ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活 作:Radrabbit
「順位が高いほど狙われる下剋上サバイバル、ですか・・・」
“取り敢えず
「むむむむ、誰と組むのがいいのかな」
1000万という特大の餌として吊り下げられた緑谷さんを尻目に15分のチーム決めがスタートした。始まってしまった試練を前に心臓がバクバクと心拍数を上げていく。
けれど幸いなことに今とても話し掛けやすい位置に透さんがいる。他の人はともかく彼女なら拝み倒せば何とか私と組んでくれる・・・かも知れない。
「あの、透さん・・・」
「わかるよ哀ちゃん。チームでしょ?」
「は、はいっ!是非私と──」
「でもごめんね。だって今の私達ライバルだもん」
「組ん、うぇぇ・・・」
第一の希望が打ち砕かれた。残る希望の芦戸さん・・・は爆豪さんの方に行っている。もうダメかもしれない。
・・・いや、いや。諦めるのはダメだ。こんな所で泣きついていたらマリさんを安心させられない。
女は度胸!こうなったらB組でも普通科でもなんでも利用していく気概を見せなければ!
「戦闘訓練のときも殆どおんぶに抱っこだったし、私も三奈ちゃんみたいに哀ちゃんに挑戦した・・・んー?」
「・・・」
「哀ちゃーん?この手は何かな?」
・・・無意識の内に私の手は彼女の腕を掴んでいた。私はなんて情けない女なのだろう。
頭の中ではどれだけ勇んだ言葉を紡いでいても、実際の身体は怯えて誰かに縋ろうとしている。
「その・・・きょ、共闘!時にはライバルとの共闘も必要なのではないでしょうか!?」
「・・・・・・」
みっともない言い訳がぽろほろと口から溢れ落ちる。煩い心臓ときぃんと響く耳鳴りの音が少しづつ強くなってきて、冷や汗が全身から噴き出してきていた。
“・・・変わろっか?”
(い、いぃいヤですぅぅ〜)
“もぉーホント頑固なんだから・・・ね?操奈ちゃんが僕のこと心配してくれてるだけで嬉しいんだよ?”
(でもぉ・・・)
“だいじょぶだいじょぶ。ちょっと喋るくらいなら寿みょ・・・体力も減らないから〜”
このままだとマリさんが出てきてしまう。確かに少し表に出て喋るだけなら問題ないけれど、この程度で彼に頼りだすようでは意味が無い。こんな作戦準備くらい自分でなんとか出来なければ話にならないのだ。
(大丈夫、ですっ!ゆっくり寛ぎながら見守っていてください!)
“・・・んー、わかったよ。でもホントに大丈夫?冷や汗すごいよぉ?”
(考えるべきことはわかっているんです。あとはそれさえなんとかできれば)
利が必要だ。情に訴えかけるのではなく透さんが私と組むことの明確なメリット。そしてそれに基づいた騎馬戦術。
他のチームはこうして私がまごついている間に既に戦術の共有まで終わっている筈。ただ騎馬を組むのではなく勝ち抜くための策がいる。
『錬成』は極力温存したい。ただその場合他の個性で誤魔化したいけれどゴーレムを使わない手段だと使える手も限られる。私の体格を考えれば必然的に騎手にならざるを得ないが、積極的な鉢巻の奪取や防衛は難しい。
そうするとなるべく全体を見ながら機を見て動く守りの戦術や、相手にバレず虚を突く戦い方を模索する必要が・・・あっ。
「──っそうです!私と貴女だからできるとっておきの戦い方があります。間違いなく他の人には真似できません!」
「およ?」
「勝ちたいですよね?私も勝ちたいです。恥ずかしいかもしれませんが勝つ為にはきっとこれが最善のはず」
驚いたような表情をして彼女は私を見つめていた。私も声に出して捲し立てるようなことは初めてだ。もしかしたらこの作戦は彼女が嫌がる可能性もあるけれど、私は受け入れてくれる確率の方が高いと踏んでいる。
「えっとね?ちょっと渋っちゃったけどそこまで拒否したいわけじゃなくてね・・・」
「なら早く言ってください!私死ぬかと思いました!」
「そ、そんなに?」
「必死に作戦を考えましたのに!心臓が止まるかと!」
「なんかごめんね?」
苦笑いしている彼女はあまり私の苦難を想像できていないようで、どこかのんびりとした雰囲気のまま私を見ていた。それでもチームを組むことは受け入れてくれたらしい。
私が掴みっぱなしにしていた腕を一度優しく振り解いたあと、改めてその手のひらを私に向けて伸ばしてくれた。
「それじゃ、ここは一時共闘ということで。哀ちゃんの作戦がどんなのか楽しみにしてるよ!」
「・・・えぇ、どうぞ楽しみにしていてくださいませ」
「どうしてそこで目を逸らすのかな!?怖いよ!?」
きっと大丈夫。私のような例外が居なければ彼女が恥を描くようなことはない・・・全国中継の体育祭というのが甚だ不安でしかないけれど。
「影山ァ!俺と組もうぜ!」
「やっぱ女子同士のがよくない?その方が安心するでしょ」
「コワイクナイヨ、我々コワクナイヨ」
「俺身体デカいし騎馬には向いてるぜ!」
透さんとの共同戦線が結ばれてすぐ、見覚えしかないクラスメイトの皆さんが大挙を成して押し寄せてきた。誰もからも私よりずっと背が高いせいで非常に嫌な圧迫感がある。
「ひぃ・・・っ!」
“大丈夫だよー?みんなお友達だよぉ?”
(詰め方が怖いんです!距離が近い!)
「さり気なく私の後ろに隠れないでね?」
大方他の有力チームがメンバーを揃い終えたから私の方へ人が来たのだろう。ちらりと各方を見渡せば私より上位の人は殆どチームを組み終わり作戦会議をしている様子が見てとれる。
「というわけでシッシ!哀ちゃんの選抜メンバーに採用された方は後から声をお掛けしますので!怖がらせないでね!」
「ちぇー」
「ま、仕方ないかぁ」
「是非も無し」
勢い余るほどに押し寄せてきたクラスメイトの群も透さんの一言で蜘蛛の子を散らすように離れていく。この無駄に息の取れた統率は何なのでしょうか。
「その対応の仕方なんですか?私別に小さい子どもではないのですが」
「私に声掛けるのにあんなぷるぷる震えてたじゃん」
「ぐう・・・」
ぐうの音しか出なかった。彼女はまるで私のことなどわかっていますよと言わんばかりにこなれた様子で雑に扱ってくる。そういうのはマリさんにやって欲しいんですけど・・・。
そうして透さんのお陰で私に群がってきていた人が消えた。落ち着いて後は彼女に作戦を伝えてそれに相応しい個性の方を誘いに行くというタイミングで、私たちの背後から聞き覚えの無い人の声が聞こえてきた。
「おいおい笑えるぜ。主席サマともあろうお方がお守りが居なきゃチームも組めないのか?」
「・・・ん?ああーっ!君!あのと──」
「?」
声のした方へ振り返れば紫髪をしたトゲトゲ頭の生徒がそこにいた。ニヤニヤと嫌味な笑顔を浮かべている彼は揶揄うように私達を見ている・・・何が目的なのだろうか。
この短い作戦会議の時間を浪費してわざわざ挑発をしにいくのはほぼ時間の無駄。第一種目まで突破してきた人間ならそれがわからないわけは無いと思うけれど、まさかそこまで恨みを買っていたりするのか?そこまでするほど選手宣誓が頭に来たとか・・・えぇ、そんな爆豪さんみたいな人なのでしょうか。
「そんなに怖がりなら隅っこでガタガタ震えてるのがお似合いじゃないか?USJで一人だけ入院した間抜け野郎ってお前のことなんだろ?」
“あ、待って操奈ちゃん!これ多分──”
「あ、あの、貴方は───」
脚が止まる。彼に向けようとした腕がゆっくりと垂れ下がり、頭に靄が掛かったかのように思考が微睡へ堕ちていく。・・・?なにがおきて──
「よかったよ。今のうちに有力株を無力化できて」
──────────
「とはいえ小さくて騎馬には使えねぇし、狙われて個性が解けても面倒だからな。お前らは取り敢えず隅で騎馬組んで待機しておけ」
──────────
「あと何組か無力化できりゃ楽なんだが・・・流石に厳しいか?手広くやり過ぎても怪しい──」
「あら、あら」
「ッ!!!」
霞んでいた頭が急にクリアに晴れる。私の意志とは無関係に身体が動き出し、背中を向けて歩き出そうとしている彼の肩へゆっくりとその手を置いた。
妖しい笑みを浮かべたマリさんはまるで御伽噺の魔女のように、くすくすと笑いながら彼の耳元に顔を寄せて囁く。
「無視なんて酷いではありませんか。ねぇ?」
「なん、だ。お前ッ!!なんで動ける!?」
・・・今の異変は間違いなく彼の個性だろう。声掛けに応えた途端に意識が遠くなってすぐに身体が動けなくなっていった。
完全に迂闊だったと言わざるを得ない。わざわざ挑発なんてしてきた時点で何かしらの罠に決まっていた言うのに警戒をしていなかった。
・・・ちょっと気が抜け過ぎてたかも・・・恥ずかしい・・・私の失態のせいでマリさんを表に出してしまった。
「うふふ、トリガーは会話・・・レスポンスですわね?解除条件は・・・ふむ、ある程度の衝撃と言ったところでしょうか。えいっ」
「痛っ!?・・・ってあれ?今なんかぼーっとしちゃってたかも」
「言葉である程度指示を聞かせられ、持続時間もそれなりに長そうですわねぇ。便利な個性ですこと」
「どういうことだお前!どうやって俺の個性を解いた!」
さながら悪女のような面持ちで行われたマリさんの不意打ちに、動揺で取り乱した彼が裏返った声で疑問をぶつけていた。
瞳孔は完全に開ききっていてその困惑具合が演技ではない本物であることがよくわかる・・・そんなに自信のある個性だったのだろうか。
「あの・・・そこまで警戒なさらなくても、ちょっと意趣返しに驚かせただけですのに」
“いや普通に怖いと思いますよ?今度は誰を参考にしたんですか?”
(え・・・や、先輩達がよくこーいう遊びしてたから、彼も喜んでくれるかなぁって思ったんだけど・・・)
“マリさんこういうのへたっぴなんですから、私以外にはやらないでくださいね”
(そっかぁ・・・先輩達は楽しんでくれてたんだけどなぁ・・・)
くすくす妖しく笑っていたマリさんが突然しょぼくれた情けない表情に変わる。ころころと変わる雰囲気に困惑を隠せない様子の彼・・・名前も知らないや、まずは自己紹介くらいしてほしい。
「すみません。驚かせるつもりはなくて、ちょっとしたユーモアというかぁ・・・」
「は・・・?」
「えっとぉ・・・ほら?チームを組むのなら仲を深めた方がいいかなーというか、アイスブレイク・・・的な感じを意識してやってみたんですけどぉ・・・」
「正気かお前?いや正気だからこんなことやってんのな」
「うーん、庇ってあげたいけど・・・彼に何したの哀ちゃん?お母さん怒らないから正直に白状して?」
「ひぃん・・・そ、そこまで酷かったですか・・・?」
おろおろ視線を右往左往させながら両手の指をつついている彼の姿は何ともいじらしい・・・いやちょっとあざと過ぎるな。
私以外にそういうのやらないで欲しいんですけど難しいですかそうですか。クソッ・・・この人たちズルい・・・。
「つうか待て、俺とチーム?」
“えっ、正気ですか?”
「本気で言ってるの哀ちゃん!?」
「酷くないですか皆さん!?結構真面目な話なのですけど!?」
突然マリさんが戯けたことを言い出した。確かに真剣な話であることは疑っていないが、つい今し方個性を掛けてきた相手をチームに誘うなんて大胆どころではない。
きっと彼なりに私の為の理由があると思うけれど、一体どういうつもりなのだろう。流石に根拠を聞かない限りは賛同はできない・・・マリさんがどうしてもと言うなら、まぁ、受け入れてあげてもいいですけど・・・。
“一体どんな理由ですか?彼をチームに誘うなんて”
(だって操奈ちゃんが考えた作戦にちょうどいいでしょ?彼の個性)
“え?・・・あぁ、なるほど・・・え、本気ですか?”
(本気じゃないと言わないよぉ・・・)
わかっていはいたがやはり冗談の類ではないようだ。確かに彼の個性があれば私の策もより確実になるとは思う。けれど益々ヘイトを買うことになったりしないだろうか。
「わかってんのか?ついさっき俺はお前らを洗脳したんだぞ」
「私には効きませんし、別に良くないですか?」
「ウソ・・・!哀ちゃんとは思えないほど自信に溢れた態度!」
「失礼ではありませんこと?後グダグタしている時間が無駄です。手早く決めましょう」
先程とは別人のように──実際別人なのですけど──テキパキと手を叩いて話を進めるマリさんの姿に透さんが驚いている様子だったが、それを置いて彼は青髪の男子生徒を眼をじっと見つめていた。
「・・・本当に主席サマのチームと組めるってんならありがたいけどよ。何が狙いだ?俺は普通科で、あんたらみたいちゃんと鍛えてる訳でもない。それに個性だってお前の言った通りちょっとぶつかったくらいで解けちまう」
「そーだよ!『自分で行かなくても声掛けてくれたから組んじゃお』みたいな理由だったらお母さんは許しませんよ!」
「ノンノン、きちんと考えあってのことです。我に秘策あり、ですわよ」
立てた指をゆらゆら振って自信に溢れた挑発的な笑みをマリさんが浮かべる。そしてそのまま小さく手を振って二人を近くに寄せると、誰にも聞こえないよう囁くような声で私の考えた作戦を伝えた。
「───────」
「えっ・・・ほ、ほんとにやるの?」
「ふざけてる、わけじゃないんだよな・・・マジか?マジなのか・・・」
「たしかにそれならこの人の個性も役に立つだろうけど・・・」
あまりウケはよくないみたいだけれど、作戦の有用性は二人共に理解してもらえている。一番重要な透さんのリアクションも困惑はあれど否定的ではない。これならいけるだろうか。
「より確実に、さらに反撃を受けるリスクも減らせます・・・あ、同時に洗脳できる人数に制限などはありますか?」
「そんな大勢相手に使ったことないからわかんねぇ・・・けど、騎馬戦の間くらいならまぁ持つかな」
「透さんは反対ですか?貴女が嫌なら作戦は組み替えます」
(操奈ちゃんがね)
“え゛っ・・・まぁ、確かに私がやらないとですもんね”
マリさんから飛んできたパスに驚いてしまったが、そもそもこの作戦は私が考えていたものだ。それが瓦解したなら作戦を練り直すのも私の役目。
寧ろマリさんが私を信じて託して任せてくれていると受け取れるのだから、それはとても喜ばしい。上手く行った暁にはたくさん褒めてもらおう。
「うぐぐぐ・・・まぁ、仕方ないよね。勝つ為だもん!乗ったよ!哀ちゃんの作戦に!」
「さて、貴方はどうしますか?と言っても策を聞いた以上タダで返すつもりはありませんけれど」
「いや、俺もこの際乗ってやるよ。元々洗脳した奴を騎馬にして動くつもりだったからな。連携して動いた方が勝率高いのは流石にわかる」
二人の返事を聞いてマリさんは満足気に頷く。そして胸元に手を添えた彼は淑女を思わせる貞淑な仕草で恭しく一礼した後、嬉しそうにニコニコと可愛らしい笑みを浮かべて手を叩いた。
「よろしい。それではよろしくお願いいたしますね?私は影山哀。個性は『錬金』と言いまして、物を創り変えてゴーレムを作ったり動かしたりすることができますの」
「私は葉隠透だよ!個性は『透明化』で、見ての通り透明になってます!・・・まぁ、哀ちゃんからは見えてるんですケド・・・」
「それ大丈夫なのか・・・?まぁいい。俺は心操人使。個性はさっき言った通り『洗脳』、声掛けて返事した奴を大雑把には操れるが細かい指示は出せないし、一人ずつしか掛けられないから一組につき最大四回は話しかける必要がある。後洗脳は肩パンぐらいの衝撃で大体解けると思ってくれ」
三人共自己紹介を終え少し張り詰めていた雰囲気が弛緩する。透さんは若干諦めたような捨て鉢な表情をしているけれど、そこは私達にしか見えないので問題は無いということにしておこう。
「ふふ、ごめんなさいね?いつも迷惑ばかり掛けていますのに」
「ううん、むしろ頼りにしてくれて嬉しい。私バトル系だとあんまりできることないもん」
・・・あ、こら。透さんが悲しい顔してるからといって気軽に寄り添うのやめてください。あーっ!ずるいずるいずるい!私も撫でて欲しい!
“・・・・・・”
(んー?操奈ちゃん?・・・あっ、ふふ、拗ねてるの?)
“・・・拗ねてないです”
(んふふ、ふふふ。ごめんねぇ。操奈ちゃんたら寂しんぼさん?後でいっぱいお話しようねー?)
“・・・子どもじゃないんですから。三分だけですよ”
マリさんの謝罪を広い心で受け入れてあげた。海よりも深く山よりも高い私の懐に是非とも感謝してほしい。
心なしか透さんを見る目が冷たくなっていくのを何となく感じながら彼等の会議を眺めている。透さんは友達だと思っていましたけど、今後は少し付き合い方を考えた方がいいかもしれない*1。
「いや待て、そういやまだ俺の個性が解けた理由を聞いてねぇぞ。今まで自分で解くのは無理だと思ってたんだが、それによっては作戦を変える必要あるだろ」
「あぁ・・・私以外には不可能と断言できる手段ですからご心配なく。それでもどうしても知りたいと仰るのなら・・・うぅん、聞きたいですか?うふふ」
「やめとく、やめとくからその笑い方やめてくれ。怖ェ」
自分の個性を自力で解除されたことを思い出した心操がマリさんにその方法を聞き出そうとしていたけれど、露骨に誤魔化しにきた彼に怯えてすぐに身を引いた。
内側に引っ込んだ私もマリさんが洗脳を解除した方法にはさっぱり検討が付かないので教えて欲しかったけれど、口にするのは不味い手段なのだろうか。
“でも、実際どうやって洗脳を解いたんですか?気になります”
(ふふん。操奈ちゃんの状態でピーンときたの。こういう系の個性って基本脳をちょちょいと錬成して電気信号を乱せば元通りなのです)
“は?使ったんですか?”
(い、一瞬・・・一瞬だからほぼ誤差だよ・・ホントだよ?ウソじゃないもん・・・)
・・・嘘をついている時のように声が半音高くなってはいない、故にこれは本当の反応。でもほんの一瞬とはいえ
せめて騎馬戦中には負荷が掛かるようなことはしたくない。作戦さえ上手くいけば私もマリさんも消耗を極力抑えることができるのだ。透さんには申し訳ないけれど、この際最大限利用させてもらう。
“マリさん、それじゃあ最後にもう一人誘いに行きましょう”
「えぇ、えぇ。それと後一人メンバーが欲しいですわね。バランス感覚が良い人だとなお嬉しいです」
「人選は任せる。俺にはわからん」
「それなら尾白君はどう?尻尾の影響でバランス取るのには慣れてるって前言ってたよ」
「採用です」
ちょうどいい人材を透さんが教えてくれた。『千里眼』で遠方を確認すればまだチームを探して彷徨いている。他のチームに確保されてしまう前に手早く済ませなければ。
“まだ浮いてるみたいですね。早速行きましょう”
(そうだねー・・・じゃ、自分で声掛けるんだよ?)
“へ?”
ふわりと浮き上がるような浮遊感と共に身体の五感が戻ってくる。咄嗟に顔に浮かんでいた微笑みを崩さないように力を込めて、二人に異変を悟られないように努めた。
「さ!ささささっそく、いい行きましょうか?」
「どうした急に」
「哀ちゃんは人見知りなんだよ」
「変わり過ぎだろ・・・尾白ってやつと仲悪いのか?」
「いつも一緒にいる人以外には大体こんな感じだから大丈夫だよ!」
「問題じゃねぇか」
カタカタ手と脚が同じ方向に動きながらも、表情だけは取り繕おうと笑顔を意識して二人を尾白さんの方へ先導していく。
私がこんなにも必死に暴れる心臓に抵抗して歩いているというのに、背後では二人が呑気な雑談を続けていた。
“ふれー!ふれー!あーやーなちゃん!”
(どうして急にぃ!?)
“操奈ちゃんがいいなら最後まで僕が表でやってもいいよ?”
(ダメです!・・・あぅ)
心の何処かでマリさんがこのまま尾白さんの勧誘までしてくれることを期待していたかもしれない。心操さんは今の所透さんが間に入ってくれているけれど、この流れだと尾白さんは私が応対する形になるだろう。
(がんばれ!がんばれ私!)
“思い出して?尾白君は穏やかで真面目な好青年だよ。爆豪君みたいに怖くない”
(・・・なんだか急にイケる気がしてきました)
すっと震えが収まって気持ちがフラットに落ち着いてきた。そうだ、もっと怖い人に比べれば尾白さんのなんと爽やかなことか。きっと大丈夫、私には
「こ、こここんにちはごめんあそばせ。ちぃむはもうお決まりで?」
「おわ!?っと、影山さんか。実は困ってた所でね・・・もしかして」
「しょ、しょうです。ダンスのお誘いに参りました」
「騎馬戦だよ!?」
「あはは・・・俺なんかで良ければ喜んで。是非よろしく頼むよ」
スムーズに決まったし中々いい動き出しではないだろうか。私の誘いを受けて尾白さんも喜んで了承して頂けた。一重にこれも私の成長、先程までの自分よりも一歩先に進めた結果ということにして、透さんの背後にそっと隠れた。
「ところで君は?B組の人でもないよね?」
「普通科の心操だ。俺は妨害担当、アンタはバランス担当らしい」
「バランス担当とは??」
「ちなみに作戦はこんな感じで───」
透さんから尾白さんに騎馬戦の戦略が伝えられる。やはりどうにもショックを受ける内容のようだけれど、尾白さんがそこまで当惑する理由はあるのだろうか。別に彼は透さんの姿が見えるわけでもないのに。
「えッ、ほ、本気かい葉隠さん!?影山さんには見えてるんだろ!?」
「尊厳は浜に捨てました」
「捨てないで!?」
かなり響きのいいツッコミをしてくれる。今まで特に彼が目立つようなことはなかったけれど、意外と親しみやすい性格だったのかな。上鳴さん達みたいなよくおふざけをしている人達とは結構相性が良さそう。
「それではいきましょうか。我々の手に勝利を掴むときです」
「お前は何で葉隠の背中に隠れてんだ?」
「う、うるさいですね・・・」
「俺ともまだ眼が合わないくらいだから、あんまり気にしないで」
「こいつが主席なのかぁ・・・」
気まずそうに透さんの方を見ている尾白さんは気にしないようにしつつ三人で騎馬を組む。
やはり私が小さく他と比べて一回り騎馬の高さが低い故に、正面からの取り合いではかなり不利を強いられるのは間違いない。
「ふ、ふふふ。なな中々いい眺めではありませんか。武者震いがしてきました」
「・・・早まったかな」
「おわわっと、大丈夫?落ちそうだったら遠慮なく尻尾掴んでいいからね」
「哀ちゃんがちゃんと男子に触れてる!成長したね・・・!!!」
透さんが一人だけ母親のようなことをほざいて涙を浮かべていた。褒められるならマリさんに褒めて欲しいのだけど。
それと心操さんは始まってもいないのに失敗した感を出すのは失礼ではないだろうか。こんなにも威風堂々とした*2私の構えを見てそんな感想が出るなんておかしいと思いませんか?私の味方はマリさんと尾白さんだけなのでしょうか。
“うーん締まらないなぁ”
(いいんですこれくらい!競技で勝てれば!)
『さあさ15分の交渉タイムが終了!各チーム準備はいいかァ!?いいなァ?始めるぜ!!』
『ほぉ・・・中々面白そうな面子が揃ってんな』
『騎馬戦──START!!!』
・心操くんの妨害行為
騎馬戦は競技前に騎馬を組んでスタンバイしていたこと&交渉時間も競技中であると考えると、15分の交渉タイム中に個性使ってた・・・と思われるのでこんな流れに。あの後は適当に騎馬組ませて試合中に鉢巻奪って試合終了まで放置~的な作戦。
妨害まで行ったのは選手宣誓で結構イラっとしていたこと、また有力そうなトップ層がわざわざ孤立して洗脳掛けやすい状態を作ってくれたので「今いくか?いや流石に反則・・・?いいや!今やるしかねぇ!いくぞ人使!勝負は今!ここで決める!」みたいな葛藤の末やったかもしれない。