終焉のパラティリシ   作:わふ.

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四話 氷焔

 

「──ふふふ……あはははははっ!」

 

 翌日、四月二日。

 第三体育館に恭也達、一年三組の面々が集まっていた。理由は勿論、昨日中止された実力把握テストを行う為だ。

 

「改めて実力把握テストを行う。まずはCSの行動において鉄則となる二人一組を組め。そのチームでこちらの独断と偏見で選んだ相手達と何戦か模擬戦を行う」

 

 担任の片桐に言われた通り、クラスメイト達は二人一組を作ろうと動きだす。

 

「おい。狩生恭也、それと不知火天華。貴様達二人には昨日の罰として、最初に戦ってもらう。それを承知の上で、双方ともに相方を決めるんだな」

「……ふん。相手が誰だろうと、私の相棒はもう決まってるわ。覚悟してなさい狩生恭也。昨日の決着、ここで着けてやるわ」

 

 天華は恭也を睨み付け、案の定()()の元へと向かった。

 

「相変わらずピリピリしてんなぁ……こっちにしても好都合だけどさ」

 

 恭也はそう言いながら、とある女子生徒の元へ行く。

 

「なぁ神白。俺と組もうぜ」

「……私と?」

 

 誘いを受けた小夜未はキョトンとした顔で反応する。

 

「おうよ」

「でも相手、彼女達だよ。昨日も言ったけど多分強い。足手まといの私と一緒だったら多分勝てない」

「そりゃ全部お前の憶測だろ。負けないかもしれねぇ。俺は当然勝てる方に賭けてるぜ」

「……何で私なの?」

「この島に来て一番言葉を交わした奴だから。この中で一番信用出来る奴だからだ」

「信用……」

 

 小夜未は強く頷いてから。

 

「うん。分かった。そこまで言うなら私も貴方を信じる」

「っしゃ! なら俺らは一蓮托生だ! 不知火達に勝とうぜ!」

「うん、一蓮托生。よろしく──恭也」

 

 こうして恭也と小夜未はチームを組み、不知火天華、そして水篠雫のチームとの模擬戦に挑むのだった。

 

「まさかとは思ったけどそいつと組むなんてあんた、人を見る目が無さすぎじゃない?」

「親がやった事をその子供に愚痴愚痴言ってるあんたらよりかはよっぽど使えると思うぜ?」

「……こいつから聞いたのね。私達の事」

「色々言いたい事はあるが、それはこの戦いで精算してやるよ」

 

 恭也はクロノスの太刀を起動させ、天華は剣を起動させる。

 

「神白。俺は不知火の相手をする。水篠の相手は頼んだぜ」

「うん。任せて」

 

 小夜未もクロノスを起動させると、二つに分離してそれが両手に握りしめられる。彼女の扱う武器は二丁拳銃だ。

 

「神白……小夜未……私は貴方を……許さないからっ! 例え八つ当たりだの何だの言われようともっ!」

 

 対して雫の得物は、己の背丈程の大きさがある大剣。幾らクロノスの武器が軽いからといって、あまり体格が良くない彼女が扱うのは、些か厳しいものがある。

 

「ルールは相手チーム二人のクロノスが発生させる防御シールドを破った方のチームの勝利だ。それでは──模擬戦開始!」

 

 片桐の合図と共に、天華の太刀身が橙色に変化していく。

 

「あんたがちょっとだけ出来るってのは知ってる。だから、最初から全力で行く!」

「やっぱそれ共鳴現象だよな。驚いたぜ、まさかあんたが異能力(クラフト)持ちだったなんて」

「驚くのはこれを見た後にしなさい!」

 

 太刀身が更に橙色へと染まっていく。そして、熱く、紅く燃え上がるそれが彼女の剣に包み込む。

 

「──私の炎で焼かれなさいっ!」

「──!」

 

 天華が剣を突き出すと、紅い炎が恭也の方へ急接近する。

 

「マジかよ……!」

 

 身を呈して間一髪でそれを避ける。

 

「……あっぶねぇ……」

 

 炎は特殊材質で出来た床を焦がし、焦げ跡は壁にまで伸びていた。

 

「私の一撃を避けるなんて流石ね。でも良い先制攻撃にはなったんじゃない?」

 

 ──何だありゃ!? 

 ──彼女の剣から炎が! 

 ──おいおい! あいつ、異能力者だったのかよ!? 

 

 クラスメイト達の驚愕する声が上がる。

 

「ふむ。異能力者とは知っていたが、これ程とはな……」

「な、何なんだよあれ!? 異能力者って何だよ!?」

「知らない者も居るだろうが、あれは異能力(クラフト)と呼ばれる力だ」

 

 それを目の当たりにして狼狽える一人の男子生徒をきっかけに、片桐は説明を始めた。

 

「クロノスの適正がある者の中でも、特別な力を持つ者を異能力者と呼び、力そのものを異能力(クラフト)と言う。クロノスの核として使用される魔核が使用者の持つそれに反応する事で初めて発現出来る。これが共鳴現象と呼ばれており、簡単に言えば異能力(クラフト)を持つ証のようなものだ」

 

 太刀身が橙色に染まったそれこそが、彼女が異能力者だと決定付ける証拠だ。

 

異能力(クラフト)はその人にとって多種多様。不知火天華の場合は炎を自由自在に扱う力だ」

 

 異能力(クラフト)を使える者はそんなに多いわけではなく、それ自体を初めて見る者は少なくない。この機に存在自体を知った者も多いだろう。

 

「天華ちゃん、最初から本気でいくんだね……じゃあ私も──」

 

 雫の大剣の太刀身も橙色に染る。共鳴現象だ。

 

「貴様ら、驚くにはまだ早いぞ。どうやらもう一つ、異能力(クラフト)を見せてくれるらしい」

 

 雫の大剣を中心に白く冷たい冷気が漂い始めた。やがてその冷気は氷を生み出し、太刀身と一体化する。

 

「なっ!? 氷を!?」

「水篠雫、彼女もまた異能力(クラフト)を所持する人材だ。彼女のそれは氷を自在に操る能力。ふっ、初戦から異能力(クラフト)を二種類も目の当たりに出来るとは、流石は偃月だ」

 

 片桐がそう言ってる間に戦況は動き出していた。

 

「──凍って!」

 

 大剣を床に突き立てると、氷が地面を這って伸びる。

 

「え──」

 

 氷は小夜未の脚を凍させ、彼女の身動きを奪った。

 

「……! 動けない……!」

「まだ終わりじゃないっ!」

 

 大剣を掲げると今度は空中に二本の氷柱を生成し、動けない小夜未を狙って飛ばす。

 

「っ……こっちだって、まだ……!」

 

 対して小夜未は二丁の拳銃を構え、弾を放つ。

 両方から放たれたクロノスの銃器特有の青白い弾が、それぞれの氷柱を打ち砕く。

 続け様に脚を捕らえる氷も弾で破壊し、ひとまず距離を置いた。

 

「まだっ!」

 

 再び床に氷を伝わせ、動きを止めようとするが。

 

「その手はもう喰わないっ!」

 

 彼女の元へ到達する前にジャンプして避けられる。

 

「逃げるなっ!」

 

 次々に氷が動きを束縛せんと襲い掛かるが、同じように避け続ける。

 地を這う氷はどれも動きが単調。馬鹿正直に彼女の足元を一直線に狙い続けていた。その上凍っていく速度もそう早くない。動きを見破ってしまえば、見切るのは難しくないだろう。

 

「それならっ!」

 

 それが通じないと分かった雫は氷柱の攻撃に切り替える。小夜未は次々に襲い掛かるそれを撃ち落とすなり躱すなりしてやり過ごしていく。

 しかし、中々彼女から攻撃が出来ない。無限に生み出される氷柱は反撃の機会を奪い、その上全く動いていない雫よりも攻撃を避ける為に動き続けているから、体力が削られる一方だ。

 結果として、小夜未は持久戦に持ち込まれていた。

 一方、恭也と天華の戦いは激しい攻防戦に発展していた。

 

「はぁ──!」

 

 炎を纏った剣と太刀がぶつかり合う。

 

「喰らいなさい!」

 

 直後、恭也の足元から炎が噴き出す。

 

「ちぃっ……!」

 

 勘付いた恭也は一歩引いて避けるが。

 

「ここよっ!」

 

 炎の柱が消えると同時に開いた距離を詰めてきた天華が、あの初撃の炎の突きを至近距離から放つ。

 

「甘ぇぜ!」

「何っ!?」

 

 恭也はそれをしゃがみで避け、逆に空振りしてガラ空きの天華に攻撃を仕掛ける。

 

「くっ!」

 

 放たれた一太太刀は届き、クロノスの防御機能により使用者の付近に発生させる目には見えない透明の障壁、防御シールドを攻撃する事に成功する。この防御シールドこそがCSの命綱であり、今回の模擬戦においても破壊されたら死を意味するものだ。

 防御シールドを攻撃された反動で天華は弾き飛ばされ、二人の間に距離が出来る。

 

「なんて化け物なのよ……幾らクロノスのおかげで身体能力が底上げされてるからって、今のを普通避けられる?」

「そーだな。今の一撃は中々良かった。並の奴じゃ当たってたかもな」

「それって自分が強いっていう自慢? まぁ良いわ。強いのってのは認めてあげる。だから──」

 

 天華の剣に纏う炎が強くなる。

 

「私の奥の手、見せてあげるわ──」

 

 そして剣を勢い良く振るうと、炎が周囲に舞い上がり、やがてそれらは二つに別れて巨大な姿へと纏まっていく──それは蛇の姿を象った炎。

 二体の蛇が彼女を護り、包むように絡み合う。

 

「──大蛇(おろち)双焔(そうえん)。私の切り札よ!」

「へっ……こりゃあ……」

 

 喉を焼かれるような熱気に思わず生唾を飲み込む。

 

「焼いてあげるわ。行きなさい、蛇達っ!」

 

 二つの大蛇が恭也に襲い掛かる。

 

 小夜未と雫の戦いはターニングポイントを迎えていた。

 

「どうしたのっ!? 逃げ回ってるだけじゃかてないよ!? ほらほらっ!」

「っ……!」

 

 雫の攻撃は尚も続いている。小夜未もそれを避け続ける。

 しかし──。

 

「──捕まえたぁ!」

「あ、しまっ──」

 

 だが、小夜未の判断力、体力が限界に達してしまい脚を凍らせられた。

 

「あははっ、これでやっと捕まえた。貴方しては頑張った方かな? まぁそれも全部クロノスのおかげだけどね。じゃなきゃここまで持つはずないもん。何も出来ない貴方が──神白家の人間が!」

 

 いつもの弱気な雫が、攻撃的な言動と狂気の顔をしている。

 

「まだ……!」

「させないよ?」

 

 最初の時と同じように二丁の拳銃で氷を破壊しようとするが、脚の氷が首元まで侵食して、完全に身動きが取れなくなってしまう。

 

「あははっ! やっと貴方を……ふふふ……」

「……そんなに嬉しいの?」

「勿論! だって、やっと一矢報いれるんだよ!? 神白家の人間に! それも合法的に! こんな嬉しい事は無いよ!」

 

 その時小夜未は推測した。彼女のこの言動は、その心底願いが叶うという嬉しさから来ているのだろうと。

 でもそれは理解し難い感情。理解し難い願い。

 

「神白家の人間なら誰でも良いんだ」

「うんそう! 人の不幸を糧に幸せを気付く、貴方達神白家なら誰も良いのっ! 私の復讐はそうなのっ!」

「──私は幸せなんかじゃない。貴方の復讐なんかもどうでも良い」

「……はぁ……? 何その言い方……貴方には私達に申し訳ないとか思ってないの?」

「思ってたよ。私の家がした事はいけない事、だから何かしら償いをしようって。でも貴方の言い分を聞いて考え直した──何で関係ない私が、こんな目に遭わなくちゃいけないのって」

「はぁ?」

「昨日は別の意味でああ言ったけど、今は本当の意味でそう思う。だから、私はもう貴方達に申し訳ないとかは思わない事にした」

「っ──! もういいよ! 貴方の考えなんかっ! どうでもいい! 私は私の復讐を果たす!」

 

 彼女が大剣を天に掲げると、今までの比ではない無数の氷柱が生成される。

 

「……私は負けない。負けたくない──恭也と勝つってやくそくしたから!」

 

 模擬戦前の恭也とのやり取りを思い出して、引き金に指を掛ける。

 

「……あれ?」

 

 そこでふと全身を確認すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 勿論雫が意図的に解除しての事ではない。する理由もない。

 

「どうして……ううん。今は……!」

 

 訳の分からないまま、とにかく今するべき事をしようと拳銃を構え直す。

 

「これが私の全力を注いだ攻撃! 死ねぇぇぇ!」

「恭也と約束したから勝つ!」

 

 無数の氷柱が雨のように襲い掛かる。

 恐らくこのままでは負けるだろう。こんな数、撃ち落とせない、避けきれない。あのような啖呵を切ったは良いが、負ける。そう思っていた時だった。

 

「──何、これ──」

 

 小夜未は無数の氷柱が止まったように感じた。いや、氷柱だけではない。復讐しようとしている雫も、横目に戦っている恭也と天華も、外野で戦いを見ているクラスメイトや片桐も、そして自分も。

 時が止まった。

 

「……ううん。違う」

 

 そう、完全には止まっていない。どの動きもスローで見えているだけだ。とんでもなく遅い速度で氷柱はゆっくり、着実にこちらへ飛んできている。

 

「……」

 

 しかし、ただそれだけだ。時が止まっていないのなら、このまま氷柱が到達するのを待つしかない──いや、そうではなかった。

 

「分かる。どの動きも。恭也達やクラスの皆と先生の次の動きが──どの氷柱から壊していけば彼女に、雫に辿り着けるのかも」

 

 理屈は分からない。でも、小夜未はこの場の動きを全て理解した。支配した。

 

「いける。これなら──勝てる」

 

 彼女が描いた絵の、最初に撃ち落とす氷柱に銃口を向けようとすると、世界の時間の流れは通常に戻る。

 

「ここ!」

 

 ──銃口からは橙色の弾が放たれた。

 

「橙色!? 何で!?」

 

 雫が驚く間に橙色の弾は一つ目の氷柱を撃ち落とした。

 

「絶対勝つ」

 

 すかさず二つ目三つ目と壊しながら、雫の元へと一歩ずつ勝ちを掴む為に駆け出す。

 

「何で!? 何で貴方が!」

 

 橙色の弾を見てから雫は狼狽えていた。

 それは何故か。小夜未が共鳴現象を起こしたからだ。

 共鳴現象は異能力者の証。小夜未は異能力(クラフト)を発現させた。

 だから彼女は狼狽えている。心底見下し、恨んでいた相手が異能力者だった事に対して。

 見下している相手に同じ土俵に立たれた。全てを持っている白神の人間が持ってないそれを自分だけが手に入れたと思ったのに。

 唯一自分が優位に立てている部分だったのに、それも奪われた雫はもう勝敗どころではなかった。

 

「あ……ああ……!」

 

 彼女の(まなこ)には一つ、また一つと氷柱を撃ち落とし、こちらに向かってる小夜未の姿は、まるで自分を殺す殺人鬼のように映っていただろう。

 

「──辿り着いた」

 

 ──バンっ! 

 ──バンっ! 

 

「……私……は……」

 

 至近距離から放たれた二発の銃弾は、雫の防御シールドを破った。

 

「──水篠雫、防御シールドの消失により戦闘不能と見なす!」

「──私は……負けたの……?」

 

 片桐がそう言い渡すと、雫はいつもの弱気な彼女に戻っていた。

 しかし勝負はまだ決していた。

 

「──!」

 

 恭也が焔の蛇二体と戦っている。

 

「ちっ……! 二体居るのが厄介だな……!」

 

 左右、上下から襲い掛かる炎の巨体は難なく受け止めれるが、攻勢には転じられない。

 一体だけなら苦戦はしないだろう。だが、二方向から襲い掛かるそれは作った隙をもすぐに潰す。

 

「その程度? 守ってるだけじゃつまらないわね」

「……くそ、埒が明かねぇ……! こうなったら一か八かだ!」

 

 何を思ったか、恭也は敵である蛇達を後にして走り出す。

 

「何を……まさか怖気付いて逃げる気? もうギブアップなの?」

「逃げる? はっ、あんたと一緒にされるとは心外だな!」

「……っ。誰が何から逃げるって言うのよ!?」

「否定はしねぇんだな」

 

 恭也は目指していた場所に辿り着く。そこは体育館の壁際だった。

 

「不知火天華、あんたは水篠雫から逃げている」

「っ……何を……」

「あんたは何で白神の家を恨んでる?」

「それは雫の家が……」

「ああそうだ。そうやって自分に言い聞かせてる。あいつの為だから仕方ないと。親友の為に自分も神白家を恨まないと、と」

「そんな事私は……!」

「神白家のせいで人生が滅茶苦茶なったそいつの親友であるあんたは、水篠雫の心の傷を少しでも癒す為に彼女のする事に何でも同調した。例えそれが間違ってると知りながらもな!」

「間違ってなんか……」

 

 恭也は天華と話しながら、体育館の壁に背中を預ける。

 

「いいや、間違ってるぜ。昨日も言ったと思うがあんた自身も間違ってるって分かってんだろ。張本人じゃない小夜未を責め立てる……そうでもして、水篠に嫌われるのが嫌か? 水篠と親友でなくなるのが怖いか? そんなのは親友思いや優しさなんかじゃねぇ、ただそれから逃げてるだけだ!」

「っ! 黙れっ! 私はぁぁ!」

 

 天華が怒涛を上げ、二匹の大蛇が襲い掛かる。

 

「蛇退治といこうじゃねぇか。来やがれ、害獣共!」

 

 そして、真正面から向かってくる蛇達を迎え撃つように太刀を構え直す。

 

「……なるほどな」

 

 そんな彼を見た片桐が何かに気付いた様子で頷く。

 

「先生?」

 

 その様子を見た真面目そうな女子生徒が片桐を気に止める。

 

「壁を背にして、あれが襲い掛かるルートを前方だけに絞ったわけか。ああやって向かい撃つ為に。だが、二体の蛇の火力を防ぎ切れるか……ふ、見物だな」

 

 好奇心の目を向ける先の恭也は、今まさに蛇達との真っ向対決に直面していた。

 

「──(ゆずりは)一太刀流──!」

 

 太刀と蛇がぶつかり合う。

 

「──うおおおおおお!」

 

 炎の力は半端ではない。しかし、鍔迫り合いを制したのは、恭也だった。

 

「いい加減大人しくする時間だぜ──!」

 

 それどころか二体の蛇は一つの炎へと返り──。

 

 ──あれは……! 

 ──炎が……。

 ──太刀に……。

 

 一つの炎へと返ったそれは、太刀を中心にして蠢き、燃え盛っていた。

 

「──楪一刀流、絡み捕り」

「な……私の炎を……!」

 

 炎は渦を巻き、太刀に捕らえられていた。

 

「反撃の時間だ! おりゃああああ!」

 

 炎を太刀に宿したまま攻勢に転じる。

 

「……! 炎を!」

「させないっ!」

「っ!」

 

 炎を戻そうとする天華に対して小夜未が弾を放つ。弾は防御シールドに塞がれたが、足止めには充分だ。

 

「はああああ!」

 

 その間にも恭也は駆け寄って来ており、最後には。

 

「っ、防御を──きゃあああ──!」

 

 太刀を振り下ろして炎が散っていく中、天華の防御シールドを叩き割った。

 

「──そこまで。防御シールドの消失により不知火天華戦闘不能。よって勝者、狩生恭也及び神白天華!」

「──勝った? 私達が……」

 

 自分達の勝利に戸惑う小夜未の元に、恭也が満面の笑みで向かってくる。

 

「やったぜ、神白! よくやったな!」

「うん……恭也も凄かった」

「凄いのはあんただよ! あんな土壇場で異能力(クラフト)を発現させるなんてな!」

「見てたんだ?」

「ああ。横目でチラッとな。てかお前異能力者だったんだな。どんな能力なんだよ?」

「分からない。いきなり時が止まったように見えて……その後氷柱の動きとかが全部分かるようになった。それに初めてだったから……適正試験の時は使えなかったのに何でかな」

「初めてだったのか。ま、異能力(クラフト)の発現時期は人それぞれだしな。それよりどんな力なのか気になるな。精神的な能力か? 実際に見ねぇと分かんねぇな」

「おい貴様達! 早く集合しろ! 次の模擬戦を始めるぞ!」

 

 話し込んでいた二人は片桐に急かされて、慌てて移動する。

 

「──次がその二組だ。呼ばれた者はさっさと前に出ろ!」

 

 そして次の模擬戦が始まった。恭也達が他のクラスメイト達と一緒にその戦いを見ていると。

 

「──ねぇ」

 

 天華が二人に話し掛けてきた。

 

「不知火……天華……」

 

 今度は何を言われるか不安に駆られていた小夜未だったが、彼女の口から発せられたそれは驚く言葉だった。

 

「……悪かったわね。色々と」

「え?」

「だから悪かったって言ってんの。それだけよ、じゃあ」

 

 そう言い残して天華はその場を離れていった。

 

「……何で急に謝ったんだろう。今のって今までの事に対してだよね……?」

「そりゃそうじゃねぇか? ま、あいつも向き合い始めたって事だろうさ。もう一人は知らねぇが」

 

 そのもう一人、雫はと言うと、黙ったまま塞ぎ込んでいた。

 

「どうなるかは分かんねぇけど、そう悪くはならねぇと思うぜ」

「……そうだね。そうだと思う」

 

 小夜未は自分に頭を下げた天華を見ながらそう呟く。

 こうして天華達との戦いは幕を閉じた。

 

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