機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ ーみちなる方舟ー 作:狩・免太郎
赤色が瞬く。
入港口の全体の警告灯が光だし、港の仕事に携わる人員が泡立つ。
「装甲艦がスピードを落とさず歳星に近づいている」という事実が警報となって流れ出したからだ。
「……レニ姉さん」
不気味な声の主にミク・ファミルは凍えた声を零していた。
同時に緊急事態招集で管制室の扉を開けたイツヤと目を合わせていた。
「イツヤ……」
互いの顔を引きつらせている中、ガスマスクは不気味に首を傾げてみせる。
「早く答えろ!」
ざらついた声は正面モニターに姿を現しているが、向こう側から見ることに関して制限がかけられており、管制室員の姿は見えない。
それが余計に苛立ちを募らせる原因なのか、声を荒げ続ける。
「どうなってやがる!! クソ野郎!!」
「その前に貴船は港内規定速度に対応していない!! 即時に速度を落としなさい!!」
マイクをとり規則を声高く指示を出す管制長。
オペレーターたちは港内に緊急処置連絡を飛ばし、港の方では入港船の予定泊地の周りを開けるように動き出している。
無事に停泊させる事が重要である。
「グランパス、速度を落とし第6−Bバースへ」
相手に合わせて声を荒げてはいけない。
管制員は冷静でないといけない、的確な対応を始める管制室にはグランパスと呼ばれた船のブリッジ内全体がモニターに映し出されていた。
異様に映るガスマスクをつけた船員たちを。
全員がガスマスクに黒の宇宙服。
その宇宙服も船外作業用のうえボロボロ。
非常識な入港を進める集団が目に見える荒くれ者とは違い、全員マスクの表情ナシという不気味な集団である事が管制室の緊張を高めている。
「クランパス、速度を落として……」
「質問に答えやがれぇ!! 話はそれからだ!!」
「速度を!!」
「やかっしぃ!!」
荒々しい声の主は管制官の言葉など聞く耳持たずだ。
何度もの制止の声に、繰り返すように「アミダ・アルカの死」を問い続ける。
モニターには近づく艦影が鮮明になってきている。
廃鉄色の強襲装甲艦。
前世紀の残り火。
かつてタービンズが所有していた艦に似た姿。
艦首はハンマーヘッドではなく鋭い尖角型。
両舷に増設された物理的装甲は巨大魚の持つヒレにも見える。
濃い灰色と所々に見える白、真正面の装甲部には丸に点という不気味な「目」。
まさにシャチ。
一見すると海賊船にも見える船。
「グランパス」と呼ばれる艦。
近づく程に驚異を感じるそれは確実に管制官たちを圧迫し始めていた。
歳星は巨大な船でありコロニーでもある。
ドルトコロニー群のように住民中心のシリンダー型ではなく、宇宙を自由に行くために作られたコロニー型船舶である。
トーラス型による重力地区とエイハブリアクターより作り出された重力地区を持つハイブリッドタイプの大型艦。
圏内では考えられない武装を持ち、MSを回収・開発をする工場エリアも完備している。
巨大な要塞とも言えるこの船は、かつてはそれ単体で動いていたが今は衛星港を持つ所謂「動く港」の中心となり、旅行者たちのハブステーションにもなっている。
多くの人間を身のうちに収めた歳星は今危険な状況にあり、騒動は徐々に人々にも感じられるようになっていた。
歳星中央管理室も、今目の前で起こっている事に立ち向かっていた。
「KS(カレイドスコープ)、交信域を探りこちらにも繋げろ」
騒ぎの元となっているのは不審船グランパスからの交信。
最初の一言以降は歳星内に彼らの交信は届いてはいない、中央管制で見事にシャッタアウトしている。
現在グランパスとの交信が繋がっているのはカレイドスコープと中央管制室だけ。
情報統制はいついかなる時も大事な事だ。
戦う商業組織であるテイワズとしては初歩の初歩で対応は的確だったが、以降相手であるグランパスはカレイドスコープとの交信だけに絞り直してきた。
中央の声は届かない状態だ。
戦争慣れした相手との息の詰まる時にいた。
「機関長、止まらないのか」
強襲装甲艦グランパスのブリッジでキャプテンシートに座るガスマスクに、全天ナビモニター側の席に座るガスマスクがだみ声で聞く。
半速から少し落ちているが歳星の舳先はもう中盤に差し掛かっている、この先はテイワズ直参がつける艦艇バースしかない。
流れる景色を横目に歳星へ無減速で近づくグランパス。
ブリッジ要員は皆一応に同じ格好をしている。
黒いツナギである船外作業服、いつ何時空気漏れを起こしても不備の無いよう小型のエアタンクを右胸に背中には速攻で大型エアタンクに繋がる接続口と。
シートと体をつなぐ阿頼耶識システム。
マスクからは2本のパイプが下がるという異様な出で立ち。
「機関長、4000を切った。止まらないのか」
機関長と呼ばれたキャプテンシートのガスマスクは答えない。
制止を叫び続ける管制官を怒鳴る。
「頭にくるぜぇ。冥王帰りで電波とったら金玉ジャイスレイがおっちんだってスーパーラックを拾ったのに」
深く首を傾げた苛立ちはマイクの向こうにいる管制官達にも聞こえている。
「速度を落としなさい!! グランパス!! ハーフを超えたら撃ちます」
できない事でも脅しで告げる。
こんな近くで艦艇迎撃など行えば「爆破デブリ」で歳星も無傷では済まない。
だがグランパスがぶつかればそれ以上の被害を免れないというジレンマ。
ジレンマという苛立ちを互いが通信を通して肌で感じられる。
「機関長、ハーフまで1000。止まらないのか」
「やかっしぃ!! 偉大なる母アミダ・アルカはナゼ死んだ!! そう聞いているんだぜぇ!!」
自らの副官の口さえ止めてしまう怒り。
事を丸く収めたい管制側。
「貴船の要求に対する準備がある。それにはまず船を……」
「ザンク!! ゴッパァ!! 俺らぁに答えろ!!」
聞き慣れない雄叫びはカレイドスコープで対応に追われていたミクとイツヤの背筋に電気を通していた。
今まで管制側からしか繋がっていなかったメインモニター、向こうには音声だけが繋がっていのに間違いなくあちらの側からも管制室が見えるように切り替わっている。
お互いの姿が確実に見えている今。
ガスマスクの目線はイツヤとミクを射抜いていた。
「レニ姉さん……」
冷酷を感じ体の芯を砕かれたようにイツヤは膝から崩れたが、膝が冷たいフロアにつくことはなかった。
傷だらけの大きな手に支えられ。
その暖かさで落ちていた顔を上げる
イツヤ支えたのはダンテだった。
後ろから抱きかかえるように立ち上がると怒鳴り返していた。
「誰だお前、何イツヤを睨んでるんだよ!!」
管制室に飛び込むイツヤを追って規制ラインを飛び越えた違法侵入者ダンテとアトラは、モニターに写った相手を睨み返した。
ガスマスクで目は見えなくても愛する女を脅かす存在であればそれは「敵」だ。
「嫌がらせか? 船を止めろ!! 変な脅しもやめろ!!」
ダンテも元は船乗り。
仲間たちとイサリビを動していた経緯から、この異常事態をすぐに理解していた。
そしてこの蛮行のせいでイツヤが困っていると理解した。
大きな手でイツヤの体を抱きしめ、力を失いそうだった体を立たせる。
「イツヤに迷惑かけるなよ!!」
イツヤの支え後ろから抱きしめるダンテの姿に。
「あぁぁぁあぁなんだそのざまぁゴッパァ!! おめぇは一体、この10年何をしてやがった!!」
「わめくな黒塗りお化け、意味分かんないこと言わずに止まれって言ってるんだよ!!」
「お前に聞いてねぇよ!! 赤っパゲ野郎ぅが!!」
「俺はハゲてねぇよ!!」
苛立ちは最早心にとどめておけない。
キャプテンシート前のモニターに拳を叩きつる。
打撃音は管制室にも響き渡り、ダンテとガスマスクの言い合いがヒートする。
そうしているうちにも艦は歳星に接近している。
モニター越しで言い合う2人の周りは大騒ぎだ。
「機関長、ハーフ越えた。止めないのか?」
「やかまししい!! このまま行ったれ!!」
「止まらないなら撃つぜ!!」
「死ねハゲ!!」
「ハゲてねぇだろ!!」
危険と罵声が交互に飛ぶ間をミクとイツヤが割って入った。
「「止まってダンテ!! 止まってレニ姉さん!!」」
2人の美女の懇願もどこ吹風だったが
「姉さん?」
「お姉さん?」
「それがどうした」
ダンテもアトラもミクとイツヤの顔を見て、ガスマスクの方を見る。
なにかとんでもない話になったという困り顔を四人は晒し、ガスマスクは「フンッ」と鼻息だけで返していた。
後ろには侵入・接近の警報がなり、モニター向こうの副官が今一度聞く。
「機関長、後少しでぶつかるぞ。止めないのか?」
個人的騒ぎと全体の大騒ぎの中、野太くも落ち着いた声がカレイドスコープとグランパスに伝わっていた。
「静かに止まれ。俺のところに非礼を詫びにこい」
マクマード・バリストン。
歳星の主の声に中央管制もカレイドスコープも固まっていた。
12話ぐらいで終わりたいです。