ロボアニメ世界に転生したので、最高に気持ち悪い謎の仮面キャラを貫くことにする。   作:聖成 家康

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八話 あえて言うぞ、

 

 

 帰還しても、艦内は慌ただしい。

 

 それも当然のことだ。まだ敵はおそらくは一時的に撤退しただけで、また仕掛けてくる可能性がある。

 

 第二戦闘配備――いつ来るか分からない戦闘に備える状態で、クルー一同は緊張感を胸に過ごしていた。

 

 

 パイロットはコックピットで待機。

 腕を組み、瞳を瞑っていたウィザードの元に人影が近づいてくる。

 

 

「ウィザード大尉。機体は大丈夫、ですか」

 

 

 ぎこちなく聞いてくるのは、ロボアニメの主人公……のはずのアスカ・カナタ。

 作業着姿の彼女は、主人公というよりは密かに人気のある可愛いモブキャラ、といった雰囲気だった。

 

 

「一応点検を頼む。割と無茶をさせているからな」

「あんな機動、”ヴァリアンス”でやっていいものじゃないです」

「ほう。”ヴァリアンス”のスペックをもう把握したのか?」

 

 

 アスカは訝しげに眉を吊り上げながら言う。

 

 

「見れば分かりますよ。スラスターも関節系も、大尉の操縦に耐えきれそうにないです」

「君はなかなかに優秀なメカニックらしいな」

 

 

 この一面は彼でも知らなかった。

 作中ではどうしてもパイロットとしての彼女しか見てこられなかったからか、メカニックのとしての、落ち着いた雰囲気のアスカを見るのは、どうにも新鮮であった。

 

 

 原作においてアスカ・カナタの中心にあるのは、”怒り”だった。

 アスカは感情に身を任せて戦う主人公、と揶揄したことがあるが、実際には()()()()()()()()()()()()()()()()と言っていい。

 

 自分が女で、弱いから、だから大切な人を亡くした。

 そんなどうしようもない現実を見ないため、がむしゃらに怒り、相手を憎み、空を駆ける――それが原作における彼女だ。

 

 

 よいしょ、としゃがみ込んで彼女はコックピットの中を覗き込んでくる。

 工具箱から検査デバイスを取り出し、コックピット内の異常をくまなく調べてくれた。

 だがその体勢はウィザード(変態)の前でするには、あまりに無防備だ。

 子供っぽい容姿の彼女だが、女性らしい身体つきは顕著であり、そうなると目のやり場に困る。

 

 だが、彼は紳士。すなわちジェントル。

 これしきのことで興奮はしない。

 

 

「大尉、鼻血ですか」

「あぁ、欲望の汁が漏れてしまっている」

 

 

 アスカはため息を吐いた。

 

 それもクル。

 

 

「なんか、大尉と話してるとバカらしくなってきます」

「似たようなことをつい最近言われたな」

 

 

 鼻腔から垂れる真紅をさっと拭いながら、数刻前の出来事を思い返す。

 

 

「……君はてっきり、”アストラル”に乗って戦場に来るものだと思っていたが」

 

 

 彼の知っているアスカについて言及すると、彼女はびくんと身体を強張らせた。

 その気だったらしい、とウィザードは目を細める。

 柔和な瞳に映るのは、後悔。つい、アズチとのいさかいに割って入り、運命(シナリオ)を歪めてしまったことに対する後悔。

 

 

「ボクは……多分、戦うのに向いてないんだと思います。ずっと、生まれてこの方機械が好きで、いじってきて、勉強してきて……ミハイル大尉みたいに、立派な女性にはなれないんです」

 

 

 語尾を掠れさせながら、アスカは工具箱をぱたんと閉じる。

 

 

「これがきっと、ボクにできることなんですよ……ボクなりの戦いなんです」

 

 

 工具箱を抱えて、その少女は口元の引きつった笑いを見せた。

 

 

 最後の言葉。それが彼女の本心だと、ウィザードはよく分かっていた。

 ()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()

 アニメ本編の彼女は、そんな願いを持った逞しい少女。怒りに身を任せ、時折――否、しょっちゅう子供のような幼稚な行為に走ることもあったが、その芯は誰よりも堅い。

 

 

 〈レギオン〉のパイロットには相応しい。

 だが、彼女なりに決心して、彼女なりの道を選ぼうとしているのを、無理に捻じ曲げることをしたくない。

 

 

 ウィザードは俯き、深々と瞑想に耽る。

 

 

「大尉……?」

 

 

 目を開くと、彼はアスカの肩を掴み、こちらへ強制的に向けさせた。

 アスカは危機を察知し、顔を青ざめたが、彼の顔を見てすぐに血の気を戻す。

 

 

「アスカ・カナタ」

 

 

 芯のある、熱を帯びたような声音はアスカの鼓膜を確かに震わせた。

 

 ()()()()()()()()()

 

 それが君の本心だ。

 だが、周りを見て、世界を見て、その非情さを知り自重している。

 

 それだって立派かもしれない――だが。

 

 

 

「自分の心に、従え」

 

 

 

 仮面で顔を隠す卑怯な男。

 だが、面と向かって、その目を見れば、阻害するものがあろうが関係なく、きちんと情熱が伝わってくる。

 

 その溢れんばかりの熱情が、一人の少女を震え上がらせる。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

《敵艦捕捉! 本艦から二時の方向です!》

 

 

 オペレーターの声と共に、”ハンドレッド”から発進した全てのゲイズチェイサが、彼女の示す方角を向いた。

 

 

 紺碧の海を闊歩する、さながら鯨を彷彿とさせるような影。

 漆黒の重装甲と重火器、そしてパイプや動力線によって無理矢理繋ぎ合わせられているように見える、前方へ大きく飛び出た巨大な砲台。

 

 

 テロリスト組織〈プライムテラーズ〉の母艦”ネオアーク”。

 皮肉にも、かつて宇宙を制していた国の名を使った船だ。

 

 

 奴らによるコロニー落としは、()()()()()()()()()()()

 ”ネオアーク”の携える巨大砲塔は、三機のレギオンのリアクターを接続し、高濃度のクレナイ粒子を射出することで爆発的な破壊力を発揮させる。

 

 クレナイ粒子には”フェーズ”と呼ばれる種類が存在し、ビームなどに転用できるのはフェーズ0。

 フェーズ0粒子自体が膨大な熱エネルギーを含んでおり、それが高濃度で射出されれば――()()()()()()()()()()()()

 

 

「グレード准尉。私に続け」

 

 

 ”ガーゴイル”に乗ったウィザードが、その戦場では非常によく目立つ赤色に塗装された”ヴァリアンス”に通信する。

 

 

《……何をするつもりだ》

「上官の命令は絶対だろう?」

 

 

 アズチは多少不服そうにしながら、赤い”ヴァリアンス”を駆り、黒き魔物の軌道を辿る。

 

 

「これは私の憶測だ。いいか? 憶測だぞ」

《勿体ぶらず言え》

「ここからあれだけの出力の船だと二時間も掛からない地点に、人類結束連盟の宇宙コロニー基地がある」

《……まさか》

 

 

 彼の憶測を聞くまでもなく、アズチは戦慄した声を漏らす。

 流石、ミハイルのおさがりを難なく操縦できるだけのパイロット。勘は働くらしい。

 

 

「聞こえたか、本艦」

《こちらブリッジ。いきなり回線を開けば聞こえるに決まっている》

 

 

 ヨハンはため息混じりに応答してくれた。

 

 

「私の憶測にすぎないが、どうだろう? グレード准尉と共に、あの船を叩かせてはくれないか」

《何っ……?》

 

 

 その言葉を聞き、横から驚愕の声が飛んでくる。

 アズチの乗機も彼の乗機も”ヴァリアンス”。高性能とは言え量産機だ。二機で母艦を落とせるようなスペックは期待できないと、彼は思っているのだろうし、実際そうだ。

 

 だがヨハンは、すぐに否定はしなかった。

 

 

《……すぐには行くな。まだあの三機が来ていない》

「それは重々承知だとも。例の三機は、バジーナ大尉が何とかしてくれる」

《とにかく、今は敵に動きを悟られないように。バジーナ大尉には私が伝えておく》

 

 

 彼の声を皮切りに、ブリッジとの通信が途切れる。そこ瞬間、アズチの怒声がコックピットに響き渡る。

 

 

《貴様、何を考えている!? いくら大尉でも、あの三機を一人で相手は――》

「いいや、彼女は()()()()()()()

 

 

 仮面の奥、ウィザードはにやり、と笑みを綻ばせる。

 原作ではこの時点で、主人公のアスカ・カナタは”アストラル”に乗り戦場に出ているが、ミスター・ウィザードの介入によりその運命は変えられた。

 

 

 だが――その運命を、たった今、自分はねじ曲げたとウィザードは確信していた。

 

 

 アスカは必ず来る。

 

 しかも原作のように怒りのままに戦うのではなく、だ。

 

原作の「反逆機兵レギオン」、読んでみたい?

  • その旨を良しとする!!(YES)
  • 私は辞退させてもらう。(NO)
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