がする。
これまで自分の犯してきた全ての罪が、少しだけ。
◇
「大尉!!」
自らの目の届く範囲から遠のいていく"アマクサ"に、アスカは思わず手を伸ばす。
あれでは流れ弾で死んでしまったかどうかも分からぬままである。
「どけぇっ!!」
立ち塞がる"エレムルス"と刃を交わす。
火花が散る中、その煌めきによって煮え滾っていた頭が冷え、冷静になった。
取っ組み合いが長すぎる——。
《愚か者が、終わりだッ!!》
「しまっ——」
"エレムルス"の腸から光刃が覗きかけたその時——。
一縷の光線が、巨神の眼を背後から射抜いた。
小破する"エレムルス"は状況を確認すべく大きく後退。
その三つ目が捉えたのは、たしかに仕留めた亡霊の姿であった。
役目を終えたスティングを迎える"アマクサ"。
両脇に入った亀裂を抱えたまま、割れかけのバイザーアイで虎視眈々と討つべきものを見定めていた。
「死に損なった。ならば、やることは一つ!!」
ウィザードは叫ぶ。
両脇腹はじんじんと痛み、こうしている間にも意識が飛びそうであった。
しかし、自分が紡いできた抵抗の軌跡が、さらなる奇跡を生んだ。それを無下にしてなるものか。
「未来への水先案内人は、このミスター・ウィザードが引き受ける!!」
原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?
-
その旨を良しとする!!(YES)
-
私は辞退させてもらう。(NO)