ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活   作:Radrabbit

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書きあがり次第投稿するスタイルが合わなかったのでちまちまストックをため込んでいたら、前回投稿から一カ月も経っていて腰を抜かしました。生存報告代わりに投稿です。


9話 紙一重negotiation

 放課後透さんと轟君に再度詫びてから教室を出て推定オールマイトの元へと向かう。彼は保健室から帰ってからはずっと職員室で雑務に取り組んでいたようで、あれ以来移動していなかった。

 

“接触手段はどうするんですか?”

(移動先で待ち伏せて彼の影に潜ろうかなって。その後人と監視カメラが無い場所で声をかけるよ)

“あ、丁度職員室から出てきましたよ”

(わぁ、本当にオールマイトになったや、どうなってんのあれ・・・?)

 

 彼が廊下に出るとすぐ身体から煙を上げて肉体が隆起していき、細身の姿はすぐさま僕らの知るオールマイトの姿へと変身を遂げた。 

 変身が彼の個性なのか・・・?というか、廊下で変身しているあたり教師陣はあの姿のことを知っているのかな。

 

 そのまま彼はいつものようにダッシュで何処かを目指して移動を始めた。けれどいつもとは違い途中で立ち止まってはキョロキョロと辺りを見回している。おかげで『千里眼』の観測範囲から出ていかないけど、誰かを探しているのかな。

 

“わざわざ変身しているなら生徒を探しているのでしょうか”

(一瞬1-Aを見にきたね。探しているのはクラスメイトの子かな?今教室に居ないのは・・・爆豪君と緑谷君の二人か)

“あー!校門の方よく見てください!あそこに二人ともいます!”

(お、よく見逃さなかったね。お手柄だよ操奈ちゃん!僕らも急いで移動するよ!)

 

 急いで移動しつつ人に見られることを避ける為、一瞬建物の死角へと移動してからそこにある影へと潜りこむ。『潜影』は道具や素材の収納にも便利だが、自分含めて生物も入れることが可能だ。とは言え呼吸は出来ないから自分以外を入れるのは実用的じゃないけどね。

 

(移動はお願いね、操奈ちゃん)

“任せてください”

 

 移動に際して操奈ちゃんに『潜影』の制御は任せている。この個性は僕が使うよりも元々の持ち主である彼女の方がよっぽど上手に使えるからね。そうして地面や壁に映る様々な場所の影を経由して校門付近まで移動。

 

 僕らよりもオールマイトの方が早く到着しており、僕らが到着してすぐに爆豪君が帰ってしまったのであの二人が何を話していたのかは分からなかった。まぁ今はそれはいい、ちょうど夕日が差し込んでいるおかげで建造物の影とオールマイトの影が繋がっている。

 

(このままオールマイトの影に潜り込んで)

“これで潜影完了・・・後はタイミングを測るだけですね”

(お疲れ様、ありがとうね)

“いえ、私にはこれくらいしか出来ませんから”

 

 影から地上を見ているとオールマイトが緑谷君に爆豪君と何を話していたのか聞いていた。爆豪君と緑谷君との過去の因縁、緑谷君が誤解を解く為に個性をオールマイトから授かったことを爆豪君に話してしまったのだそう。母にも秘密にしていることだが彼には言わずにはいられなかったのだと。

 

(やっぱりOFAは既に譲渡済みかぁ・・・)

 

 そしてオールマイトは緑谷君に個性について話したことを咎めていた。彼自身や身の回りの人間を危険から遠ざけ、社会の混乱を防ぐために必要なのだと・・・盗み聞きしてるのが申し訳ないな。

 そうして二人の話が終わりオールマイトが緑谷君と別れた。物陰で細身の姿に戻ったおかげで声をかける機会は多そうだね。歩くオールマイトの周囲を『千里眼』で見回しつつ人気とカメラ、誰かの視界に入っていないか確認しながらタイミングを待つ。

 

 ・・・ここなら良さそうだね。

 わざと音を出さずに気配を消したまま背後から声をかける。

 

「こんな時間に申し訳ありません。少々宜しいでしょうか?」

「Wats⁉︎why影山少女⁉︎」

「オールマイトに戦闘訓練のことでお聞きしたいことがありまして」

いいイいやイヤ、私はオールマイトではなく職員の人間さ。君の勘違いだよ

 

 凄まじく動揺してくれたけれど、オールマイトと呼んで声を掛けても頑なにシラを切る辺りやはりこの姿では別人として振る舞っているのだろう。驚き方がコミカルでちょっと面白いけれど、彼がオールマイトだと知った上で見ると確かに所作もオールマイトらしいと思う。

 

「実は先程の緑谷さんとのお話を『偶然』聞いてしまいまして、ここまで後ろを付けてきたのです」

「──sit‼︎緑谷少年に言ったばかりだというのに、私としたことが・・・」

「貴方のミスではありませんよ。実は私、以前から貴方について色々と調べていたのです」

「な、なるほど。努力の成果というわけか・・・すまないが影山少女、話を聞いていたというならわかるだろうがあのことはくれぐれも秘密にして欲しい。君の身を守る為でもあるんだ」

 

 ストーカー染みた台詞に冷や汗を流したオールマイトから少し引かれてしまっている、だがここからが正念場だ。僕らも自分の身分を明かして彼からの信頼を得なければならない。

 僕の人生でこんなコミックみたいなやり取りをした経験なんて一度も無い*1。素人が下手に誤魔化すよりもオールマイト相手なら直球で伝えた方がいいだろう。

 

「そこで相談があるのですが・・・誰にも聞かれず、誰の目にも入らない密談に適した個室はご存じでしょうか」

「それなら幾らか知っているが、一体何の話を?」

「貴方が6年前に戦った『AFO』というヴィランのこと、覚えているでしょうか」

「────ッ‼︎」

 

 AFOに言及した途端彼は窪んだ目を剥き、軽く吐血しながら一言「着いてきなさい」と告げ、人気が無い校舎棟の個室へと案内してくれた。

 学生時代に雄英校内は大体探索した覚えがあるけどこの辺りの校舎は知らないな。新しく増設したのだろうか。

 痩せ細った彼が歩く姿にふらつきは無いが、この身体の健康状態は果たしてどうなっているのだろうか。先程思い切り吐血していたのに特に気にする様子がない。日常的に血を吐いているから気にしない・・・等の理由であれば由々しき状態だ。リカバリーガールが居ながらコレなら相当不味い状態なのでは・・・?

 

「この部屋なら大丈夫だ、私も内緒話をするときは此処を使っている。それで相談というのは?」

「そうですね。一言で言ってしまえば・・・今影で暗躍しているAFOへ対抗する為にオールマイトへの救助要請をしにきた、ということになるのですが──」

なんだって⁉︎奴は・・・私があの時この手で確かに倒した筈‼︎」

「・・・協力者の手で貴方から逃れたそうですよ。その詳細までは語りたがらなかったので知りませんが」

 

 先程よりも動揺が激しく血反吐を流しながらも椅子から立ち上がる。それほどに予想外のことだったのだろう。

 僕らが隠れ家にいた頃にAFOは以前『かつてオールマイトに殺されかけて命からがら逃げ出した』とだけ言って、彼等の戦いがどのような決着になったのかまでは聞いたことがない。嫌っているオールマイトに負けた戦いについて、わざわざその細かな顛末まで語る気はなかったのだろう。

 

 だから僕はこれまではオールマイトが奴を取り逃したことは認識しており、逃げ隠れしているAFOを密かに探しているのだろうと考えていた。奴もオールマイトには絶対に見つからないよう細心の注意を払って動いていたからね。

 けれど雄英に来て緑谷君の個性を見て、OFAが既に譲渡されている可能性に思い至った後に気がついたのだ。オールマイトがAFOを野放しにしたまま個性の譲渡などするのだろうかと。普通に考えればそんなことをあのオールマイトがするわけがない。

 

 あれ程凶悪なヴィランの捕縛を今の緑谷君ができる筈もないし、OFAを自在に扱い戦えるようになるまで一体何年かかるのだろう。

 ましてAFOと因縁のある自分を差し置いて緑谷君にOFAを託すなんて事はしないだろうから、それ程に身体が弱ってしまい満足に戦えなくなっている可能性まで考えた。

 それ故にオールマイトがAFOの生存を知らない可能性もあるのかもしれないとは思っていた、当たって欲しくはなかったけれどね。

 

「言葉では信じられないかもしれませんね・・・私の個性は表向き『錬金』と伝えていますが、実際はAFOの手によってアルケミーが所持していた『錬成』と他に相性の良い個性を組み合わせたものです」

「────複数個性の組み合わせ、それは・・・」

「このように・・・傷を再生する『超再生』も付与されていますし、先程の尾行がバレなかったのも影に潜る個性によって貴方の影に潜んでいたからです」

「・・・まさか、本当にあの致命傷で生きていたとは・・・信じられん・・・」

 

 実際に目の前で複数の個性を使って見せたことでAFOの生存を信じざるを得なくなったのだろう。力の抜けた様子で椅子に座り込み片手で額を抑えていた。

 

「その様子でしたらAFOが今貴方を殺す為に動いていることは当然知らず、彼の捜査を行っているということも無さそうですね」

「・・・影山少女、君は一体何者なんだい・・・?」

 

 彼の瞳には強い戸惑いの色が宿り、その細く柔らかな眼差しを僕に向ける。けれどその視線に動揺はあっても疑惑や警戒心は感じられなかった・・・呆れるくらいに根が善人なんだね、自分からAFOの関係者だと言ってるようなものなのに。

 生徒とはいえど彼はもう少し人を警戒した方がいいんじゃないかと思う。この距離なら不意打ちだってやりたい放題なんだからさ。

 

「私がAFOから雄英にスパイとして送り出された人間だから、ですね」

「何故、それを私に?打ち明けてくれたということは・・・君はヴィランではない。そう信じていいのかい?」

「それについては、まず私が生まれた経緯から話しましょうか」

 

 そっと彼が出してくれたお茶で喉を潤しながら僕らがこれまでに辿ってきた経緯を語る。今から7ヶ月前にアルケミーというプロヒーローが少女誘拐犯を追ってAFOの隠れ家に辿り着き、そこでAFOと交戦し死亡したこと。

 誘拐された少女の死体にアルケミーの個性を移植し、複数の個性を与えた改造人間として生まれたのが自分であること。この身体の本来の主人である影山操奈に肉体の主導権が渡せなくて困っていること。

 そして雄英高校にオールマイトが教職に就く話をAFOが聞きつけ、彼の現状とOFAの譲渡先に選ぶであろう人間を探し出すために僕とアルケミーが送り込まれたこと。

 ただひとつ、影山哀の自我が郷里真理のものであることだけを除いてこれまでの事を語っていく。

 

“どうして影山哀がマリさんってコト言わないんですか?”

(影山操奈()にプロヒーローの立場を混ぜたくないんだよ。それに、個性に宿る意識が身体を動かすなんて話までは流石に信憑性が無いからね)

“ですが、それじゃマリさんが・・・”

(いーのいーの、僕が死んだのは僕の責任だし、今の僕は寄生虫みたいなもんなんだからさ・・・でもね、君は将来ただの女の子に戻って普通の人生を取り戻さないといけない。僕が必ずそうする)

 

 本来この身体は影山操奈というヴィラン被害者の女の子の立場であるべきで、そこにプロヒーローアルケミーが混ざってはいけない。純粋な被害者であってヒーローではないこと、それが将来彼女が真っ当な道に戻るために必要なことの筈だ。

 中身がプロヒーローなら問題ないだろうと陰気な連中等から僕らに口出しされたり立場を縛られたりして操奈ちゃんの人生に悪影響を与えたくない。

 かつての自分が選んだ道とは言えアルケミー時代は休み無しで全国飛び回って救助活動していたからさ。将来ああいう過酷な生活を操奈ちゃんに強制されたりするのはちょっと、ね?

 

「AFO・・・‼︎遺体を弄ぶなど何という外道を・・・‼︎」

「気にしていただいてありがとうございます。ですが、まだ話の途中ですので」

「しかし‼︎・・・いや、すまないね。話を続けてくれ」

 

 拳を震わせてAFOの所業に憤る彼を抑え話を続行する。奴らが今備えている脳無の兵団、全国各地にある隠し拠点、そしてご両親を人質に僕らと同じく内通者として動くように命令されている青山優雅について。

 

「何だって⁉︎青山少年とご両親が⁉︎」

「えぇ、ですが軽率に接触するような真似は厳禁ですよ」

「なんと歯痒い・・・本人に直接話を聞くことすらできないとは・・・」

「ですのでAFOに気取られることなく彼等の保護を行う準備をしていただきたいのですが・・・貴方が確実に白と信頼できる伝手はあるでしょうか・・・?」

 

 最大の懸念点、AFOに気取られることなく青山君一家の保護に手を回せる人材がいるのかどうか。オールマイトが直接赴くのは目立ち過ぎるし僕が青山君の周囲で動いて変に勘繰られるのも避けたい。

 人質の問題さえ解決できれば最悪力押しでAFOの捕縛に動けなくもないだろう・・・多分。

 

「それについては大丈夫さ!かつて私と共にAFOと戦った信頼できる友がいる。青山少年一家については彼に任せられるとも!」

「そんな方が・・・?貴方が信頼できると言える人なら安心ですが・・・」

「あぁ、とは言えタイミングは計らねばならんだろう。AFOに我々の行動が察知されれば奴がどんな手に出るかわかったものではない」

 

 オールマイトとタッグを組んで実際にAFOと戦った程信頼できる人間というのなら余計な心配は不要だろう。頼りになりそうな人が居てよかったと安堵の息をついてお茶を啜る。

 

「そのご友人も含めてAFOについて連絡を取る際は十分に気をつけてくださいね。今回のような件も含めて、私達やアルケミー以外にもヴィランの手先が何処に潜んでいるかわかったものではありませんので」

「それについては返す言葉もない・・・十二分に気を付けて動こう」

 

 次いでプロヒーローの選抜も彼の伝手で何とかできるそうだ。雄英高校校長根津、動物でありながら発現した個性によって世界に認められた偉大な人。リカバリーガールとは違って学生の頃に面識はなく、また卒業してからも同様ずっと彼と関わることはなかった。

 それ故に彼が信頼できる人なのか僕には判断できなかったし、この件で頼ってもいい人なのかずっと迷っていた。けれどオールマイトと古くから親交がありOFAについても既に譲渡したことまで把握しているというのなら安心していいだろう。

 

 具体的な作戦立てや信頼できるヒーローへの協力要請は根津校長経由で問題なく行えるそうだ。今後の詳細なプランは一度彼等を中心に練ってもらおうかな、僕みたいな災害救助系ヒーローよりずっと確実な案を出してもらえるだろうからね。

 

(これで今日の目的は無事達成できたね、変に拗れなくてよかったぁ)

“やけにすんなり話が進みましたね。もっと色々時間が掛かるものだと思っていたのですが”

(AFOについての話だからってのもあるんじゃない?僕らが思っていたよりずっと大物だったし)

 

 今日の話し合いの中で一番驚いたことは奴が超常黎明期から日本で暗躍していたとんでもないビッグネームだったことだろうか。

 いやほんとに、オールマイトから逃げ隠れて日本で暗躍できているヴィランである時点でかなりの大物であることはわかっていた。けれどまさか御伽話にしか存在しないようなレベルだとは思っていなかったのだ。

 ・・・今になってお腹が痛くなってきたかも。もしかしなくても僕は非常に危ない橋を渡っていたらしい。隠れ家にいた時とか変なことやらかして疑われてたりしないかな、めちゃくちゃ不安になってきたんだけど。

 

「しかしまさか郷里君がそのような事になっていたとは・・・この前会った時はあんなにも元気そうだったというのに」

「リカバリーガールにでもお願いしてこっそり中身を検査すればわかりますよ。頭の中にそれはもう大きな機械が埋め込まれているそうですから。はぁ・・・」

 

 ため息を吐きながら湯呑みを手に取って窓の外を見た。雄英に来る前に聞いたが郷里真理の脳内に埋め込まれている機械が視覚と聴覚から得た映像と音声をドクターに転送する仕組みらしい。電波の偽装をする為に無駄に機械が大きくなったせいで脳味噌に埋め込むのが大変だったとドクターに愚痴を言われたことがある。

 

「・・・もしや君は郷里君と知り合いなのかい?」

「いいえ、ですが個性を通じて彼の記憶を見ることがありますから、冗談でもいい気分とは言えませんね」

 

“そんな澄ました態度じゃなくてもっと怒っていいと思いますけど”

(めーっちゃ怒ってるよ。ほら、今のこぉんなに不機嫌そうな顔してるでしょ?)

“私には見えないですし、それ適当な演技ですよね?”

(・・・・・・・・・)

 

 ・・・確かにこれはAFOに反感を抱いている人間だとオールマイトに信じてもらうための演技ではあるが、奴らが嫌いな人間なのは紛れもない事実だよ。

 疑惑を持たれないよう従順なお人形のフリを続けるのは非常にストレスだったもの。人を人と思わない外道と錬金術の造詣が欠片もない脳髄まで個性漬けの気狂い老人学者。

 監視の目を付けさせない為とは言え半年に渡って苦行を続けるのは本当に辛かったが、その成果が今こうしてオールマイトに繋げられているのだからぎりぎり良しとするべきだろう。

 

「そういえばOFAにも歴代継承者が力の一部として記憶されている、なんて話をお師匠としたことがあったな・・・」

「・・・それ、継承者の方々と会話したり彼等に身体が勝手に使われたりとかはなかったんですか?」

「んん?そんなことはなかったけど、何か気になることが?」

 

 どうやらOFAの歴代継承者が僕や操奈ちゃんみたいな状態にはなっていないらしい。彼がこれまで40年間OFAを保持していた中でかつての継承者の記憶をみることはあったが会話をしたことまではないのだそう。

 何か操奈ちゃんに身体の主導権を返すヒントにでもと思ったが、特にこれといった手掛かりは無さそうだ。

 

「私はよく操奈さんと会話しているのですが、OFAとはまた勝手が違いそうですわね」

「それなら私の伝手で意識と個性に関わる事例が無いか調べるよう伝えておくよ」

「・・・よろしいのですか?正直信憑性に欠ける話だと思いますし、疑わしい与太話よりAFOの捜査の方が優先順位は高いでしょうに」

「それでも実際に今君達が困っているんだろう?知っているかい、余計なお世話はヒーローの本質なんだぜ」

「オールマイト先生・・・」

 

 朗らかな笑顔を浮かべながら痩せた腕で力こぶを作るオールマイト。その眼差しには相変わらず疑念の色は無く、ただ暖かな光を宿して僕らを見つめている。気持ちは嬉しいけどこんな胡散臭い話を信じてくれるのは彼が少し心配になるよ。

 とは言えこっちの話にまで協力が得られるとは思っていなかった。個性に宿る意識なんてそれこそドクターを詰めるか自力で解明するしか無いものだと思っていたからさ。助力してくれるというのなら存分に活用させて貰おうじゃないか。

 

「・・・それでは早速相談したいのですが、大変お怒りになっている操奈さんを鎮めるにはどうしたら良いのでしょうか」

「エッ!?彼女怒ってるのかい⁉︎」

そのぉ・・・」

 

 そっと目を伏せ顔を逸らす。今回の話し合いの本筋からは離れてしまうが、話の途中で僕がまた操奈ちゃんの怒りのスイッチを踏んでしまったようなのだ。

 

「実は今日少し無理をしてしまって・・・あ、いえ、はい、最近ずっと無理をしていました・・・御自分のお身体ですから当然のことなのですが・・・『そういう話じゃないです』?ならどういう事なのですか?・・・『わからず屋、朴念仁、生後7カ月』そ、そこまで言わなくても」

「思っていたのと違ったけど・・・二人の仲が良さそうで安心したよ。その様子なら何も心配しなくて大丈夫さ、存分に叱られてあげなさい」

「あの!控えめに言ってわたし今とても困っているのですが!」

HAHAHA!!

 

 操奈ちゃんからの罵倒に心は痛むしオールマイトは僕に助け舟を出してくれない。むしろ彼女の怒りのボルテージがどんどんと上昇していっている。なんでぇ・・・。

 操奈ちゃんからの止まらないお説教は結構胸にくるものがあるのだ。一回り以上歳下の子からのガチ説教は心が砕けそうになるからやめてぇ・・・。

 

(・・・ね?操奈ちゃん。こうしてオールマイトの協力も得られたことだし、落ち着いてよぉ)

“いーえ!『私は平気ですけど?』みたいな顔してないでもっとマリさんは連中に憤るべきです!私が目覚めるまでの間もずっと辛い思いしてたんですから!”

(いやいやいやいや、僕いつもドクターにぶつくさ怒ってたでしょ?さっきも言ってたし、ね?)

“あれはいつも私の為に怒ってるだけで自分が苦しめられた事やマリさんの身体については本気で言ってないですよね?ドクターの手術中も痛覚が生きてたの知ってるんですから!”

(痛いのとかは慣れてるんだよ。ほら、人体錬成に失敗したときは*2リバウンドとかあるし)

 

 何か誤解されてしまっているのかオールマイトとの会話の裏で怒りが爆発した彼女とのやり取りがずっと続いて堂々巡りのようになってしまっている。昨日から怒らせてばかりだったのだが、遂に彼女の堪忍袋の尾に火が着いたのだ。

 

「説得したつもりが・・・くっ・・・‼︎*3何故なのですか操奈さん・・・‼︎

「今度はどうしたんだい?」

「・・・いえ、もっと自分の為に怒れと操奈さんに*4叱られてしまって」

「フフ、君たちは仲が良いんだね。まるで姉妹のようだ」

 

 まるで一件落着したかのようにオールマイトが和かに微笑んで僕らを眺めている。何も解決していないんだけどね?怒られている理由を考えろと言われても・・・自分の身体が傷付いたことが理由じゃないのなら一体何が原因だというのか・・・。

 

「君はまず操奈少女が怒っている理由を理解するところからだね」

「・・・貴方が直接教えてはくれないのですか?」

「正直私もあまり人にはどうこう言えない生き方をしてきたからね。それに、君の場合は自力で気付くべきだと思う」

「・・・承知しました」

 

 他人から教えられた答えでは意味がないことなのだろう・・・うぅ、そういう文系みたいな話は苦手なんだけどなぁ。でもきっと僕は一度自分を見つめ直す必要があるのだろう。そうでなければ多分、彼女と本当の意味で向き合うことができないのだと思う。

 

「AFOについて進展があればまた連絡しよう」

「それなら此方を使ってください・・・専用の通信機です、機能に心配があれば好きに改造してくださって結構ですので。私もAFOから何か連絡があり次第そちらにお伝えします」

「助かるよ・・・くれぐれも無茶な行動はしないように、何かあればすぐ私を頼ってくれていいからね」

「お心遣い、感謝いたします」

 

 彼に深々と頭を下げたのち、人目と監視カメラに入らないように気をつけて適宜物影に潜りながら雄英を出た。

 

 ・・・あー、もー、結果的には上手くいったけれど、結局オールマイトの善性頼りで一方的に事情を暴露しただけだ。彼が少しでも懐疑的に受け止めていればどうなっていたかわからないというのに。こんな有様じゃあこの先うまくやっていけるかどうかわかんないよ・・・。

 

(・・・・・・・・・)

“なにしょげてるんですか、最初の目的は達成したんですからもっと喜びましょうよ”

(あれ、意外に怒ってない?)

“はちゃめちゃに怒っています・・・が、今のマリさんに言ったところで意味がないことは重々承知していましたので”

(ひどい言い様・・・)

 

 さっくり彼女から切り捨てられた。けれどてっきり怒りが収まらないくらいには頭に来ているものだと思っていたが、意外にもあっさりと矛先を納めてくれた。はて・・・?

 

“マリさんは下手クソな演技しているより私に振り回されてる方が信頼しやすいですよ”

(そ、そんなに下手だったかなぁ・・・?)

“演技の上手い下手より私たちは元から信頼され難い立場の人間なんですから、どうせなら親しみやすい態度の方がいいでしょう”

 

 ・・・あぁ〜、これはまた彼女に気を遣わてしまったらしい。なんだろうね、凄く情けない。正直泣きたい。泣かないけど。

 

“マリさんってよくこれでプロヒーローできてましたよね。29歳でしたっけ?”

(心にグサグサ来るからちょっと待って欲しいな。僕のメンタル砕けちゃう)

“別に砕けていいですよ。私が集めてくっ付けてあげますから”

(いやー操奈ちゃんは頼りになるなぁ・・・・・・ありがとね)

“どういたしまして”

 

 子どもにここまで気を遣われたら泣き言なんて言ってられないか。近いうちに頼りになる大人だと彼女に見直してもらえるようにしないとね。

 

(ね、今度の休みショッピング行かない?ちょっとした気分転換にさ)

“いいですけど・・・なんか私のことチョロい女だと思ってませんか?”

(えへへそんなことないですよ奥様・・・いやほんとですって。僕大人、嘘つかない)

 

 ・・・できるかなぁ、できるといいなぁ・・・。

*1
AFO達にはひたすら全肯定bot哀ちゃんで乗り切った

*2
お子様には見せられない程度にはミンチになったりする

*3
苦虫を噛み潰したような表情で苦悩している

*4
しわしわのピカチュウフェイス




▶オールマイトの善性に賭けて全部ゲロる
内通者の存在を警戒してまだ動かない

というわけでAFO打倒RTA雄英入学チャート走者影山哀ちゃんです。皆さん可愛がってあげてくださいね。

本話の展開についてはめちゃくちゃ悩みました。もっと裏で暗躍したり話を誘導してこんなに展開早くしなくても色々動くことも可能だったとは思います。
ですが私にそこまでしっかりとした導線や展開を考えて書く技量はまだ無ェと判断してマリくんちゃんにはRTA走者として走ってもらうことになりました。がんばれマリちゃん。

というかオールマイトを筆頭にヒーロー側の人達が有能かつ善良な光過ぎて、青山くんみたいな本人がどう頑張っても詰んでいるような事情がない限りオールマイトと根津校長の二人がいれば大抵の事態が解決できてしまう。つよい。そんなだからオールマイトに依存した社会になったのだと思いますが。
マリくんちゃんを消して操奈さん単品にすればダークな展開にしやすいでしょうが、そうすると良くて黒霧みたいな終わり方しか思い付かないし・・・お話考えるって難しい・・・。
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