ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活 作:Radrabbit
「あたしのことは
「そういうわけで君は今日からリカバリーガールの孫娘なのさ!」
「何がどういうわけなのですか??」
“話が急過ぎるんですけど!?”
後日オールマイト経由で根津校長の元に呼び出された僕らの前に、祖母を名乗るリカバリーガールが忽然と現れた。ちょっと話が急すぎて驚いたけど、一体どういう魂胆なのだろうか。
「公的に受理されるのはもっと後の話になるけどね。君の立場の話だよ」
「私の立場、ですか?」
「今の君の戸籍は偽造されたものなのさ。そういうわけでこの度正式な物を用意させてもらった次第だよ」
「えぇ・・・」
判断が早すぎる。戸籍の用意は「そういうわけで」なんて言ってすぐやっていいことではない。
オールマイトから連絡を受けて動き出したのは少なくとも先週だろうに、ちょっと行動が早すぎやしないだろうか。
「そもそも一週間で戸籍の申請なんて通るのですか?」
「厳密には将来的に君の正式な戸籍を登録するという契約を結ばせてもらったのさ。もちろん最初は色々ゴネられたけど、AFOに関わる話だと強引に進めさせてもらったよ」
「一体何をしたんですの・・・」
彼曰く「影山操奈」の死亡届は既に公的に受理されてしまっておりそれを覆すのが今は難しく、又操奈ちゃんの御両親も亡くなっている背景もあるため影山夫妻から養子に出されていた娘として修善寺家*1の養女として登録したのだそう。
AFOの事件が片付けば影山夫妻の娘として戻る形式になるそうだが、よくもまぁ現状身元不詳
「頼れとは言ったが、まさかこんな直ぐに動く羽目になるとはね」
「それについては申し訳なく・・・」
「子どもが気を遣ってんじゃないさね」
「子ども・・・」
そう言われると否定することができない。ここまで話がスムーズに進むのなら全て白状したほうが良かったのだろうか。
・・・いや、
「あの・・・そもそもこの集まりは先週のマスコミ騒ぎについてだったのでは?」
「生徒の将来について考えるのも教師の勤めさ!」
言うと同時に彼は向かいの席から移動し僕の身体へと駆け上がって来る。いきなり猫みたいな動きするじゃん・・・。
「なぜ私の首元に・・・?」
「僕のキューティクルは相澤君にも評判なんだぜ?せっかくだから存分に堪能するといいのさ!」
「へ・・・?わ、ふわふわで・・・さらさら・・・*2」
“狡いですよ!私も校長モフりたいのに!“
ふわふわしてる・・・あったかい・・・アニマルセラピーすご・・・これが、この世の
僅かに人より高い暖かな体温と鼓動、シルクを思わせる滑らかな手触りの毛並み。サラサラの体毛は指を通すだけで心地よい。
かつて父と姉が目指していた境地、やがて辿り着くべき最果ての景色・・・そっか、答えはここにあったんだね*3。
「大エリクシル・・・哲学者の石はここに・・・すべては
「その辺にしときな」
「お触りは一旦ここまでさ!」
まだ5分も堪能していないのに
「ぼくのもふもふ・・・」
“呆けてないで戻ってきてくださいマリさん!表情がふにゃふにゃになってます!”
(・・・・・・ハッ!なんか意識飛んでた気がする!)
何故か根津校長から目が離せないが、先程よりも視線が生暖かくなっている気がする。なんでぇ・・・?
「マスコミ騒ぎの件も既に手を打ってあるのさ。郷里君に知られないようにするのは少し骨が折れたけどね」
「埋め込んだ発信機が役に立ったようで何よりです」
「まさか寝ずに夜間もずっと雄英に篭って仕事してるとは思わなかったからねぇ」
「それは多分元々・・・いえなんでもないです・・・」
先日の邂逅の際、ドクターにバレないようにこっそり発信機を体内に埋め込んでおいた。アレがドクターの手を離れて活動している都合上、直接弄る機会が訪れるまではそうそうバレることはない。
あの後受信機の一つを根津校長に渡しておいたのだが、早速上手く有効活用していただけたようだ。
「そしてヴィランの襲撃についてだけど・・・早ければ今週中に来るんだね?」
「えぇ、1-Aクラスがオールマイトと共に孤立するタイミングで『ワープ』の個性を用いて演習場に攻め込む算段だそうで」
「やれやれ・・・よりにもよって『ワープ』個性の持ち主が敵に居るとはねぇ」
アルケミー越しに伝えた連絡にはすぐAFOから返答があり、既に襲撃の手筈は整っており後はタイミングを測るのみという状態だった。
幾ら何でも用意が速すぎやしないかな・・・いや、元々襲撃の為の準備は進めていたのか。
「当日はオールマイト達が主戦力を抑えている間に他の増援を待つ予定なのさ」
「ですがオールマイト先生の個性は既に譲渡しているのでしょう?どの程度戦えるのですか?」
「舐めてもらっちゃ困るぜ哀少女!私は今でも変わらず
「オールマイト先生!?」
遅れて入室してきたオールマイトが痩身の姿ながら力強い眼差しでそう宣言した。
曰く弱体化は己が負ける言い訳にはならないとコミカルに笑顔を浮かべる。
「例え弱体化していようとも、
“凄まじい気迫・・・これがNo. 1ヒーローなんですね”
(負ける気がしない・・・けど、流石に心配だよ)
全身から陽炎のように立ち昇る気迫に思わず判断を委ねてしまいそうになるが、それはそれ。
一日に戦闘可能な時間が限られている以上全てを彼に任せきりにすることはできない。陰ながらでもサポートは必要だろう。
「生徒にカッコつける余裕があるなら少しは身体を労わりな!」
「それはごもっともですが・・・」
「君はいつも働きすぎなのさ!この際どんと休むといいよ!」
「しかしですね校長・・・」
「直近でAFOの襲撃がくると判っている以上、無闇に活動時間を使えないことは君もわかっているだろう?」
「えぇ・・・はい、それは十分承知しております・・・」
先程のカッコいい姿から一転して二人に責められ小さくなっていく彼の背中はどこか哀愁が漂っていた。ちょっと悲しい・・・。
“よく見てくださいねマリさん。私から見たマリさんは大体いつもあんな感じですよ”
(そ、そうなの・・・?)
そこまで言われるほど僕は無理を重ねているように見えるのだろうか。だが人の振り見て我が振り直せという言葉もある。
僕も彼を反面教師にして矯正していかければならないのだろう・・・あ、この前「あまり人のことをどうこう言えない」って言ってたのこういうところだったのかな。
「ところでリカバリーガール先生、話は変わりますが例の件はどうなりましたか?」
「はて、最近耳が遠くてねぇ」
「・・・ち、治与婆様、オールマイト先生のこれまでのカルテは持ち出せたでしょうか?」
「私が記録した分のみだけどね。勿論口外厳禁だよ」
そうしてリカバリーガールから手渡されたのはオールマイトが重傷を負って以降の経過観察記録。負傷直後の6年前の記録が最も多く、逆に現在へ近づくにつれ徐々に検査までの期間が空いている。
自身の身体よりもヒーロー活動を優先した結果なのだろうが、プロヒーローという人間はいつもこうして無理を重ねている。僕が過去何度負傷や病を放ったらかしにして働こうとするプロヒーローを病院に叩き込んできたことか。
「え・・・と、大凡予想通りですが、徐々に経過が悪化してますね。正直今すぐ三ヶ月ほど入院して大人しくしていただきたいくらいです」
「何処まで戻せそうさね?」
「んー、むむむ・・・一ヶ月ほど時間が貰えれば肺と臓器は戻せますけど、今の状態で定着しきってますから衰えた肉体まではちょっと。拒絶反応も怖いですし」
「ほ、本当かい?」
“こんな状態で平然と動いているのが信じられないんですけど・・・”
(この有様ならそりゃ日常的に吐血もするよねぇ・・・や、これ喀血も混じってるな*4。貧血も辛いだろうに・・・)
左肺が歪に潰れて碌に機能を果たしていない上、胃が丸ごと摘出されている影響か常に栄養失調状態気味・・・いや、これは多分本人が仕事優先で食事をサボってるな。
本来なら丸一日ベッドの住人として安静にしていなければならない重病人だ。絶句を通り越して眩暈がしてきそうなくらい。お医者様が見たら卒倒するんじゃないかな。
「あの子の生き写しならこれくらい出来ても不思議じゃないさ。身体の方も時間を掛ければ戻せるだろう?」
「や、全盛期の肉体を知らないので無理です。
「今の痩せ細り具合がある程度どうにかなれば十分さ」
「凄いね・・・まさかそこまで出来るとは」
「平和の象徴とやらの面子だの秘匿性だのを気にせず、初めからあの子に頼ってたらここまで悪化してないんだよお馬鹿!」
「ぐっ・・・返す言葉もない・・・」
クドクドとリカバリー・・・治与婆様からのお説教が始まりオールマイトの背中が少しづつ小さくなっていく。合間に根津校長が再び僕の元に帰ってきたので今のうちに堪能しておこう。
「哀君、例の物は持ってきてくれたかな?」
「はい、まさかオールマイト用だとは思いませんでしたが」
“うぅ・・・私も撫でたかった・・・”
(ご、ごめんね?)
片手で抱き抱えた校長を撫で回しながら影の中に仕舞っておいたクーラーボックスを取り出して机に置く。今回気が付いたけど食品を影に入れておくと劣化が遅くなって結構便利なのだ。
「ではこちらをどうぞ」
「これは?」
「
昔は相澤先輩用にゼリーとクッキーに加工して渡してたっけな。放っとくとすぐ雑な食事で済ますからいつも何だかんだ理由を付けて押し付けていた覚えがある。
そして戸惑いつつもボックスを開けたオールマイトはゼリー状に加工した食事を口にした。
「いやいや十分美味しいよ!ありがとう哀少女!」
「あの、少し気になっていたのですが何故名前呼びなので?」
「君達は二人で一人だからね。区別した方が良いかと思ったんだけど・・・ダメだったかい?」
「い、いえいえ!むしろ気遣ってくださってありがたいです!操奈さんもよろこん・・・よろ、よ・・・嬉しそうですね!*5」
「ははは・・・無理しなくていいよ、うん」
気を遣ってくれていたらしい彼に慌ててフォローを入れようとしたが寧ろ逆効果。くそぅ、ニコニコしてうんうん頷いてれば取り敢えずどうにかなった*6アルケミー時代とは違って、言葉を考えてフォローを入れるのは難しいね。
「そういうわけだからね。戦闘は彼らに任せて問題ないよ」
「ですが、どうせオールマイト先生対策を積んだ脳無でも用意しているに決まっていますよ。無策で貴方が居る場所に来る筈ありませんもの」
「奴本人ならいざ知らず、その手駒に苦戦するつもりはないさ。私を対策した改造人間が現れるというのなら、その対策の全てを上から捻じ伏せるまで」
「む、むむむ・・・」
確かにオールマイトは過去数十年に渡って日本を裏から支配していたAFOの巨大組織を単独で撃滅し奴の打倒まで果たしたのだ。
ラスボスが出てくるならまだしも複数の個性を持っている程度では相手にならないということか。
「最悪オールマイトが脳無に付きっきりになったとしても他に頼れるプロもいるのさ。
「・・・サポートまでは譲りませんからね。特にハイエンド脳無は凶悪なスーパーヴィランに比類する存在、支援は必要な筈です」
引かずに口を出すも校長には届かない。当然今の自分は仮免すらない学生の身分なのだから当たり前なのだが、ハイエンドの脅威を考慮すると完全に安心とは言い難い。
果たして弱体化した今のオールマイトと先生達で本当に退けられるのだろうか。それだけが大きな懸念となって僕の胸中を満たしている。
変わらず戦力外に置かれていることにもどかしさを感じるが、敢えてその立場に置いたのは自分なのだ。この先も操奈ちゃんを戦力として数えないようにしてもらうなら、此処であまり口を出し過ぎるのもよくないか。
「当日も含めて暫くは巡回要員を増やしているから、合図を出せば五分と経たず他の先生も駆けつけてくれるのさ。君は身の安全を最優先にした上で、クラスの皆の避難をお願いしてもいいかな?」
「・・・むぅ、それなら避難が終わってから手伝いますからね。先生方は脳無を甘く見過ぎです」
「HAHAHA!!如何に敵が強かろうとヒヨッコの学生に頼るプロはいないさ。何、幸い君が襲撃を教えてくれたお陰で我々も万全の体制で迎え打てるからね」
「・・・承りました。くれぐれも無理はなさらないようお願いしますよ」
「もちろんさ」
根津校長とオールマイトの言を受けて此方も引き下がる。幾ら弱体化しているとはいえオールマイトなのだから、五分稼ぐ程度なら流石に問題ないだろう。
AFOには雄英教師の皆様が非常に優秀だったとして、ハイエンドと
「オールマイトにはこの一週間雄英で寝泊まりしてもらうよ。外に出なければ大人しくしているだろうからね」
「oh・・・」
「あ、でしたら私も治療ついでに付き添いますよ。先生がヴィラン退治に出かけないよう見張っておきますので」
「それなら保健室を使いな、私も付き添うから抜け出そうなんて考えるんじゃないよ」
「信用されてないですね私・・・」
「アンタには今までの積み重ねがあるんだよ。勿論悪い意味でね」
自業自得だと切って捨てられるオールマイトが少し可哀想に思えるが、死に体の身体でヒーロー活動をしていたのだから当然と言えばそうだ。
この際重病人という自覚を叩き込んで普段から大人しく養生してもらおう。
ネズミ色の魔法(アニマルセラピー)
夢の国ではありません、根津校長は物凄く頑張りました。
本話を書く上で最も驚いたことは、胃袋全摘した患者さんでもリハビリ後に食事を一日に6〜8回程度に分けたり代用胃(パウチ)を作る手術をすることで大抵の食物は元と同じ程度に食べれるようになるらしいことです。人間ってすごい。
オールマイトは体重の落ちっぷりやお弁当のサイズなどから、最低限のリハビリだけやって一日に複数回食事・・・をしようとして仕事優先しちゃってるタイプなのかもしれないですね。