戦争というものが馬鹿馬鹿しいものだという認識は人々にとって共通の認識だと言われている。だがそれは事実なのだろうか。
本当に人々がそう考えているとして、ならばなぜ戦争は起こってしまうのだ?
1年戦争と俗に呼ばれている戦争は、ジオンが独立を認めない連邦に対して業を煮やしたことから始まったと聞いたことがある。私の記憶に鮮明に焼き付いてしまったグリプス戦役も、その復讐のために参加した第一次ネオ・ジオン抗争や第二次ネオ・ジオン抗争も、それと似たような馬鹿馬鹿しい理由で始まった。つまり、戦争というとるべきではない手段を、人はただ我慢ならなかったという理由だけで使ったのだ。
だが私は、人が本来そんなものを望んでいるわけではないと信じている。第二次ネオ・ジオン抗争のあの時、実験的に秘密裏に作られた存在としてあの戦争に参加したあの時、私は見たのだ。サイコフレームの光を。敵味方関係なくアクシズを押し返したあの光を、私は見ていたんだ。
シャアというお題目やその周りを囲んでいたやつらが死んだ今、戦争は終わるはずだった。あの光を理解できないジオンの連中はみな死んだのだから。
だがそれで終わりではない。まだジオン残党軍と今は呼ばれている奴らが残り、連邦を中心とした体制を再び覆そうとしているのだと、私の今の持ち主は言っていた。
きっとまた戦争が起こる。だから私はそれを止めたいのだ。だから何としてでもその『箱』と呼ばれるものを、手に入れなければ。
♢
考えていた物事を頭から追い払い、改めて艦橋の外から見える景色を見る。
インダストリアルセブンと呼ばれる作りかけのコロニー。そこに私の持ち主が求めている『箱』がある。
「...あそこに、箱が...」
「モビルスーツ隊はコロニーの入り口に張り付かせている。例え袖付きが情報通りに中にいたとしても、奴らをこのコロニーから出すなんてことはないはずだ」
「何よりです、オットー艦長。ですが油断は禁物ですよ。何せ相手は袖付きです、何をしてくるかわかりませんから。例えばコロニーの占拠とか」
「さすがのテロリストどもでもそこまでするとは思えんが...それはそうと『箱』とやらの正体をそろそろ教えてもらっても? 君は知ってるんだろう?」
そう言ってくるオットー艦長に私は少しため息をつく。
「何度も言っているでしょう、あの中身については教えられません。あなた方はあれを入手することだけを考えていただければいいのです」
「いやしかし...はぁ、その感じだと、何を言っても無駄なんだろうな」
「ええ、申し訳ありませんが」
目線を私から外しながらそう言うオットー艦長のその言葉に、私は少し申し訳なくなる。
協力してくれている軍の人だ、教えるのが義理というものだろうが、私自身もあの方から箱について詳細を聞いていない。だから彼らに教えることはできないのだ。
「少なくともあの箱を袖月が手に入れてしまえば連邦が根底からひっくり返ってしまうのは確かです。何としてでも手に入れなければ」
「失礼します、お二方。コロニー周りで戦闘が。どうやら袖付きの物だった様子です」
「レイアムか。被害は?」
「ごく軽微です。ただ少なくとも、袖付きの母艦が中に潜んでいると考えられるでしょうね」
「では予定通りモビルスーツ隊を中に送り込め。...君にも行ってもらうとしよう。中佐待遇のパイロットの力、見せてもらおう」
「了解しました。では失礼します」
艦長の言葉に私はブリッジを後にして真っ直ぐモビルスーツ格納庫へと向かう。
そう長い道のりでもなくあっさりとたどり着き、私はそこに収容されている自分のモビルスーツのコックピットへと向かう。
「はぁ...よし。今回もよろしくね、8号機」
私の言葉にもちろんそれが言葉を返してくれるわけもないが、少しばかりの満足感とともに私はそれへと乗り込む。
この8号機は第二次ネオ・ジオン抗争が終わった後、あの方に拾われた私に与えられた機体だ。あの方が言うにはグリプス戦役時代の型落ちに少しばかり強化を施したものという話だったが、当時私のような強化人間に向けて作られたものということもあり、実験機どまりであったロズウェルジェガンよりは柔軟に動いてくれるように感じているため、私はこれを気に入っている。それに何より、徹頭徹尾無機質だったジェガンとは違い、この機体は少しばかり暖かく感じるのだ。
そんなことを考えつつ、カタパルトに機体をセットすると、ブリッジのミヒロ少尉との通信がつながる。
「カタパルト準備よし、出撃方向に味方機影なし。...無事に帰ってきてね?」
「大丈夫ですよ、ミヒロさん。これでも私、凄腕パイロットなんですから」
「...ガンダム八号機、発艦お願いします」
「ガンダム八号機、レイン。行きます!」
スラスターに火を入れると同時にカタパルトが動き出すと、私の体に重力の負荷が一気に来る。
この慣れ親しんだ感覚は嫌いじゃない、自由に空を飛んでいる感触があるから。
そんなことを考えながらコロニー入口にとりつく味方に向かっていくと、ちょうど入る直前だったのかコロニーの入り口が開く。
だが私はそれに悪寒を覚えた。
「っ、そこのジェガン! そこから離れて!」
思わずそう叫ぶが、そこにいたジェガンはコロニーの入り口から現れたファンネルに撃ち抜かれ、無残にも爆散してしまった。
悪寒の正体は相手のファンネルのものだったのだ。
「くそっ...、全機私に続いてください、相手はファンネル持ちです、なるべく私が押さえますから皆さんは自機の周囲を警戒してください!」
私は周りにそう言ってから開かれたコロニーの入口へと向かう。
おそらく相手が開いた穴を二つ潜り抜けると、コロニーの中で待ち受けていたのは緑色の4枚羽を持った特徴的な機体であった。
「あれがさっきの...!」
相手が驚いているような感覚を覚えるが、それを無視し腕部走行につけられたグレネードランチャーを放ちつつ一気に近づく。
ファンネルに対処する必要はない、こうして一気に肉薄してやればよほどの操作精度を持っている相手でもなければ誤射を恐れて使えないはずだ。あとはただの白兵戦と変わりない。
ビームサーベルを振り下ろすが相手も同じようにビームサーベルでそれを受け止める。
二連、三連と振るうが相手もうまく受け止めてくる。
「こいつ、スキがない...なら!」
私は抜いていない腕部サーベルの一つを起動し、トンファーのようにしてそれを突き刺そうと試みる。
だが相手はそれすらも見えていたのか、突然4枚の羽根が動いたかと思うと高出力のスラスターによって私を押し出した。
「クッ...まだ、まだ!」
体勢を崩した私に相手はサーベルを振り下ろさんと向かってくるが、それに対してバルカンでけん制しつつ虎の子であった武装を起動する
「ファンネル!」
8号機の肩に羽のようにして取り付けられたそれらが私の声に応じて一斉に動き出す。
それに対し相手は緑羽を用いてファンネルの射撃を防ぎつつ事前に展開していたであろうファンネルを私のそれにぶつける。
ファンネルを操作する瞬間は集中する必要がある。相手の的が小さければなおさらだ。
ならばそのファンネルを操作する瞬間こそが隙になる。
「やるなら今!」
グレネードランチャーの残弾を吐き出しながら、トンファーとして使っていたビームサーベルを抜き放ちサーベル2本でファンネルが撃ち合っている中を一気に近づく。
だがそれを見た相手は一枚上手だった。
その羽を使ってファンネルの攻撃を防ぎつつ、突っ込んできたのだ。
「噓っ!?」
それなりの速度で突っ込んできたそれがコックピットにぶつかる。
接触したかと思えば、その衝撃が一気に私に向かって走ってきた。
「ぐうううううっ!!!」
一瞬視界が暗転したかと思えば、私はコロニーの地面へと墜落していた。
緑色の機体は友軍をせん滅しながらも何かを探しながらコロニービルダーの方向へと飛んで行った。
友軍の彼らではあの機体を抑えることは難しいだろう。
「わたしも...っ!?」
機体を起こそうとレバーに手をかけた時、体の内側から何かがせりあがってくるような感覚を覚える。
それを何とかこらえるが、私の視界は点滅したままであった。
「はぁっ、はぁっ...使いすぎ、かな..」
『レインちゃん!』
呼ばれた方向を見れば、一機のリゼルが下りてくるところだった。
見覚えがある、あれのパイロットは確か...
「リディさん?」
『よかった、生きてたか。墜落したって聞いてびっくりしたよ。大丈夫か?』
「ええ、何とか。...ただ少しばかり、動けなさそうなので、おいていってください。数分も待っていれば...戻るでしょうから。あなたは任務の優先を」
『...分かった、気をつけろよ』
「そちらこそ、リディさん。4枚羽は、なかなか厄介でしたから」
リディさんの機体が飛び立つのを見送ってから、私は再び背もたれに体重を預けてから、いまだ響く動機を抑えるため懐を探り、小さな箱を取り出す。
無機質な鉄の箱に写真が張り付けられたそれのふたを開け、中の注射を取り出すと、ヘルメットを取り首筋に打ち込む。
「く、ううう...はぁ、はぁ..」
それの効き目はそれなりにあり、徐々に明滅していた視界が落ち着き、動機が収まる。
これがなければ、私はファンネルを操るたび死にかけることになるのだ。
「失敗作の強化人間たる所以、てことか...はは」
自分の無様さに少し笑っていると、コロニーの中心部を二つの機体が通り過ぎていく。
一つは私を落とした4枚羽。そしてもう一つは。
「純白の...なに、あれは?」
連邦の機体ではないはずだ、あんなものを私は見たことがない。それに何か、強い意志を感じる。無機質ではない...私の8号機と同じようなものを。
何より早い。普通のパイロットでは耐えられるわけがない速度で4枚羽を押し出していく。あっという間に2機はコロニーの外へ飛び出していった。
本来『箱』を手に入れる場所であったはずのコロニービルダーから現れた、連邦のものではない特殊な機体。
まさかあれが...?
「っ、そんなこと考えている場合じゃないかな、さっさと艦と合流しないと...」
位置情報によれば生き残った大半のモビルスーツはすでに艦と合流しているらしい、おいて行かれてもいいと少し考えていたが...あんなものがあるならおいて行かれるわけにはいかないだろう。...あの方のためにも、あれは絶対に手に入れなければならない代物だ。
生きていたスラスターを起動し倒れていた機体を起こしてから入り口に向かって飛び立つ。
あの2機が明けていった穴をたどって外へ出てみれば、純白であったその機体と4枚羽が戦っているところであった。
そう、純白であった。その機体は体を変形させ、見覚えのある姿へと変わっていたのだ。
「あれ...ガンダム...?」
特徴的な2本の角にツインアイ。純白だったそれは面影もなく、強い力を感じる何かを露出させ赤く光り輝いていた。
そんな2機の戦いに見惚れていると、母艦、ネェル・アーガマから通信が入る。
『レイン中佐! 生きていますか!?』
「ミヒロさん! 私は大丈夫です、だけどあれは..」
『レイン君! どういうことだ、あれについて何か聞いていないのか!?』
オットー艦長が通信に割り込んでくる。だがあれについては私も何も聞かされていないのだ。
「...私も何も聞いていません、ですがあれはビスト財団の屋敷があった方角から現れた、であれば『箱』に関係があってもおかしくはないと思います」
『ブリッジ! ガンダムタイプの姿が元に戻っていきます! 機能停止している模様です!』
「...艦長、あれを回収するべきだと思います」
『...仕方あるまい。モビルスーツ隊に回収させろ! 君も艦に戻ってきなさい』
「了解です」
その言葉とともに通信が切断される。
しかし、ガンダムとは。私の乗り込むような古い物とは違う、新しいガンダム。一体あれは箱とどうかかわっているのだろう。
そんな疑問を胸に、私は補給と休息をするためにネェル・アーガマへと戻っていくのだった。
レイン
年齢:16
階級:中佐
性別:女
グリプス戦役中に開発された古いモデル、ガンダム8号機に乗り込むパイロット。
グリプス戦役にて民間人として被害にあい、父と母を失う。その後第一次ネオジオン抗争から連邦軍として参加し目まぐるしい戦果を挙げたとされ、連邦軍の実験機を扱う部隊へと配属、その時実験機への適合を目的として比較的安全とされている強化手術を受けている。
性格は活発で誰にでも好かれる人物である。