ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活   作:Radrabbit

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操奈さん、これが過去回想だよ
過去回想、これが操奈さんだよ


12話 夢と幻の境界で

 馬鹿な自分のせいで全てを失ってしまった過去を、私はどうやって償えばいいのだろうか。

 あの日と同じ薄暗い曇天を見上げながら思索に沈む。マリさんはいつも「君のせいではないよ」と慰めてくれるけれど、心の底に沈んだ罪悪感は私に深く刻みこまれたまま抜けてくれそうにない。

 

“・・・見上げる?あれ、マリさん?”

 

 微かな違和感から周囲を見渡せば、自身の思い通りに肉体を動かせている不自然さが際立つ。見渡す限りの街並みはいつも見る景色と同じでなんの異変も感じられないけれど、どれだけ声を掛けてみてもマリさんからの返事が返ってくる様子は無い。

 今の私はマリさんが主体で主導権は沈んでいる状態なのでこうして身体を動かす等ということは不可能な筈なのだが、一体何が起こっているのか。

 

“あれ、私が窓ガラスに映っていない・・・何なんでしょうかこれ”

 

 自分の目で見れば身体が消えているということもない。黒から真っ白に色が抜け落ちた髪も血色の薄くなった肌色もそのまま。こうなって以来ずっと一緒にいたマリさんだけが居なくなっている。

 仕方がないので通りを歩き回って人に声をかけてみても全て空回り。まるで私一人だけが世界から取り残されたように誰も私に気が付かず会話も成立しない。

 

“透明人間?・・・あ、もしかして夢でしょうか”

 

 夢だというならもっと都合良く楽しい内容にしてくれればいいのに。それとも明晰夢ならこんなものなのだろうか。

 目的もなくただふらふらと街の散策を続けてみる。昔通った覚えのある歯医者にレストラン、子どもが疎に走り回って遊んでいる公園。そのまま通りを真っ直ぐ進んで行けば自分が通っていた中学校が見えてきた。

 いつもなら顰めっ面で無愛想な熊の異形系の守衛さんが警備している筈なのだが、今日はその姿が見えない。

 

“・・・あ、マリさん!私ですよ私!操奈です!”

 

 敷地に入って中を覗いてみれば守衛さんとマリさんが何やら話し合っていた。すかさず声をかけるがマリさんが私に気が付く様子は無い・・・少し腹が立ったので思い切り抱き着いてみても、やはりすり抜けるだけで触れ合うこともできやしない。

 

“・・・思っていたよりずっと小さいですね・・・”

 

 残念ながら抱きしめることは叶わなかったが、隣にそっと並んで見つめてみればその小ささに驚く。

 顔をまじまじと観察してみればかなり小さい・・・というか小さ過ぎやしないだろうか。まるで小学校の頃の背丈のまま全然成長しなかったクラスメイトを見ているみたい。

 やはり何度考えてもこの身体は訳ありなのだと思うが、マリさんが何も言わないなら私も口を出さない方がいいのだろうか。

 

「すみませんアルケミーさん。こんな所まで修理していただいて・・・」

「いえいえー、ちょっとしたお礼なのでお気になさらず」

 

 守衛さんから礼を告げられニコニコと可愛らしい笑顔で応答するマリさん。学校から何か施設の修理依頼でも受けていたのかな。

 それにしても守衛さんがここまで和やかな表情しているの初めて見た・・・あ、サイン貰ってる。この人マリさんのファンだったんだ。

 

「っと、ちょっと急用ができたので僕はこれで。また何かあればアルケミー事務所までよろしくー!」

「えぇ、機会があればぜひお願いします」

 

 無線か何かで連絡が入ったマリさんが会話を打ち切りコートから大きな鷲のようなゴーレムを錬成して飛び乗った。

 慌てて私も乗ろうとするが鷲をすり抜けて地面に落ちる・・・なんで地面は歩けるのに乗り物には乗れないんですか!

 

“ちょっ、ちょっと待ってください!私もそれに乗せて・・・えぇ?”

 

 空に飛び立ったマリさんに置いていかれるかと思っていたが、何故かそのまま引っ張られるようにしてマリさんの後ろを追従していく。

 自分は動いていないのに景色だけが高速で流れていく様は新幹線の窓の外を見ているのに似ている。浮遊感と爽快感がアトラクションみたいで少し心地よいけれど、私が高所恐怖症だったらこの夢はどうするつもりだったのだろう。

 

 

 

 少しの間マリさんと空のフライトを楽しんでいれば、この薄暗く街並みを灰色に染めている曇天の下で目立つように赤く燃えている一軒家が視界に入ってきた。

 

“あぁ、そっか・・・この夢、あの日のマリさんの記憶なんだ”

 

 景観が良いからとお父様がやたらと緑を増やしていた庭も、お母様が見せつけるように無駄に廊下に飾っていた絵画も、何もかも全てを薪にして炎が赤く燃え盛っている。

 私とマリさんが死んだあの日。偶々両親と喧嘩して家出してやろうと影に隠れて逃げていたあの時。

 突然現れた燃え盛る炎と両親の怒声に怯えてずっと影の中に隠れていた。視界一面を埋め尽くす黒煙と轟々と赤く染まる世界が恐ろしくて、震えている間にいつのまにか私は意識を失っていた。

 

 炎から逃げずに両親の元へ逃げていたら、偶々あの日に両親と喧嘩して影に隠れていなければ、たらればを考えれば幾らでも思いつく。

 けれど全ては終わってしまったことだ。今更何を思ったところでどうにかできることじゃない。

 

 でも、あの日マリさんがどのようにして死んでしまったのかを私は知らない。

 混濁して曖昧になっていた意識の中であの人が私を助けようとしてくれていたことだけを辛うじて覚えている。

 今更何かが変えられるわけではないけれど、私のせいでマリさんが死んでしまったのだとしたら。この記憶で私は彼に何があったのかを知らなければならない・・・いや、知りたい。

 

「要救助者の確認は?」

「──アルケミーか!?助かった!恐らくまだ中にいる筈ですが、炎の勢いが強すぎて入れない!他のヒーローの救援もまだ暫く時間が掛かるそうです!」

「わかりました。僕のゴーレムを突入させて内部の確認と救助を行います。皆さんは引き続き消火を」

「承知しました。それと建物が崩れないよう補強をお願いします!」

 

 消防隊が水を勢いよく振り撒いて消火に務めているが依然炎が弱まる様子は無い。マリさんは造り出した動物型のゴーレムを未だ炎の勢いが収まらない家の中に送り出し、見るからに熱を持った建材に手をついて崩れ落ちそうな箇所を錬成で補強していく。

 

 ものの数分で崩れ落ちそうな建物が再構築されていき、不燃性の組成にでも錬成したのか炎の勢いも少しづつ小さくなっている。端を見れば庭の木々もいつの間にか幹が白く染まって火が消えていた。

 そうして家を焼く炎の勢いが随分小さくなってきた頃、中から煤けたゴーレムが黒く焼け焦げた塊を二つ運び出してきた。

 マリさんはその炭化した物体を見て一瞬だけ痛ましい表情を浮かべた後、錬成したブルーシートでそれらを包んで人目につかない場所へそっと置いた。

 

“・・・・・・あ”

「これは・・・」

「火災の発生は15分前で間違いありませんか?」

「は、はい。まだ発生から20分も経過していません・・・ですが」

「えぇ、被害者の御身体が炭化するまでがあまりにも早すぎますから、火災発生前に殺害された可能性が高い。それに恐らくこのご家庭にはもう一人お子さんがいる筈ですが、その子だけが此処に居ないのは怪しい」

「つまりこの火災は誘拐のカモフラージュだと?」

「可能性はあります」

 

 彼等の話し合いの最中に青い袋へ運ばれてしまった二つの炭塊はもう私の目には見えなくなってしまった。隠すように彼が連れて行ってしまったから、私はほんの数秒しか彼らのことを見れなかった。

 

“お母様・・・?お父・・・様・・・?”

 

 無意識に可能性から排除してしまったのだろうか。両親の結末なんてとっくに知っていた筈なのに、あの数秒では真っ黒に焼け焦げた物体を人間だと認識することが出来なかったから。

 あの黒い塊の何処が頭だったのだろう。何処が顔だったのだろう。どちらがお母様でどちらがお父様だったのだろう・・・黒焦げの塊を見ても、何一つとしてわからなかった。

 

“──────!!!!”

 

 考えるより先に体が動いていた

 

 慣れない全力疾走でブルーシートの前に駆けつけて膝を付く。そして顔を確認するために青い布を捲ろうと手を伸ばして──すり抜けた。・・・すり抜けて、しまった。

 

は・・・・・・?

 

 

もう一度手を伸ばしても布に触れなかった。

 

もう一度手を伸ばしても布に触れなかった。

 

もう一度手を伸ばしても布に触れなかった。

 

もう一度手を伸ばしても布にさわれな───

 

 

「僕はこれから不審な痕跡を追跡します。後の対処をお願いできますか?」

「構いません、どうかお気を付けて」

 

“───マリさん?”

 

 背後を振り返れば炎の鎮火を終えた彼が消防隊員に声を掛けて場を離れようとしていた。これがあの日の記憶なら、きっとこのまま私の家を焼いたヴィランを追いかけて死んでしまう。

 

“ま、待って・・・待ってください!!”

 

 声は届かない。言葉は伝わらない。肩を掴んで止めることすらできやしない。

 当然だ、だってこれはマリさんの記憶を夢という形で追体験しているだけで実際に此処に私がいるわけじゃない。・・・私にこれから死に行く彼の足を止めることは不可能なんだ。

 無力な私が呆然と後ろ姿を眺めている内に、彼はテキパキと追跡の準備を進めていた。

 

「さ、皆頼んだよ」

 

 犬獣型の探索用ゴーレム──追跡者(チェイサー)を複数放ち、彼等は焼けた家に残った痕跡の辿って風のように街へ駆けていく。

 そして数分もしないうちに手掛かりを見つけて彼の元へ帰ってきた一体の追跡者(チェイサー)と共にマリさんはヴィランの追跡を始めた。

 

 

 

 

「そこか」

 

 下手人は想像していたよりずっと直ぐに見つかった。飛翔型ゴーレムに乗って高速で移動する彼の機動力と追跡者(チェイサー)の追跡能力が組み合わされば、高速移動できる個性でも使わなければ逃げ切ることは難しいのだろう。

 軽く目を凝らしてもまだ私にはよく見えないけれど、マリさんにはハッキリと相手の姿が見えているらしい。

 

「周囲空間への擬態・・・カメレオンみたいな個性か。衣類や他者にまで影響を及ぼせるとはね」

“確かに、近づいて見れば不自然に揺らめいている空間があります・・・ね”

 

 距離が近づくに連れて徐々にそれへの違和感が浮き上がってくる。曇天でやや暗いことも相まって把握しにくいが、じっくりとそこを凝視すればぼんやりと輪郭がわかってきた。

 純粋な人型ではなく何らかの異形系。巨大に発達した頭部にはギョロリと焦点が絶えず揺らめいている大きな眼球が付いており、腰からは長く頑強そうな尻尾が伸びている。

 無理矢理人間をカメレオンに改造したらこんな見た目になるのだろうか。異形系の人は過去に何度か見たことはあるけれど、ここまで人間離れした姿は見覚えがない。

 

「殺人、放火、児童誘拐、仮に初犯だとしても相当重いよ。タルタロスにぶち込まれたくないなら今ここで自首することをお勧めするけど」

“誘拐・・・ぁ、私・・・?”

 

 そう言ってヴィランの眼前に降り立つと追跡者(チェイサー)を密やかに展開し徐々に包囲を進める。奴の手元を見れば不透明な女の子──私が抱えられていた。

 ヴィランはマリさんの問いかけに首を向けたものの、直ぐに振り返って逃走を試みる。

 背後へ回り込んだ複数の追跡者(チェイサー)が噛みつきにかかるが、ヴィランは欠片も怯むことなく噛みついた追跡者(チェイサー)を軽々と片腕で吹き飛ばした。

 

「そう軽くあしらわれるのは結構ショックなんだけどなぁ」

「・・・・・・Gi?」

 

 ゴーレムを不快に感じ排除対象として認識したのかヴィランは足を止め、その歪な造形をした眼を此方へと向けて小さく鳴き声を上げた。先程まで朧げな輪郭を映していた空間は急にペンキで色が塗られたかのように透明度を失い、これまで隠されていた肉体が明瞭にその姿を出現させる。

 敵に先手を打たせるまいとマリさんがコートに掌を触れた瞬間──ヴィランが視線を彼へ向け、牙の生え揃った口から業火を放った。

 

「あ゛ッッつい!!君ちょっとそれズルじゃない!?最近の世代ってそんなインチキ個性なのかな!?」

“見るからに欠けた知性と能力のバラつき具合を見るに・・・これも脳無、なのでしょうか”

「hi fi?」

 

 咄嗟にしゃがむことで脳無のブレスを避けたマリさんが再度ゴーレムを展開して攻め立てる。しかし造り直したゴーレム達は殆どが軽く薙ぎ払われるだけで破壊されていた。

 

「んー・・・加減は無理そうだね」

  

── 贋作決死隊・猟犬(フィクティム・ハウンズ)──臨界駆動(オーバーロード)──

 

 より頑強な犬獣・・・いや、狼獣型に姿を換装したゴーレム達が全身から燐光とスパークを溢れさせながら飛びかかる。

 一体が脚に組み付き、別の狼獣型が私を抱えている腕を引き剥がしに噛み付いた。残りのゴーレムも次々と爪と牙を突き立て、四肢を抑えて脳無を拘束していく。

 

「phb!!pajf??」

「・・・よし、そのまま警察来るまで大人しくしといてね」

 

 先程よりずっと硬く頑丈に生み出された彼等の破壊に脳無は手間取っていた。一体を引き千切る合間に三体の猟犬(ハウンズ)が彼に飛び掛かり拘束を固めていく。それでもなお足搔き続ける脳無はその頭を真上に向け、鋭利な牙の生え揃った大口を広げた。

 

「GYOAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

「うる──ッさい!!!ねぇ君さぁ!!まさか薬物とかやってないだろうねぇ!?」

 

 全身をゴーレムに組み付かれた脳無が耳をつんざくような咆哮をあげる。あまりの爆音に思わず身がすくみ耳を抑えて屈んでしまった。

 けれど音の反響がダメージに繋がらないゴーレムの動作に支障は無いし、マリさんも堪えて私を背後に移動させつつ拘束器具を錬成しゴーレム越しに脳無へ巻きつけていっている。

 ・・・このまま行けば捕縛は出来そうに見えるけれど、実際には何かが原因で失敗に終わってしまう筈だ。

 

「Nya?」

「ぐ、あ゛ッ!?」

“マリさん!!”

 

 突如として薄暗い空から落雷のような速度で何かが飛来し、マリさんの小さな背に突き刺さった。空から落ちてきた彼は灰色の人型をした醜い異形で、その背には大きな翼を二対備えていた。

 恐らく脳無であろう彼は貫手のような構えでマリさんの背中に右腕を突き刺し、その身体をまるで障子でも破るかのように容易く貫通している。

 突き抜けた手首から溢れるように血が流れ出していて、その傷が否応なく致命傷であると理解させられる。

 

“ぁ・・・・・・そんな・・・・・・”

「─────ぁ、ふ・・・・・・ぃ」

 

 マリさんが口をパクパクと開閉し何かを喋ろうとしていたけれど、一つとして言葉は形にならず喉奥から溢れ上がってきた血の海に押し流されていた。

 赤く染まった両手でどうにか貫手を外そうと弱々しく足掻くが脳無は欠片も動じない。

 夥しく溢れる血液が彼の薄墨色のコートを上書きしていき、ゆっくりと地面に赤い水溜りを作り出していく。

 その合間にもカメレオン型の脳無が自分を抑えていたゴーレム達を弾いて叩き潰していた。この状況が続けば間違いなくそのまま彼は死に追いやられてしまうだろう。

 

「──ッ・・・ぅ・・・・・・」

 

 やがて抵抗が弱まり彼の体躯から力が徐々に抜け落ちていく。流れる血液と比例するように肌の血色が薄くなっていて、段々と彼が死人へ近づいているのがわかってしまう。

 

「・・・ぉ・・・ぁ・・・・・・」

「Isv@3d!?」

“・・・?右腕が、崩れ落ちている・・・?”

 

 異変を感じて注視すればマリさんの身体を貫通していた飛行型脳無の腕が、末端から手首の辺りまで綺麗に消失していっている。

 彼は消えた己の肉体に驚愕したのか威嚇するように身を離し、残った片腕をマリさんに向けていた。

 

「・・・っの、ふーっ・・・・・・マジで、ふぅ・・君、僕じゃなかったら・・・・・・死んでるんだけど?」

“だ、大丈夫なんですかその風穴!?”

 

 慌ててマリさんに駆け寄って身体を見れば、先程貫通して大穴が空いていた筈の胸元が綺麗に塞がっている。

 ・・・・・・あぁ、そうか。自分で破壊された肉体を錬成して修復したんだ。塞がれたままだと脳無の腕が邪魔して上手く錬成できないから、解析した腕を丸ごと分解して死んでしまう前に無理矢理治療した・・・のだろうか。

 でも、あれは間違い無く心臓がある位置を貫通していた。こんな瞬時に心臓を錬成するだなんて、一体何を素材に使ったのだろう・・・?

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・ご、ふっ、一言くらい・・・会話してくれても・・・・・・よくない?無視は辛いんだけど」

“ほ、ほんとに大丈夫なんですか?撤退しましょうよ!私なんて放っておいていいですから!”

 

 伝わらないとわかっていてもつい言葉が口に出てしまう。傷穴は塞がっているけど顔色は蒼白になったままだし、華奢な身体は酷く震えていて、立っているだけでも私なんかじゃ想像出来ないくらい苦しいに決まっているのに。

 

「・・・ふぅ、解析してわかったけどさ。誰が君達みたいな・・・悪趣味なもの作ったわけ?お陰で・・・こふっ・・・遠慮なく分解、できたけど」

「girjjpw」

「こら、僕が生きてる内は、さ・・・その娘連れていけると思うなよ」

 

 咄嗟に脳無が転がっている私を拾おうとすればマリさんが地面を変形させて壁を作り、その隙に新しく錬成した追跡者(チェイサー)で私を回収してくれた。

 

「そこの・・・爬虫類くん、君が電波妨害(ジャミング)でも持ってるの?救援呼ぶのに邪魔だから・・・・・・止め、て、欲しいな」

 

 次いで地面に両手を付いたマリさんの両手から眩い燐光が溢れ出し、猟犬(ハウンズ)雀蜂(ホーネット)を展開して脳無達に特攻させていく。

 けれど単体出力の低いゴーレム達では些細な傷を作れても有効打には至らず、爬虫類型脳無の火炎と連中の単なる身体性能(フィジカル)だけで次々と撃墜されてしまう。その上飛行型脳無の失った腕もゆっくりとだが徐々に元の形を取り戻していた。

 

“『超再生』程ではなくても、これではダメージが・・・”

「再生持ち?ご、ぶッ・・・数で削るのは無理か」

 

──裁きの天秤(イウディカーレ・リブラ)──

 

 大量の血を吐き零しながらも錬成を続行し、地面に付いたままの両手から再度燐光とスパークが溢れ出す。そしてスパークが流れるように伝播していき、周辺の物質を文字通りマリさんの隷属下に置き換えていく。

 

 『裁きの天秤(イウディカーレ・リブラ)』、ゴーレムとは異なり自身の周囲にある遍く物体を直接支配下に置いて自在に操る大規模質量攻撃。小回りは効かないが質量を活かした大技で対多数戦闘での制圧によく使うと言っていた。

 けれど負担が大きく公共の道路や施設まで巻き込んでしまうから、余程のことがなければ使わないとも言っていたのに大丈夫なのだろうか。

 ・・・いや、大丈夫じゃないんだ。震えは先程より酷くなっているし、辛うじて取り繕っていた息も荒くなる一方。段々状態が悪化していくマリさんに私は何もできない・・・何も。

 

「じゃ・・・ね、暫く・・・黙ってて」

 

 周辺の凡ゆる物体が溶け出すように形を崩し、一つの意思を持った巨大生物のように波打っている。ゴーレムとは比較にならない質量の暴力が脳無達を包み込んでいった。

 

「Jairgh@3).)@!!」

「;-,,1!¥82?-?-?」

 

 四方八方から押し寄せる壁を爬虫類脳無がその豪腕を振るい幾らか破壊するが、波のように次々と押し寄せる質量には敵わず水に攫われる蟻の如く飲み込まれていく。

 

解放(liberto)・・・・・・再構築(redispositio)・・・・・・」

 

 次いでマリさんは滝のような脂汗を流しつつも隷属した物質を再び元の形へと戻していく。

 やがて脳無達を飲み込んでいた質量の海が緩やかに引いていき、波が去った後には移動式牢(メイデン)によく似た拘束具に囚われていた。

 

「─Gus!heggsha&@」

「身動きした瞬間に・・・電流が流れて君達の動きを封じる。一応、言っとくけど・・・こふっ・・・・・・特殊合金を編み込んだ特製の拘束具だからね。無駄に苦しみたくなければ、余計な抵こ・・・は、しない、ことを・・・お勧めする、よ」

 

 ふらふらと焦点の合わない瞳で脳無達にそう宣言するマリさん。彼等は全身を隈なく拘束具に固められていて、絶え間なく溢れ出る紫電を見るに未だ抵抗を続けているのだろう。

 脳無達は陸に上げられた魚のように拘束された姿で痙攣しながら地面を跳ねていた。一見すればこれで決着は付いたかのように見えるけれど。

 

 ・・・でも、そうだ。確か別の何かがやってきた気がする。この時は朧げながら徐々に意識が戻って来ていて、地面に転がっている怪人とマリさんの姿が見えていた・・・気がする。

 確か、大きくてモヤモヤしていて・・・私の個性()みたいな真っ黒で霧みたいな何かだったような。

 

「おや、存外に梃子摺っているようですね」

 

 そして背後から声が聞こえると同時に、私の視界が暗闇に包まれた。




「考えるより先に体が動いていた」のフレーズを何処かで使いたいなぁと思っていましたが、そういえばこういう手遅れの場面でも使える表現だなぁとついアイデアが浮かんでしまいました。これも全部AFOのせいです。
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