ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活 作:Radrabbit
「長かった・・・やってたの試験の丸暗記と受験だけだけど、なんだか半年分くらいの密度を濃縮して過ごしたような気がするよ」
“私も、すごく忙しかったけど何だか本当の受験生になれたみたいで、少し楽しかったです”
「そっか、それならよかった」
僕にとって二度と訪れないと思っていた最悪の二週間が過ぎ、無事雄英に合格したことで僕らは一時の平穏を享受していた。
筆記試験は操奈ちゃんのサポートのお陰で無事に乗り越えられたし、実技の方も大した障害は無かったので適当に合格ラインまでポイントを稼いで後は受験者の救助に努めていた。なるべく他の受験者の邪魔にはならないように動いたつもりだけど大丈夫だったかなぁ。
色々大変だったけど、実技試験の終了後にリカバリーガールを見れたことが一番嬉しかったかな。最後に会ったのが何年前だっけ、前見た時より少し皺が増えていたのは悲しかったけど、相変わらず元気そうで安心したよ。
そして試験が終わってから一番面白かったのが合格発表を知らせに送られてきたあの投影機械。突然オールマイトが映像で映ったものだからAFOが舌打ちして機械ぶっ壊しやがったの。笑えたけど内容聞けなかったんだよね、壊される前に解析しておけばよかった。合格してたのは書類でわかったからいいんだけどさ。
「いよいよこれで鬱臭い隠れ家ともオサラバだね、思い残しはない?」
“私の死体を好き勝手に切り開いたセクハラ爺を殴れなかったのは残念ですが、それは将来のマリさんかオールマイトに託したいと思います”
「あの爺、僕が必死こいて肉体が崩壊しないように調整し続けてたってのに、調子にのってバカスカ個性ぶち込みやがってさぁ・・・」
思い出したら腑が煮えくり返ってきたな、AFOと一つ緒にアイツの顔面もオールマイトにミンチにしてもらおう。
あの時は死んだと思ったら知らない身体になってて、身体中弄られながら得体の知れない何か・・・個性因子ってやつなんだろうけど、あれを流し込まれる経験はすぐにでも忘れ去りたい。
流されるように自分が溶けて無くなりそうな感覚は二度と味わいたくないね。あの時に操奈ちゃんの意識がなくてよかったよほんとに。
“やっぱり、マリさんが私の身体が壊れないようにしてくれていたんですか?”
「そうなるかな、正直死んだと思ったらふわーっとした微睡の中にいる感覚・・・あれが個性因子だけになった僕の状態ってヤツだと思うけど。そしたら突然津波みたいに何かが沢山流れ込んできてさ、流されないように必死に操奈ちゃんにしがみついて色々やってただけなんだけどね」
“個性だけになっても意識がある・・・AFOの中にもマリさんみたいになっている方がいるんでしょうか”
「そうかもね、あいつの中で個性達の暴動みたいなのが起きて自滅してくれたら楽なんだけど、そんな都合よくないだろうしねー」
実際に個性因子の状態を経験した僕から言えば多分AFOの中でも意識を持った個性が沢山いるとは思うけれど、あんなクソ野郎の中で意識を持たされている状態なんてどんな拷問だろうか。僕もあの邪悪なヴィランの所業を強制的に見せ続けられることになっていたかも知れないと考えると少し寒気がする。
「さてと、それじゃあそろそろ出ようか。次に来る時はオールマイトと一緒に来れるといいね」
“きっとそうなりますよ、一緒に頑張りましょう”
最悪な僕らの死に場所へ別れを告げて歩み出す。考えるだけでも憂鬱なことばかりだけど、操奈ちゃんの明るい未来のために僕らのヒーローアカデミアで精一杯頑張るとしましょうか。
◇◇◇◇◇
時間を少し飛ばして入学初日。雄英高校にくるのは卒業して以来だから11年ぶりかな。・・・昔より規模がデカくなってない?
いや、雄英クラスの学校なら10年あれば多少変わっているのも当然か。
「1年A組1年A組・・・ここかな?・・・いや扉でっかぁ、僕の時代よりバリアフリーが進んでいるんだねぇ」
“そういえばマリさんは元雄英生でしたね”
「そーそー、これでも優等生だったのです」
“あんなに文系科目が苦手だったのに、不思議ですね”
「うるさいぞぅ、外面は頑張って整えてたんだよぉ!」
雄英卒業生として見栄を張ろうとしたら操奈ちゃんに突っ込まれてしまった。・・・優等生だったのは事実だしぃ?実技は全然問題なかったからいいんだよ。
「そこの君!教室の入り口で騒いでいたら迷惑になるだろう。・・・ん?君一人で何をそんなに騒いでいるんだ?」
ヤッベ、操奈ちゃんに意識向けすぎちゃってた。そのせいでカクカクとした妙ちきりんな動きで僕に注意をしてきた眼鏡少年に気がつかなかったよ。僕はお嬢様僕はお嬢様・・・。
「あら、これは申し訳ありません。あまり学校というものに慣れていなくて、少し騒いでしまいました」
「そ、そうなのか・・・それはすまなかった。だが、君は今日から雄英の生徒としてここにきている。ボ・・・俺もそうだが、今後は雄英生として恥じない立ち振る舞いを心掛けてなければいけないぞ」
「えぇ、ご忠告痛みいりましたわ。今後は雄英生としての自覚を強く持ってまいります。・・・親切な貴方、私は影山哀と申します。お名前を伺っても?」
「俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ。今後ともよろしく頼む。影山君」
飯田君は凄く真面目な委員長気質の子だね。懐かしいなぁ、僕の学生時代もこんな真面目な子がいてね、授業中にうたた寝していた僕をよく叩き起こしてくれてたんだよ。それで補習にもよく付き合ってくれて・・・なんて、少しだけ感傷に浸って思わず笑みが浮かんだ。
「ム?何か可笑しな部分があっただろうか?」
「いいえ、友人を思い出して懐かしい気持ちになっただけよ。飯田さんも1年A組なのかしら?」
「あぁ、っと。ここで話していては俺たちも迷惑になってしまう。談笑は教室に入ってからにしなくては」
“すごいです。まるでマリさんが本物のお嬢様みたいに見えてきました。いつもの悪役令嬢みたいな胡散臭い雰囲気以外にも出来たんですね”
あれは話し相手が黒幕のヴィランだったから悪役令嬢みたいになっていただけで、普通の子が相手ならこんなものだからね?僕だってあんな悪趣味な会話やりたくてやってるんじゃないもの。一刻も早くあの趣味悪いマスクをもっぺん剥いで煽り倒してやりたいくらいなんだからさ。
(ともかく、今後は雄英で独り言しないように気をつけるよ。これで聞こえてる?)
“えぇ、聞こえています。・・・二人だけの秘密のお喋りって、何だかドキドキしますよね”
(元気そうで何よりだよ)
雄英の筆記試験の為に急遽僕が口に出して喋らなくても操奈ちゃんと会話ができるようにしたこの念話・・・念話?に切り替える。コソコソカンニングする為に編み出したのが情けないけれど、人間必要に駆られると意外なことができたりするものだね。
操奈ちゃんとお喋りするために15分に1回は観測可能範囲片っ端から解析して盗聴監視対策してた僕が馬鹿みたいじゃんね。今更いいケドさ。
「私の出席番号は・・・7番、意外と近い席でしたが、話すには少し遠いですね」
「出席番号順であれば仕方ないだろう。だが、席替えでまた変わることもあるさ」
「ふふ、その時を楽しみにしていますわ。飯田さん」
飯田君と別れ席に着く。前から2列目で教卓に近いのは少しに気になるがなってしまったものはしょうがない。机上のパンフレットを確認し始めた飯田君をよそに操奈ちゃんとの会話に意識を向けた。
(操奈ちゃん、僕が授業中に寝そうになったら叫んでもいいから起こしてね)
“マリさん・・・”
声しか聞こえないけれど、これは操奈ちゃんから駄目な人間を見る目で見られている気がします。
(いやさ?僕今お嬢様ロールプレイしてるでしょ?お嬢様が授業中にうたた寝はマズイじゃん、ね?)
“いいですけど・・・何で雄英でもお嬢様してるんですか?”
(青山君やアルケミーを通して僕のキャラがAFOに流れたらさ、「コイツ中身アルケミーじゃね?」ってバレる可能性が無くもないでしょ?)
“確かにそうですけど・・・いえ、そうですね。万全を期して取り組むべきでした。先程の独り言は危険な失敗でしたね”
(うっ・・・ハイ、以後気をつけます)
そうこうして時間を過ごしているうちに疎らだった教室の席が埋まっていく。そしてとうとう、金髪のキラキラした雰囲気の少年──青山優雅が教室に入ってきた。
写真で見た通り煌びやかな雰囲気で背景に星を浮かべていそうな彼は、そのまま席に座り後ろに座っていたピンク肌の少女に星を散らしながら自己紹介を始めていた。
“あれ?私達には一瞥もくれませんでしたね”
(んー、パッと見の顔色は元気そうではあるけど・・・)
“取り繕っているのではないでしょうか?スパイだとバレないようにですとか、私達に変に反応しないようにですとか”
(隠すための演技なのはそうだろうね、ただ彼他のスパイのこと知らないだろうからさ)
“え?そうなんですか?”
入学までの間AFOに彼について探りを入れていた時、やけにあっさりしているというか、スパイが別にバレたところで問題ないような扱いをしていたように感じていた。
あれは僕とアルケミーがいるから一人バレた程度なら何の問題も無いってことか、そもそも最初からバレる想定だろう。オールマイトやヒーローへの嫌がらせ目的で潜り込ませたりしたんじゃないかな、あの屑性格悪いし。
(彼が最初から切られる前提で送り込まれたなら、僕らやAFOの情報は殆ど持たされてないと思うよ)
“そんな・・・”
スパイという立場を除けば、彼は今雄英高校のヒーロー候補生としてこの場にいることになる。AFOの関係者が居ないと思っている今ならヒーローを夢見て舞い上がってる気持ちも多少はあるんじゃないかな。
彼もまたヒーローに憧れているただの子どもだって話は聞いていたから・・・つくづく趣味が悪いね。
(ま、あれだけ明るい顔できるなら体内に爆弾仕込まれたりはしてないでしょ。後は身体触って調べれば一発だね)
“それはそうですけど・・・言い方がなんかヤラシイです”
(なんで⁉︎)
ちなみに身体検査はヒーローの基本技能である。捕まえたヴィランがどんな危険物を隠し持っているかわからないからね。女性ヴィランを調べる時にセクハラだなんだと騒がれてボロカスに叩かれた男性ヒーローもいるから、調べ方も気を付けないといけないよ。
「君!机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか⁉︎」
「思わねーよ!てめーどこ中だよ端役が!」
(わ、見るからに不良生徒じゃん、そりゃあ飯田君も怒るよ)
“こんな人でも雄英に入れるくらい優秀ってことなんでしょうか”
飯田君と不良君が口論を始めたことで教室が俄かに騒がしくなってきたが、そのタイミングで緑髪モサモサの男子生徒と茶髪ショートの女子生徒が入室してきた。彼等の存在に気が付いたらしい飯田君が不良君との口論を切り上げ、緑髪君達の所へ挨拶へ行く。
彼等の会話を盗み聞きするに入学試験の実技会場が一緒だったらしく、そこで色々あったみたいだね。
“マリさんマリさん、入口をみてください!大きな芋虫さんがいらっしゃいます!”
(??何言ってるの操奈ちゃ──誰だこのおっさん⁉︎)
操奈ちゃんの意味不明な指摘に目を向けると、丁度教室の入り口にデカい芋虫──寝袋に入ったままのキモい物体、というかおじさんがグネグネ移動してきていた。そのまま彼は咥えていたゼリー飲料を一瞬で飲み干し言い放つ。・・・あれ、この動作どっかで見た覚えあるな。
「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは──ヒーロー科だぞ」
(寝袋に入ってなかったらカッコ良かったのに・・・)
“あはは・・・結構個性的な方ですね”
多分彼が1年A組の担任なのだろうが、初っ端から不安が胸に込み上げてきそうだよ・・・。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね・・・担任の相澤消太だ。よろしくね」
(へぇ、相澤先生ね・・・・・・へあっ⁉︎相澤先輩⁉︎相澤先輩じゃんか!なんでこんな草臥れたおじさんみたいになってるのさ!)
そういえば何年か前にリカバリーガールから相澤先輩が雄英で教師になったって話を聞いたような。・・・そっかぁ、睡先輩*1みたいに教師になっていたんだね、先輩。あーあ、死ぬ前にもっと会いに行っとけば良かったなぁ。今は僕のフリした人形と会ってるんでしょ?初日から気分最悪だよ。
“えっ、マリさんってこの人くらいおじさんだったんですか?”
(・・・え?違うけど⁉︎僕まだ29歳だし、相澤先輩もまだ30歳だよ!先輩の清潔感が絶望的なだけだから!)
“30歳なら十分おじさんなんじゃ・・・?”
(30歳ならまだお兄さんだから・・・たぶん・・・)
操奈ちゃんとのジェネレーションギャップに絶望しているうちに、相澤先輩・・・相澤先生から体操服を着てグラウンドに出るように指示が出された。当然生徒達からは困惑の声が続出したが、彼はそれを無視して教室を出る。
あの人昔から合理主義の塊みたいなところあるけど、些か説明不足が過ぎると思うんだよね。そんなだから関わりが浅い人達から避けられるんだぞ・・・もっと会話しようよ・・・。
郷里真理(学生時代)
休日に相澤・白雲・山田の先輩三人集を連れて香山睡の家で預かっている猫を構いに行ったりしていた。懐いた人間にはグイグイ行くタイプだと思います。