ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活 作:Radrabbit
「それでは作戦通り」
「らじゃー!」
「おう」
「回避は任せてくれ!」
開幕の宣言と共に私達は後ろへと下がる。と同時に1000万を目掛けて殆どのチームが咆哮を上げて突っ込んでいった。早速狙われた緑谷さんのチームが勢いよく空へと射出・・・脚や背中に何か装着しているらしい。サポート科がチームにいると便利ですね。
「皆様血気盛んなようで」
「あそこには混ざりたく無いね」
「つっても全員がそうってワケじゃなさそうだが」
雄英ヒーロー科の人達なら大体は1000万狙いで勇足で獲りにいくと踏んでいた。仮に私達が万全だったらあそこに混ざっていたかもしれないけれど、それも意味の無い仮定。
ちらりと周囲を見渡しながら『千里眼』で上空からスタジアムを俯瞰して様子見に回っているチームを数えていく。
「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・ふむ、殆どB組の方ですね」
「早めに獲るか?」
「いえ、前半戦は観察に徹します。狙われても面倒なので」
腰に巻いている尾白さんの尻尾を適当に摩りながら私達も様子見を選択・・・おぉ、先端のふわふわ、結構触り心地いいんですね・・・落ち着く。
「さくさく個性を使っていただけると楽なのですけれど、とっととあらそえ〜」
「別に好きに掴まってていいんだけど、毛先は引っ張ったりしないようにね?」
「もちろんです。ふわふわには一家言ありますので」
「何の専門家なんだよお前は、つーか気ぃ抜きすぎだろ」
ふわふわを知らない心操さんからジト目でツッコミを入れられた。
しかしながら実のところ結構苦しいのだ。会話するだけなら少しは慣れてきたが、こうして男子と身体が触れているような状態は中々胃が軋む。
こんなことなら障子さんか轟さんで幾らか慣れた方がよか・・・いや、やっぱりいいや。マリさん以外の男性にぺたぺた触れたいとは思わない。
「B組のチームが寄って来てるよ。迎撃するかい?」
「適当にあしらいたいんですけど・・・まぁ仕掛けてくるなら反撃しますよ。心操さん」
「あいよ」
のんびり様子見に徹している私達の騎馬に、嫌味ったらしい笑顔を浮かべたB組の騎馬が狙いを付けたらしく寄ってきた。
騎手を務めている金髪の男子は今にも此方へ皮肉を言い出しそうな嫌な雰囲気を醸し出している。なんだろうこの人・・・すごくめんどくさそうな感じがする、主に表情が。
「やぁやぁ主席1位さん!あれだけ大口叩いてたのに1000万には行かないんだ?とんだ腰抜けだねぇ!首席が聞いて呆れるよ」
「口を動かす前に手を動かしたらどうですか?「暇なんですね?」」
彼は予期していた通り敵愾心剥き出しで私達へ噛み付いてきた。なので事前に打ち合わせていた通り適当に彼を煽る。
「はーっ!浅はかだねA組!これは歴とした戦りゃ──」
そうしてみれば嬉々として私の声と重ねて問いかけた心操さんの言葉に返答。想像していたよりずっとあっけなく無事に洗脳が決まり彼の動きが停止する。
お喋りなタイプで助かったと見るか、それだけ私のヘイトが高いと見るべきか迷うところだけれど、願わくば前者であると思いたい。
「どうした物間!?」
「──ッ!今何かされたね。仕掛けは見えたかい?」
「わからん!お前が急に止まったことだけはわかる!」
だがすぐに与えられた衝撃で彼の意識が戻る。初撃なので手加減はまだ上手くできなかったようだけれど、目的は果たせたので問題は無い。
「あらあら、私に構っていてもいいんですか?」
「詳細はわからないけど、何か干渉系の個性かな?悪いけど一瞬しか持たないようじゃ意味無いよ」
「まだ気が付かないんですか?間抜けな人ですねぇ」
一々癪に障りそうな斜に構えた態度を取るのは挑発なのか素の性格なのか。私からは判断できないが、取り敢えずこんこんと指でこめかみをつついて挑発の言葉を吐いてみる。
「はァーッ!?この僕が!?A組より間抜けぇ!?」
「おい物間!鉢巻取られてねぇか!?」
「は?」
仲間からの言葉に固まった彼はすぐ自分の頭に手をやり、ついで身体をまさぐって鉢巻きが無くなっていることを認識した。
あまりにも上手く引っかかってくれたのが嬉しくてつい笑顔で手を振ってしまったけれど、いい感じの挑発になっているだろうか。
「クソっ、やられた!」
「取り返しゃいいだけだろ!気にすんな!」
「・・・いや、鉢巻を何処にやったかすらわからない。こういうタイプは攻略に時間が掛かる」
「うふふ、どうしたんです?こないんですか?」
「撤退だ、こいつは後回し」
マリさんがやっていたようにくすくすと嘲笑う。なるべく得体の知れない強敵を演じて相手が気圧されるように、此方へ反撃する選択肢を取らないように。
マジシャンがタネも仕掛けもないと観客に見せつけるように両手をひらひらと身体の前で振り、私が彼等の鉢巻を持っていないことをアピール。
「獲られたまま引き下がるってのか!?」
「無駄に時間の掛かる相手から鉢巻二本だけを確保するより、バカみたいに1000万追いかけてるA組から複数掠め取る方が効率的で簡単さ。いいかい?ここでアイツに執着するのは賢い選択じゃない。あくまで僕達はこの騎馬戦を突破するのが目標なんだ」
「・・・了解リーダー!それならとっとと奪いに行くぞ!」
「ヘーっ!!あくまでも今のは様子見さ!あとで覚えてなよA組!」
「あら、振られちゃいました」
先程のオーバーリアクションにしては意外にも冷静だった。もっと激昂してくれるなら更に挑発して、全員心操さんに洗脳してもらおうかと思っていたけれどそれは後でよさそうだ。
そこはかとなく腹の立つ顔芸を披露しながら彼等は他チームへと駆けて行く。そして彼等と入れ替わるように虚空をひらひらと舞う鉢巻──すなわち透さんが私の方へ走ってきた。
「ふひぃ〜、いつバレるかと思ってヒヤヒヤしたよ〜」
「お疲れ様です。いい隠密でした」
「灯台下暗しってやつか。あんなんでもバレないんだな」
「くっ・・・何も想像するな俺・・・!!」
先程の彼に掛けた洗脳が一瞬で解けたのは即座に透さんが背後から鉢巻を奪取したからだ。
飛び上がって勢いよく頭から奪ったことで洗脳もすぐ解けてしまったけれど、あれで解けなければ石ころでも投げて解いてもらう予定だったので構わない。
そうして後は彼等のすぐ背後の脚元でバレないように隠れてもらっていただけ。
透明人間なだけあって彼女は人の視線に敏感らしく、うまいこと適宜場所を移動しながら彼等の死角に入り込んでいた・・・動き方がちょっと気持ち悪かったけど、その感想は心の中にしまっておこう。
“ひとまず作戦成功だね”
(えぇ、取り敢えず通用するみたいで良かったです)
私の斜め後ろに浮かんでいる透さんの体操服、これは本人が私を支えているように『千里眼』と『邪眼』でそれっぽく体操服を動かしているだけだ。*1
そして心操さんの側に重心が寄らないよう尾白さんの尻尾を腰に巻き付けてバランスを取ってもらっている。
これにより相手はまさか全身透明──私達には全裸の痴女に見えてしまうけれど──の透さんが背後まで忍び寄っていることに気が付けない。
“絵面がちょっとアレなのが申し訳ないけど・・・”
(私達以外には見えていませんから。彼女の尊厳は守られていますよ)
“そうかなぁ・・・そうかも・・・?”
全裸の女子高生が鉢巻片手に地面を這い死角に入ろうとする様はちょっと言葉にするにはアレな場面だったけれど、これも必要な犠牲というやつだ。
マリさんもこの光景を見ていたことが一番の問題ではあるのだが、この際マリさんは幼女だったということにするしかない。
彼にだけ目を瞑ってもらうなんて器用なことはできないし、ピュアさだけなら実質的に幼女と言って差し支えないのでどうか許して欲しい。恨むなら彼女の専用コスチュームの申請を通さなかった雄英を恨んでください。
「そうこうしている間に状況が動き始めたようですね」
「場も乱れてきた。そろそろ僕達も動くかい?」
フィールド中央では1000万を狙った熾烈な争奪戦が繰り広げられていた。
当初予想していたよりも緑谷さんのチームが粘り強く耐えているようで、この分だとどさくさに紛れて
「えぇ、そろそろ外周から漁りに行きますよ」
「
「基本はスルーでいいですが、もし向かってくるようなら今度は全員洗脳で嵌めましょう。必要であれば私のゴーレムで拘束します」
「はいよ」
先程の漁夫狙いチームと獲物が被って取り合いになることを避けるべく、反対方向の外周部から注意が1000万に逸れている相手に狙いを定める。
事実上1000万さえ手に入れれば騎馬戦の通過が確定するゆえに死に物狂いで執着しているチームが多いのだろうけど、最後の1秒まで狙われ続ける形式のバトルロワイヤルでは中々厳しくはないだろうか。
(・・・あまりこういう消極的なことを考えているとPlus ultraがどうこうと怒られたりするのでしょうか)
“時には一歩引いて全体を俯瞰することも大切だし、先を考えて戦力の温存を選択した操奈ちゃんの判断は正しいよ”
(ふふ、ありがとうございます)
視線は前方に保ちながらハンドサインで透さんに指示を出す。この作戦は騎馬から離れて鉢巻を狙う透さんの存在が誰にもバレないことが最も重要だ。
それゆえ他人にはわからないよう二人で決めたハンドサインを透さんに送り、フォーメーションと襲撃タイミングを合わせている。
そして聡い人なら透さんの個性と私の視線から何かしら勘付く可能性を考慮して、わざわざ『千里眼』で彼女のいる場所に視線を向けないよう対策もしてある・・・結構頭が疲れるけど、今はこれが最善手だと判断した。
私と心操さんで敵の気を引くことで透さんが鉢巻を奪いやすいよう場を整え、チーム全員『洗脳』することで後々復讐されるリスクを極限まで減らす。
序盤に鉢巻を失ったままフィールドを彷徨くのは流石に不自然が過ぎるから
「うふふふふ、皆様お雑魚様でございますわねぇ〜!「やーいざーこざーこ!」」
「誰が──」
「オマエらこんな奴に鉢巻獲られてて大丈夫か?」
「あ゛ぁ゛!?──」
「ちょっとずつキャラ崩壊してないかい?」
「アレはヤケクソっていうやつじゃないかな」
仕掛けは面白いほど上手く行っている。無駄に高くなったヘイトがここにきて役に立った結果まさに入れ食い状態と言って差し支えないほど。これが所謂怪我の功名というやつなのだろうか。
代わりに私の羞恥心というか自尊心のようなものがガリガリと音を立てて崩れ落ちているような気がしないでもないが、透さんに比べれば遥かにマシだ。
試合前念の為ミッドナイト先生に作戦を確認したときの眩しいものを見るような、どこか郷愁を宿したようなよくわからない感情*2で抱きしめられていた透さん。
死んだ魚のような光のない瞳でミッドナイト先生から後継がどうこう言われていた彼女を思えば、この程度で文句など言えるはずもない。
『ここで7分経過した現在のランクを見てみよう!──上位6チーム以外は悉く0P!!もっと気合い入れてけよなお前らァ!?』
『ガヤはともかく、ポイントが集中している以上前半戦よりも更に凌ぐのがキツくなってくる頃合いだな』
「おや」
「どうかしたか?つーか俺ら獲るのちょい早かったか」
「いえ、透さんの存在がバレない限り取り返しもやりやすいですから、他チームと近づき過ぎず時間を稼いでいれば問題ないでしょう」
1000万を中心に様子見を続けていたが、爆豪さんが突如として空高く飛び上がったことに驚いて意識が逸れてしまった。
彼はその勢いのまま緑谷さんに襲い掛かり失敗すると即座に瀬呂さんに回収されていたが、その隙を突かれて鉢巻を奪われてしまっている。
「よりによってさっきの彼、爆豪さんに手を出したみたいですね。ストレスでも溜まっていたのか*3随分煽っているみたいで爆豪さんも般若のような形相になっていますし、ちょうどいいヘイトタンクになってくれそうです」
「うわぁ・・・御愁傷様、もし俺が彼だったら生きた心地がしないよ」
「ヴィランの話してんのか??」
「当たらずとも遠からずですかね」
怒髪天を衝く、と言う言葉は今の彼が語源なのではないかと思ってしまうほど激怒している。遠く距離の離れた私達ですら薄寒い怒気を感じるのだから、直接狙われたチームはたまったものではないだろう。
ああなっては放置する他ない。下手に刺激して私に矛先が向いても怖いし、爆豪さんの周囲は放置して残りの回収と無力化に向かうとしよう。
“お、一旦離脱した方がいいかもねー。そろそろ轟くん来るよ”
「下がりましょう」
「は?」
「今日これ以上凍らされるのは御免ですので」
轟さんのやり口を詳しく知らない心操さんは疑問符を浮かべていたが、素早く意図を理解した尾白さんは駆け足で彼等から距離を取り始める。
「チクショーいつ盗られたかもわかんねぇ!でもオイラたちに失うもんは無くなった!いくぞ障子!」
「1000万さえあれば勝てる!行くよ口田!砂藤!青山!」
「そろそろB組の意地ってもん見せてあげるよA組!覚悟しな!」
1000万を掴むことに全力を掛けているチームは避ける素振りはせず戦火の中心へと飛び込んでいっているが、1箇所に敵が集まることこそ轟さんの思う壺。
彼等と反対に走り透さんにも撤退指示を出しつつ急いでその場を逃げ出せば、直後に髪が軽くピリつくほどの大規模放電が上鳴さんから解き放たれた。
そして即座に電流で動きが止まったところを轟さんの氷結で拘束、1000万を囮にした見事な連携・・・ああいうやり方もあるんですね。
「静電気で尻尾の毛先が・・・」
「君さては結構余裕あるね?」
「ふわふわで必死に意識を紛らわせてたんですよ?貴方の尻尾にはとても感謝しています・・・本当ですよ?」
「のんびり駄弁ってる場合じゃねーだろ!次どうすんだ!?」
「私もどう動くか指示欲しいでーす」
想像よりは多少イレギュラーではあったが、実に幸運なことに私達が無力化したチームはステージ端に待機させていたお陰で攻撃範囲から逃れていた。
しかも睨み合う緑谷・轟チームと煽り顔の人・爆豪チーム以外のチームの殆どが氷と電気で行動不能になっている。さぁどうぞ奪ってくださいといわんばかりの状態だ。皆鉢巻失ってますけど。
「では生き残りに目をつけられないよう、私達は洗脳したチームを壁にして大人しくしていましょうか」
「ちょっと気が引けるけど・・・俺もそれでいいと思うよ」
「但し透さんは別です。私達に近付くチームの背後を取り続け、奪われた場合に備え取り返しができるよう待機で」
「はいはーい、じゃあいい感じに隠れてまーす」
心操さんにお願いして洗脳したチームを配置し、その中心へ隠れるように移動する。後は轟・緑谷チームと煽り顔・爆豪チームの決着を息を潜めて眺めるだけ。
『残り2分で遂に王者陥落!1000万を轟チームが奪取!爆豪チームも根刮ぎ物間チームから鉢巻を取り返した!やるなら徹底的にってかァ!?』
「ッ!悪鬼が来ますよ!皆さん準備を!」
「ここでくるのか!」
「お前らマジのヴィランの話してんのか!?どっちだ!?」
「どっちだろうねー」
散々ヘイトタンクを担ってくれていた煽り顔──ポイントの推移的に彼が物間さんでいいだろう──が敗北し、恐るべき形相で空を飛ぶ爆豪さんがその眼差しを間違いなく此方へと向ける。
「空から見てりゃこそこそコソコソしやがってよぉ・・・!目障りなんだよチビ白髪ァ!!」
「あれだけの攻防しながらこっちも見てたのか!?」
「さっさと隠れますよ!」
ミサイルもかくやと言わんばかりの勢いで突撃してきた爆豪さんを追って切島さん達の騎馬も駆けてくる。ぐずぐずしているとあの悪鬼羅刹に爆殺されてしまう。
「テメェ1分でぶっ殺して次ァ1000万だ!!トロついてんじゃねぇぞクソ髪!!」
「飛びすぎだ爆豪!距離考えろ!!」
「死ぬ気で走れや!!」
とはいえ流石の切島さん達が高速移動できるわけではない。本陣が到着する前に予定通り洗脳したチームの背後へと回り爆豪さんの盾として用いた*4。
「やる気ねぇなら俺ん前に立つな!!」
「ぎゃあ!?なに!?何なの!?」
立ち塞がるものは全て薙ぎ払わんと範囲型の爆破をばら撒き瀬呂さんのテープで騎馬へと戻る。器用に広げられた爆破は盾にした人達を遠慮なく襲い掛かり、彼等にかかっていた洗脳を隈なく解いてくれた。
「痛ッてェーーー!!んじゃこりゃ!?」
「は?こいつら何言ってんだ?」
「鉢巻無いからって諦めてんじゃないよバカちーん!」
「ん?え?A組?・・・んん?あれ、どうなってんだ?」
爆破の衝撃で叩き起こされた彼等は困惑したように各々周囲を見渡し、目の前で暴れている爆豪さんや切島さん達騎馬に意識を向けている。
心操さんの洗脳自体に人にダメージを与える効果は無く、時間さえあれば容易く収まる程度の混乱。ただしそれが今この場では、最も効果的に時間を浪費させられる罠へと変わる。
「え?──あれぇ!?鉢巻が無ぇ!?いつの間に!?」
「穢らわしい取り方をした天罰でしょうか・・・」
「いいからすぐ取り返すぞ!!そこのツンツン頭だ!狙え!!」
「ちょいちょいちょい、何かおかしいぜ爆豪!」
「知るか!どうせチビ白髪の仕業だろ、要はあのチビぶっ殺しゃいいだけだァ!!」
洗脳して無力化していた騎馬は三組、そのどれもが今鉢巻を目の前の爆豪さんに奪われたと思っている。そしてちょうど物間さんから奪ってきた鉢巻がまさに自分たちが持っていたものだと誤解してくれた。
「一旦下がるぞ爆豪!流石に囲まれちゃ不味い!!!」
「空ァ飛んでりゃ問題ねぇ!着地狩りだけ死ぬ気で防げ!!」
「〜〜〜ッだークソ!信じるぞ爆豪!絶対獲られんなよ!!!」
再び爆豪さんが空へ上がる。これで少なくとも騎馬の方は私達の近くまでは出てこれない。残り時間的に後一度何とか防ぐことができれば・・・。
「落ちろA組!!」
「鉢巻の仇ー!」
「どうかお赦しを・・・!!」
「邪、魔、だッ!つってんだろ当たるかクソが!!!」
『いよいよ残り1分!!番狂せが起こるのか!?いや見たい!!今こそPuls ultraだぜガイズ!!革命起こせや!!!』
『煩ェ』
彼は対空砲の如く空へばら撒かれる妨害をものともしていなかった。だが確実にストレートに空を飛んでくるよりは時間が掛かり、複雑な爆破飛行に余力は削ぎ落とされてる筈。
「来るよ影山さん!!」
「一瞬止めます、尾白さんは追撃を」
「おっと、意外と軽いのな」
腰に巻き付けていた尻尾を外し重心を心操さん側へ。そしてB組の方々の妨害を避けつつ今にもこちらを射殺さんとばかりに睨み付ける爆豪さんに狙いを定め、
「死ねやぁ!!」
(今ッ!!)
必要なのは私と空を飛ぶ彼の間にB組の放つ障害物が消え、直線状に最速の爆破を用いて最も勢いよく突撃してくるその瞬間だった。
「あ゛!?」
ロケット花火のように突撃してきた彼の顔面へ
ただし『邪眼』により操作される体操服は大して力強いものではない。不意を突くようなものでなければひ弱な心操さんでも片手で簡単に引き剥がせる程度の妨害。だがそれでも、彼は空中での視界を数秒失った。
「ッテメ、ふざけ──」
「ハァ!!!」
その数秒に合わせて尾白さんがその辺から掘り出していた土塊を散弾のように放つ。
普通ならダメージになるような威力ではなくとも空中で当たれば当然バランスは崩れるし、爆破による不安定な飛行方法を行っている彼にとっては致命的な隙となる。視界が塞がれるのなら猶更に。
「誰か知らんがよくやった!落とせ落とせぇ!!」
「落としてたまるかってんだ!!掴まれ爆豪!!!」
「あーっ!?狡いぞアレいいんですかミッドナイト!!」
「舐めた真似しやがって・・・!!!」
『残り30秒!!』
「全速撤退、距離を離します」
「はいよ!」
辛うじて爆豪さんを地面に落とさず瀬呂さんが回収していた。思いの外切島さん達が騎馬を崩さず耐えているのは素直に驚きだ。
芦戸さんが周囲に酸をばら撒いて牽制し、切島さんが攻撃の盾となることで爆豪さんの着地を守っているように見える・・・まぁもう彼らがどうなっていても構わない。
これで
「もっかい行くぞクソ髪!今度はテメェが盾になって先に──」
「いただきますっ!!」
「──わかっとんじゃボケ!!」
「えぇ!?」
『20!!!!』
最後の攻勢に出ようとした彼の鉢巻を透さんが握りしめ奪い取ろうとした瞬間、しなる鞭のように鋭く振るわれた彼の腕が奪われかけた鉢巻を取り返した。
一見怒り狂った暴れ馬のようでいて、未だ戦況を分析しながら動く能力は失っていない。彼が真の意味で我を失うほど激昂させられるのは緑谷さんくらいなのではないだろうか。
「は、葉隠!?何でこんなとこに!?」
「今だ今だ!!死ぬ気で奪え!!」
「ちょ、ちょっと待て!後ろにもA組いねぇか!?」
「無視しろ!!時間が──」
『10!!!!』
──足りない。混乱に惑う三組の騎馬が此処にいなければワンチャンスあったかもしれないが、そんなもしもは存在しない。
そして彼等もようやく爆豪さんチーム以外の
『TIME UP!!!!!!』
「ふへぇ〜怖かったぁ!!!」
「お疲れ様です。最後の陽動はとても助かりましたよ」
「えへへ、寿命縮まるかと思っちゃった」
“お疲れ様~、よく頑張ったね。花丸あげちゃう”
(えへへ、私もやればできる子なんですよ)
プレゼントマイクが終了の合図を喧しい程の音量で告げる。そして無情にも余韻に浸る間も無く順位が発表されていく。
1位は緑谷さんチーム、2位が私達、3位が爆豪さんチームで4位が轟さんチーム。以上4チームが最終種目へと足を進める運びとなった。
「なにはともあれ騎馬戦通過です。心操さんも尾白さんもよく対応してくださいました」
「気にしないでくれよ。俺なんて影山さんを支えてたくらいさ」
「お前が恨まれてるお陰で簡単に洗脳できたからな。楽な仕事だったぜ」
「くっ・・・」
実際
彼のチームは爆豪さんが徹底的に叩き潰していたお陰で再び絡みにくることはなかったけれど、あの人今後もちょっかい掛けてきたりするのだろうか・・・嫌だなぁ。
「まっ!結果オーライってことで、私も恥ずかしかったもん。ここはお相子にしよ」
「・・・はい、こちら体操服です」
「ありがとー。よいしょ」
“爆豪君に爆破されなくてよかったねー・・・うん?わざわざ後ろ向くの?”
「一応見ない方がいいのか、これ?」
「言うなよ変に意識しちまうだろ・・・」
そっと回収した体操服を手渡して後ろを向く。後ろから響く衣擦れの音に男子諸君が気まずそうに──ただしマリさんを除いて──していたけれど、意外にも・・・そうでもないか?透さんは見えていない人に見られるのは平気そうだ。
「こほん、さて皆さん。お昼休憩が明ければ私達はライバルに戻ります。何か聞きたいことがあれば今のうちにどうぞ」
「えぇーなにかあるかなぁ?尾白くんはありそう?」
「え?いや特にないけど」
「俺はまぁ・・・いいや。脅されんの怖ェし」
「別に脅しま・・・もういいです。後で後悔しても知りませんからね!」
騎馬戦での私達は殆ど個性を使わず皆さんに頼りきりだった。当初の狙いだった『錬成』の節約は達成できたものの、この成果は概ね心操さんの洗脳と透さんのステルス戦法によるもの。
その申し訳なさからちょっとくらいサービスしてあげた方がいいかなと提案してみたというのに、こういうところでヒーロー科っぽいことをされると気が引けてしまう。
“操奈ちゃんたら律儀ぃー”
(マリさんも別にいいよって言ってくれたじゃないですか・・・)
“トーナメントで戦う以上どのみちバレるからね。操奈ちゃんがすっきり戦えるなら、それに越したことはないもの”
せっかくの譲歩を捨てるというのなら私から皆さんに言うことは無い。
かぶりを振って急ぎ足で会場から退出しにいく。最終トーナメントに向けて少しでも多く休息を取って
「あ、待ってよー!私も一緒に行くー!」
「引っ付かないでください。重いです」
「哀ちゃんがそれ言うの!?というか力強いね!?」
慌てて背中に抱き着いてきた透さんを半ば引き摺る形で屋内へ入る。取り敢えず
教員の眼も可能な限り避けて、最低限青山さんの居ない場所・・・治与婆様の保健室のベッドでも貸してもらおう。
「では、私も用事がありますので」
「えー!?お昼皆で食べようよー」
「どうかお許しを、大切なことなのです」
「むーん・・・それならしょうがないなー、遅れちゃ駄目だよ?」
直球に切り出せばすぐに彼女は引いてくれた。生憎のんびりお喋りしながら優雅な昼休憩を過ごす余裕は無いのだ。私の代わりに梅雨ちゃんさんでも捕まえて遊んでいて欲しい。
「というわけで睡眠を取りに参りました!」
「自慢気に言ってんじゃないよ。カーテンで隠してやるから奥のベッドを使いな」
「ご配慮痛み入ります」
準備が良い・・・というより本当に私がくることを想定して整えてくれていたのだろう。マリさんも彼女には頭が上がらないようだし、今後も色々とお世話してもらうことになるかもしれない。
せめてトーナメントで倒れるようなことにはならないよう気を付けて戦いたいけれど。
「昼食は食べないのかい?」
「カロリーバーなら補給しましたので」
「イレイザーの悪い部分だけ影響受けてるね・・・まったく」
透さんと別れてから出張保健室に来るまでに影に仕舞っていたカロリーバーは摂取済み。本当はマリさんに私が作ったご飯を食べて欲しいけれど、残念ながら今日はそれを楽しむ余暇が無い。
“さ、今はゆっくりお休み”
(はい・・・マリさんもですよ?一緒にお昼寝です)
“治与婆に怒られたくないもん。ちゃんと寝るよ・・・寝付きの速さには自信あるんだからね?”
布団を頭まで覆い被さって横になる。瞼を閉じて『千里眼』も止めれば余計な情報はシャットアウト。ほんの僅かに治与婆様が動く音だけが聞こえてくる保健室の中で、自分の呼吸音だけが耳に響く
影の中に比べればまだまだ明るいけれど、ある程度暗いので良しとしよう。
“・・・すぅ・・・・・・”
(本当に速い・・・)
寝ると言った5秒後くらいにはマリさんから寝息が聞こえてきた。まるで機械の電源を落とすような速度の就寝・・・口に出さないだけでマリさんも疲れているのだろう。
気にはなるが私も早く休まなければならない。余計な考え事はせずに微睡の底へ落ちていく。
(それではお休みなさい。マリさんもどうか良い夢を)
いくら爆豪くんといえど思春期ボーイ、顔面に女子の体操服が飛んできたら流石に少しは隙もできるというもの・・・できるよね?
ちなみに緑谷チームは無重力+フルカウル出久射出+ダークシャドウ命綱の爆豪チームスタイルで1000万もぎとり返したらしいです。かっちゃん原作よりキレてそうですね。
これまで色々ヒロアカ二次見ててなんか心操チームに入るパターン多いなぁとか思ってましたが、トーナメントの内容的に彼のチームにぶち込むしかないんだなと書いてて気付いたのが最大の発見かもしれない。