ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活   作:Radrabbit

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マリくんちゃんと操奈さん以外の視点変更が多いので三人称に挑戦してみました。
・・・三人称ってこういうのでいいのか・・・?まぁ一旦ええか・・・。


19話 沈丁花の冠

「Reee?」

「」

 

 

 

「Ry、Ry、Ry」

「」

 

 

 

「Geee〜?」

「・・・・・・・・・ぅぁ?」

 

 ツンツンと頭を何かに優しく触られている。霞む視界に何とか収めて視てみれば、無幻(ウロボロス)が細く伸ばした舌先で僕らの身体を気遣うように触っている。

 どうやら心配を掛けてしまったらしい。造られたばかりだけど、感情豊かなタイプのAI(人格)で落ち着いたみたい。

 

(・・・ぁ、ぶなかった。あぁ、うん。ぶっつけ本番でこんなのやるべきじゃなかったね。心配掛けてごめんよ)

“マリさん!!気が付いたんですか!?”

 

 無幻(ウロボロス)の上に倒れたまま頭を上げず、身体を横に向けてから『千里眼』を使い戦況を確認。幸い無幻(ウロボロス)は呑気に頭の上まで舌を伸ばし僕をつついて戯れている。ということはあのまま脳無は脱出していない・・・筈。

 落ち着いて深呼吸し息を整え、身体の回復に意識を努める。たっぷり時間を掛けて酸素を取り込み、ゆっくりと息を吐きながら身体を解析した。

 

 ・・・まぁ、いい。あまり身体を動かせないが取り敢えず事の原因は分かった。操奈ちゃんの身体に支障は無いからひとまず良しとしよう。

  

(ごめん。気絶してからどれだけ時間経った?ハイエンドがあの後どうなったかわかる?)

“数分も経ってないくらいです、ハイエンドは白龍さんが飲み込んだままですけど・・・”

(・・・思ったより短かったね。良かった)

 

 ちらりと見た無幻(ウロボロス)の胴体は錬成後と変わらない滑らかな龍鱗が輝いており、ほんの微かな傷すらなく空へ佇んでいる。

 やがて満足したのか彼は舌先で僕をつつくことをやめ、鋭利な牙の生え揃った大口を開き、()()()()をゆっくりと呑み始めた。

 

“・・・えぇと、これは何をしてるんですか・・・?”

(逃がさない様に自分ごと噛み砕いて捕食を繰り返すのさ。ハイエンド(レオン)が再生できなくなるまでずっとね)

 

 呑み込んだ獲物を腹の中で押し潰し溶解液によって絶えず分解を行う。その上で定期的に牙で噛み砕かれる工程を永遠に繰り返すことでハイエンドを無力化する。こうして一度体内に喰われた以上脱出は至難だ。

 奴の火力では無幻(ウロボロス)を破壊するには至らなかった。そも喰われたままでは碌に火も出せないだろうけど、ともかくこれで限界に至るまで再生する他にできることは無くなった。後は再生が殆ど不可能な段階になるまで消耗させれば吐き出させても大丈夫だろう・・・無幻(ウロボロス)が硬い外殻に守られた頭部を間違って磨り潰さなければ。

 

“・・・あ!マリさん!ヒーロー達がUSJに到着し始めました!!もう少しの辛抱ですよ!!”

(遅いって言えばいいのか、巻き込まなくてよかったと言うべきなのか迷うね・・・)

 

 まだやるべき仕事は残っている。本当はやりたくないけれど、ある程度はAFO側として行動を取らなければ裏切り者の疑念が濃くなってしまう。最悪でも青山夫妻の件が片付くまで確信を持たれてはいけない。

 ・・・のだけど、肝心の身体が殆ど動かせない。流石に無幻(ウロボロス)をこのまま連れていくわけには行かないから他のゴーレムを脚にして移動したいけれど、今はちょっと余裕が無い。

 それにいつ意識が落ちるかもわからない。今度はす  ぐ に、覚醒できる自信、は  な ぃ

 ・・・あぁクソ、また意識飛びそうだ。ホントにどうし  よ   。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「しぶとすぎるぜコイツら!どんなタフネスしてんだ!?」

「個性は消してる、耐久性はコイツらの自力だ!」

 

 少し時間は遡り、広場ではイレイザーとマイクの二人が脳無との集団戦闘を繰り広げていた。はじめに威勢よく姿を見せていたチンピラヴィラン達はとっくに地に伏せていたものの、数十に及ぶ脳無達の制圧には未だ苦戦していた。

 

「うぉぉぉぉ止めろ!蟲系は苦手なんだよ俺!!」

(流石にこの数は抹消に漏れが出るな・・・手早く生徒の救援に回りたいが、この脳無とかいう奴ら明らかに俺をマークしてやがる)

 

 瞬きの隙にフリーになった脳無から吐き出された蟲の群れがマイクに襲い掛かり、カバーに動けばまた別の脳無が瞬きの隙を突いて個性を仕掛けてくる。

 少しづつ脳無の数を減らせてはいるものの、一体一体が恐ろしくタフである故に制圧があまり進んでいない。個性を消した状態でマイクの最大火力すら堪えてくる敵相手に自分の火力ではさして有効打にはなりえないと相澤は判断していた。

 

「あのデカいのとワープヴィランを潰せれば話は早いんだが・・・チッ!コイツら徹底的に俺の邪魔がしたいらしいな」

 

 顔を広場へ向けたことに反応したのか脳無が凶爪を立ててイレイザーへと飛び掛かってくる。それを軽く避けて捕縛布を巻き付け、他の脳無達を巻き込むように叩きつけたもののやはり大したダメージになっていない。

 この膠着状態は己の『抹消』を使いオールマイトがデカブツを仕留めれば一瞬で片付く。それを敵も理解しているからこそ邪魔な自分を妨害しているのだと彼も自覚していた。

 

(向こうに『抹消』を使う隙が作れない・・・!頼むぞ13号・・・!オールマイト・・・!!)

 

 苦しいが他のヒーローに任せるしかないかとイレイザーが諦め眼前の敵の制圧に集中しようとした───その瞬間、彼の視界の隅で轟々と巨大な火柱が上がった。

 USJの天井まで届かんと言わんばかりの炎は容易く周囲の金属を融解させ、その超高温がどれだけ脅威であるかを今まさに喧伝している。

 遠く離れた此方ですら熱風が届くほどの炎、火力だけならNo.2に比類するのではないかと思えてしまうほどの破壊規模。

 

「マジかよ今度は何だってんだ!?」

(何だあの炎は!?・・・いや不味い!あの規模は轟じゃない、あれやってんのはヴィラン(クソ共)だ!あんなもん生徒が喰らったら間違いなく死ぬ!!)

 

 刹那の逡巡、今の膠着状態から己が抜けてマイクが持つのか、13号は今どうなっているのか。あの火柱を出したヴィランに生徒が手を掛けられていないか。

 様々な疑念はあれど、オールマイトが動けない以上最低でもあの炎個性の持ち主を己が抑えなければ多数の死者が出ると考えたイレイザーは即座に決断した。

 

「マイク!!俺は向こうの火柱の方に向かう!!気合いでコイツら何とかしろ!!」

「マジ!?でもしょうがねぇよな!!死ぬ気で急げよイレイザー!!!」

 

 即決で彼が行動を決め走り出したその瞬間は、遠方で燃え盛る火柱に()()()気を奪われていた。

 それ故にどの敵にも悟られることなく接近してきた人間が一人、大きく飛び上がってその拳を構えた。

 

「DETORIT SMASH!!!!」

 

 脳無達の集団に飛び込んできた緑谷出久がその拳を振るう。No.1を想起させるほどの破壊的な衝撃波が脳無達を纏めて吹き飛ばし、更なる混沌を場にもたらした。

 

「緑谷!?何しにきた!!」

「──で、できた!!!・・・じゃない!先生を助けに来ました!」

「馬鹿やってんじゃねぇ!今すぐ下がれ!」

 

 無謀にも敵集団へ突貫してきた緑谷をイレイザーが怒鳴りつけるが、更にそこへもう一人の乱入者が現れ脳無達の脚元を凍らせる。

 

「あの馬鹿みてぇな火柱は先生じゃねぇと止めらんねぇだろ。・・・多分、あそこは今影山が戦ってる筈だ」

「先生達が戦ってるときは邪魔せず逃げるつもりでした!でも、あれは相澤先生が行かないと駄目です!他の皆が危ない!!」

 

 緑谷が吹き飛ばした脳無を轟が氷漬けにし動きを封じていく。二人の即席で行われたコンビネーションによって脳無達の包囲網に微かに穴が空いた。

 

「リスナー二人は俺が死んでも守ってやる!お前は早よ行け!!」

「・・・マイク!絶対にコイツら怪我させんなよ!!」

「応よ!!」

 

 彼はこの状況でどう動くのが最も死者を防げる合理的な判断なのかわからない男ではない。

 故に僅かに空いた隙間からイレイザーが駆け出した。当然無事な脳無達も彼を逃すまいと追い縋るがそれを残った三人が許さない。

 ある脳無は爆音に身体を吹き飛ばされ、別の脳無は足を凍らされ身動きを阻害、それまた別の脳無は剛腕によって大地に叩き付けられていく。

 

「前に出過ぎんなよBoys!!お前らが怪我すると俺がイレイザーにぶっ殺されっからよ!」

「大丈夫です!影山さんのゴーレムがカバーしてくれてるので!」

「あんま頼りすぎんなよ、それいつ壊れてもおかしくねぇぞ」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「DETORIT SMASH!!」

「すマァっしゅ!!」

 

 オールマイトが渾身の一撃をハイエンド(フィスト)の顔面へ叩き込む。しかし頭に直撃を受けた敵は頬に浮かべた笑みを崩すことなく反撃の拳を彼へと振るった。

 恐るべき威力だが、幸い技術は欠片も拳に乗せられていないただのテレフォンパンチ。それ故にオールマイトはその一撃を片手で逸らすように弾き直撃を避ける。

 彼が長年積み上げてきた確かな経験。それによってハイエンド(フィスト)からのダメージを最小限に抑える戦い方を辛うじて成立させていた。

 

(しかし何発直撃入れてもまるで手応えがない、マジで厄介だな!)

 

 総数で言えば既に数百発は敵に叩き込んでいる。だが未だにハイエンド(フィスト)が堪えている様子はない。オールマイトは『ショック吸収』の許容限界を狙ってひたらすら全力で打ち込んでいたものの、それでもまだ火力が足りないのだろう。

 最早ただの全力では奴に有効打足り得ない。限界の更にその先(プルスウルトラ)を叩き込む他に無いとその双腕にグッと力を込めたが、死柄木と黒霧(後衛の二人)がそれを打ち込む隙を作らせない。

 

(彼単体ならどうにかなる・・・が!ワープが厄介だ!死角からの追撃がマジでしんどい!)

 

「黒霧!もっと考えてゲート出せ!全部避けられてるじゃないか!!」

「わかっています死柄木弔。しかし流石は平和の象徴、そう簡単に殺させてはくれませんか」

 

 頑なにワープを通じてその掌を己に向けてくる青年。彼の個性が何なのかは現状不明だが、わざわざワープを使ってまで当てにきているのだから少なくとも己に致命傷を与えられる個性だと想定するべきだ。

 それにあの黒い霧のヴィランもただ味方をワープさせるだけではない。ゲートから伸ばされた青年の腕に反撃しようとした己の片腕を切断しにくる素振りさえあった。あまりに危険すぎる故に、彼らを無視してハイエンド(フィスト)に集中することもできない。

 

 しかし逆に彼らを先に倒そうとしてもハイエンド(フィスト)がそれを許さなかった。己に近い速度、己に近い剛力で追随してくる。そして何より最も厄介な点が徐々に攻め手を()()()()()()()()ことだ。

 一度二度見せた手に対処され始めた。生半可な搦手では逆にワープヴィランに隙を突かれかねない。

 

 そう考えているからこそオールマイトはこの膠着状態を抜け出せないでいた。あれだけ任せてくれと事前に啖呵を切っていたというのになんと情けない姿だと、彼は内心では憤慨を隠せなかった。

 その上先程巻き起こった炎、間違いなく影山少女達が窮地に追い込まれている。一瞬でも早く彼女らの元へ向かわなければならない。

 最早何発か貰うことを覚悟で先にハイエンド(フィスト)を倒しにいくべきか。彼が苦渋の決断を迫られていたその瞬間だった。

 

「1分だけです!!1分だけそいつらの個性を消します!!その間に片付けてください!!」

「あ゛ぁ゛!?ッのクソゲー野郎!ちゃんと脚止めしとけよ役立たず共!!」

 

 戦場の端から死柄木達三人を視界に収めたイレイザーが広場を横断するように真っ直ぐ駆け抜けつつ『抹消』で個性を消す。

 そして無敵(チート)を授けていた個性の消失により破壊的な一撃をそのまま受けたハイエンド(フィスト)が、自我の生誕以来初めて体感する嵐のような衝撃に困惑してその動きを止めた。

 

(相澤君サンキュー!!マジ助かった!!)

 

 風向きが変わる。

 三人一組のフォーメーションによって成立していた膠着状態が『抹消』の一手で崩れ落ちた。

 そして個性の一時的な喪失と乱入者に気が向いた事でヴィラン達の連携にほんの少しズレが生じる。

 

「TEXAS───」

「しまっ──!!」

「SMASH!!!!」

 

 その隙を見逃すNo.1ではない。彼等がイレイザーに気を取られた一瞬の隙に、この場で最も無力化するべきと考えた黒霧へ全てを吹き飛ばす暴風が叩き込まれた。

 

「ガッ!?」

 

 亜音速で錐揉み回転しながら吹き飛んだ黒霧が噴水を破壊。巨大な水飛沫を上げて彼が着水したコンマ一秒後、認識すら出来ない速度で死柄木弔の腹部へ壊滅的な一撃が入る。

 

「DETORIT SMASH!!!!」

「ぉ゛あ゛ッ!?」

 

 衝撃に備える時間すら与えられない無慈悲な豪拳。自分が何をされたのかすらわからないまま意識を消失させた死柄木弔が地面に崩れ落ちる。

 そして『抹消』から2秒足らずで二人を片付けたオールマイトが、困惑したまま固まっているハイエンド(フィスト)へ振り向いた。

 

「悪いね、後58秒だけ付き合ってもらおうか」

「何、ダ!?コレは・・・オレの個性、ガ、消えテいル?」

「CAROLINA──」

 

 まるでオールマイトの声が届いていないかのようにハイエンド(フィスト)は混乱していた。

 理由は単純、今彼の体内では『抹消』により個性が喪失したことで、これまでずっと吸収されていた衝撃が暴れ回っているのだ。

 

「SMASH!!!」

 

 衝撃の無効化ではなく吸収、それ故に個性によって衝撃は消える事なく体内へ蓄積され続けていた。だが本来は時間経過でエネルギーは自然消滅していく筈であったのだ。

 しかし少しの猶予すらなく累計数百発に渡る打撃を絶えず撃ち込まれ続けていたハイエンド(フィスト)の肉体は、ゆっくりとではあるが確実に限界を迎えようとしていた。

 

「ま、ダ!マダァァアア!!」

(相澤君のお陰で動きがノロくなっている!叩き込むなら今しかない!!)

 

 敗北を認められない自我が肉体の異常を無視して我武者羅に反撃を繰り出す。だが痙攣を繰り返す巨体では酷く乱雑な動きになっており、最早狙いを定めることすら碌にできていない。

 

「哀れな人形よ!君達をそんな姿にしてしまってすまない!!恨むなら私を恨んでくれ!!」

 

 己がAFOの生存に気が付いてさえいれば防げていたかもしれない犠牲者。彼はただAFOに弄ばれた哀れな被害者の一人であり、本来ならヴィランと呼んでいい相手ではない。

 だがここで彼を止めてあげなければきっと将来恐ろしいヴィランと呼ばれ未曾有の被害を生んでしまうだろう。オールマイトは彼に心の中で静かに黙祷を捧げた。

 そして『抹消』の有効時間が終わってからも彼が復活してしまわないように、オールマイトが渾身の一撃を振り絞る。

 

「Puls ultra!!!」

「ォ、れ・・・モッと、強・・・く──」

 

 USJ全土に響き渡る程の轟音が鳴り、発生した衝撃波が転がったままの死柄木弔を吹き飛ばす。

 数秒経ってハイエンドが俯せに地面へ倒れ込み、痙攣を繰り返したまま動かなくなった。

 

(一分経過・・・・・・動き出す気配は無い、傷の再生も疎になっている。頼むからもう立ち上がってくれるなよ)

 

 全身から僅かに煙を立ち上らせ始めたオールマイトはその場で立ち止まる。そして倒れ伏したハイエンドが起き上がってこないのを見て、ようやっと安堵の息を吐いた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「巨大化・・・変身するタイプか?」

 

 火柱の上がった地点へ急行した相澤の眼に入ってきたのは、見上げるほどの巨体をした白い龍だった。爬虫類を想起させる深紅の瞳に縦長の瞳孔をしたソレはただ静かに空中で佇んでいたものの、何故か一向に相澤へ攻撃を仕掛けてこない。

 

(コイツが炎の奴かはわからんが、とにかく動く前に潰さねぇと)

 

 あまりの威圧感に思わず『抹消』を発動したが白龍は消えない。十中八九リューキュウと同系統の個性だと想定していた相澤は眼を見開いて驚愕を隠せなかった。

 

(馬鹿な・・・コレが個性じゃないってんなら一体どんな化け物───あれは!?)

 

 『抹消』の不発に慄いたのも束の間、白龍の頭部に影山哀(生徒)が寝かされているのを発見した。彼は人質を取るつもりかと警戒を引き上げ捕縛布を構えたが、白龍は依然として相澤の身長よりも大きな瞳でじっと彼を見下ろしている。

 やがて見つめあったままゆっくり空からと高度を下げた白龍が頭を地面まで下げ、相澤へ差し出すように彼女を近付けていく。

 

 相澤は一先ず生徒を優先すべきだと考え白龍の頭上に跳び、白龍への警戒を続けつつ彼女の肩を叩いて意識の有無を確かめる。

 

「影山!おい大丈夫か、意識はあるか!?」

「・・・ぁ、相澤、せんせ?」

「何処をやられた?このデカいのは敵かわかるか?」

「負傷は・・・ありま、せ。この、龍・・・わたしのゴーレム・・・で、ほのおのヴィラン・・・なかに、とじこめ・・・てま、す」

 

(あの出力のヴィランを制圧したのか?・・・いや、それは後でいい。今は影山の状態確認が先だ)

 

 脈拍、呼吸共に正常。出血や外傷は無かったものの意識が多少昏迷している。

 影山は大声を掛けることで漸く相澤の存在を認識できている様子だった。そんな状態でも彼女は相澤へ焦点の合わない瞳で懸命に現状を伝えようとしている。

 

「ぁ・・・すみ、ませ・・・個性、の・・・きゃぱし、てぃ・・・超えちゃ、て」

「わかった、無理して喋るな。もう眠ってていい」

 

 相澤は入学時の個性申告書から彼女の個性が脳に負荷の掛かる部類だと知っていた。そして同系統の個性である郷里真理(後輩)が学生時代過度な許容オーバーにより数ヶ月昏睡状態になった際の経験から、今の彼女が危険な状態に陥っている可能性に思い至る。

 少なくとも意識に異常が出ているこの状態はかなり深刻だと判断した。

 

「急いで外へ連れてく。悪いが少し揺れるぞ」

「そ・・・と・・・?」

オールマイトの天井破壊(さっきの騒ぎ)で救援はすぐ来る。それまでの辛抱だ」

 

 相澤は影山を抱き抱え捕縛布を巻き付けていく。担架ほど身体を安定させることは不可能だが、頭を極力揺らさないように固定すれば多少は移動しやすくなる。

 

「せんせ・・・いかない・・・と、わーぷ、にげられ・・・ちゃう」

「大丈夫だ、オールマイトが戦ってる。ヒヨッコがそう心配するな」

「ほんと・・・に?」

 

 その言葉に一瞬相澤は動きが止まった。彼女の視線は変わらず虚空を泳いだままであったが、彼は先の戦闘でほんの一瞬『抹消』から外れた隙に生徒達を転送されてしまったことを思い出した。

 

「わたし、には・・・この子がいま、す。てき、も・・・ちかく、いなぃ・・・ので。しば、らくは・・・もちます、から」

「・・・・・・ふぅー、わかった。俺が戻ってくるまで静かに待機。このデカブツに隠れていれば早々襲われん筈だ」

「ふ・・・ふ、しんぱい、しょ・・・です、ね」

 

 眉間に皺を浮かべ数秒考えこんだ末に相澤は小さくため息をつき、くすくすと儚げに笑う影山から捕縛布を解いた。

 そして再度身体に異常が出ていないことを確認し彼女の身体を白龍の頭上に横たえる。

 炎個性のヴィランもこの怪物の腹の中で何の音沙汰も無い以上、少なくともオールマイトがくるまで程度は持つだろうと彼は判断した。

 

(往復にざっと5分、向こうを片付けるまでに何分掛かるか・・・もしマイクの方が終わってりゃあいつに任せられるんだがな)

 

「すぐ戻る。・・・おい白いの、お前の主人頼むぞ」

「Lo」

 

 相澤は返事が返ってくるとは思わず振り向いて白龍を二度見してしまったが、すぐさま捕縛布を巧みに使い頭部から飛び降り駆け出していく。

 彼が降りたことを巨大な赤眼で確認した白龍はその長い胴体をくねらせ、影山の姿を巨体の内側に隠していく。

 

(味方に見つけてもらえるまでわざわざ待ってたのか?かなり高度なAI・・・いや、それは今どうでもいい)

 

 雑念を振り払い彼に出せる全速でUSJを走り抜ける。オールマイトと戦っていた三人に発動した『抹消』によって戦況を傾けられたなら、既に決着は付けられているだろうが果たしてどうなっているか。

 久方ぶりに走る焦燥感で捕縛布の制御を誤らないよう細心の注意を心掛けつつ、彼はゴーグルを深く掛け直した。

 

 

 

 

 

「Kyu?」

 

 捕縛布を木々に引っ掛けて跳び回っている相澤の脚元。その()()()からチラリと掌サイズの小さな鼠が頭を上げた。不安そうな瞳できょろきょろと戸惑うように周囲を見渡している。

 だがちらりと白龍の方向を見て得心がいったように一鳴きすると、鼠は小さな水飛沫をあげて影に潜り込んだ。




相澤先生がいるだけで難度が跳ね上がるのほんと『抹消』が無法すぎて笑います。序盤に出たキャラなのに強過ぎるッピ・・・。
ヴィジランテで元気でいきいきしてる姿が見れてウレシイウレシイ・・・好・・・。
でもミッナイ見てると心がクルシイ・・・。
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