ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活 作:Radrabbit
24話 それいけ!アルケミーちゃん!
午前5時45分、こじんまりとして設置された物の少ない寝室に薄らと朝日が差し込んだ。
壁にもたれ掛かった姿勢のまま瞼を閉じていた男性──
そのままカーテンを開け薄暗い部屋の中を太陽の光で満たし、片手を右眼の前に翳して眩しそうに晴天を見上げている。
「・・・・・・・・・」
身に纏ったままのコスチュームと身体に付着した穢れを分解し、窓から離れ立て掛けてある姿見で髪を軽く整えた。そっと目を細めて衣服に歪みやほつれが無いかを入念に確認し、細かな皺やほつれを新品同様に修繕していく。
「あー・・・あー、あああ──発声異常無し。身体機能に問題、損傷無し、バイタル正常」
僅かに燐光を放ち朝のルーティンである身体の解析と
「超天才錬金術師ヒーローことアルケミーでーす!・・・うん、今日も完璧」
指で作った人懐っこい笑顔のまま冷蔵庫に向かい、何本かの栄養剤とカロリーバーを取り出して胃に流し込む。そのまま鼻歌混じりに蛇口から水を補給し、僅かに埃が積もっていた台所の掃除を済ませる。そうして毎朝の出勤準備を済ませた彼は玄関の戸を開けて外へ出た。
「おーちびすけじゃん!おはよぉ、今日は朝早いねー。なになに、どっか遊びに行くの?」
「ちげーよ!きょーは運動会だぞ!オレがユウショーすっから!」
「そうなんだ。結構早いねー、まだ五月だよ?」
「はえーとかあんの?」
「んー、早いと言えば早いかなぁ」
玄関のすぐ傍で近所に住んでいる少年が意気揚々と歩いていた。アルケミーの疑問に首を傾げた少年にまだ季節の概念を理解するのは少し早かったかと口を濁していると、幾つかの手提げ袋を肩にかけた少年の母親が慌てたように小走りでその場にやってくる。
「すみませんアルケミーさん!ほら、もう学校いくよ。早く行かないと遅れちゃうってば」
「やー全然いいですよ。お母さんも朝早くから大変ですねぇ・・・ほらほらちびすけ、怪我には気を付けてがんばるんだよぉ」
「オレはオールマイトだからケガとかしねぇから!おりゃおりゃ!オレつえーだろ!」
少年が童らしい強気を発揮し小さな拳をアルケミーの胴体へ叩きつける。
無論小さな子ども故に細やかな振動しかアルケミーには届かないものの、母親は血相を変えて少年を強引に引きはがして頭を下げた。
「やめなさい!駄目でしょもうッ!──すみませんアルケミーさんホントごめんなさい!」
「いーのいーのこれくらい可愛いもんですし・・・でもちびすけ、オールマイトはヴィランじゃない人を殴ったりしないぞぉ?」
「おー?・・・たしかに?」
子ども特有の突飛な行動で母親が顔を青く染める中、膝を少し曲げて彼は少年と同じ高さに目線を合わせた。そして穏やかな微笑みを浮かべたまま両手をそっと少年の頬に添える。
「それになー、人を殴ったらちびすけがヴィランになっちゃって、君がオールマイトにやっつけられちゃうよ?」
「・・・それはやだ!」
「じゃあもう人殴ったり叩いたりしちゃダメだよ?おにーさんと約束、ね?」
「しかたねぇーなぁー」
照れたように頬を掻いた少年と「約束破ったらオールマイトからサイン貰えなくなーる、指切った」と小さな約束を交わし繋いだ二人の指を離す。
何度も申し訳なさげに頭を下げる母親と元気に走り回る少年に手を振って、彼はその足を雄英へと向けて歩き出した。
「じゃーなありけみ!」
「すみません本当に!ご迷惑お掛けしました!」
「ありけみじゃなくてアルケミーねー。お母さんもお大事にー」
「相変わらずの触り心地ねぇ。やっぱり嫉妬しちゃうわ」
「今日はほっぺの気分ですかー?先輩もお肌ぷるぷるですよー?」
「あら嬉しい。お礼にヘアアレンジしちゃう」
「それ先輩が遊びたいだけですよね?」
教師用の玄関で居合わせたミッドナイトがいつものようにアルケミーの頬で遊びながら絡んでいた。
教師として長く勤めている彼女はアルケミーと現場で居合わせる事も殆ど無かったため、久しぶりに日々の癒しを得たと言わんばかりにここ最近は顔を合わせるたびに後輩へちょっかいをかける面倒臭い先輩と化している。
「最近はどう?教師生活にちょっとは慣れてきたかしら」
「んー、ぼちぼちですかね?生徒に嫌われてはいないみたいなんですけど、あんまり大人のプロヒーローとして見られてないというか・・・*1」
「新米教師なんて最初はそんなものよ。それに親近感を持たれやすいのは貴方の長所、プロとしてかっこいいところはゆっくりわかってもらえばいいわ」
「そーなればいいんですけどねー」
アルケミーが不満げに膨らませた頬を指でつつきながら彼女は彼の髪を編み込んでいく。仄かな石鹸の甘い香りが髪を結う度に揺れ、心地良い沈黙が二人の間を流れていた。
機嫌が良くなってきたのか流行りのラブソングを小さくハミングで歌い始めたアルケミーに合わせ、ミッドナイトがハーモニーを奏でる。
即興のデュエットがありふれた朝の日常に彩りを加え、まるでその場所だけが舞台のワンシーンを切り抜いたかのような和やかな空間が生まれていた。
「これで仕上げね」
「そのヘアアイロン何処から出したんですか?」
「乙女の嗜みよ」
「ほへぇ・・・先輩すごい」
ミッドナイトは手品の如く取り出したヘアアイロンを結い上げた両サイドの結び目から先に当てていき緩やかなカーブを描いていく。椅子に座り込んだアルケミーが彼女を見上げながらぷらぷらと脚を遊ばせていた。
くるくるとカーブに従って髪の流れを整え、所謂ドリルツインテールと呼ばれる髪型が出来上がる。アルケミーの幼い童顔をより強調するような仕上がりは紛れもなく学生時代から続くミッドナイトのお気に入りだった。
「先輩この髪型好きですよね。好みですか?」
「あら、お気に召さなかったかしら」
「僕は結構気に入りましたよ」
慣れた手付きでヘアアレンジを完成させたミッドナイトが緩やかに頬と頭を撫で付ける。
人慣れした猫のように喉を鳴らして愛撫を受け入れている彼の姿を見てプロだと認識できる人間は居ないだろうが、それを指摘できる
「可愛い貴方によく似合ってるから、ついこの髪型にしちゃうのよね」
「むふー」
「思わず昔を思い出すくらいのチョロさ。お姉さんちょっと心配になってきちゃった」
「もーまんたいですよ、僕天才なので!」
この子三十路近いのにこんなので大丈夫かしらと一抹の不安が彼女の胸に過ったものの、仕事自体はしっかりこなせている様子だからまぁいいかと流すことにした。それよりも日々の仕事で溜まるストレスを癒すことを彼女は優先したのだ。
親子団欒を思わせる穏やかな空気が流れる中で「ミッドナイトが隠し子を学校に連れてきて世話している」というしょうもない噂が立つまで残り一週間、加速する子ども扱いに憤慨するアルケミーの姿が見られる10日前の出来事だった。
「おはよー黒瀬ちゃん」
「わぁ可愛い!ドリルツインテだ!しかも色入れてる!」
「ふふん、今日の僕はオシャレマリちゃんなのです」
ミッドナイトとの戯れを経て職員室のデスクへきたアルケミーが隣席の13号に髪型を見せた。ツインテールに自分でピンクを差し込んだカラフルな髪色を自慢するように首を振り、ドヤ顔で13号を煽るように見せびらかす。
可愛い可愛いと彼を褒めそやす13号に更に機嫌を良くしたアルケミーが鼻息を荒くして無限に口角を釣り上げていく。すると予め準備をしていたように13号が引き出しから緋色の布を取り出し掌に載せて彼に献上した。
「そんな貴方にこちらをどうぞ」
「見透かしたかのようなリボン!流石僕のストーカーやってただけはあるね」
「それには語弊があるの」
真剣な眼差しで13号はアルケミーを見つめた。もっともコスチュームのヘルメット越しであるため表情は見えていないが、それでもここ最近で一番力強いと感じさせる声色で彼女は己の弁護を図っていた。
「隠れてこそこそ僕の後をついて回るのはストーカーじゃないの?」
「それは・・・直接声を掛けたら怖がられちゃったから、マリちゃんを怯えさせないように見守っていた結果というか・・・」
「そういうのをストーカーって呼ぶんじゃないの?」
「香山先輩から許可は貰ってたから・・・ね?」
学生時代の懐かしい青春の記憶。当時同じクラスに配属された彼らはファーストコンタクトに失敗し、暫くは
そのため後日誤解が解けるまでは
「当時は結構怖かったんだから。もうやっちゃ駄目だよ」
「あはは・・・流石にもうあんなことしないって」
一つの事実として趣味や好きなものを導線に仲を深めようと企んでいたことは否定できないので、本人からストーカー呼ばわりされても仕方ないとは諦めてはいる。
今にして思えば確かにグレーゾーンの行いだったという自覚はあった。しかしそれは悪意からではなく純粋な好意と善意によるものであることは彼に知っていて欲しかったが、万が一嫌われたらショックで半年は引き摺る確信があるので13号は多少無理筋のある自己弁護は諦めることにしたのだ。
「・・・イメチェンか?」
「よく気が付きましたね!そんな先輩には後輩ポイント1万点分を贈呈しちゃいます!」
「要らん、つーかそんだけ派手にしてりゃ誰でも気づくだろ」
そこへ出勤してきた相澤が背後から声を掛ける。すると寄ってきた彼に気が付いたアルケミーがにまにまと喜びを隠さない飛び切りの笑顔で振り向いた。
天井知らずに上がっていく口角に呆れた相澤が白けた目を向けて、13号がその様子を羨ましそうに眺めている。相澤のことは勿論尊敬しているが、アルケミーの弾けるような笑顔を見るといつも親友を恋人に取られたような複雑な気分になるのが少し苦手だった。
これが
彼女が同僚から可哀そうなものを見る目で見られる要因の9割がアルケミーに起因していたが、率先して13号本人から女子扱いしているのであまり相澤には同情されていなかった。
「そういえば、先輩のクラスは調子どうなんですか?体育祭自信あります?」
「まァ・・・やる気は十分だな。結果に繋がるかどうかはあいつ等次第だが」
「そんな冷たいこと言って~、ホントは優勝行けると思ってるんじゃないですかぁ?」
話を逸らすように13号が体育祭を話題に挙げた。
楽観的でも悲観的でもないフラットな物言いだが、ただ生徒を応援する内心を外へ出さないだけであることを二人は知っている。
当然茶化すように肘で相澤をつつくアルケミーだったが、それを鬱陶しがるだけで彼は本音を漏らすようなことはしない。
「総合的に考えて今のコンディションなら轟か爆豪が候補にはなるがB組も粒揃いだ。油断して舐めてかかれば足元掬われることもあるだろうさ」
「・・・やっぱり影山さんはまだ本調子ではないんですね」
「USJはお前一人の落ち度じゃない。責任の話ってんなら『抹消』切らしてワープ野郎をフリーにした俺が一番悪い。本人も今は元気にやってんだから過剰に気にするな。アイツ意外と周り見てるからな、暗い顔してるとバレるぞ」
USJで黒霧と
とはいえ彼女はそれを知る立場に無い故に落ち込んではこうして相澤達から励まされることが最近はよくあった。
「それに見てみろ、現場に居なかったこいつなんかいつまでもグズグズ泣いてんだぞ」
「う゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛~」
「わぁ・・・泣きに入るスイッチが早い」
USJの一件を思い出すたびに顔を皺くちゃにしてアルケミーはギャン泣きしていた。最初にその姿を見たときは相澤も慌てはしたものの、二度三度と繰り返し見るたびに少しづつ面倒に思う感情が積み重なってきていたのだ。
そして今回初めて直接その姿を見た13号も自分より取り乱している人間を目にしたことで落ち着きを取り戻してきていた。
「ぼくは役立たずの無能です・・・」
「・・・最近こいつよく情緒不安定になるんだが、影山絡みで何か知ってることないか?」
「彼女が自分と似た個性なこともあってかなり入れ込んでる・・・というにはあんまり交流している様子は見たことないんですよね」
「入学前からの知り合いってわけでも無いらしい」
相澤と13号が直近にあった出来事やアルケミーの様子について意見を交わしていく。しかしお互いに有力な情報もないためアルケミーの異変に対するそれらしい推測も立てられなかった。
「ますます謎ですね・・・そんなすぐ人に懐く子じゃないのに」
「僕そこまで人見知りじゃないです゛~」
「初めてエンデヴァー見たとき俺を壁にして隠れたの忘れてねぇぞ」
「未だにエクトプラズムやハウンドドックとはちゃんと目を見て挨拶できてないよね」
「グスッ・・・い、いったい何を言ってるのかわからないですね・・・」
震えながらも強がりをする彼に二人が視線を合わせて肩を竦めた。近頃は忙しなく職務が舞い込んできているのもあってアルケミーと接する時間も少なく、彼の近況について詳しく知っている人間も居なかった。
途中から13号はアルケミーのツインテールと頬を弄りながら考えこんでいたものの、これ以上は議論しても大した結論は得られないと悟り相澤との雑談もほどほどに切り上げて仕事へ戻る。
そして最後にもう一度アルケミーを見つめた相澤はそっと目を細めて彼に言った。
「お前もそろそろ切り替えろよ。落ち込んでる暇があったら次のことを考えろ。
「は゛ぃ゛・・・」
「ほらお鼻チーンして」
「ずびびび」
ティッシュを受け取ったアルケミーが鼻をかむのを尻目に相澤が席を離れた。大凡はいつも通りの彼等の日常、ほんの僅かな違和感を覚えながらも教師としての顔に戻りそれぞれ厄介な書類と睨みあう仕事を始める。
アルケミーも泣き腫らした顔を錬成で整えて次の授業へと向かった。時折落ち込んでしょぼくれた顔をしては13号達に慰められ、初対面の生徒から雄英へ見学にきた中学生と勘違いされたりしながらも授業をこなしていた。
空が少しづつ茜色に染まり始めた頃、気を遣った同僚から早上がりさせられたアルケミーがとぼとぼ帰路を歩んでいた。一人歩きの手慰みにツインテールの毛先をくるくる巻いていた彼は、曲がり角の先に今朝見かけた母親が息子を抱き抱えているのを目にする。
すると機嫌よく道路を駆け出した彼は母親の横へと並び、すやすや熟睡している少年を見て薄く微笑んだ。
「お疲れ様です。今日は一日中頑張ったみたいですねぇ〜」
「わ、アルケミーさん」
「えへへ、偶然ですね?」
にっこり笑顔を浮かべたアルケミーに声を掛けられた母親は驚いたように目を見開く。彼女は上目遣いでご機嫌に見上げてくる彼に戸惑いながらも朝の出来事を思い出し改めて頭を下げた。
朝から何度も謝罪を繰り返す生真面目な母親へ本当に気にしていないことを示すため、彼はくすくすと笑いおどけて少年を撫でながら言葉を返す。
「子どもなんて元気いっぱいなくらいがちょうど良いものですよ。それにぃ?僕もヒーローですのでね!ちびっ子のやんちゃくらいお茶の子さいさ痛ァい!?」
「ずるいぞチクショウ!!!このクソガキが!!俺だって年上のお姉さんから甘やかされたかったんだ!!」
そこへ突如として傍を歩いていた通りすがりの男が右腕を巨大に膨らませて少年に殴りかかった。これに目を剥いたアルケミーは大きく振り上げた男の拳が少年に届く寸前に親子とヴィランの間に飛び込び身代わりとなって吹き飛ぶ。
「へぶっ!」
派手に錐揉み回転しながらコンクリート壁にぶつかったアルケミーだが素早く体勢を立て直し、衝撃的な出来事に固まってしまった母子の前で再び拳を振り上げた男へ飛び蹴りをかます。
「てりゃあ!!──っと、お母さんとお子さんにお怪我は?」
「わ、私たちは大丈夫です!むしろアルケミーさんは!?」
蹴りを受けた男──ヴィランは少しよろけた程度ではあったがその隙にアルケミーが親子をヴィランから離れた後方へと下がらせる。
「何故邪魔をする!何故俺に優しくしてくれない!」
「
頬を摩りながらヴィランへ視線を向けたアルケミーが
動きを封じられたヴィランは拘束を外そうと全身を膨張させ茨を引き千切ろうとするものの、千切れ落ちていくよりも多くの茨がその身に覆いかぶさるように巻き付いていく。
やがて数分としないうちに個性での抵抗が無意味だと悟り始めたヴィランは茨を引き千切ることをやめ、言葉で同情を引くように喚きだした。
「俺はただ!お姉さんから愛されたかっただけなんだ!」
「
「ゲビッ!?」
「よくわかんないお喋りの続きは警察署で好きに語ってね」
蠍型ゴーレムに筋弛緩剤を打ち込まれ崩れ落ちたヴィランに冷酷な視線を向け、不機嫌な表情をしたアルケミーが傷の付いた頬を摩る。丁寧に頬をなぞりながら傷を修復し、完璧に柔肌が元に戻ったことを確認してから溜息を吐いた。
「ったくもう、可愛いお顔に何してくれちゃってんのさ。人の身体を何だと思ってるの」
「すぐ警察呼びますね!」
「おっと、ありがとうございます」
そして庇われた女性が携帯を手に警察へ連絡しているのを視界の隅に収めつつ捕らえたヴィランの横で佇み、呆れと憐憫をその眼差しに宿して男を見下ろした。
「お姉さんも浮かばれないね。弟がこんな風になってさ」
「俺は一人っ子だ」
「・・・???」
「いや・・・だから兄弟とか居ねぇんだよ」
「????」
てっきり姉との関係が悪かったが故の暴走だと思っていたアルケミーは予想外の回答に思わず思考が停止した。止まった頭を必死にこねくり回し、ぎりぎり思いついた代案を口にする。
「・・・結婚すれば義理の姉はできるんじゃないの?」
「義理の弟を甘やかす義姉がいるわけないだろ!」
「・・・あぁ、えっと、お薬やってる?正直に吐いた方が罪は軽くなるよ」
「うるせぇ、もう黙れよ。お前には俺の理想はわからん」
「なんなのこの人・・・」
彼は警察が到着するまでの間に犯行動機でも聞いておこうと声を掛けたことを後悔した。常人の領域を踏み外した狂人の相手をするには彼の見分は浅く、生きる世界の異なる人種を理解できるほどの感性もなかった。
対話を諦めて空を見上げること数分、耳に届いたサイレンに従ってヴィランをゴーレムで持ち上げパトカーへと放り込む。警官と事件について幾つか聞き取りを果した後に事情聴取を終えた母娘を解析して傷害が無いことを確認し、この騒ぎでも全く起きる気配もなくぐっすり寝入っている少年と母親に別れを告げた。
「ヴィランってやっぱり変な人が多いんだなぁ・・・」
早上がりのつもりがすっかり暗く染まった夜道をふらふらと彷徨うように歩いて帰宅する。いっそ適当に寄り道でもして気晴らしでもすればよかったかと思索しながら彼は玄関で靴を脱いだ。
「シャワー・・・はいいや、髪型崩れちゃうし。綺麗に分解しとこ・・・」
衣類と身体に付着した老廃物等の汚れを念入りに分解した後、朝目覚めた場所と同じ玄関横の壁にもたれ掛かる。ゆっくりと背筋を伸ばして軽くストレッチをこなし、欠伸を噛み殺しながら身体に異常が無いことを確認して瞼を閉じた。
「─────」
午後19時45分、睡眠を取るには早すぎる時間帯ながら数秒で彼は眠りに落ちた。ほんの僅かに身動ぎすることもせず、まるで電源を落とすかのような切り替えの速さで睡眠状態に移行する。意味を成さない小さな寝言を零すだけで、翌朝の午前5時45分に到達するまで全ての情報をシャットアウトしていた。
・サプライズヴィラン
おねショタになりたかったおっさん。主導権をショタに握らせるな!などカスの富岡義勇みたいな戯言を通りすがりの姉弟に声掛けしてたり暴行している、逮捕四回目。今回は4年程刑務所に入ることになるとかならないとか。