ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活   作:Radrabbit

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 長くなってしまった、一話ごとの平均文字数の安定って皆さんどうやっているのでしょうか・・・不思議。


7話 人と個性は使いよう 中編

 

“負けちゃいましたね、葉隠さん”

(地力の差もあったけど、やっぱりコスチューム全裸は厳しいよ、些細な事で傷を負うリスクが大きすぎる)

 

 第二戦の葉隠さんは残念ながら何も出来ずに敗北してしまった。建物全体を氷漬けにする程の出力と精密な個性制御、轟君はクラスメイトの中でも頭一つ抜けているね。

 入学早々の一年生が相手していいレベルじゃない、葉隠さんと尾白君のチームはもう一戦やってもいいくらいだと思うんだけどなぁ。え?ダメですか?これも経験?まーそうなんだけども・・・。

 

 そうして全ての試合が終わり僕が相方を決める時間がやってきた。対戦相手は轟君・障子君ペア、障子君で居場所を探知してから建物丸ごと氷漬けによる無力化が脅威的な組み合わせだ。勝負が一瞬で着いたこともあって戦闘スタイルまで見れなかったのは残念だけど・・・様子見なら幾らでもできるからね。

 

「それでは最終戦!対戦相手はヒーローチームの轟・障子少年ペアだ!影山少女、相棒は決めたかな?」

「そうですね・・・」

 

 純粋に個性の相性で言うなら八百万さん。彼女の個性なら凡そどんな素材でも用意できるし、トラップや仕掛けも僕の錬成でより効率的に設置できる。でも建物ごと氷漬けにされたら意味ないから今回はパスしようかな、凶悪ヴィラン相手に使うような悪辣な仕掛けもできるけど訓練にならないので却下、そうであれば・・・。

 

「葉隠さん、リベンジマッチに興味はありませんか?」

「え⁉︎めっちゃある!・・・でもいいの?何も出来ずに瞬殺されたよ私」

「対策は考えてありますので」

 

 葉隠さんに振り向き声を掛けると即座にレンスポンスが返ってくる。彼女としてもせっかくの初戦闘訓練が瞬殺で終わりというのは酷だろう。

 ・・・尾白君にはちょっと悪いけど、僕と彼との相性は悪くはないのだけど良くもない。特に今回考えてる二人の対策だと試合で尾白君が空気になってしまって彼を上手く活かすことができない。こればっかりは轟君のレベルが高すぎるが故の弊害なので、尾白君以外であっても戦闘が成立するのは精々爆豪君くらいだろうか。

 それに対して轟君の無差別氷結と障子君の探知を凌げば彼女の隠密能力はクラス随一、活かし方は幾らでもある。

 

“大丈夫なんですか?葉隠さんの個性だと轟さん達とは相性が悪い気がしますけど”

(悪いのは間違いないよ、でもそれさえ補えば十分強力な相棒になるからね)

 

「それじゃあお世話になっちゃおうかな?今度は良いとこ見せるよ!」

「では決まりですね。共に勝利を掴みましょう」

「OK!早速二組とも試合会場に向かうんだ、皆もどんな内容になるか予想しながら観るんだぞ!」

 

 葉隠さんと握手を交わしてから会場へ移動し、核が仕舞われている部屋まで到着した後の作戦会議で彼女に話を切り出す。

 

「早速ですが葉隠さん、少し髪を貰ってもよろしいですか?数本で構いませんので」

「ほぇ?それくらいいいけど、何に使うの?」

「コートに個性因子を錬成して葉隠さんの防護服として作り直します。即席ですから長持ちはしませんが」

 

 彼女に着せていたコートと受け取った髪を素材に全身を覆うボディスーツ型の防護服へと錬成する。彼女の個性因子の解析は訓練前に撫で回していた時に終わらせていたから、後はこうして因子を混ぜ込んで形状を整えるだけ。元が頑丈なコートで作ってあるから軽い表面的な氷結程度なら強引に砕いて動けるし、足音も最低限まで小さくできるだろう。

 

「おお?見た目は普通のボディスーツ*1だね」

「葉隠さんが着ると貴女の個性に反応して透明になりますよ、私からは見えたままですが」

「そーなんだ、良かった・・・というか、影山さんのコート使っちゃっていいの?」

「予備のコートを用意してありますから」

「そのコートどっから出したの⁉︎」

「トリックです」

 

(もちろん僕の影から・・・やっぱり『潜影』は道具の持ち運びに最適だね)

“お役に立てて何よりです”

 

 これで僕から見ても葉隠さんの身体が隠れるから彼女も安心だろうし操奈ちゃんも文句はあるまい。即席で作ったから見た目が可愛くないのが不満だけど、その辺は追々改善していけば良い。

 

「これ着てれば私も不意打ちできるね!早速行ってきウぉうっ⁉︎」

「少しお待ちを」

 

 勇足で部屋を飛び出そうとした葉隠さんの手を握って止める。少々の氷結は無視して動けると言っても足の付け根程度まで凍らされたら動けなくなるし、僅かな足音でも障子君の索敵能力には引っかかってしまう。それに今回彼女にお願いしたい作戦は建物内で動き回って不意打ちを仕掛けることではないからね。

 

「今回の試合で葉隠さんにやっていただきたいことは─────」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「轟、今回も先の試合と同じ動きでいいだろうか?」

「ああ、対策と言ってもこの短時間で出来ることならそこまで大したモンじゃねぇだろう。場所がわかれば後はゴリ押しでも十分勝てる」

 

 作戦会議と言っても戦略は前回の試合と同じでやることに変わりはない。

 影山の個性の詳細は知らないが、個性テストで見た感じ周囲の物を多少弄って操作するとかそんなとこだろう。入試成績が1位ってんなら戦闘能力も爆豪より上の可能性を考えていいだろうが、その辺は実際に接敵して戦うまではわからない。

 だが葉隠の方は透明なだけで直接戦闘力の高い個性じゃない、不意打ちさえケアすればあいつが戦闘面で脅威になることはないだろう。影山がどういうつもりで葉隠を選んだのかはわからないが、多少の工夫程度なら問題無く突破できる力の差はあるつもりだ。

 

「障子が索敵した後はさっきの試合より多少強めに凍らせる。念の為葉隠を捕縛するまでは周囲の警戒を怠るなよ」

「了解した、万全を尽くそう」

 

『作戦タイムは終了だ!それでは二組とも準備はいいかい⁉︎───最終試合、START‼︎」

 

 

 試合開始の掛け声と共に建物に侵入する。障子は先の試合と同様に探知器官を生やして索敵を行っているが、何か引っ掛かることがあるのか首を傾げている。早速何か見つけたか。

 

「どうした」

「これは・・・数が多すぎる。一人二人じゃない、全ての階から複数の足音が聞こえてくる」

「何?」

 

 障子が答えたのと同時に俺達の正面通路の曲がり角から大柄な奴が歩み出てきていた。ここまで近づきゃ俺にもわかる程度にはガシャガシャと喧しい騒音が聞こえてくる。見た目からして明らかに人間ではない機械だが、大方影山の個性で作ったロボットか何かだろう。

 

「侵入者、発見!ブッコロスゼ!」

「あのロボ・・・大体2mってとこか」

「ヤツが足音の正体というわけだな、来るぞ!」

「ヒャッハー!」

 

 腕を振りかぶりながらゆっくりと接近、武器を持ってるようには見えねぇが攻撃手段は腕と足だけか?何か武装を隠してるかもしれないがロボのサイズは障子より大幅にデカい割にスピードは遅い。この速度なら走ってりゃ追いつかれることはないだろう。この程度ならさして脅威にならないか?

 

「取り敢えず凍っとけ」

ハッハァー!ソンナ小細工キカネェゼ!」

「氷を砕いて強引に動いたのか⁉︎」

「チッ、脚凍らせるくらいじゃ止まんねぇのか」

 

 脚まで軽く氷付けにしてみたがロボは一瞬止まっただけで氷を砕きながら此方へと走り続けている。強引に動かして砕けた装甲の表面は軽くハゲる程度、アレじゃ有効打にはならないのか、面倒臭ェな。

 

「それでも頭まで凍れば止まるだろ」

「オ・・・ォオ、しん、にュ──

 

 脚先から更に氷結を上まで流し続ける。下半身が覆われてもぎこちないが四肢が動き、胴体が凍りついても両腕で氷を剥がそうと強引に氷を砕き始め、首元まで凍り付いた所でようやっと完全に動作が停止した。

 

「・・・ようやく動きが止まったか。ロボには驚いたが、氷結で対処できるなら最初の作戦で問題ないか?」

「いや・・・首元まで凍らせねぇと動くんなら無理だ」

 

 今試した結果このロボットを無力化するには手脚を凍らすだけでは足りず、少なくとも手脚を含めた身体の大部分まで氷漬けにするまで出力を上げて対応する必要がある。

 

「出力が足りないのか?」

「建物全体を氷漬けにする分には問題ねぇが、ロボが動けなくなるレベルの氷だと葉隠を凍死させちまう」

「あぁ・・・確かに格好の問題があったな」

 

 葉隠のコスチュームは手袋と長靴のみという巫山戯た格好──もちろん個性の都合というのはわかっているが──故に、アイツの位置がわからない状態で首元まで凍るレベルの氷結を放つのは危険行為になるだろう。葉隠にロボを合わせたことで建物全体巻き込んだ大規模な氷結を封じられた形になるか。

 

「中々厄介だな、どう動く?」

「各階層虱潰しで回る。確かに面倒だが・・・所詮時間稼ぎにしかなんねぇよ。むしろ対策がこれだけってんなら拍子抜けだ」

 

 ロボも数が多いだけなら俺の障害にはならない、スピード重視で潰して回ればいいだけだ。速攻でロボを潰して進む為には葉隠の警戒は障子に任せた方がいいか・・・俺一人でケリつけたかったが流石にそこまでの余裕は無いか。

 一体ずつ凍らせていくとなると体温の低下が少し気になるが、建物中走り回ってりゃまだ下がりにくいだろう。

 

 

 俺が前、障子が後ろの並びでロボットを制圧しつつ階層を登っていく。廊下を彷徨いてる奴もいれば部屋に隠れて不意打ちを狙ってくる奴もいた。ただ厄介だったのは完全に破壊して黙らせるか氷漬けにして動きを封じない限り、階層を跨いでも追跡してくることだ。

 ロボ同士で情報共有はしてないのか増援が次から次へと湧いてくるようなことは無かったが、単体の追跡性能は高いのか無駄にしつこく追ってきやがる。

 そして2階の制圧が終わり3階への階段を駆け上がっている途中、障子が戦い方の変更を提案してきた。

 

「轟、先程から徐々に体温が下がってきているのか身体が震えているぞ。このペースでは最後まで持たないんじゃないか?」

「だからと言ってロボを放っとく訳にはいかねぇだろ、アイツらゾロゾロ引き連れて核の前に行くつもりか」

「足だけを凍らせて一瞬隙を作ってくれれば俺が破壊しよう。幸いロボットは大した武装を持ってないようだからな、俺でも反撃を受けずに処理できるはずだ」

 

 ここまでハイペースでロボを氷漬けにしてきたことで体温か下がってきているのは事実だが、だからといって戦い方を変えるつもりはなかった。

 

「ここまでの道のりで俺達とロボット以外の足音は聞こえなかった。葉隠は奴らに紛れて不意を狙っているのではなく、俺達を警戒させることで消耗させるつもりなんじゃないか?」

「一理ある・・・が、警戒しないわけにはいかねぇだろ」

「お前を信じて俺は敵を殴ることだけを考える。それ以外のリソースは全て索敵に集中するつもりだ・・・俺のことは信頼できないか?」

 

 一瞬脚を止め障子の提案を受け入れるかどうか思案する。確かに出力を下げれば体温の低下は抑えられるし、障子の推測通りいいように時間稼ぎをされている可能性も否定できない。

 それに核兵器を防衛している部屋での戦闘に十分な余力があるに越したことはない。・・・体温の低下に気が付いても障子は俺に「炎を使え」とは一言も言わなかった。炎を使えば解決する話なのに、俺がさっきの試合で言ったことを気にしてわざわざこんな提案をしているんだろう。

 ・・・元々二人組での戦いだ。これくらいなら手伝って貰ってもいい、か。

 

「いや・・・わかった、攻撃は任せる」

「あぁ!任せてくれ‼︎」

 

 そこからは前後を入れ替わり、立ち塞がるロボの足元を凍らせた一瞬の隙に障子が幾つも折り重ね束ねた右腕を振るうことで敵を砕いて回る。昨日の握力テストでやっていたような多腕によってまるで増強系みてぇなパワーを出しているが、そのお陰で氷結も最低限で済んでいる。

 肥大化させた右腕の影響で崩れそうな体幹を索敵用に生やした器官で上手いことバランスを取っているらしい・・・器用だな。

 

「これで4階は終わりか」

「5階の足音も先程までと変わりないのが少し不気味だが・・・進むしかないか」

 

 4階までの探索が終わった状態で試合時間は大体残り7、8分ってとこか、少なくとも5分よりは多いだろうが思っていたより時間を稼がれてしまった。

 相変わらず出てくるロボの種類に変化は無く不意を打ってくる気配も無い。ここにきてまで時間稼ぎしかしてこないってのも少し不自然に思えてくるが、そうして無意味に警戒させて神経を削るのも相手の狙いなのかもしれねぇな。 

 障子が前に出てくれなかったら接敵前にコンディションが最悪まで下がって碌に戦える状態を保てなかった可能性を考えると、障子には後で礼を言ったほうがいいのかもしれねぇ・・・こういう時って何してやればいいんだ?・・・後で本人に聞けばいいか。

 

 そうして5階フロア大部分の制圧まで順調に終わり最後の一部屋の前に到達した。影山が作ったらしい頑丈そうな扉はこれまでの階層で見た物よりも補強されているらしく、静かに開けてバレずに侵入ってのは無理そうだ。そもそもロボから俺達の現在地はバレているだろうが。

 

「ここだな、俺達が部屋の前まで来ているのは気が付いているだろうか」

「多分な、今からこの部屋の中を凍らせる。その後で障子は扉をこじ開けてくれ」

「了解だ。引き続き葉隠の警戒は任せろ。この部屋の内部の何処かには潜んでいるだろうからな」

 

 結局ロボット以外に妨害は無かったが、その分だけこの核部屋に何を仕掛けているかわかったものじゃない。ここでの最善手は相手の罠が作動するよりも先に全て氷漬けにして封じること。

 この部屋の中なら例え葉隠が首まで氷漬けになったとしてもすぐにテープを巻いてから溶かしてやればいい。何ならその前に試合を終わらせるつもりで氷結に集中する。

 深呼吸をして息を整え、右手を扉の真下に置く。そうして今できるだけの最大出力で氷結を伸ばし続け10秒、20秒・・・1分程ゆっくり時間を掛けて確実に動けないと断言できるまで氷を広げた。これで少なくとも罠の類はそうそう動かせない筈だ。

 

「ここまで凍らせりゃ充分だろ、障子」

「ではこじ開けるぞ──ハァァ!!」

 

 待機していた障子が束ねた右腕で扉を吹き飛ばし、即座に開いた隙間から部屋に脚を踏み入れる。後は今の氷結で止まらない怪しい物があればそこを狙って潰す。

 

「悪いがお前らに何かさせるつもりは──あ?」

「お待ちしておりました。それでは───下へどうぞ」

 

 内部に足を踏み入れた瞬間に氷漬けにした筈の部屋の床が崩れ落ち始めた。部屋を見渡せばかなり本気で広げた筈の氷が殆ど消え去っており、精々天井と壁面にしか残っていない──この一瞬で対処したのか?

 

「これは、落とし穴か!」

「糞ッ」

 

 踏みしめた筈の床が粘土のように崩れ落ちていく。踏ん張りの効かない床に足が沈み込みんでバランスが崩れ、そのまま真下へと落下していく。

 一階分はそのまま落下し崩れた姿勢も相まって受け身は取ることができなかった。だが沈み込んだ床が相当柔らかい素材で出来ているのか身体に衝撃は殆どない。この分なら戦闘に支障は無い、が・・・。

 

「大丈夫か轟!」

「あぁ、問題ねぇよ。この床がクッション代わりになったお陰でな」

「呑気にお話ししている場合ではありませんよ?罠に掛かった時は周囲の確認を最優先にしませんと」

「あの野郎・・・」

 

 影山が上階にできた大穴から覗き込んで*2微笑んでいた。入り口周辺も纏めて落としたのか障子も巻き込まれて落ちてしまったが、氷で階段を作れば上には戻れる。この後に及んで時間稼ぎとはいい趣味してやがるなアイツ。

 

「轟!ロボット達が復活している!囲まれているぞ!」

「ッ!コイツら仕留め切れてなかったのか」

「ロボットではなくゴーレムとお呼びくださいませ。それにあの程度で倒したなどとは笑止千万ですわ」

 

 周囲を見渡せば身体の節々に氷の破片が張り付いたロボの群が俺達を取り囲んでいた。上半身のデザインに見覚えはあるが腰から下が変形して空中にホバリングしてやがる。腹立つ見た目しやがって・・・。

 

「足音が聞こえ無かったのはそういうことか。俺達が5階を走り回っていた僅かな時間でこいつらを部屋に集めたのか?」

「わざわざ足音を付けたのは貴方を欺く為です。ふふ、足なんて飾りですよ。えぇと、あのロボットは何といいましたか。確か──*3じおんぬでしたか?」

「障子、俺の近くに寄れ」

「任せた」

 

 ロボが攻撃を仕掛けてくる前に全員黙らせる。この際手加減する余裕はねぇ、部屋ごと纏めて氷漬けにするつもりで放つ。右手を振るい今出せる最大出力で広げた氷は巨大な氷塊となって周囲を覆い、周辺のロボを粗方氷塊の中に閉じ込めた。

 

「この前見たアニメを参考に今回のゴーレムを作ってみたのです──ところで貴方のその氷。打ち終わった後は制御下には無いようですね?」

「これは、氷が溶けているのか?」

「お前・・・俺の氷を・・・」

「──標的、補足。戦トウを続行しマス

 

 囲んでいたロボは全身丸ごと氷塊の中に閉じて込めた──筈だったが、すぐさま氷が蒸気を放ちながら溶け始め・・・いや、氷から水が溶け出していない、直接気体に昇華しているのか?

 

「あらあら、手詰まりですか?──では其処で死んでくださいませ、ヒーロー

「断る!ハァッ!──これまでのゴーレムより硬いな!破壊は至難だ、すまない!」

「シッ!お互い様だ!しょうがねぇ、賭けに出るぞ!」

「みすみす(ヴィラン)がそれを見逃すとでも?──贋作決死隊・雀蜂(フィクティム・ホーネット)

 

 俺達が氷から解放されたロボ達に距離を詰められている間に影山の周囲にある床と壁から無数の巨大な蜂の群が形成され始めた。あれもロボットの一種だろう、見るからに速度に特化した形態であの巨体に突進されるだけでもマズそうだ。そしてソイツらがこちらへと飛翔する──直前にもう一度氷塊を放つ。今度はロボではなく天井目掛けてだが。

 

「目眩しですか、10秒と持ちませんよ?」

 

 大穴ごと天井を氷で覆いつくし、ついでロボも纏めて氷塊で封じ込める。大分キツイがこれで十数秒誤魔化す時間はできた。

 

「して轟、賭けとは何だ?」

「時間がねぇ、移動しながら端的に説明する。行くぞ」

 

◇◇◇◇◇

 

「2、1、0・・・ピッタリ10秒ですわね。我ながら完璧な計算です」

“下の階からは逃げたようですね”

(いいや、彼等は逃げたワケじゃない)

 

「葉隠さん、準備はよろしいですか?」

『もっちろんだよ!任せて』

 

 通信機越しに葉隠さんへと声をかけ、大穴から身体の向きを変え窓の外へと視線を向けた。下のゴーレムから送られてくる情報で二人の移動先はわかっているからね。

 『千里眼』を使うまでもない、彼等は逃げたのではなく即座に5階に戻って攻撃を続けることを選択したのだ。彼等を迎える為に核兵器と窓の間へと移動し、先程錬成した蜂型ゴーレムを周囲に展開しておく。

 

「いらっしゃいませ、10秒ぶりですわね?」

「行くぞ障子!」

「任され・・・た!」

 

 砕けた窓ガラスの破片と共に轟君を背負った障子君が部屋へと飛び込み、そのまま轟君を束ねた複製腕で此方へと放り投げた。確かにその方が速いだろうけど雑な突っ込み方するね。

 

「ギリギリまで近づきゃロボも関係ねぇだろ!」

「近接戦なら勝てると?──心外です」

 

 高速で飛んできた轟君を片腕で軽く受け流す。すぐさま体勢を立て直した彼はそのまま這うようにこちらへ接近してきた。その上で氷を撒き散らしてゴーレムを遠ざけながら僕から離れないよう乱打を打ち込んできた。

 

「この距離なら氷が溶かされるより俺の攻撃の方が速ぇ!」

「容赦ないですわね、いいことです」

 

 打撃の合間に手脚が何度も凍らされ続ける。氷はすぐに分解できるがその隙に鋭い打撃が急所に飛んでくる。か弱い女の子に対して容赦無さすぎじゃない?別にいいんだけどさ。

 

「──で、其処の障子さんは何方へ行かれるのですか?」

「余所見してんじゃねぇ」

「余所見ではありません。これは余裕というものです*4

「ぐッ!これは先程の巨大蜂か!」

 

 轟君の猛攻を受け流しつつ蜂型ゴーレムを仕向け障子君の妨害も続行する、確かにやり難いがこの分ならまだ核はあげられないね。

 しかし轟君の氷を交えた近接戦は何処かぎこちない。体術は綺麗なんだけど氷がこうなんというか──遠慮してる?多分僕の腕が砕けないように出力かなり下げてるっぽいね。

 あまりこういう戦い方はしてこなかったのかな、練度が高ければとっくに捕縛されていたろうに。まだこの身体の力加減の感覚を完全には掴んでないから下手に反撃できないんだよねぇ今。

 

「お前はこっち見てやがれ──障子!」

「また目眩しですか、私から距離を取ってもよろしいので?」

 

 唐突に後ろへ下がり僕から距離を取った轟君が再び大規模氷結を放ち視界が塞がれる。放たれた氷を凌ぐために一度周囲を壁で完全に覆い氷結をやり過ごし、すぐさま周辺の氷を分解して二人の位置を確認──障子君が隠れたか。

 

「何が狙いかは存じませんが、そうやすやすとまた貴方を近づかせるつもりはありませんよ」

「一応言っとくが、頭上注意だ」

 

 その言葉に轟君から目を離さない程度に上を見ると、天井から巨大な氷塊が氷柱によって吊り下げられていた。最初後回しにして放っておいた天井の氷に先程の氷結による目眩しの隙で作っていたのか。よくもまぁあんなでっかいの天井に作れたものだね。

 氷塊と天井を繋ぐ柱は今にも砕ける寸前──てか砕けた。 おおい!人の頭上になんて危険物作ってんのこの子は!

 そしてあろうことか轟君はそのまま近接戦を始めるつもりらしい、これ君も危ないよね?ここに来るまでの戦闘を『千里眼』で観察してきた感じこの規模の垂直落下する巨大氷塊を即座に凌ぐ技があるとはあまり思えないけど。

 

「──ちょっと!危険な特攻やめてください!訓練ですよこれ!」

「悪い、お前なら防げるだろうと思って」

「謝るならやらないでください!」

 

 落ちてきた氷塊を受け止める為に周囲から四本の巨大腕を錬成して即座に受け止める。頭上から轟音が響き渡り氷塊から砕けた氷の破片が僕らの周囲に降り注ぐ。氷塊のサイズはデカいが落下直後に動いたお陰で問題なく止められたね。

 ていうか僕が受け止められなかったら君も潰れてるんですけど!ヴィランに対処を任せた危ない行動すんのやめなさい!というかそのまま殴りかかるんじゃないよ!

 

「そういうのは見掛け倒しで落ちてきても大丈夫なモノで注意を逸らすんです!本当に危険なモノ落とすんじゃないですよお馬鹿!」

「急造でそこまで繊細なコントロールができなくてな。・・・つい負けたくなくて熱くなっちまった、すまねぇ」

こ、このお馬鹿負けず嫌い・・・

 

 申し訳なさげに少し眉を下げながらも戦闘を続行する彼。本当に反省してます?

 僅かな苛立ちを抑えつつ不意を突くためにわざと凍りついたままにしていた左腕を強引に動かして氷を砕き、彼の振り切った手首を掴んで動きを一瞬止める。そしてそのまま彼の脚元の床を粘土に錬成して瞬時に下半身を床に沈め、バランスを崩した上半身も床から錬成した拘束具でギチギチに固めて動きを封じた後に確保テープを巻き付けた。

 

「うぉっ、氷、溶かさなくても、無理やり動けたのか」

「貴方は其処で暫く反省しててくださ──そういえば障子さんは何処に」

「上を通させてもらった。結果的に緑谷達の試合みてぇな真似しちまったな、失敗だ」

「盗らせてもらうぞ!」

“氷塊の上です!”

 

 いつの間にか頭上で止めてあった氷塊の上まで忍び寄っていたらしい障子君が氷塊を足場にし、そのまま大きく跳躍して核兵器へ向かっていた。氷柱と天井を伝うことで僕の視界に入らないようにしていたのか。轟君の特攻で気が逸れてしまったな、反省反省。

 

「これで──回収だッ!」

「残念、確保されるのは君だよ!」

 

 大ジャンプを決めた障子君はそのまま目標へと抱きついて回収を宣言。しかし同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()葉隠さんによって確保テープを付けられた。

 咄嗟のことに身体が固まった障子君は何の抵抗もなくテープを装着されてしまったようだ。核の回収に必死になって葉隠さんのことちょっと頭から抜けてたでしょ。ふふ、まぁ僕も障子君のこと頭から抜けてたんだけどね。

 

『ヴィランチーム、WIN!!』

 

「まさか核兵器の中に隠れていたとは・・・」

「えへへ〜、こんなとこに居るとは思わなかったでしょ〜」

 

 オールマイトから勝利宣言が出たので氷を分解しつつゴーレム達を解体して部屋の修復作業を行う。緑谷君みたいに派手にぶっ壊されてたら完全には戻せなかったから楽で良かった。

 そして敢えて拘束したままの轟君の目の前にしゃがみ込み、お馬鹿さんの額にちょっと強めにデコピンを連打する。

 

「い、いて、痛ぇって。悪い、さっきの怒ってるんだろ」

(ヴィラン)依存の危険な行動をするのはヒーローとして御法度です。私が対処できなかったり貴方だけ拘束して逃げていたら潰れていたんですよ?」

「あ、あぁ、それはわかって、いて、結構、力強いんだな影山、痛ぇ」

 

 リスキーな危険行為であることは十分承知の上でやってきていたお馬鹿さんだったようなのでデコピン乱打の刑から解放し床から引っ張り上げる。後はオールマイトや相澤先輩が十分叱ってくれるでしょ。

 

「大方普段通りの氷の使い方だと通用しないから賭けに出たのでしょう?次にあのような真似をしたら貴方をサボテンに加工して教室に飾り付けますわよ*5

「わ、わかった。サボテンはよくわかんねぇが肝に銘じておく」

“サボテンはどういう意味なんですか?”

(サボテンは適当に言っただけだからあんまり追及しないで・・・)

 

 轟君を解放しているうちに障子君と葉隠さんが一緒に此方へと戻ってきていたので合流してモニタールームへと移動していく。ちょっとした振り返りをしながら気になっていた点を各々挙げていたのでプチ反省会みたいになっているね。

 

「あの核兵器って結局本物じゃなかったのか」

「フェイクですよ、本物は1階の柱の中に隠してあります」

「成程、全て時間稼ぎだったというわけだな」

「ふふふ、作戦通り〜。ま、ずっと偽物の中で待機してるのも緊張したけどね〜。ねね、透明人間の圧力ってどんな感じだったの?」

 

 葉隠さんのことはブラフに使ったりフェイクの中でずっと待機し続けてもらうなど、あまり積極的に動いてもらう作戦ではなかったから試合前は彼女の気が乗るか少し心配だった。けれど作戦が上手く嵌まったお陰かご機嫌な状態で今は二人に感想を聞いている。

 

「ふむ・・・ロボを制圧しながら葉隠の警戒を続けるのにはかなり神経を使ったな。特に最後の方は核の回収に必死で警戒が疎かになってしまった」

「姿が見えないからこそ『もしかしたらすぐそこに居るかもしれない』ってのは結構厄介だったな。下手に凍らせ過ぎて壊死させちまったりしねぇか冷や冷やしてた」

真顔で怖い事言うね⁉︎

 

 人から見えない透明人間だからこそなのかやたら感情豊かな葉隠さんと対照的に、轟君は大体真顔で障子君は目元以外を布で覆っていることもあって感情がちょっと読み取りづらい。

 轟君は意外と負けず嫌いな性格なのかと思ったけど、あれは試合の勝ち負けじゃなくて自分の個性が軽くあしらわれたのが気に食わなかったのだろうか。

 

「そういえば!せっかく二人で協力して試合勝ったんだし、これを機に名前呼びにしよ!We are friends‼︎

「あら、それは嬉しいお誘いです。それでは改めてよろしくお願いしますね、透さん」

「こちらこそよろしくね、哀ちゃん!」

 

 また、轟君が今回の危険行為のお詫びと障子君へのお礼も兼ねて今度お昼を奢ってもらうことになった。別に授業でやったことだしそこまで気にしなくてもいいと思うけど、そこはかとなく良いとこ育ちの気配がするね。

 ・・・そう言えば入学前にAFOからエンデヴァーの息子が雄英に入るって聞いたな。そこまで深く関わる事もないだろうと特段気にしてなかったけど。前回の試合も含めて轟君は戦闘中に一切炎を使う素振りもなかったし氷漬けにしている左半身からは炎に対する大きな隔意を感じる。

 父親との仲がかなり拗れているのだろうか。どう考えても戦闘中に炎を使わないのは非合理の一言に尽きるが、氷一本で何処までやっていくつもりなのだろう。

 とはいえその辺を突っ込むには僕らは親交が深くない。知り合ったばかりの他人にあれこれと口出しされても不快に感じるだけだろう。相澤先輩にキツいこと言われる前に改善できればいいんだけどね・・・。

*1
ルミリオンのように頭髪から個性に適応したコスチュームの作成は可能なはずだが、彼女が恐らく最後まで裸族だったのはヒロアカ最大の謎かもしれない

*2
うきうきマリちゃん、少しニヤニヤしている

*3
「あんなの飾りです!偉い人にはそれがわからんのですよ!」のセリフが有名かもしれない赤い彗星さんが乗る「ジオング」という名のモビルスーツから。

*4
志々雄真実ごっこ

*5
サボロキくん、夏はクーラー、冬は暖房の役割を果たせる




・うきうきマリちゃん
余裕があったので昔見た漫画やアニメごっこをして遊んでいた。クール系お嬢様を装っているが焦るとすぐ崩れる。

・志々雄真実ごっこ
漫画「るろうに剣心」に登場する全身包帯大火傷の悪役、志々雄真実の「油断?何のことだ?これは余裕というもんだ」という台詞のとてもカッコいいシーンから。名作なので良かったらどうぞ。実写化映画もアクションシーンがカッコよくてとてもお勧め。

・ゴーレム君達
雄英の仮想ロボを参考に郷里真理が編み出したゴーレム。口の悪さは仮想ロボを参考にしたため。

・贋作決死隊・雀蜂《フィクティム・ホーネット》
場合によっては魚・兎・鳥など様々な形態になる特攻ゴーレム。見た目は本人の好みでよく変化している。

・轟君
この話を考える上で初期ロキくんが障子君と協力して戦えるのか?という点は悩みました。
ですが体育祭編のエンデヴァーに煽られて恐らく一番ガチ切れしていたであろう瀬呂君戦ですら苛ついてやりすぎたと素直に謝っていたくらい根が良い子ですし、騎馬戦では普通に協力していたので炎やエンデヴァーについて言及さえしなければ一定ラインまでの協力はいけそうかなと。仲良く協力とまではいかなさそう。
そして寡黙なタイプだけどちゃんと人を見て気遣うように動く障子君となら行けるはずと思ってこうなりました。多分切島君と瀬呂君なら初期ロキ君相手でもコンビでいけそうかな?

推薦入試の際もイナサが「あんたってエンデヴァーの子どもかなんか⁉︎」とさえ言っていなければイナサの押しの強さなら最低限のコミュは取れていた可能性も零ではないかな?と考えています。
というか轟君のあのヤバめの眼光は絶対入試当日の朝にエンデヴァーから雄英では炎が無ければ通じないとか余計な煽り言われてかなり苛立ってたよね?そこに「エンデヴァーの子ども」と言われて「黙れ」「邪魔だ」とか言っちゃたのかな、どうだろう。

あと轟君はもっと友達つくって美味しいもの食べて楽しく遊んでいい思い出沢山作って早く431話みたいになってください。

・葉隠さん
堀越先生は完結後まで全裸に手袋とブーツにして全国の少年たちに夢を見せているのだと思いますが、流石に女の子にその服装はいかんでしょと理性が働いてしまいました。一家全員透明とはいえお母さんとお父さんが泣いてしまいます。

・障子君
原作より出番が沢山増えた。協力して頑張ったことで障子君から誘えば一緒にお蕎麦食べるくらいには仲が進展したかもしれない。
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