ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活 作:Radrabbit
しかも何か日間ランキングに載らせて頂いたということでヒロアカパワーと皆様に感謝のおまけ。
間に挟みたかったけど挟めなかった長かったり短かったりする小話です。
・怪奇!保健室の幽霊!
影山が保健室で寝泊まりするようになってから数日経過したとある日の朝、葉隠と影山はいつものように教室で談笑していた。
「そうだ!ねぇ哀ちゃん知ってる?最近ね・・・出るらしいんだよ」
「何がですか?」
「おばけ」
「は──はぁ。そうですか、それがどうかしたのですか?」
「めちゃくちゃ目が泳いでるよ哀ちゃん」
「ここここわがってなどおりませんが?」
彼女は誰が見ても否定できない程度には挙動不審だった。視線が右へ左へと彷徨いつつも腰の引けた姿勢で必死に虚勢を張ろうとしている。
そこへ背後から芦戸が驚かせようとこっそり両腕を伸ばして影山に抱き着いた。
「ぴぇッ!?」
「私知ってる!保健室の幽霊でしょ?」
「あしぇ、あしどさん!」
「なんでそんなビビってんの?ちょっとした噂話じゃんね」
芦戸達からすればささやかな噂話。毎朝のお喋りの話題として挙げただけにすぎない。そも彼女達も本気で幽霊がいるなどとは考えてはおらず、よくある学校の七不思議感覚で切り出しただけ故に影山の怯え具合には首を傾げていた。
「幽霊などという非科学的な存在を認めるわけにはまいりません!」
「でもそういう個性の人いるくない?」
「それには個性因子という理屈があるではないですか。彼らは世の法則から外れたものではないのです!」
「あー、錬金術師的には理屈とか原理とかがよくわかんない奴が嫌なのね*1」
「そういうわけで幽霊などこの世には存在しないのです!二人ともいいですか?この話もう終わりです」
強引に会話を切って影山は与太話を終わらせようとした。
「でもさぁ、最近影山って補習受けてるんでしょ?気にならない?」
「別にそんなことは──」
「だって保健室の幽霊だよ?ばったり会ったりするかもじゃん」
「──ッ!?」
薄く涙を浮かべていた両眼が見開かれ、驚愕と共に口が小さく開閉を繰り返し音にならない言葉を繰り返していた。
「あわ・・・わァ・・・ぁ・・・」
「泣いちゃった!?」
「そこまで怖いかなぁ!?」
なんか小さくて可哀そうな小動物が怯え震えるように影山は泣いた。中に居る片割れから白い眼と邪な感情を向けられつつも幽霊の恐怖に耐えられなかったのだ。
背丈の低さも相まって葉隠と芦戸は子供を泣かせてしまったような気持ちが沸いてきて、罪悪感がちくちくと刺激されてしまう。すると芦戸が腰に手をついてため息を吐き、葉隠の顔がある方に視線を向けた。
「しょうがない。やるよ葉隠」
「うん?何するの?」
「このままじゃ影山が保健室いけないからね。幽霊調査隊、アシドバスターズの結成だよ!保健室の幽霊の正体を解き明かす!」
「アシドバスターズだと芦戸ちゃんが退治されちゃわない?」
「アシドゴーストバスターズの結成だよ!影山も一緒に行こう!」
「おー!」
「どうしてぇ・・・」
意気揚々と拳を振り上げ宣言する芦戸。こうして調査に付き合わされることになった影山と、自主的に校内治安のためついてきた飯田も合わせた4人の調査隊による捜査の幕が上がった。
「と言っても夕方だから特に何も出そうにない気がするけど」
「きっと勘違いや気のせいに違いありませんわ」
「私の背中に引っ付いてなければ説得力あるんだけどなぁ・・・」
「誰かの悪戯という線もあるよ。もしそうなら雄英生として正す必要がある」
芦戸を先頭に葉隠の背中にコアラの如く抱き着いた影山、曲がり角や設備の隅々まで調べ律儀に声を掛けて人が居ないことを確認している飯田達4人の調査は早速行き詰まっていた。
当然夜中に学校で調査するわけにもいかないので、彼等四人は授業終わりの放課後に学内を探索すると言う手法を取っていた。それ故にいたって普段と何の変わりない校舎をただ駄弁りながら歩いて回るだけになってしまっている。
「何やってんだお前ら」
「相澤先生!残業ですか?」
「違ェよ。で、何してんの君ら」
「幽霊のウワサの調査ですよ。ほら、哀ちゃんが怖くて補習受けれないって」
「透さんが言い出したくせにぃ・・・」
「お前らな・・・」
呆れたような眼で相澤は彼らを見下ろした。彼は幽霊の噂話など聞いたこともないので、貴重な時間を現在進行形で無為に消費している四人に白けた眼を向ける。
「でも先生!この前のマスコミみたいに誰か侵入してるかもしれないじゃないですか!」
「その件もあって警備は強化してる。今雄英に侵入するのはほぼ不可能と考えてもいい・・・万が一侵入されていたとしても痕跡一つ見つからないことはまず無い」
「なるほど、では先日の騒ぎによる不安が生み出した作り話でしょうか?」
「大方そうだろうな、わかったら君らもとっとと帰宅するように」
飯田達の問いかけに現実的に侵入者の存在はあり得ないと断言し、彼等に帰宅を促した。
「せんせーどこ行くんです?」
「念の為の見回りだよ。先週からやってるが俺は幽霊なんぞ見たことも聞いたことも無ェ」
「ならついでに哀ちゃんのこと送ってあげてくださいよー。ほら見てください。こんなに震えている子を放置しちゃうんですか?」
「まだ仕事だっての。そこまでなら言うならお前らが送ってやれ。というか影山、たかが噂話に怯えてどうする」
「でもせんせぇ・・・」
「おぉよしよし、かわいそうな哀ちゃん」
半泣きで縋るように葉隠に引っ付いてあやされている影山を見て相澤も流石にチクチクと罪悪感が沸いてきた。これが峰田実なら無視して仕事に戻っていたところだが、昔自分によく泣きついていた小さな後輩を想起させる彼女を放っておくと、眦を吊り上げたリカバリーガールに叱られそうな錯覚を彼に覚えさせるのだ。
「・・・はぁ、わかった。俺もその噂とやらを調べておく、噂の件が解決するまではそいつらと婆さんに面倒見てもらえ」
「やったー!じゃあ夜間の調査は先生にお任せしまーす!」
「おい」
「失礼だぞ芦戸君!先生のプライベートを何だと思っているんだ!」
「でもしょうがないじゃーん、夜の雄英なんてうちらじゃ調べられないし」
「確かに一理あるが・・・」
「負けんな飯田、もう少し粘れ」
あまりに率直な物言いに思わず青筋を立てた相澤だが、その程度でいちいち怒りを感じていたら教師など勤まらない。軽くため息を吐いて頭をふり、何とか反論を述べようとする飯田を止める。
「まぁいい。元々夜は雄英で仕事してるからな。見回りのついでにやっとくだけだ」
「さっすが先生!頼りになるぅ!」
「うわぁ・・・」
「教師業務でお忙しい中感謝します!」
夜間も仕事をしていることに静かに引いた葉隠を除いて二人は意気揚々と感謝を告げ、影山も流していた涙を引っ込めきらきらとした視線を相澤に送る*2。そうして騒がしい学生4人組と別れた相澤は職員室のデスクに戻り、夜の帳が降りるまで書類と延々とにらみ合う業務を続けた。
四月の空がすっかり暗闇に染まり、雄英の敷地を出歩く人間が教師以外に消えた時間帯。そろそろ見回りに行こうかと相澤は凝り固まった背筋を伸ばし、乾燥した両眼に何滴か薬を垂らした。今日は自分以外に誰が雄英で残業をしていたか思い出しながらライトを片手に取り、月明かりが曇天によって隠された静かな夜闇の中を歩み出す。
「・・・まぁ、そうすぐには見つからんわな」
最初は噂を意識して
確か保健室にまつわる噂話だったかとルートから外れてその足を校舎へと向けた。人の気配が微塵も感じられない暗闇の中で、ただ一人彼の足音だけが辺りに響いていた。
「ん?」
この時間の巡回ルートでは他の誰とも出くわすことはない──と思っていたが、この暗闇の中で微かに人影のようなものが見えてきた。姿は細く縦に長い・・・いいや、人にしては些か細すぎるように見える。その影がゆっくりと隠れるように動いている様はこの暗さも相まって、確かに子供が幽霊と誤解するのも理解できなくはないと感じていた。
しかしまさか本当に不審者が侵入しているのかと、念のため『抹消』をあらかじめ発動させておき捕縛布を両手に構えた。
だが直後に彼はカッと両眼を見開き、侵入してきた相手を見て動揺したかのように声が揺らぐ。
「こんな時間に何してんですかオールマイト。今日残業の予定ないですよね?」
「のわぁ!?相澤君!?」
不審な人影──すなわちオールマイトは背後から声を掛けてきた相澤に飛び上がって驚愕を表し、さも幽霊に化かされたかのような反応を返した。
「相澤君か。驚いたよ、思わず心臓止まるかと思っちゃった」
「こっちはいらん取り越し苦労だったと・・・まぁいいです。まだ仕事中でしたか?」
「いいや、実は最近雄英で療養するように校長から言いつけられていてね。・・・夜はさっさと寝て休めと色々せっつかれているんだ」
「もう結構夜中でしょうに」
「いやぁ・・・実は最近御手洗いが近くて*3」
「爺さんじゃないんですから・・・」
無意識に張っていた肩の力を抜き見せつけるように長い溜息を吐いてから、ややこしい真似はやめるようオールマイトに注意を促した。外見だけならお化け屋敷にいても違和感の無い姿であるのだから、妙な噂が立たないようせめてライトくらいは持ち歩くようにと。
「えぇ!?そんな噂になっているのかい?・・・あれ、でもこんな時間に出たのは今日が初めてだよ」
「・・・ん?すると夜は出歩いてないんですね?」
「?あぁ、最近はすっかり健康的・・・というかもはや病人のような生活さ」
噂話の内容が幽霊であるならば、その元ネタとなった何かしらが少なくとも存在するのが道理。オールマイトの一見骸骨と見紛う外見であれば噂になるのも納得であるが、日の当たる時間帯で見かけても幽霊の噂が立つかといえば首を傾げる。
「また別の誰かがうろついてるんですかねぇ」
「人間じゃなくて動物や物を見間違えたんじゃないのかい?ほら、
「それか本当に単なる作り話だと楽・・・いや、根も葉もない噂だってわかるまでが面倒臭い」
「大変だね・・・手伝おうか?」
「休めって言われてんですから病人はとっとと寝てください」
「oh・・・」
オールマイトの申し出を軽く受け流し、とぼとぼと歩き出した彼を見送ってから相澤は巡回に戻った。雲に隠れていた三日月が薄らと夜を仄かに照らし始め、見回りに出た頃よりは周りが見通しやすくなってきていた。
「・・・安請け合いするべきじゃなかったか。よく考えりゃわざわざ俺まで動く必要ねぇしな」
雄英校内の警備という意味でならハウンドドック達のように元から専業として防犯活動を行っているヒーローも雇われている。加えて警備レベルの引き上げも実施されているのだから、己が動かなくても誰かしらが噂の真相にたどり着く可能性の方が高い。
それならば猶更睡眠時間を削ってまで調査を引き受けるべきではなかったと、若干の後悔を滲ませつつ今後のスケジュールを頭の中で思案する。
そうして差し込んだ月明かりによって少しだけ見通しの良くなった校舎裏の通路を独り歩き続けた。
数分程代り映えのない通路を進み続けそろそろ保健室が見えてくる頃になって通路の真ん中、相澤から十数メートル程離れた地点に小柄な人影が立っているのが視界に入る。
(ハウンドドック、なわけ無いよな。今度こそ本物の不審者か?)
仄かな燐光に包まれている全身、良く手入れの行き届いた長い金髪。両眼を閉じた顔は呼吸をしていないのかと錯覚してしまうほど微動だにしておらず、ただ無造作に月明かりへ小さな体躯を晒していた。
「・・・何してんだ郷里」
「・・・・・・・・・」
「おい」
「・・・?」
最近よく絡んでくる後輩は問いかけに応えず目を瞑ったまま身体をこちらへと向けた。少し語気を強めて声を掛けてもぼんやりとした態度のままのアルケミーがゆっくりと首を傾げる。
そしてゆっくりと数秒時間を掛けて眼前にいるのが誰であるのかを把握したらしい彼は、夜風に揺れる金糸の上へ掌サイズの
「・・・ぁ、相澤先輩だ」
「だ、じゃねぇよ。こんな時間に何やってんだ。お前には警備巡回の仕事入ってないだろ」
「・・・・・・」
相澤に気づいても依然として浮ついた雰囲気のまま無言に戻ったアルケミーに何かしらの不調でもあったのかと考え、過去にこういう状況に出くわしたことはあったかと古い記憶を掘り起こしていく。
(・・・学生の時以来か、コイツが変なことやってんの見るのは)
同じような状況は覚えがないものの、何かあって人目を避けるような行動を起こす場合は大抵精神的な限界を迎えている時だ。彼のこういった状態は多少強引にでも思いきり泣かせてすっきりさせれば次の日には元に戻る。
「また泣いてるのか?」
「・・・そう思う?」
「───ッ」
開かれた両眼はいつもと同じ紅色だった。だが透き通るような光を宿している普段とはまるで違い、何処までも堕ちてしまいそうな濁りがそこにあった。ニコニコと人好きのする幼い笑顔は無く、ただただ吸い込まれるような虚無を誂えた無表情が相澤を見上げている。
「あーあ、見つかっちゃった」
「・・・お前が噂の原因なのか?」
「噂?なにそれ」
はっきりとこちらを見ているはずだというのに、その視線はまるで虚空を彷徨っているように焦点が合わない。
赤い筈の瞳がクレヨンで歪に塗り潰した黒色に染まっているような錯覚、底知れない奈落を不意に覗き込んでしまった時に近しい得体の知れない寒気が彼の背筋を走った。
「生徒の間で話題になってるらしいぞ。雄英に幽霊が出たとかどうとか」
「・・・ぇ?何でそんな話になってるの?」
「今のお前、幽霊に見えなくもないぞ。薄く光ってるし」
得心のいかない様子でこてんと首を傾げていた彼は優に数十秒の間はぼうっとしていて、相澤から見ても心当たりを考えているのかいないのかよくわからない状態が続いた。
「ぁ・・・あー、これ無意識についやっちゃうんだよね。手癖というか」
「個性を無意識に使ってんじゃねぇ。腐ってもプロだぞお前」
「えへへ、ごめんなさーい」
背に走った怖気を押さえつけて普段通りを装って会話を続ける。声色だけを聞けばいつものアルケミーと何ら変わらないが、表情だけは本来の責務を忘れたかの如く無表情のままだった。
「で、何でこんな真似してんだ」
「えー・・・なんでだろ、寂しくて?」
「ガキか」
本当に自覚の無いまま今回のような奇行に及んだのか、それとも何か言いたくない理由でもあるのか。昔から鈍い相澤には詳細な理由までは見当も付かないが、それでもこういう状況でどうすれば良いかくらいは学んでいる。
「・・・ストレス溜まってんならミッドナイトや婆さんのとこにでも行ってこい。適当にあやしてくれるだろ」
「今度からはそうするね」
「お前ももう大人だ。こういう人に迷惑掛けるようなことはやめろ」
「うん、もうやんない」
相澤の言葉に素直に頷いた彼は開いていた両眼を再び閉じ、頭に載せていた
「おぶって」
「・・・は?」
「校門出るところまででいいから」
「何言ってんだお前」
呆れた相澤が冷たく返しても動じることなくアルケミーは腕を掲げ続ける。心なしか先程までの無表情から少し口角が上がっている様子だけが相澤の心に安心をもたらしていた。
「できればお姫様抱っこがいいな。昔からの夢だったもの」
「寝言は寝て言え」
「ん」
「お前な・・・」
少しも譲る姿勢を見せないまま強請るようにぐいぐいとつま先立ちを繰り返し始めた。学生時代でも見せなかった程の強情な態度に内心呆れかえっていた相澤だが、このまま妥協しない聞かん坊と問答を続けても貴重な睡眠時間が削れるだけだと諦めてしまった。
そして今日一番深く長い溜息をついてからアルケミーを片腕で持ち上げ肩に乗せた。
「中身の成長しないガキにはこれで十分だろ」
「・・・ぉ?おおー、これはこれで新感覚」
「期待した俺が馬鹿だったか・・・」
望み通りではない俵担ぎで肩に抱えられたアルケミーだったが、ほんの僅かに困惑するだけで終わった。むしろきゃっきゃとはしゃぎだした彼に辟易としながらも、相澤は途中で振り落としてしまわないようしっかりと腕に力を込める。
これが子ども慣れしている
「あ、そうだ。これだけは言っておいた方がいいですかね」
「何がだ?」
「僕を見つけてくれて、ありがとうございました」
「そりゃどーも」
「そういうわけで噂は夕暮れや夜中にぼけっと光りながら彷徨ってた
「・・・・・・・・・」
「どうした」
「・・・いえ、なんでも・・・わざわざ調べてくださってありがとうございます」
それだけ伝えると用は済んだとばかりに踵を返して相澤はその場を立ち去った。ヒーローと教員の二足の草鞋を全うする彼にはあまり時間を無駄遣いすることはできない。
ただでさえ最近はトラブル続きで目の隈が段々と濃くなってきているのだから、リカバリーガールにベッドへ叩き込まれる前に少しでも多く仕事を片付ける必要がある。
「───────」
それ故に彼は何も気が付かないままこの話を終わらせてしまった。
背後で眉間に皺を寄せ暗い表情で小さく何かを呟いていた彼女に気が付いてさえいれば、この先の未来も少しは変わっていただろうか。
今更後悔したところで、何も返ってはこないというのに。
・特訓!掴めOFA!!
国民的英雄、平和の象徴、決して悪に屈さぬ豪傑。
日本だけでなく世界中から畏敬の念を抱かれる超人は今、生まれたての小鹿の如く脚を振るわせていた。
「ほほほほほ本日はお日柄もよく」
『何がたがたやってんだ俊典。俺はただ『弟子の様子はどうだ?』って聞いただけだろうが』
「えッ!?てっきり今回は至らない私の指導に業を煮やしてお叱りのお電話を頂いたのかと・・・」
自身の指導力不足を嘆いて連絡を入れてきたのかと背筋を伸ばしていたオールマイトは、想像していたのと異なるリアクションに思わず拍子抜けしてしまった。
『あぁ、指ぶっ潰したって話か?まーアレはしょうがねぇだろ。
「しかし・・・彼らの負傷は私が至らなかったせいです」
『アホ言え。今回の一件はお前だけじゃなく根津も俺もそうだ。襲撃を知っていた誰もが甘く考え過ぎてたんだよ』
AFO本人が出てこないのならば何とでも対処できるだろうという無自覚な慢心。無意識のうちに奴の調査をするための布石程度に考えてしまっていた。
まさかあそこまでの戦力を早々に送り出してくるなどとは誰も考えてはおらず、その結果が生徒に皺寄せを食わせることになってしまった。
『特に嬢ちゃんには悪いことしちまったな・・・今はどうなんだ?』
「身体的には問題無く回復している筈、とのことなのですが」
『そうか・・・たったの6年で俺達は忘れちまってたのかもしれねぇな。奴の脅威を』
「・・・申し訳ありません。私があの時奴の死を確認さえしていれば・・・」
『責めてねぇよ。今回は俺もAFOの調査じゃなくそっちに行くべきだったって話だ』
もう一体の
『ま、どれだけ後悔しても過去は変えられん。今は次の対策を考えるときだ』
「もしや、グラントリノも雄英に・・・?」
『本当は暫くお前に任せて余程の事態になるまでは自粛しておこうと思ってたんだけどな。のんびり育成してる間にまた襲撃されちゃ今度は死ぬかもしれねぇ』
「ま、まさか・・・!!」
緑谷が中学生時代に己を鍛え続けていた砂浜。一年掛けてゴミを拾い集め美しい景観を取り戻したその場所に彼等は集まっていた。
「そそ、そういうワケで此方の御方が君の新しい師匠になりマス・・・」
「えぇ!?もももしかして僕、気が付かない間にオールマイトを失望させてしまったんでしょうか・・・!?」
「そんなことはないぞ緑谷少年!ごめん、今のは私の言い方が悪かったかな!」
「聞いてた通りネガティブな小僧だな・・・ま、俊典が認めたやつだ。骨の無い奴だとは思っとらんから安心しろよ」
相変わらずトラウマが消えず足が震えてしまう師とすぐにマイナスの方面へ思考が向いてしまう弟子の一幕があったものの、顔合わせ自体は至極平穏に終わる。
そしてグラントリノの経歴にオールマイトオタクの緑谷が感涙して話が止まることは多々あったが、それでも議題の中心であるOFAの習熟についてはスムーズに事が進んでいく。
「AFO・・・ってヴィランのことはまだハッキリとは理解できてませんけど、USJ襲撃の黒幕がそいつで、僕がOFAをいち早く使いこなさないといけないってことはわかりました!!・・・でもすみません・・・今の話って僕が未熟なせいでグラントリノにお手を煩わせてしまっているってことですよね・・・」
「言っておくとお前がそこまで気にする必要はねぇぞ。元々俊典はすぐにOFAそのものは使えてたからな。
「そんなこと考えてたんですかグラントリノ!?」
「躓かない天才ほどわからない奴に教えるのは向いてないってだけの話だ。いちいち凹むな」
落雷が走ったかのようなリアクションで縮こまっているオールマイトを放置しながらグラントリノは説明を続ける。ちらちらと目線がオールマイトに吸い寄せられながらも真剣に緑谷は話を聞いていた。
「期限は体育祭が始まるまで。気合い入れろよ有精卵小僧。
「つまり・・・あと10日で形にしなきゃいけないってことですか・・・!?」
「それまでは俺が実戦形式でひたすらお前をボコボコに扱き続ける。覚悟はしとくんだな」
「緑谷少年・・・どうか死なないで・・・」
「そこまで拷問じみた何かなんですか!?」
・Scared kitten
5月に入り雄英体育祭を間近に控えた教室では徐々に熱気が伝播していた。
設定された課題が達成できず険しい顔で悩んでいる者、普段の粗暴な態度とは打って変わって神妙な雰囲気で思索に集中している者、空席を眺め親しい友の近況に心を痛めている者、己が左手を見つめ個性に憎しみを燃やしている者。
それぞれが思い悩み何処か重苦しいピリついた空気が出来上がっているこの場所で、いつもの朝と同じようにHRが始まった。
「おはよう諸君、今日から影山が復帰する・・・とはいえ病み上がりだ。調子悪そうだったら保健室連れてってやれ」
だが唯一掛けていたピースが帰ってきたことで、USJ襲撃から途切れていた温和な雰囲気がようやく1-Aに戻る。葉隠を筆頭とした女子陣は泣きながら復調を喜び、男子陣もほっと胸を降ろす人間が多数いた。
欠席がいた影響でイマイチ体育祭の熱気に乗りきれていなかった者たちもようやく心から気合いを入れることができるようになり、教室全体に熱い体育祭ムードが漂い始めていく。
そしてそんな彼らがまず始めに取り組むことと言えばすなわち──。
「はい哀ちゃん。あーん」
「な、なんですかこれ・・・あ、意外と美味しい」
「次はこれにしよ。私の最近のお気に入りだよ!」
「・・・・・・辛いのは嫌です」
「だいじょぶだいじょぶ、色は赤いけどちゃんと甘いヨ*4」
──
「俺はあんま大したモン持ってねぇけどよ、シフォンケーキとかいるか?個性の為に持ってきてたやつなんだが、影山甘いの好きそうだし*5」
「・・・・・・・・・」
「葛藤してる・・・」
「ケロ、美味しそうだけど話した事のない相手だから警戒してるのかしら?」
「砂藤ー!そのケーキ私にも寄越せー!」
「あ、なら私も味見したいかも」
目の前に差し出されたオヤツと砂藤を交互に何度も見返し、数分程固唾を呑んで観衆が見守っている中で恐る恐るケーキを影山が小さく頬張った。
「───ッ!!」
「気に入ったっぽいよ砂藤!」
「いやぁまさかこんなところで男子の意外な一面を見るとは・・・」
「わぁ、おめめがすっごいキラキラしとる。家の近所に住んどったちびっ子みたい」
お気に召したのかにこにことご機嫌な笑顔で影山はシフォンケーキを完食した。砂藤はこれまでの経験上気難しい子どもでも甘くて美味しいものを食べれば笑顔になることを知っていたし、自分の作ったもので人を笑顔にできることを密かに誇りに感じていた。
一度流れができれば後は簡単なもので、今まで関わりの無かったクラスメイトがここぞと言わんばかりに影山に構い始めた。まるでクラスで飼育している小動物の前に人が群がる光景を見ているようだったと後の瀬呂は語っている。
「───皆さん、気持ちは嬉しいですがそう気を遣わなくていただいて結構です。各々やるべきことをなさってくださいませ」
「今はコレがやるべきことかなぁって」
「おかわりいるか?ストックならまだあるぜ」
「お前には何処かシンパシーを感じる・・・『不思議ト他人ッテ感ジガシナイゼ!』と、
便宜上現在は影山哀を名乗っている人物、影山操奈の性格を一言で言い表すならば『警戒心の強い人見知り』が概ね該当するだろう。思春期特有の両親との軋轢から湧き上がる感情を咀嚼できずに、自分でもよくわからない状態のまま他人との関係を先に進めようと考える余裕が生まれなかった。
その最中に訪れた脳無の襲撃により半年以上に渡って郷里真理以外の人間とコミュニケーションを取る機会が失われ、その結果として酷く
彼が好きなものを好きになろうとするし、彼が信頼している相手なら自分も信頼しようとする。彼の為になりそうなもののためなら何でもする気になるが、彼が嫌っているものなら自然に拒絶しようとする。
多少嫌なことでも彼のためなら頑張ろうと思えるが、そうでないなら誰とも極力関わりたくない。
彼のことを奪ってしまいそうな相手にはつい敵愾心を持ってしまうし、自分の好きなものは彼にも好きになって欲しくなる。
そのうちに『マリさんに関係無いものなら出来るだけ関わりたくないし怖い』という指標が彼女の中に誕生してしまった。そして今は彼女の心の中心にある彼が眠りについたままの状態にある。そうなると結果として───。
「───」
「あ、逃げた」
「構われ過ぎて嫌になっちゃったのかも」
「野良猫かよ」
「アホくせぇ・・・」
選んだ答えは逃走。郷里真理が表に出ていた頃から関わりのあった葉隠と芦戸の二人からの絡みには辛うじて耐えられていたが、多くのクラスメイトに構われだしたことでストレスが閾値を超えてしまった。
「朝はごめんねぇ。そんな逃げないでよ哀ちゃ~ん」
「・・・・・・」
「すっごい嫌そうな顔してる!」
朝と同じように距離を詰めに行こうとした葉隠を見て彼女は酷く不満げな表情を見せていた。辛うじて口元は笑顔を取り繕おうと口角を上げていたものの、眉間の間に言い逃れできないほどの皺が刻まれている。
「ね、もしかして人から触られるのイヤだったりする?」
「・・・・・・そう、なのかもしれません」
「自分からは結構引っ付いてたのにねー、何か意外」
「乙女心は複雑なんだよ、三奈ちゃんや」
「私もバリバリ乙女なんだが!?現役だが!?」
「うーん発言に若々しさが足りない」
そうした会話の中で葉隠は徐々に彼女が嫌がる距離感を掴んでいく。
芦戸との適当な雑談で和やかな雰囲気を作り上げながら少しづつ距離を詰めたり離してみたり、段々と影山が嫌がらない間合いを把握していくことでいち早く元の機嫌へ戻すことに貢献していた。
「・・・蕎麦、食うか?」
「・・・今はお腹一杯なので、お気持ちだけいただいておきますわ」
「・・・そうか」
「・・・・・・えと、本当に嫌なわけではない、ので・・・」
「・・・あぁ」
「・・・ぉ、おそば、お好きなんですか?」
「・・・まぁ、そうだな」
昼食時には口数の少ない轟と困ったように視線が右往左往している影山の様子を、
「もどかしい!すっごいもどかしいよコレ!」
「まぁまぁ落ち着いて見ていなさいな。私たちの娘の成長をね*6」
「ふむ・・・急によそよそしくなったような気もするが、今までは無理をしていたのか?」
「んー・・・どうだろうね。でも、無理しなくても気軽にお喋りできるくらい仲良くなれればいいだけの話だよ」
「あぁ、確かにそうだな」
朝の餌付けの影響で殆ど食事を摂っていなかった影山ではあったが、葉隠達が緩衝材になることで少しづつクラスメイトにも警戒を薄めていった。
彼等もHR後での絡み方を反省した結果近づき過ぎない距離感を保つことで、影山の精神状態も徐々に落ち着いていく。
「あ、あれ?私の荷物・・・」
「すまない。片付けに手間取っていたように見えたから運んでいたが、迷惑だったろうか?」
「い、いえ、ありがとうございます」
そうして少しづつクラスメイトとの交流も増えていった。幾人かは普段と異なる雰囲気の影山に少し疑問符を浮かべつつも、幽霊の噂話に怯えていた時も大体こんな感じだったなと彼女の印象を再定義することで深く考えずに流していた。
(微妙に手が届かない・・・バリアフリーが足りてないですよこの学校・・・低身長の敵・・・!)
「ほい、コレでよかった?」
「あ、はい、すみません」
次の移動教室で必要なタブレット端末を取るために、つま先と腕を精一杯伸ばしてプルプル震えていた彼女へ救いの手が差し伸べられた。にやにやと笑みを浮かべた耳朗が手の届かない彼女の代わり棚から取り出して端末を差し出す。
「いやぁ、私がこっち側になるのは結構新鮮だわ」
「いつもは俺が取らされてるもんな」
「こういう時に何も言わなくても手助けしてくれれば上鳴もモテそうなのにね」
「マジで!?」
「マジマジ、だから今後も良き雑用係になってくれると助かる」
「パシリかよ・・・」
「お二人は仲がよろしいんですね・・・?」
前マリさんの中から見ていた時より距離近くなってないですか、と影山が疑問に思いつつも二人の後ろをついていく。するとその後ろからひょっこりと彼女より小さな人影が飛び出してきた。
「オイラの前でイチャついてんじゃねぇぞ上鳴!後オイラの分も取ってくれ」
「あいよ」
「サンキュ」
次の授業準備の為に教師から呼ばれて葉隠が離れていた間、一人でぴょんぴょん跳ねながら悪戦苦闘していた影山を見かねて彼等は声を掛けてきた。そんな彼等三人は彼女にとって初めて会話する相手故に少し腰が引けつつも、朝から重ねられたクラスメイトとの交流経験のお陰で三人組に自然と混ざることができている。
「こういうときくらい背の高い奴らを扱き使ってやればいいんだぜ。ヒーロー志望はこの程度なら別に嫌がらねぇからな。むしろその為にオイラは常に誰かとつるんでるといっても過言だ」
「過言なのかよ」
「はぁ・・・そうなのですか」
「そろそろ行くよあんたら。それにほら、あっち見なよ影山。
「保護者じゃないです」
口では否定しながらも葉隠の姿が見えた途端小走りで駆け出した影山。それを見てニヤつきながらも何も言わずに耳朗は後ろをついて行く。
その様子を眺めながら上鳴と峰田は声を潜めて話しつつ彼女たちの背後をゆっくり歩いた。
「女子と真面目に喋ってるお前初めて見た気がするわ」
「幾らオイラといえど流石にあるんだぜ?人の心」
「俺ん中じゃ煩悩の文字に手足付いて歩いてるくらいの印象だよ」
「そもそも人ですらねぇのかよ。てか普通にスレンダーのロリは守備範囲外」
「ちょっと見直して損した。お前やっぱ煩悩の塊だわ」
「さあ影山さん、急拵えでしたので大したものは用意できませんでしたが、どうぞご堪能くださいませ」
「悪いねー、なんかウチらもご馳走になっちゃってさ」
「いや、あの・・・何故学校でお茶会を・・・時間足りませんよ?」
「申し訳ありません。本当はもっときちんとした準備をしたかったのですが・・・」
「流石に学校にお家の人呼ばせるわけにはいかないよ八百万?」
八百万百主催による短いティータイム。どう考えても時間足りないでしょうという彼女の疑問は睡魔に洗い流され、あれよという間に促されるまま席についた。ついでのように当たり前の顔をして女子陣が周囲の席に陣取っていくが*7、八百万は嫌な顔をするどころかむしろその頬により深い笑みを浮かべて彼女たちを歓迎している。
「こちらが私のお気に入りのハーブティーですわ。心を落ち着かせる効能がありますの」
「・・・いい香りですね。何だか眠くなってきました・・・」
「あ、あら?少し濃かったでしょうか・・・紅茶の方がよかったかしら」
「ハーブティーにそんな即効性ある?」
「このスコーンも高級品って感じで凄いね。よくわかんないけど美味しいのだけはわかるよ」
朝は持ち合わせていなかった筈のティーセットは個性で作成したものであろうが、机に広げられたそこそこ量のある茶菓子は何処から持ってきたんだろうという疑問を幾人かの女子が抱いていた*8。
その中でも芦戸は少しの疑念も持たず純粋に食と香りをただ一人堪能しており、こいつ結構肝太いなと隣に座っている耳郎から視線を向けられている。
「ふわぁ・・・」
突拍子の無い誘いではあったものの、考え事をしながら心地良い香りに癒されリラックスしていた影山が睡魔に負けうつらうつらと船を漕ぎ始めた。倒れてしまわないよう隣に座っていた葉隠に支えられ、彼女に連れられて保健室へ向かう。
主役が居なくなったことでささやかなお茶会が終わりを迎え、余ったお茶菓子を何人かが口に頬張り顔をリスのようにしながら己の座席へと戻っていく。
「お大事にね。もし体育祭出れなくても誰も責めたりとかしないから。自分の体調を一番に考えなきゃダメだよ」
「・・・・・・ふぁい」
今にも眠りに落ちてしまいそうな影山をリカバリーガールに引き渡し、眠気で殆ど頭が回っていない影山の代わりに幾つか問診を済ませてから保健室を出た。両手で丁寧に扉を閉めて静かに廊下を歩く。誰にも表情を見られなくなってから彼女は眉間に皺を寄せ、悩ましいように溜息をついた。
(うぅん・・・朝からずっと眼が合わなかったけど、もしかして今私のこと見えてないのかな?個性の使い過ぎって先生言ってたし、調子悪いと私が見えなくなるとかあるのかなぁ)
影山が体育祭に出場するかは当日になるまでわからないものの、病み上がりである今の影山に葉隠の姿が見えるかどうかは彼女にとって非常に重要な事項である。それによっては週末の体育祭にて
原則ヒーロー科はアイテムとコスチュームの持ち込みが禁止されている。本来はサポート科や普通科と少しでもフェアに近づけるための措置であるが、それが逆に今の彼女にとって友人に全裸を見られたまま体育祭で戦うという苦境を強いられる原因となってしまっていた。
女は度胸だと最初は尊厳を諦めていた彼女だったが、今になって僅かながらに尊厳を失わずにすむ希望がちらついてしまい覚悟が揺らいでしまっているのだ。
(でも朝から迷子みたいにずっとキョロキョロして不安そうにしてたし、あんまり身体の調子とか聞かない方がよさそうだったもんなぁ)
いくら普段は仲良く過ごしていたとしても、体育祭となればお互い鎬を削って争うライバルである。そんな中で不用意に個性の不調を推察するハンデになりうる情報を聞き出してもいいかものか彼女は葛藤していた。
(これで哀ちゃんが男の子だったら特例でスーツ着させてもらえたかもだけど*9・・・いやそっちの方が恥ずかしいな。あー・・・もー・・・悩んでも仕方ないよね。服脱ぐのは最終手段ってことにしよう)
一人の少女が体育祭に向けて胃を痛めながら悩んでいたのと同様に、彼女もまた己の尊厳について悶々とする時間を過ごしていた。
こうして誰にも平等に時は過ぎ去りながら明日へと向かって加速していく。そして願わくば体育祭の間は自分のことが見えてない状態になっていますようにと祈りながら彼女は教室に戻っていった。
今度こそ次は半年くらい後の筈です、多分。