楽しそうかどうかで決める天才、Vtuberになる。 作:夢野いくや
○??視点
「お前って女みたいだよな。」
彼の言ったその言葉がボクをの心を締め付ける。
「??君って可愛いよね。女の子みた~い。」
彼女のその何気無い一言がボクの心を刺す。
「君可愛いね~。...ちっ!男かよ。キモいことしてんじゃねえよ!」
立ってるだけで罵声を浴びせられる。
「もしかして君って男?ありだね。いくら?」
ボクを買おうとするような男もいる。
ボクが何か悪いことをしたのだろうか。
何もしたつもりはないのに、世界はボクに優しくない。
だからボクは自分の殻に閉じ籠ることにした。
たまに殻から出ては外に絶望してすぐに引っ込む。
そんな自分を変えたいと思っていた。
そんなある日、Vtuberに出会った。
彼ら彼女らは自由に見えた。
コメントと楽しそうに会話していた。
Vtuber同士で楽しそうに会話していた。
自分もやりたいと思った。
だから『メモプロ』に応募した。
『メモプロ』のみんなは優しかった。
でも自分はまだ変われてない。
変わりたいと思ったのに。
変われると思ったのに。
どうしても前に出るのが怖くなって、
拒絶されるのが怖くなって、
否定されるのが怖くなった。
みんなと何が違うんだろう?
見た目?
声?
みんなは可愛いって言ってくれた。
社長も可愛いって言ってくれた。
先輩も可愛いって言ってくれた。
同期も可愛いって言ってくれた。
後輩も可愛いって言ってくれた。
でも、欲しいのは可愛いじゃない。
ありのままのボクを。
このままのボクを。
誰か...
今日もボクは仮面を付ける。
この仮面は誰のためのもの?
相手に嫌われたくなくて笑った顔を
相手に嫌われたくなくて泣いた顔を
相手に嫌われたくなくて外面のいい顔を
自分を嫌いたくなくて変わらない仮面を
今日も仮面を付けて踊ろう。
だってみんながそれを求めるから。
だってボクがそれに応えるから。
だってボクはVtuberだから。
○??視点
今日は打合せの為、事務所に行く必要がある。
ボクは誰かと関わるのが得意じゃない。
特に男性と関わるのが得意じゃない。
昔のことがトラウマなんだろうか?特にグイグイ来るような人が苦手だ。
白石先輩もいい人だってことはわかってるのに、声をかけられるとどうしても固まってしまう。
だからボクのマネージャーさんは女性にしていただいている。
さて、今日も仮面を付けて出掛けようか。
余計なことを言われないように。余計なことを言わないように。
「...ということで、再来月にイベントを行いますので、その為の準備をお願いします。」
「わかりました。」
今日の打合せもそつなくこなせたと思う。
それじゃあ帰ろうか。
そう思って打合せスペースから出ると、誰かにぶつかった。
「いてっ。」
「大丈夫ですか?こちらの不注意でした。すみません。」
そう謝って来たのは高身長のイケメンだった。アイドルかな?
「もしかして、花新發瑞樹(かしばみずき)先輩ですか?」
「えっ?...あっ、ど、どうして?」
「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。僕の名前は『西園寺侑人』、『セラヴィス·アークバルト』として2週間前から活動させていただいております。」
「あ、ど、どうも。し、新人君だったん...だね。ボクは『花新發瑞樹』。よ、よろしくね。」
「はい。よろしくお願いします。」
び、びっくりした~。
まさか後輩君と鉢合わせるとは思わなかった。ボロが出る前に引き上げようかな。
「...~そ、それじゃあ...」
「花新發先輩、よかったらそこのラウンジでちょっとお話しませんか?」
「...い、いいよ。」
流石に2週間前に入ってきた後輩のお誘いを断るわけにもいかず、ついていくことにした。
「お時間とっていただきありがとうございます。」
「だ、大丈夫だよ。」
よかった。セラヴィス君はそんなにグイグイ来るわけではく、適度な距離感をもって接してくれているようだ。
「花新發先輩は現実とVtuberとしての見た目と結構似てるんですね。」
「そ、そうかな?あんまり男らしくないんだけどね。」
「そんなことない。とは言いませんが、男らしくある必要は別にないと思いますよ。人それぞれです。男らしくないなんて言ってくる人のことは気にしなくて大丈夫です。」
「そう?あ、ありがとね。」
セラヴィス君はボクのことを可愛いとか男らしくないとか言わないんだ。
「そういや、花新發先輩は何故Vtuberになろうとしたんですか?」
セラヴィス君なら言っても大丈夫かな?
誰かに聞いて欲しくもあったし...
「ぼ、ボクはね自分の見た目が好きじゃないんだ。昔から女の子みたいだって言われ続けてきてね。実はちょっと嫌な思いもしたことあるから男の人は苦手なんだ。
で、そんな自分を変えたくてVtuberになったんだ。」
「なるほど。先輩はなりたい自分に変われましたか?」
「いや、全然...結局男の人は苦手なままで、みんなが求めるVtuber像を演じようと頑張っているだけだよ。」
「...それって演じないといけないものなんですか?」
「え?」
「誰かに言われたからやる。誰かが求めてくるからやる。そんなことをする必要はないと思いますよ。先輩は男らしくなりたいんですか?」
「え?だっ、だって昔から男らしくないって言われてきたし...」
「僕は誰かにこう言われたからみたいなのを聞きたいわけではないんです。先輩がどう思っているのかを教えていただきたいんです。」
そうは言われても...
「...先輩は可愛いものとか好きですか?」
「え?でも男の子らしくないし...」
「僕の知り合いに見た目が結構厳つい男がいるんですが、そいつの趣味がシルバニアファミリーなんですよ。その趣味を知ったやつは指さして批判するんですよ。『厳つい見た目の癖に人形遊びなんてキモい』って。」
やっぱりそう言われるんだ...
「まあ、その場に僕がいたらすぐに否定してやるんですけどね。人形遊びが趣味で何がおかしいんだって。シルバニアファミリーで遊んでる彼、凄くイキイキしてるんですよ。まるで幼稚園児や小学生かのように。」
「人の幸せを否定するようなやつにろくなやつはいません。そんなやつの言うことに耳を傾ける必要なんてないんです。」
「......」
ぼ、ボクは...
「改めて聞きます。先輩は男らしくないと言われた赤の他人の言葉を別にして、可愛いと言われるのは嫌いですか?」
「...ボクは男らしくならなくちゃって。可愛いって言われるのは男らしくないからだって。可愛いものが好きなのも男らしくないからダメだって。ずっとそう思ってた。」
「そんなことないですよ。男なのに可愛いものが好きで何が悪い。男なのに可愛くて何が悪い。なんなら可愛さは武器ですよ。強力な武器です。Vtuberなんて個性を出してこそ。その時点で他人より一歩リードしてるんです。なんなら神様に感謝ですね。」
セラヴィス君の言葉がストンと僕の心に落ちてくるのがわかる。
多分本当に僕のことを考えてくれてるからだろう。
「...ありがとう。実は可愛いものとか好きなんだ。可愛いって言われるのも嫌じゃない。でも、男らしくないからって無理やり嫌だって思ってた。でもそんな必要ないんだね。」
「そうですよ。可愛いは正義!花新發先輩は正義のヒーローです。お?男らしいじゃないですか!正義のヒーローですよ!」
「ハハッ!なにそれw」
「うん。笑ってる先輩、素敵ですよ。」
「っ!も、もう!こっちみないで!」
「そうはいきません。僕は後輩なので先輩をよく見て育つのです。」
可愛くない後輩が入ったものだ。
人の気にしていることに適度な距離感でつついてくる。優しい後輩だ。
「さて、先輩は可愛いを認めることが出来ました。つまりこれからはリスナーの求める可愛い『花新發瑞樹』を無理せず、自を出しながら出来るってことです。これは強いですよ。リスナーもこれまで以上に楽しめるし、花新發先輩ももっと楽しめる。win-winです!」
「...セラヴィス君ってこんなに喋るんだね。配信の時と違くない?」
「?素の自分はこんなんですよ。僕がVtuberになった理由を話してなかったですね。」
「僕は多分世間一般の言う天才ってやつなんだと思います。音楽だって歌だって、絵画や運動もある程度練習すればこなせてしまう。でもそれって少しずつ上手くなる楽しみが他人よりも少ないってことなんです。だから、僕は楽しそうなことがないかなと思って色々探してました。」
「そんな中見つけたのがVtuberでした。Vtuberの配信って配信者一人では成り立たないんです。コメントも含めて一つの作品なんです。今まで誰かと一緒にという経験が少なかったのでやってみたいなと思いVtuberになりました。」
「ボクと一緒だね。誰かと一緒にっていうのはボクも経験が少ないんだ。」
「せっかくですし、経験少ない同士でコラボでもしますか。」
「そうだね。明日とかにでもする?」
「いいですね。そうしましょう。」
そう言ってボク達は予定を詰めていく。
今までの男らしくない自分が嫌いだった。
可愛いものが好きな自分がダメだと思った。
男らしくならなくちゃって無理をした。
でも、そんな必要なかった。
君がボクを肯定してくれたから。
ボクは少しだけ変われたよ。
なろうとしていた自分じゃないけれど、なりたい自分には近付けた。
ありがとう。ボクはボクを少しだけ好きになれそうです。