楽しそうかどうかで決める天才、Vtuberになる。   作:夢野いくや

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少し暗い話になります。
ただ、どうしても書きたい話でしたのでこの1話だけお付き合いください。


引退したあの娘(別視点)

○東條(兎耳山)視点

 

私には親友と呼べる友達がいた。

 

同じVtuber同士ということもあり、活動での不満を話し合ったり、企画の相談が出来た唯一の関係だったと思う。

 

Vtuber黎明期と呼ばれる時期には共に支え合いながら活動していた。

 

ただ、私がVtuber事務所を立ち上げるために奔走することをきっかけに、その親友と連絡を取る機会が減ってしまった。

 

彼女のことだ、おそらく私が忙しいから邪魔をしないようにと連絡を控えてくれていたのだろう。

 

 

彼女は心ないコメントや誹謗中傷によって活動が続けられなくなった。

 

私がもっと頻繁に連絡をしていれば事前に気付けたかもしれない。

 

彼女が何か悪いことをしたというわけではない。新しいコンテンツというものは受け入れられにくい傾向があり攻撃されやすい。

 

『中身はブス』『声が気持ち悪い』といった外見や声に対する攻撃だけでなく、『お前のような無能に育てた親も終わってる』『○○さんと比べて面白くない』といった他者を含めた批判まで様々な誹謗中傷がされる。

 

ネット越しだから直接言うよりも簡単に言えてしまうのだろう。言った側はたいしたことを言っていないつもりでも、言われた側には深い傷が残るものなのだ。

 

彼女はそういった心ない言葉を上手く受け流すことが出来なかったのだ。

言葉は刃となり彼女を傷つける。

 

最終的に配信が出来なくなり、引退配信をすることなくSNS上で引退することを伝えて消えてしまった。

 

私が早めに気付くことが出来たとしたら...

 

早めに気付いたとしても何も出来なかったかもしれない。でも、もしかしたら助けられたかもしれない。

 

私はそんなに心許なかったの?

一言『助けて』って言ってくれるだけで事務所のことなんて置いて助けに行ったのに!

 

当時の後悔は今も私を苦しめる...

 

 

 

私は思いきって西園寺君に連絡することにした。

 

「話したいことがあるんだけど聞いてくれる?」

 

「大丈夫だよ。聞かせて?」

 

「私にはね、親友がいたの...」

 

そう言って私は話し出す。

 

どのくらいその親友と仲が良かったのか。

他愛もない会話で笑ったこと。

誹謗中傷に対する怒り。

何もできなかった無力さ。

今も残り続ける後悔。

 

溜まっていたものを全て吐くように西園寺君に伝えた。

 

黙って聞いていてくれた西園寺君が口を開く。

 

「東條さんはね。たぶんある程度消化できていると思うんだ。親友さんがやめるのは仕方のなかったことだったって。」

 

「でもそれは自分が考えるだけなのか、親友さんも同じ気持ちなのかがわからない。だから自分を責めるしかないんだと思う。」

 

「あとは親友さんと話すしかないよ。」

 

西園寺君はそう言った。

 

「でも、あの娘と話す方法がない...」

 

彼女は既にVtuber活動時に使用していたSNSや通話アプリを退会してしまっている。

 

「はい。これ親友さんの連絡先。」

 

そう言って西園寺君からメッセージが来る。

 

「えっ!?なんでっ!!?どうして!!?」

 

私は頭が真っ白になった。

 

「東條さんのことちょっと調べさせてもらってね。僕が事務所に所属する前の説明の時、事務所の大きさとかを気にしてたでしょ?」

 

「あの話を聞いて事務所関係または交遊関係で何か失敗があったのかと思ってね。」

 

「でも...仮にどんな過去があったのかわかってもあの娘の連絡先を手に入れるなんて出来ないでしょ!?」

 

「いや、そうでもないんだ。黎明期を支えるような人物なら色んな企画や企業案件をこなしていたはずだ。よこの繋がりが大事になる。そうなるとどこかで普段使いの連絡先とかも教えたりするもんだよ。」

 

「でも!仮にそうだとしてもその連絡先を手に入れるのなんて簡単じゃない!」

 

「もちろん簡単ではなかったよ。でも、友達が苦しんでるんだ。多少の無理ぐらいわけないよ。」

 

彼はそう言った。

 

西園寺君は学生の時から何も変わってない。

 

当時から天才だと周りに担がれ、孤高だと思われがちだった彼は優しい心の持ち主なのだ。

 

涙が次々と頬を伝い、止まらない嗚咽で喉が詰まりそうになる。何か言おうとしても、言葉が震えて形にならない。

 

胸が締め付けられるように熱くなり、ようやく出た声は、かすれた「…ありがとう」だった。

 

震える手で顔を覆って、もう一度深く息を吸い込むけれど、感謝の気持ちは膨れ上がるばかりで、次の言葉が追いつかない。

 

ただ、絞り出すように「本当に…ありがとう…」と繰り返すことしかできなかった。

 

「どういたしまして。頑張ってね。」

 

そう言って彼は通話から抜ける。

 

 

 

 

 

「もしもし?」

 

あの娘の声だ。でも、私は答えられない。

 

「もしもし?誰ですか?」

 

切られちゃう!そう思っても私の口からは言葉にならないような音しか出ない。

 

「もしかして...灯里ちゃん?」

 

「!?よく、わかったね...」

 

「わかるよ。私の親友だもん。」

 

あの娘は変わってなかった。今も私のことを親友と呼んでくれる。

 

「ハハッ。そうだね。流石私の親友だ。」

 

「...最後に連絡出来なくてごめんね。」

 

彼女は沈んだ声でそう言う。

 

「本当にね。親友の私にぐらい連絡してくれたらよかったのに。」

 

「あの時の灯里ちゃんはめちゃくちゃ忙しかったでしょ?邪魔になりたくなかったの。」

 

「邪魔なんかじゃない!邪魔になんか絶対に思わないよ!」

 

「そうだよね。ごめんね。」

 

違う!私が言いたかったのはこんなことじゃない。

 

「私が引退を決意したときさ...灯里ちゃんには言えなかった。弱い私を見せたくなかったんだ。」

 

「そうかもしれないけど...信頼されてなかったんだって落ち込んだんだよ?」

 

「灯里ちゃんのことは一番信頼してたよ。でも信頼していたからこそ、親友だからこそ言えなかった。私が弱かったんだ。」

 

「弱くないんかない!優しすぎたから!優しすぎたから嫌な言葉を受け流せなかった...あなたは誰よりも優しいから...」

 

「優しいのは灯里ちゃんの方だよ。もう引退した私のためにわざわざ連絡してさ。なんなら今の今まで自分のことじゃないのに傷付いてる。」

 

「親友の傷だもの。私が傷付くよりも痛いよ。」

 

「それもそうか。でももう気にしないで。」

 

彼女がそう言った。昔の話だから、と。

 

「そういうわけにいかない!私がもっと早く気付けていたら!まだ、まだ一緒に活動できていたかもしれない!」

 

私は当時の後悔を拭うように彼女にぶつける。

 

「もしかしたらもう少しだけ長く続けられたかもしれない。でも、多分どこかで同じように潰れてしまってたと思うよ。だから灯里ちゃんは気にしないで。」

 

「でも...」

 

「でもじゃない!」

 

「当時の活動は全部私のものなの!楽しかったことも辛かったことも苦しかったことも全部私のものなの!いくら灯里ちゃんでもこの気持ちだけは渡さない!」

 

「...」

 

活動していた時よりも強く、重い言葉たった。

 

多分彼女の中では区切りがついているのだろう。そこを私が変に掘り起こすわけにはいかない。

 

「...わかったよ。でも最後に言わせて。一緒に活動出来た2年間は私の宝物だよ。」

 

「灯里ちゃん...私にとっても宝物だよ!」

 

そう言いあって二人で当時の思い出を語り合う。

 

「そういや、この連絡先どうやって知ったの?」

 

「私の事務所の新人がね。めちゃくちゃ優秀で連絡先送ってくれたの。」

 

「え?それって大丈夫なやつ?もしかしてハッカー?」

 

「違うよ!優しい天才なの!」

 

「そっか...灯里ちゃんが楽しそうでよかったよ。これからも活動頑張ってね。」

 

「ありがとう。あなたの分まで頑張るわ。」

 

二人の会話はまだまだ終わりそうにない...

 





私はVtuberを経験したことがないのでわからないのですが、実際にもある問題だと思います。体調を崩される方多いですし。

誹謗中傷みたいなのはなくせるようなものではないんでしょうね...

Vtuberをやっている皆様が、卒業するときは前向きな気持ちで卒業できますように...
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