機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ ーみちなる方舟ー 作:狩・免太郎
「すぐに謝りなさい!!」
顔面蒼白で集合場所までやってきたダンテに、速攻の解決策を示したのアトラだった。
通りの良い声がバースフロント(港口)を彩る回廊(グラスエリア)に響き渡る
「お母さん、うるさいよ」
かつてはアトラママにおとなしく抱っこされてた三日月の忘れ形見、暁も今や7歳。
ひと目を憚らない説教をする母を尻目に、ゲーム機を片手に通路の端に逃げるように座り込んでいる。
一方のアトラは母となってはいるが口調はガキの頃とさして変わらず。
多少おしゃれに着こなしたロングスカートとショートエプロン。
昔と変わらない中丈の空色ジャケットを羽織った顔は繰り返して言った。
「まずなにより、余計なこと考えずに謝ったほうがいい」
「俺何も悪いことしてないんだけど……」
「そういう考え方が甘い!! ダンテが気がついてないだけでイツヤさんを傷つけてるかもしれないじゃない」
「いやいやいや」
「いやとかナシ!! 謝って何が行けなかったのかを聞く」
「だとして原因もわかないのに謝るのは」
目が泳ぐ、港のあちこちに見える機械工作機の方へと逃げたくなる。
髪を掻き毟る。
原因がプロポーズだと思いたくない。
大の大人は見苦しくも港を見渡すグラスエリアの壁に両手ををついて深い溜息を落としていた。
まさか、断られるとは思ってもいなかった。
熱い仲に熟していたと信じていた。
遠距離恋愛にしてもメールを送り、なんだったら古典的手紙だって書いた。
その都度丁寧な返事と愛を交わしあった。
「なんでだよ……どうしてだよイツヤ、俺のこと……」
脈絡なくフラれた。
それが実感だった。
今まで会える時はいつだって熱い一夜を楽しんだ。
今回だってそうだった。だけど。
思い返すと、今回は少しの余韻も楽しもうとしていなかったイツヤ。
背中で助言という説教を連発するアトラの前、額を抑え思い返してみる。
いつもは仕事の1時間前ぐらいまで一緒だったのに、今日はすぐに帰ろうとして、そして帰った
「何でだよ!! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
憤りのまま壁に頭をぶつけた。
冷静になれとハンマーヘッドの突貫よろしく何度も打ち付けるダンテをアトラが引っ張る
「そんな事悩んでたってわからないでしょう!! ミクさんにも聞いてみよう!!」
ぶつけて赤くなった額を、頭を掴んで持ち上げるアトラ。
「あっ!! ミクさんに?」
ミク・ファミル。
イツヤと付き合って三ヶ月後、彼女が双子の姉妹だと教えられた。
家族の話はしない、というかもう記憶にもないダンテだったがイツヤのことは何でも知りたかった。
歳星に技能実習で出向いてきていたカサッパファクトリーの話が出たとき、かつての仲間が多数働いていてる事を思い出した。
「アイツらは俺の兄弟みたいなもんなんだ」と語った。
その時、イツヤも自分に姉がいる事を明かしいてくれた。
翌日顔合わせもした。
顔からボディーラインまでイツヤそっくりのミクは、耳に怪我をしており聴力補助のためマイク付きのヘッドセットをつけていた。
イツヤの声もそんなに大きくないがミクはもっと囁くように話す。
物静かで幸薄い感じもする姿だが、仕事しているときはテキパキしていて。
むしろ仕事だけに生きてる感もあるイツヤの姉。
「ミクさんなら何かあったか知ってる?」
仕事人間だとしてもイツヤと仲良く歩く姿はよく見ている。
相談するなら良き相手。
思いだしたダンテの顔に頷くアトラ。
「そうよ!! よし!! 行こう!!」
切り返し走ろうとするアトラをダンテはストップと止まる。
「どうして、俺の事に気にしてくれんだよ」
集合時間に遅刻した体たらくを激しく怒っていたアトラの急変に驚く。
個人的な事情で落ち込んで仕事に身が入ってないのに強く手を引く彼女に聞いてしまう。
ダンテの戸惑いにアトラはしっかりと向き合って言った。
「ダンテにも幸せになってほしいの」
あの事件の時と同じ純粋な眼差しは困ったような眉毛の顔を見せると
「私はね、三日月からあの子をもらったから、今とっても幸せなの。だからね、あの事件を生き残ったダンテにも幸せになってほしいの」
あの事件。
マクギリス・ファリド事件。
あれがどういう混み入った状況で起きたのかは深く考えた事はなかった。
ただあの殺戮から生きることだけに一生懸命だった。
有頂天だった。
火星の王なんて名乗って、火星一イカした会社だと大いにはしゃぎ舞い上がった後に撃ち落とされた。
増長の結果、当然の帰結としてたくさんの仲間が死んだ。
でもダンテは生き残った。
「ああ俺、生きてるんだ」
「そうよ!! 生きてるんだから笑って幸せにならないと!!」
頭突きで蒸気していた顔が苦笑いを浮かべる。
「何よりね!! イツヤさんみたいないいひと逃したらダンテに次なんてないから!!」
それは真実。
言われるやダンテはアトラと一緒に走っていた。
ミクの仕事場はイツヤと同じだ。
今歳星で最もホットなスポットであるグラスエリア、バースフロントの管制室。
管制室オペレーターであるミクに聞かなくても、時間差で出勤するであろう本人を問いただすことだってできる。
「負けっぱなしで死ねるかよ!!」
拳を固め、意も新たにダンテは走った。
歳星の宇宙港メインバースにある「カレイドスコープ」は最新の管制室である。
外観は入港口に出っ張った長方形角状の突起物のようで半分のラインに青い光が走る。
下部は入港船艇の名前が大きく表示される中空ビジョンを採用しており、船が入るたびにひときわ大きく投射され華やかさを担っている。
カレイドスコープは歳星の旅客側を管理する真新しい管制室。
最近は木星航路で出稼ぎや資源採掘をするビジネスマンに労働者の家族などがよく訪れ、ここで一時の団らんをする事が多くなっており歳星は今拡張工事も行っている。
だが今も昔も変わらないルールがある。
基本的に入港できる船舶・主に大型船舶が限られている事。
巨大総合商社テイワズにとって歳星は組織の長であるマクマード・バリストンの居城でもあるためだ。
故に組織側の船の乗り入れは許されているが、その他旅客船は基本的に歳星から少し離れた衛星港に停泊、小型艇に乗り換えて歳星港につけるのが規則だ。
厳密なる鉄の掟だ。
なのに現在メインバースの管制室であるここは騒然としていた。
「カリスト外縁022A号バースを出たT066艇、そのままこちらに接近しています」
外を見るための半円級の窓とその下に広がるメインパネルに各所を映すモニター。
個別に並ぶオペレーターたちのモニターの中、メインで情報を読むミク・ファミルのマイクを通した声は少しざらついている。
「歳星中央管制本部の入港許可は出ているのですが……」
モニターを早めの回転で点滅させる船の速度は制動をかけているように見えない。
「速度はどうなっているかね?」
メインデスクの後ろ、各所を見回す腹の出た中年男である管制長は情報を積木くずしのように入れ替えるモニターを見回しながらミクに聞いた。
「巡航のままです……このままだと少し良くありません」
「本星にぶつかるのか!! だったら迎撃準備を」
「待ってください。Tナンバーの船舶を攻撃するのは中央に確認する必要があります。それにこんな短時間では他の船舶が混乱します、まず歳星各方面と当該船艇に警報を出します!!」
手順がある。
撃ち落とすにしろ他の船舶を巻き込めば大問題だ。
「交信域に入りましたので、こちらから呼びかけます」
管制長より室内に座るオペレーターたちの方が冷静だ。
緊急である赤いランプと青白い光の下で各方面に「警戒」を流す。
ミクもトランスポンダーを確認し、呼びかけようとしていた。
「アミダ・アルカを殺したのは誰だ」
その声は低く籠もった土筒の中から発せられる雑音のようだった。
全周波で投げかけられた地を這うような声に、ミクと緊急事態対応で管制室へと入ったイツヤは背筋を凍らせた。
ゆっくりしっかり起承転結をつけながら行きたいです