機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ ーみちなる方舟ー   作:狩・免太郎

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04・不吉の開演

宇宙に音はない。

 響かない世界の中で眼の前にある光景は音と驚異を感じさせていた。

 強襲装甲艦グランパスの帰投。

 そのあとに残った無残な光景に。

「どうするんだこれ……枝が6本は折れてるぜ」

 グランパス着岸の衝撃でメインバースから伸びるエアロックは焼かれたりおられたりと散々な形へ変貌していた。

 拍子木がパタンパタンと折れ動くようにエアロックはグランパスにぶつかり跳ねる。

 反動で桟橋に当たる。

 重力のない空間で無限軌道のように動き続けており危険だ。

 だからこそ桟橋周辺は一般人の出入りを完全に封鎖、復旧要員たちが宇宙に出て慌ただしく動いている。

「あいつら何で船降りないんだ」

 復旧作業班長の赤ヘルメットは管制室の指揮者と交信しながら、大惨事を引き起こしたままバースに接岸しているグランパスを見ていた。

 枝と呼ばれたおエアロックをぶち壊して尻尾を付けたグランパスは、そこから下部ハッチを開け3人だけ降り歳星内に入った。

 それ以外の人員は、船の修理を何食わぬ顔で始めている。

「あいつら、捕まえなくていいんですか」

「上から「かまうな」と言われてる」

 ヘルメットの中だけの会話。

 グランパスの周りにチラホラと、まるで大魚のそばを寄り添って泳ぐコバンザメのように。

 上からら下まで黒でボロの作業服を着たグランパス乗員達は漂っている。

 特にその船腹に付けられた異様な箱周りに。

「てか……あの「箱」はなんなんですかね」

 桟橋で復旧作業をする誰もが気になっている物

 グランパスの同じ廃鉄カラーに貨物の表示の大きな「箱」には船と同じ白丸に点という目が描かれている。

 船の1/3はある箱は船の性能を邪魔する大きさで誰の目にも怪しく見える。

「あれについても「ほっておけ」と言われてる。ジロジロ見てないで作業に戻れよ」

 作業員達は気になる物体の前で、この不祥事を覆い隠す仕事に向かっていった。

 

 

「面倒事を残して先に逝きおって」

 マクマード・バリストンは自宅の盆栽の手入れをしながらつぶやいた。

 決して広くはないが、ここ歳星では一番の豪邸であるマクマード邸。

 庭木は本物の植物で溢れ、知的な趣味としての盆栽が園庭を彩っている。

「親父、こんな舐めたマネされてなんで歓迎なんかするんですか」

 恰幅良いマクマードの後ろには黒服数人が並ぶ。

 中でも黒に縦縞のスーツを着たオールバックの金髪、若頭であるミハイル・イオールに詰め寄られていた。

 問題は大きかった。

 歳星への装甲強襲艦の接近。

 巨大組織テイワズの本拠地に狂気の塊とも言える船がスピードを落とさず突っ込んできた事と、それを止められなかったという恥。

 組織の顔にドロ塗る行為に配下の怒りはマックスだった。

 狂気の廃鉄虎鯨はマクマード・バリストンの声に呼応し急旋回・急停止を行った。

「お久や親父殿、ご命令とあらば」

 キャプテンシートのガスマスク。

 レニ姉さんと呼ばれた女は恭しく頭を下げてみせると、前席を蹴飛ばした。

「車庫入れしろ!!」

 そこから船は一回転、フルスロットルで急停止をかける。

 装甲艦がやる芸当ではないが、緊急停止シークエンスを軽くこなし乱暴に直参バースに腰をつけた。

 過程で桟橋の枝を6つ焼き、直参専用バースの2つを使用不可にし、今復旧に追われている。

 これは大事件だ。

 所謂「カチコミ」と言われても不思議でない事件だ。

「本家の玄関に火付けられたよおなもんですぜ」

 イオールは声高く、横並びの幹部の列を出て続けた。

「下手すりゃ歳星をぶっ壊していたかもしれませんぜ。これをただで通すなんて……」

 マクマードは背中を見せたまま手を軽くあげる

「止まったのだからいいじゃねーか」

 眼の前の枝ぶりを整えるマクマードの口調は静かだ。

 どっしりと構えたを体現する体は微動だにしない。

 その余裕がイオールの気を苛立たせているのか小さく舌打ち。

「親父、俺達舐められてるって事ですよ」

「聞こえている。イオール、まずは挨拶をさせるってのがルールだ。けじめは後でつけさせる」

「先のほうが良くないですか」

 名指しで留めと手を挙げられてもイオールは黙らなかった。

 だが相手の立場を考えたのか声を尖らせず耳うつように告げだ。

「あいつらが持ち込んだ例の「箱」はどうするんですか、あんな物の存在がギャラルホルンに知られたら」

「イオール、それについても問いただす。だから騒ぐんじゃあない」

 歓迎ムードのない始まり。

 歳星マクマード邸は、帰還したグランパスクルーを迎える準備に入っていた。

 

 

「ちょっとまってくれ!!」

 声がよく響く。

 四角四面で飾りのないグレーな通路をダンテとアトラ、イツヤとミクは黒服達に囲まれて進んでいた。

 証明は薄暗く5メートルに1つというお化けがでそうな通路だが、今は騒がしい。

 アトラと暁には厳重な黒服警備、イツヤとミクは後をついてくる形。

 一方のダンテは腰紐を通された罪人スタイル。

「なんだってこんな事するんだ。俺は何もしてないぞ」

 一人だけ犯罪者のようにされて引っ張り回されるのは腹が立つが、現実には一般人立入禁止エリアである管制室に飛び込んでいるのだから大きくは出られない。

 眼の前で車庫入れを終えたグランパスを管制室で呆然と見ていたダンテとアトラ。

 事は一段落ついたが、そこからこの有様だ。

 イツヤの姉というガスマスク。

 問いただしたいと思いイツヤの手を引いたところで、ダンテは腕ごと跳ね上げられねじ伏せられていた。 

 後は今の状態だ。

 イツヤとまともな話もできないまま、多数の黒服に囲まれ、今まで歳星で見こたことも無い非常時用通路を急かされていた。

「おいちょっと」

 自分を引っ張る黒服に逆らい少し歩を緩めようとしたが背中を小突かれる。

「黙って走れ、テメエはここで騒いでいい立場じゃねーだろ。元鉄華団さんよ」

 他の黒服に比べて明らかに大きい影。

 身長なら180に届くダンテより少し大きく2メートル程、なにより体の分厚さが背の高さ以上に威圧を聞かせ、額と顎に切り傷、場馴れし過ぎて光のみせない目を怒らせている。

「……」

 元鉄華団と言われると背筋が凍る。

 それを隠して今を生きている、今はアーブラウ人という身のダンテ。

 テイワズの中でも数人は自分の本性を知っているものもいるだろうが、ここでそれを宣伝されるのは困る。

 態度を柔らかく、顔に険を見せないように答える。

「わかってるよ、暴れたいわけじゃない。彼女と話がしたいだけだよ」

 自分より後ろをついて走るイツヤをチラリと見る。

 黒服は感情を見せない声で釘を差してきた。

「浮かれんなよ。俺たちは議長閣下の内儀と子息を守れと言われているだけだ。お前や女達なんぞどうだっていいんだがよ、親父が一緒に連れてこいというから連れている」

 だから暴れるな、だから黙っていろ。

 刺す視線にダンテは小さく「逆らう意志は無し」と両手を上げてみせる。

 立場の弱さを確信して歯を食いしばったダンテの手をイツヤが握ってきた。

「ごめんなさい」と。

「いいよ、落ち着いたら話してくれよ」

 こんな火急の事態の中で、心細くしている恋人を責め立てるのは大人げない。

 笑って見せて、落ち着かせて。

 手で胸を抑え不安に蓋をしている相手を思いやる。

「私、ちゃんと話すから」

「おお、聞くよ」

 彼女にはまだ自分に知らせていない秘密がある。

 でもそれはダンテにとって「今の所」些細な問題だった。

「なんでも受け入れる」それがダンテの恋愛観だから。

「あの人もお姉さんだったて事はわかったから」

 少しの笑みをイツヤに見せるが、彼女は首を小さくふった。

「……じゃないの……」

 消え入りそうな声の答えはダンテの耳には届かなかったが、ダンテはただイツヤを不安にさせないように笑みを見せるばかりだった。

 

 

「風呂は入らなかったのか、用意してやったのに」

 ガスマスクをかぶった3人の前にマクマードは眉をしかめ、若頭イオールは睨みを利かせる。

 ダンテ、イツヤ、ミク、アトラと暁も黒服達に囲まれたまま到着。

 不穏な雰囲気の中、役者は揃った。

 

 




4話合わせて1話みたいな感じですね
投稿スピードが遅いのが良くないですね
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