機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ ーみちなる方舟ー 作:狩・免太郎
原作の世界観に寄り添う形で書いていきます。
クロスオーバーとかありませんから、そんなに楽しい作品じゃあないと思いますが。
よろしければお付き合いください。
柔らかい。
ダンテ・モグロは眼の前に寝転ぶ白い裸体を眩しく見つめていた。
洒落た中空ビジョンが緑豊かな森とそれを抜けた果の海を流れるように映し出す部屋のダブルベッドで。
かつては荒事オンリーに活躍していた手には大きなものから細かいキズまで数えたらきりがないほど傷がある。
ザラついていた心と身体を癒やすのは無機質な電子回路図だけ。
そんな感傷とは正反対の柔らかい物体を撫で、妙に甘えた声をかける。
「イツヤ……もう少し一緒にすごそう。昼にテラスのあるあの店で、ほら……ほら、コーヒー? 紅茶? とにかく一緒にいたいんだよ。俺明後日の便で帰るから……」
眼の前の眩しい裸体は上半身を起こすと、長いまつげの困った顔を見せる。
「ダメよ。仕事はきちんとしないと」
艶のある栗毛、緑の瞳、淡いビンクの唇。
イツヤ・ファミルはベッドから立ち上がると着替えをかけた椅子へと、ダンテが伸ばす手から逃げるように歩く。
いつも以上によそよそしい彼女にダンテも焦って起き上がる。
「あのさ、いや、うん確かに仕事をきちんとこなすのは大事な事だよ。俺が間違っていた」
美しい彼女に嫌われたくない。
いや手放しくたくない、下手な言葉でごまかしたりもしたくない。
手早く着替え部屋を後にしようとするイツヤの手を掴む。
「俺、真面目に考えたんだ。歳星でもアジーさんところの子供たちを預かるって仕事もあるからさ。俺こっちに引っ越そうと思うんだ。でさ、……一緒に暮らさないか、いや結婚して一緒に暮らそう」
今生の女神。
立ち姿も美しいイツヤに半裸のダンテは片膝立ちで懸命のプロポーズ。
思い切った告白をした。
新しい世界。
ダンテ自身が少年だった頃には考えられない、思いもつかなかった事が始まっていた。
火星と地球と宇宙を騒がせた前の事件から8年たった今。
クーデリア・藍那・バーンスタイン。
思えばダンテたちの生き方が劇的に変わった潮流の元に彼女がいた。
火星独立の立役者にして現火星議会議長。
美しくもはっきりと意思の強さを示す眼差しに初めて会ったときは驚き、同時に彼女の目指す世界を嘲笑った記憶がある。
夢物語だ。
火星の資源は地球圏にいいように毟られるハーフメタル権益にあり、そのアオリを食らった親たちは子供を捨てて逃げ出すような土地だった。
儲かるのは「利権」を持ち「地球」と程よくつながった企業とその一族だけ。
底辺入植者たちに成功者なんてほとんどいない、どちらも地球から捨てられた棄民のようもの。
ダンテ自身為す術なくヒューマン・デブリとして売り渡された身の上だ。
「綺麗事言いやがって」
身ぎれいでお嬢様育ちのクーデリアを鼻で笑っていた。
だが彼女が始めた動きに自分たちは乗った。
切っ掛けは会社への反骨心。
会社を乗っ取り奪い、自分たちのやり方で生きないかというオルガ・イツカの誘いに乗ったこと。
そこからはトントン拍子で事は進む。
一人止まってはいられない、生きてくために渦中に飛び込んだ。
正直昭弘・アルトランドとつるんでいたダンテは仲間について行っただけ。
激流にあらがわず苛烈に戦う仲間たちを見ながら端っこの方でこじんまりと作業していたに過ぎない。
そう思うほど激闘な日々だった。
自分たちを率いたオルガが死に、騒動に多くの仲間が散った。
できることをやっただけ、流れていく権力争いが何かを知る間もなく騒動は決着を見て。
あとに残ったダンテは先に行った仲間を思い。
「もうあんな生き死にはゴメンだ」
残された者として、この騒動の中で大きく躍進したクーデリアの庇護の下に入り今の仕事についた。
MSもMWもいらない。
昭弘・アルトランドが片手間に少年たちの世話をしていたように。
自分もこの地に残された孤児たちやヒューマン・デブリたちの世話をしよう。
自分が身につけた技術を教えてやるのも悪くない。
ともに生き残ったデルマとアドモス商会が作った孤児院で働き始めた。
特に将来を夢見ず、終わった騒動の中で託された仕事をしていく日々だった。
そんなダンテ・モグロがイツヤ・ファミルと出会ったのは2年前。
クーデリアは広い世界を知らせることで孤児たちが未来に夢を持てるようにしたいという強い希望を持っていた。
そのため半年に一回の割合で孤児院の年長者を選抜し歳星につれてくることにした。
火星以外の場所に行くのは子どもたちにとってはまだ怖いのかもしれない。
ダンテはデルマを留守に置き、自ら引率を買って出ていた。
宇宙にでれば昔の仲間たちとのドタバタを思い出す。
この日は歳星のマクマードの元にアトラと暁を連れて行くのもありボディーガードも兼任して出かけたところででイツヤと出会ってしまった。
「きれいだ」
一瞬で目を奪われ、口をポカンと開けたアホ面を晒していた。
テイワズに制服はないが、かつて鉄華団の元に経理業務でやってきたメルビットに似た紺のジャケット。
彼女はパンツスーツ姿だったが、イツヤはオペレーター業務っぽいタイトスカート姿で眩しくも美しい脚を見せつけていた。
広い通路の真ん中で彼女を見続けていたところでイツヤに声をかけられた。
「道に迷っていますか?」
アホ面の自分の前に可憐な花が咲いている。
柔らかそうな白い肌は小首をかしげ、ダンテより背が低い彼女の視線を前に硬直してしまった。
「いや、あの、その、迷ってません。そんな事より貴女の名前は?」
突然の質問返し。
身振り手振りも怪しいダンテを前に。
イツヤは少し驚き、少しはにかむと。
「イツヤ・ファミルと言います。歳星の管制部ではたらいています、港の方に行きたいのなら案内できますよ」
静かで滑らかで綺麗な声。
沸騰しそうな頭と早まる脈拍を胸に抱えたまま、ダンテはアトラのボディーガードそっちのけで答えていた。
「よろしくお願いします。ゆっくりお話しましょう」
「お話ですか?」
「いや、あの……はい、ゆっくりと色々知りたいので」
イツヤの事が知りたい。
そこから紆余曲折を経て恋人になった。
歳星に来るときはいつも会う、火星から木星圏という長距離恋愛。
少しでも長く一緒の時間を過ごしたい。
交際2年の結実。
そんな思いの発露として出たプロポーズだった。
「ダメ、一緒にはいられないの」
情熱の集大成であるプロポーズにイツヤの返事は拒否だった。
1章を短めに書いていこうと思います。