ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活   作:Radrabbit

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21話 Daydream for my dear

「ほらほら、そんなに泣いてちゃ可愛いお顔が台無しだよ?」

「な゛い゛て゛な゛い゛!!!!」

「わぁーお、超号泣じゃん」

 

 気が付くと初雪を思わせるように真っ白な小さな子どもを綺麗な金髪の女の子が慰めている場面に遭遇していた。

 6歳位の小さい子は男の子なのか女の子なのかわからないほど幼く中性的な見た目だけれど、小学生位の女の子はマリさんによく似ている・・・あれ、それだとこの娘は男の子だろうか。

 

 二人は柔らかな陽射しが差し込んでいる小さな庭のような場所にいて、夢の中だというのに身体の芯から暖まるような気さえする。

 私には全く見覚えのない光景だけれど、不思議とこれが夢だということは何となく理解できた。この前に見たあの日と同じでマリさんの記憶で構成された夢なのだろう。

 

「そんなんじゃ僕みたいな素敵な女の子になれないよ?・・・いや、真理(マリ)は男の子だからカッコいい男の子か」

「おねぇぢゃんい゛ればいいも゛ん゛!!」

「困った子だねぇ、そんなに僕のこと好きかい?」

 

 変わらず泣きべそをかいている幼子──マリさん・・・いえ、ここだとマリ君と呼んだ方がいいのかな。真っ白な男の子にマリさんの面影は全く無い。逆にお姉さんの方がマリさんそっくりだ。

 

“はて、これはどういうことなのでしょうか“

 

 瞼を閉じて首を傾げながら独り言を呟いても、この前の夢と同じで何の反応も無かった。それが少し寂しくて再び目線を二人の方に向ければいつの間にか場所が変わっており、どこか薄暗い個室のようなところに移っていた。

 

「ずび、ひっく・・・うぇぇええぇ」

「よしよし泣かないの、ほらチーンしてチーン」

「や゛っ!おねえちゃんのはんかちよごれちゃう」

「もぉー、そんなとこに気を遣わなくたっていいんだよ?」

 

 首をふるふると振りながらハンカチを拒否するマリ君を優しく撫でて女の子が慰めている。とても胸の暖まる光景だけれど、何故お姉さんとマリさんの姿がそっくりで、逆にマリ君はマリさんと似ても似つかない容貌なのだろう。 

 あまり邪推するべきではないとはわかっているけれど、自然と嫌な方向に想像が膨らんでいく。

 

「ほーんと真理(マリ)は優しくて可愛いねぇ・・・君もそう思うでしょ?この間女」

“・・・へ?”

「人の記憶を覗き見するなんて、趣味が悪いと思わない?」

 

 瞳孔の開いた赤い瞳が私をはっきりと見つめていた。先程までの優しい笑顔と打って変わって道端のゴミを見下ろすかのような冷たい視線が私へと向けられる。

 小さなマリさんの姿が掻き消え暖かい夢から引き剥がされるような冷たい感覚が背筋を走る。産毛が総毛立ち思わずぎょっとして彼女を見れば、耐えきれないとばかりに吹き出してケラケラと笑い出した。

 

「ふ、ふふっ・・・じょーだん冗談、子どもに意地悪言うほど落ちぶれてはいないよ」

“そう・・・ですか”

 

 彼女はにんまりと目尻を歪ませて笑いながら私を揶揄う。鏡で見ているマリさんの表情や学校で見かける郷里真理とも全く異なる様相に動揺を隠せない。

 

 ・・・違和感が凄い。それにマリさんの顔で他人みたいにあしらわれると心臓がキュッとして息が詰まるような心地がする。

 切実にやめてほしい。私をそんな目で見ないでと心の中で願ってみても、彼女はマリさんではなく別人なのだからこの祈りは当然通じなかった。

 

「ま、所詮僕は記憶の中の亡霊。真理(マリ)の個性にこびりついた過去の残響にすぎないわけさ。大いに忘れてもらって結構」

“・・・えぇ?”

 

 いきなり何を言い出すのだろう。忘れていいと言われてもこんなの忘れられる気がしないし、過去の残響だとか一体何の話なのか。

 

“よくわからないのですけど、結局貴女は何なのですか?私にも理解できるように説明してください”

「やだ」

“え゛っ?”

「だってー、君は普段から僕の可愛い真理(マリ)とお喋りしてるんでしょ?ズルくない?”

“そ、そんなこと私に言われましても・・・”

 

 言葉にするのは少し難しいけれど、何だか心が少しもやもやする絡み方をしてきている。端的に言って非常に話辛い。

 今までこういった人をいちいち揶揄うタイプの人間を見たことがないから、どうリアクションすればいいのか困ってしまう。

 

「ウソウソ、久しぶりに人と話したものだから楽しくってつい・・・で、僕が何なのか、だっけ?」

“えぇ、はい・・・マリさんのお姉さん、ですよね?”

「そーそ。郷里鳥紗(ごうりとりさ)、超天才錬金術師にして真理(マリ)のお姉ちゃんだよ・・・ま、ずーっと前に死んでるから享年は君より年下なんだけどね」

“それは・・・えっと、ご愁傷様です”

「んふふ、そんな気にしなくていーよ」

 

 冗談めかして笑う彼女に何を言っていいか分からず無難なことしか言えなかった。彼女本人はそこまで気にしていない・・・いいや、そんなことあるわけない。

 会ったばかりの人の心の内を推し量ることなんてできないけれど、あんなにマリさんのことを可愛がっていた様子を見ればわかる。

 

“それと個性にこびりついたとか・・・あ、そういえばマリさんの自我があるのも、個性に意識が宿っているからでしたっけ”

「そうだね。()()()()()()()()僕達はちょっと特殊なのさ」

“・・・何でマリさんの個性に鳥紗さんの意識がついてるんです?”

 

 少し前にマリさんとそんな話をした記憶がある。ただマリさんの個性にマリさんの意識が宿っていることは納得できるけれど、そこで何故お姉さんが出てくるのだろう。

 

「ん〜・・・細かいことはあんまり僕もわかんないんだけど、僕が死んだ後に色々とあったみたいでね。その結果として僕の個性因子が真理の身体に宿ることになった・・・んじゃないかなぁ?」

“そこ疑問系なんですか!?”

「・・・だって、僕もそのときに意識あったわけじゃないもん」

 

 彼女は不貞腐れたように口をすぼめてそっぽを向いた。さっきまでの雰囲気とは違い今の彼女はその幼い見た目通りに見える。

 ・・・彼女が亡くなっただろう年齢を考えれば、こういう子どもっぽい振る舞いの方が素に近いのかな。

 

“確か個性事故で大変な事になったっていう話をマリさんが言っていましたね”

「多分?そのことー・・・だと思うよ。あんま自信ないけど」

“そうなんですね・・・”

 

 彼女曰く偶に微睡から醒めるように少しだけ意識が覚醒する程度で、普段はずっとマリさんの奥底で夢を見ているらしい。

 マリさんに話しかけることも出来ないから十数年ずっと独りきりで、夢の中で弟と戯れつつ起きている間はマリさんが頑張っている様子を覗き見て暮らしていたのだそう。

 

“それでAFOに個性を抜かれた時に、鳥紗さんの個性因子も一緒に?”

「そ、あのAFO(キモいの)も因子がぐちゃぐちゃになりすぎて気が付かなかったんじゃないかな。僕の因子なんて特にボロ屑みたいになってるだろうし」

“ボロ屑って・・・そんな言い方しなくても”

「殆ど同じ個性が歪に混ざり合ってたからね。いつ消えたっておかしくないくらい。多分、君とこうして話すことも二度は無いかな」

“・・・それは”

 

 何のことも無いようにそう告げる。それでもほんの一瞬寂しそうな表情を浮かばせ、それを誤魔化すように少女は微笑んだ。

 それが何だか落ち着かなくて彼女に手を伸ばしてみても、あの日に見た夢と同じようにすり抜けてしまう。

 彼女はそれを見て私の頬に添えるように片手を伸ばす。それから背伸びしてゆっくりと頭を撫でるように手の平を動かした。

 

「君が悲しむ必要なんてないのに、やっぱり君は優しい子だね」

“でも・・・ずっとマリさんの傍にいたのに、話すこともできなかったなんて・・・”

「弟が頑張ってるところを眺められただけ充分恵まれてるさ。その調子で真理のこともお願いね・・・あぁ、僕のことは絶対に秘密だよ?」

“・・・何故ですか?”

 

 間違いなくこの人にとってマリさんは大切な人だし、マリさんにとってもお姉さんはかけがえのない大切な家族だ。

 私も死んでしまった両親に言いたかったこと、言ってほしかったこと、伝えたかったことや教えてほしかったことがたくさんあった。

 彼女だってマリさんに伝えたい言葉や想いが数えきれないくらいたくさんある筈なのに、どうしてそんなことが言えてしまうのだろう。

 

「泣かないで、ね?」

“・・・泣いてません”

 

 幼い子どもをあやすように彼女は私を慰める。私よりもずっと長く悲しい思いを彼女はしてきた筈なのに、どうしてこんなに穏やかでいられるのだろう。

 

「あの子はずっと僕のことを引き摺ってる。僕そっくりの姿を見てればわかるでしょ?・・・忘れてほしいとまでは言わないけど、(過去)じゃなくて(未来)を見てほしいんだ」

“ですが過去を大切にすることは、悪いことではない筈です”

「それだけ真理が僕に囚われてるってことさ。時には過去を振り返ることも大切だと思うけど、ずっと後ろを向いてばかりじゃ前に進めない」

 

 本当にそれでいいのだろうか。一言くらい伝えたって罰なんて当たらないのに。

 浮かび上がるモヤモヤとした気持ちを消化できずに返答を出せないでいると、慈しむように微笑んでいた彼女がニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた。

 

「もしも真理が僕のこと知ったら、君のこと見てくれなくなっちゃうかもよ?」

“ッ!!??”

「好きなんでしょ?真理のこと」

“・・・そっ、そういうのとはちょっと違います!!“

「そうなの?ドラマで見たカップルと月が綺麗ですね(おんなじこと)言ってたのに」

“フィクションと現実の恋愛は異なります!というかマリさんとは歳も離れてますし・・・!!”

「?別にそんな変わんないと思うけど・・・ふーん、レンアイってよくわかんないね」

 

 突然放り込まれた爆弾に心拍数が急上昇したのを感じる。当の本人はケロッとした顔でなんだぁつまんないの*1と呟いていた。

 顔が赤くなっていないだろうか、呼吸は乱れていないだろうか。声が変に上擦ってはいないだろうか。真面目な話をしていたのに急に心臓に悪い話をされると困ってしまう。

 

「ま、いいや。真理のこと大切に思ってくれてるのはホントでしょ?」

“・・・はい、とても大切な人です”

 

 それについては自信を持って断言できる。今の私にとって世界で一番大切な人だから、彼女に言われなくたって寄り添い続けるつもりだ。

 ・・・それに、やっぱり凄くモヤモヤする。彼女の言っていることは理解できるし、マリさんのためにもそうした方がいいのかもしれない。

 でもまだ言葉が届くかもしれないのに、マリさんの為だからと諦めて消えようとしているのは何だか気に入らない。

 

「なら良し、安心して任せられるよ。僕の話をどうするかはまぁ、結局君次第になっちゃうけど、少なくとも今の真理には逆効果だってことだけ覚えておいてね」

“わかりました・・・ですが!いつか必ずマリさんを貴女へ挨拶させにきますから、それまで勝手に消えちゃダメですからね”

 

 鳥紗さんはぱちぱちと驚いたように目を見開いた。彼女の意思を尊重したいとは思うけれど、それでこんなモヤモヤが残る終わりを大人しく受け入れるのは嫌だ。

 

「本気で言ってるの?」

“このまま貴女と少しだけ話をして消えるなんて結末は私が気に入りません。気合いでどうにか踏ん張ってください。勝手に消えたらグーですよ”

「うぇぇ、本気で言ってる・・・そんなブンブン素振りしなくていいからぁ!」

 

 鳥紗さんは首をふるふる振って必死に止めてくる。どうやら私なりの本気の決意表明をきちんと受け取ってくれたようだ。

 ちゃんとわかってくれたようなので素振りを止め、にこりととびきりの笑顔を浮かべて彼女に問いかける。

 

“まだ諦めますか?”

「わ、わかったから・・・僕も一応、消えないように足掻いてみるからさ。真理のこと頼んだよ」

“えぇ、お任せください。約束ですよ”

「思ってたより強引な子だね・・・まったくもう」

 

 これでずっともやもやしていた気持ちが幾分かスッキリした。鳥紗さんがぐっと疲れた顔をしているけれど、先程までの消えてしまいそうなくらい儚い雰囲気よりずっといい表情だ。

 まだ具体的にどうすればいいのかは現状さっぱりわからないけれど、マリさんと二人でならきっと方法が見つけられると私は信じる。

 その為にもマリさんについてもっと色々なことを知らなければならない。まず手始めに鳥紗さんにマリさんの過去についてもっと深掘りしなければ。

 

“あの、マリさんについて色々と聞き  た い  ?”*2

 

 質問を問いかけようとした途端、言葉がきちんと発音できなくなった。何故か間が途切れたように音が消えてしまう。見える世界のピントがズレてしまったかのように景色がぐんにゃりと歪んでいく。

 

「あー、もう目覚めの時間みたい・・・頑張ってはみるけど、君と次会えたとしても暫く間は空くと思ってね」

“ぇ ! ち   ぎ  !”*3

 

 もっと沢山聞きたいことがあるんですけど!マリさんの趣味とか好きなものとか!好きな人のタイプとか色々!

 

「それとあの子もすぐ目を覚ますとは思うけど、それまでは君がしっかり頑張ってね」

“ ぉー !  ん   事    今  か!”*4

“そだ、最後に一つアドバイス。もし君が『錬成』を使うのなら、僕らの記憶を頼りにしてみるといい。きっと君の助けになってくれるはずだよ”

“ち   、 ょっ  待っ    さ────*5

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「・・・?」

 

 久方ぶりに味わう覚醒直後の浮遊感、心地よい眠気と僅かな倦怠感を全身で享受するこの感覚。

 真っ直ぐ上を見上げれば見覚えのない天井が視界を埋めている。横に視線を移せば真っ白な壁やベッド、そして右腕に繋がれた点滴があり、今私が病室に寝かされていることだけは辛うじて理解できた。

 

「・・・・・・」

 

 ゆっくりとだけれど自分で身体を起こせる、掌を握って開いて深呼吸ができる。当たり前のことが当たり前にできていることへの違和感。

 

「おはよう、目が覚めたかい?」

「?・・・ぇ・・・ゆめ・・・?」

「寝惚けられる程度には元気がありそうかね?」

 

 声が聞こえた方に目を向ければリカバリーガールがベッド横の椅子に座っていた。お見舞いなのかわからないけれど、私のことを見守っていてくれていたようだ。

 

「リカバリーガール・・・?」

「治与婆様とお呼び」

「・・・」

「体調はどうだい?検査通りなら至って健康体の筈だけど、何処か不調は?」

「?えぇと・・・よくわからないです・・・」

 

 寝惚けているせいか、半年ぶりに身体の感覚があるせいなのかわからないけれど、とにかく頭がぼーっとしている。そのせいで外から入ってくる言葉の意味を理解することができない。

 それに何だか思考が纏まらなくなってきた。頭の中が霞がかったようにふわふわしている気がする。

 

「ふむ・・・少し待ってな、今医者を呼んでくるよ」

「・・・・・・?」

 

 私は何をしていたんだっけ?確か・・・えぇと、あれ?何か色々とあった筈・・・うん、そうだ。マリさんのお姉さんとお話したんだ。

 それで約束をして・・・あ、もっと色々聞きたかったのにもう時間だからって・・・酷い。

 

「おはようございます。影山さん、少しお身体に触りますねー」

「まだ頭が回ってないみたいでね。あまり刺激しないように頼むよ」

 

 そうして必死に夢で見た記憶を掘り起こしていると、いつの間にか白衣を着た女性が私の周りで何かしているのがわかった。

 

「・・・?なんですか?」

「はーい、ちょっと冷たいですよー」

「?だれ・・・?」

 

 よくわからないままぺたぺた機械で触られたり、白衣の人から何か言われる謎の時間が続く。

 ・・・ぁ、この人お医者さんか看護師さんなのかな。ならさっきのは私の身体を検査してくれていたのだろうか。とにかく彼等の話す内容が頭に入らず横にすり抜けていって、言葉の意味を上手く咀嚼することができない。

 

「はい、お身体に異常はありませんね。今は寝込んでいた影響で意識がはっきりしていないだけでしょう。今日の夜頃には明瞭に話せるようになると思いますよ」

「そうかい、世話かけたね」

「いえいえ!こちらこそ普段はお世話になっておりますから!!このくらいは!!」

「・・・?」

 

 リカバリーガールと白衣の人が何か話している。内容は理解できないけれど、多分私の状態についてのことだと思う・・・のだけど、浮遊感が一向に収まらない。

 何もできずにそのままぼーっと虚空を眺めていると、話が終わったらしい白衣の人が丁寧に私の身体をベッドに横たえてくれた。

 

「まだ眠いだろう、落ち着くまでゆっくり休みな」

「・・・?」

「何かありましたらいつでも呼んでくださいねー」

 

 白衣の人が出ていって、一人残ったリカバリーガールがそっと私の瞼を閉じる。何もする気が湧かないほど頭が動かない今の状態でそんなことをされてはまた眠・・・眠ってしま・・・ぁ───。

 

 

 

 

 

 

「はっ!?何か忘れてしまいそうな気がします!」

「おや、今度は元気なお目覚めだね」

「おはよう哀少女、調子はどうかな?」

「ッ!?ぇ?・・・なん、え?リカバリーガールとオールマイト?うぇ・・・?」

 

 強い決意を持って眠気に抗い気合いで身体を起こす。すると横にリカバリーガールとオールマイトの二人が座っていた。

 

「・・・え?」

 

 ・・・???

 え、ちょっと待ってください。何ですかこれ。何がどうなっているのですか?誰か私によくわかるように説明してくれませんか。

 

「何処か痛みや違和感のある箇所はあるかい?」

「いえ・・・特にありませんけど・・・?」

「昼に一度起きたことは忘れてそうだね」

「ぁ・・・あぁ、そういえば此処病院でしたね。私、入院していたんですか?」

 

 危なかった。このまま寝惚けていたら変なことを口走ってしまったかもしれない。保健室の生活で寝起きに二人の姿を見慣れていてよかった。

 

「すまない哀少女。あれだけ忠告してくれていたというのに無様な姿を晒してしまった。それに偉そうな事を言いながら、結局君に戦わせることになってしまった」

「あわ、わ・・・待って、待ってください!」

(わ、わぁー!!どうしましょうマリさん!)

 

 深く頭を下げ謝罪を行うオールマイトに動揺してマリさん助けを求めた。自分よりもずっと歳上の人から告げられる謝罪なんて人生初めてだから困惑するばかりでどうすればいいのかさっぱりわからない。

 

(・・・あれ?マリさん?・・・あの、聞こえてますか?)

 

 けれどいつまで経っても彼の声は返ってこない。嫌な沈黙に自分でも冷や汗が頬を伝って目線が揺らいでいるのがわかる。

 

 ・・・何で!?!?

 いきなり身体の主導権が入れ替わったから?というか何でいきなりこうなって・・・あ゛!鳥紗さんが確かそんな感じのことを言っていた気がする!!

 

「えっと・・・!あの・・・!!」

 

 どうしようどうしようどうしよう!!このままじゃ私がマリさんじゃないって二人にバレちゃう!

 

 ・・・・・・あれ、別にバレても問題ないのでは・・・?私達が二人いるってことは知られていますし。

 

「あ、あの・・・私実は」

「哀じゃなくて操奈の方かい?」

「っ!!どうして分かったのですか!?」

「顔見てればなんとなく、ね」

「・・・なるほど?」

 

 そう言われるほど私とマリさんでは表情が異なるのだろうか・・・あ、いや、確かに『千里眼』でいつもマリさんの顔を覗き見ていたからある程度は理解できる。

 教室等で他の人といる時はかなりキリッとしているけれど、気が抜けている時や私と二人きりの時はふにゃっとして向日葵みたいに柔らかい表情で話すのだ。

 特にリカバリーガールの前ではぽやぽやしている確率が高いから、彼女からしたら私達の違いは分かり易いのかもしれない。

 

「えぇと、哀さんもすぐ目を覚ますとは思うのですが・・・何時になるかはわからないです」

「ふむ、そうなると体育祭は出れそうかい?」

「体育祭・・・?え゛っ、私が出るんですか?」

 

 彼女の口から出てきた単語に驚きを隠せなかった。雄英体育祭、現代日本におけるもっとも規模の大きな祭典の一つ。

 私もこうなるまでは毎年両親に中継を見せられていて、ずっと映像の中の英雄のようになるのだと言い聞かせられてきた。

 全く気乗りはしなかったし雄英に行きたくもなかったから、私が出るなんてことは夢にも思ったことはないけれど、今は夢ではなく現実で出る羽目になりそうらしい。

 

 ・・・凄く嫌だ。というか私の戦闘能力なんてマリさんありきだもの。彼が居ない今の私でどうこうできる未来は見えない。

 

「困ったねぇ、入試主席に体育祭を欠席させるってのは少し不味いかもしれない」

「根津校長とリカバリーガールから療養の為と言えば通るでしょうが、世間からのバッシングは避けられないでしょうね」

「ま、元々無理を押して開催してんのさ。批判されて当たり前さね」

うぅ・・・

あ゛っ!君が気にする必要は全く無いよ!君を含めた生徒たちを無事に守りきれなかった我々の責任なのだから!」

 

 世間では白昼堂々ヴィランに侵入され主犯格を取り逃した挙句、生徒一名が重症*6、もう一名が意識不明となり入院したことでかなり炎上しているらしい。

 そんな中でも体育祭をやるというのだから流石というべきか、世間体を保つ為にやらざるを得なかったのかはわからないけれど。

 

 ただ今の私にとっても限り無く最悪に近いニュースであることは違いない。例年代表挨拶を務める生徒が療養の為体育祭を欠席なんて言ったら益々バッシングが加速するのではないだろうか。

 

「・・・一応、出場するだけしてあんまり戦わないっていうのは・・・」

「戦闘を避けるには能力を見せ過ぎているからねぇ」

「哀さんのバカ・・・」

「そもそも個性が使えなきゃ戦うも何もないよ。今のあんたには何が出来る?」

『千里眼』(監視カメラ)と影に隠れたり物を出し入れする・・・とか」

「うぅむ・・・今から訓練するにも厳しいか」

 

 三人揃って首を傾げる。もし私達が入学以降大人しくして暮らしていたらこうも悩まずに済んだのだろうか。

 とはいえ過去についていくら思い悩んでも後の祭りだ。何か今の私にできる手段を考えなければ。

 

「そういえば、今日は何日なのでしょうか?体育祭まで後どれだけ猶予が?」

「ちょうど今日から五月に入ったところでね。・・・つまり、体育祭は三日後だ」

三日後!?すぅ──今までありがとうございました・・・

「諦めないで!?」

 

 思わず天を仰いで涙を流してしまった。ついさっき諦めないと決めたばかりなのに心が折れそうになるなんて情けないけれど、流石に三日後はちょっと・・・いや非常に困る・・・。

 

「すみません・・・つい。あ、クラスや教師の皆さんにお怪我は?」

「緑谷少年が個性の反動で指をボロボロにしてしまったが、それ以外は軽傷で済んだよ」

「それなら良かったです」

「良くないに決まってるだろうおバカ。長いこと寝込んで心配かけさせおってからに」

「それは誠に申し訳なく・・・」

 

 想定外はあれどマリさん達の防衛戦が実を結んだのだと知って安堵できた。特にあのハイエンドとの戦いでは他に気を配る余裕もなかったから。

 時折影に潜ませた影憑法師(ドッペルゲンガー)が壊れかけたり*7、自分で壊してしまったり*8していて冷や汗が止まらなかったのだ。

 

「まぁ、私もやれるだけ方法を探してみます。あまり大人しくしていてもAFOにどんな勘繰りをされるかわかったものではありませんし」

「わかった。訓練に必要なことがあれば何でも言ってくれ。可能な限り全力で力になるよ」

 

 鳥紗さんから頂いた助言が上手く活かせるかはやってみないと何とも言えないけれど、駄目元で試してみようかな。

 それか『潜影』といい感じに組み合わせてそれっぽく見せかけるとか。

 

 ともかく、どうにか方法を見つけないと日本最大級の舞台でとんでもない無様を晒すことになってしまう・・・うぅ・・・お腹痛くなってきちゃった・・・。

 

「そうだ操奈少女、少し話は変わるんだけどね───」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 場所は変わってUSJ、あの戦いの時創りだされて以降放置されていた無幻(ウロボロス)の回収にやってきた。

 とぐろを巻いてグースカ寝ているらしい彼は私の身長よりも大きな瞼をぴったり閉じて、地鳴りめいた爆音のいびきをかいていた。

 仕方がないので恐る恐る手を伸ばし、硬く頑強な鱗で覆われた瞳を軽く叩く。

 

「お、おはようございます?」

「・・・Ry?〜〜〜Reee!!

「わ、わっ、舌巻き付けないでください!ちょっと怖いです!!」

 

 声をかけた途端に彼は眼を力強く見開き頭を寄せてきた。伸ばした舌先をくるくると巻き付け甘えるように鳴く様子から私にじゃれついているのは理解できるが、山のような巨体に絡まれるのは流石に怖い。

 

お、オールマイト先生ぇ〜〜〜」

HAHAHA!!とても懐かれているじゃないか!この感情豊かさで無生物(ゴーレム)とは信じられないね」

私は全身が溶解液で溶けないか不安なのですけど・・・?

 

 無幻(ウロボロス)は襲撃が片付いてリカバリーガールに気絶した私を預けられたまではいいものの、それからずっとUSJに居座ったままなのだそう。

 嬉しそうに甘える彼に抵抗することを諦め、やたら細長い舌で全身べしょべしょに舐められながら話を進める。・・・凄く大きな犬種の犬に絡まれてる時ってこんな感じなのかな・・・。

 

「下から見ると巨大過ぎますねこの子」

「見上げていると首が痛みそうだね・・・と、お腹の中はどうだい?・・・もう溶けてないよね?」

無幻(ウロボロス)、お腹に入れてる()()ぺっしてください」

 

 私からの命令に彼は大きな頭を傾けて疑問符を示した・・・え?私が主人と認識されてない・・・?それともハイエンドのこと忘れちゃった・・・?

 

「もしかして本当に溶かしちゃった・・・?」

「い、いやいやそんな・・・ほらあれですって!あの炎吐いてた黒いの!『死なない程度に抑えといて』って命令(コード)来てたでしょう!?」

 

 詳細な見た目や指示を提示したおかげで思い出してくれたようだ。彼は私に絡ませていた舌を引っ込め大口を開けた体勢で固まった。

 耳を澄ませて見れば小さく金属が軋むような音が長い胴体から聞こえてくる。どうやら頑張って胃袋の奥底から運んでいるらしい。

 

「あ、なんか出てきたね」

「・・・胃液に塗れてますが間違いありませんね。ハイエンドの頭部です」

「これ、もう死んでないかい・・・?」

「まだ生きてますよ。自滅戦法を想定していたからなのかは知りませんけど、頭部は特に頑丈に作られていたみたいです」

 

 数分掛けて器用に吐き出された頭部はコロコロと転がりオールマイトの爪先にぶつかった。無幻(ウロボロス)は相変わらずすっとぼけた表情をしているけれど、彼と比べて豆粒レベルに小さな物体を十日以上胃の中で潰してしまわないように調整していたことになる。

 見た目は生物でもちゃんと中身はマリさんの創ったゴーレムなのだ。精密機械じみた真似を容易くやってのけている。

 

・・・ォ・・・お?・・・dぃ・・・

ウワァ喋ったァ!?

「頑丈な外殻の中に収納されている脳を潰さない限り死なないと哀さんが分析していましたが・・・」

「どうかしたのかい?」

「いえ・・・何でも」

 

 両親の仇が首だけになり地面に転がっている姿を見ても、不思議と胸の内から何の感情も湧いてこなかった。

 コイツがマリさんを傷付けた時は思わず激昂しそうになった程度には嫌っている自負はあったのに、今の惨めともいえる姿を見て気分が晴れることも憎しみが募ることも無かった。

 

(私って自分で思っていたより薄情なんでしょうか・・・はぁ、早くマリさんと話したい・・・)

 

 憂鬱な気分のまま喋るハイエンドの頭部を持ち上げてオールマイトに手渡した。少し腰の引けた姿勢で頭を受け取ったオールマイトは、校長謹製のケースにそれをおっかなびっくり仕舞い込んだ。

 

「解析は其方にお任せします。重ねて言いますがくれぐれも情報が漏れないように、あと()()も」

「もちろんさ。君達が苦心して手に入れた手掛かりは決して無駄にしないと誓うよ」

 

 AFOには相澤先生の影に仕込んだ鼠を介してフェイクを送ってあるけれど、あっちには流石にお喋り機能は付いていない。

 本人が再生させた肉塊を素材に自然にバラけて崩壊するよう錬成してあるとマリさんは言っていた。あれが偽物であるとバレるまでが私達の裏切りが露呈するまでの猶予期間といえる。

 

「それと青山夫妻の探索、頼みますよ」

「塚内君・・・あぁ、私の協力者から今回の襲撃を受けてより人手が回せるようになったと聞いた。我々の準備と並行して捜査を詰めていく予定だよ」

「私達は暫くお役に立てませんが・・・すみません」

「そう気にしなくてもいいさ。元より我々が果たすべき役目だ。今はゆっくり休む・・・のは難しいかもしれないが、気負いすぎるのもよくないよ」

 

 青山夫妻については現在の所在がわかっていない。今年の三月までは青山君と一緒に外出する姿が確認されていたが四月以降目撃が絶えているとのことだった。

 黒霧(ワープ)が敵にいる以上全国どこに監禁されているのかは不明だが、そこは塚内さんとやらと根津校長に任せる他ない。

 

「Rrrr?」

「慰めてくれているのですか?君は良い子ですね」

 

 無幻(ウロボロス)が器用に舌先を使って頭を撫でてくれている。少し髪が溶けそうになっているのが難点だけれど、気を遣ってくれるのは純粋に嬉しい。

 

「その子はどうするんだい?」

「哀さんが起きてくれれば分解してもらうんですが、私にはちょっと手が出せないというか・・・」

「いつまでもUSJを閉鎖するわけにもいかないからね・・・影に仕舞ったりとかは流石に厳しいか」

「どうでしょう。試したことはないですけど・・・」

 

 多分無理だとは思うが、駄目元で試してみることにした。そっと私の影を薄く伸ばし無幻の影に接続する。そうして彼の身体を沈めるように影に取り込んで──。

 

「──っあ、駄目ですコレ」

「やっぱりダメだよね・・・」

 

 本能的に拒否反応を感じて影から無幻(ウロボロス)を弾き出した。明らかに無理なサイズ感ではあったものの、私の個性にもちゃんとした許容範囲というものがあったらしい。

 これまで私の体積の数倍程度なら収納できていたから、その辺りが今の私の限界なのだろう。

 

「仕方ない。哀少女が目覚めるまではUSJで静かにしてもらおう」

「ご迷惑をおかけします・・・」

「HAHAHA!!USJの名に相応しい巨大なマスコットが増えたと思えば気にならないさ」

「そういうものでしょうか・・・?あ、絡まれてる」

「Oh!?意外と生暖かいね君!」

 

 じゃれつきの矛先がオールマイトに向いたのを尻目に思索に耽る。明日の学校と土曜を挟んですぐに体育祭が始まってしまう。

それまでに最低限クラスの皆と競争できるだけの手段を模索しなければならない。表向きは『錬金』の名前で通しているから『潜影』は大雑把に使えないし、やっぱり私なりに『錬成』を使えるように訓練するしかないのだろう。

 

(鳥紗さんにちゃんと『錬成』の使い方聞いておけばよかったかな・・・)

 

*1
テレビドラマ以外の恋愛沙汰を知らないエアプ女児 

*2
色々と聞きたいことがあるのですが・・・あれ?

*3
えぇ!?ちょっといきなり過ぎますって!

*4
もぉー!なんでそんな大事なことを今言うんですか!!

*5
ちょっ、ちょっと待ってくださ───!“

*6
緑谷の壊死しかけた両指

*7
緑谷出久のカバー

*8
爆豪勝己は脚元で動くゴーレムを反射で破壊してから「ややこしい真似してんじゃねぇ!」と叫んでいた




TIPS
マリくんちゃんが表の時は丸い瞳に垂れ目気味のぽやぽやした雰囲気に物静かなおっとり系。
操奈さんが表の時は細目の切れ目気味のキリッとしたクールフェイス。冷酷なお嬢様系。
マリくんちゃんは普段意識してキリッとした表情を作りクールお嬢様を装っているつもり。
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