偶像を造る手の先に   作:Feldelt

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初星学園は教育機関である以上、敷地内全て禁煙となっている。だからこうして喫煙所にまで足を運んで煙草を吸っているわけだが……昨日20になったばかりの俺はまだあまり慣れていない。昔よく見たドラマの探偵の所作を真似してはいるものの、むせることのほうが多い。無論健康に良くないことなど百も承知だが……これから先緊張する機会も多いだろう、スイッチの切り替えとして嗜む程度だ。

 

「ふぅ……」

 

春先とはいえ陽が沈めばまだ少し肌寒い。加えて最寄りの喫煙所であるここは家から逆方向だ。このまま帰るにしても夕飯を食べる時間がやや遅くなる。明日は入学式前から学園にいることを考えると、今食べてしまったほうがいい。それに、『藤田ことね』のスカウトがここらのどこかでできるという話を聞いている。天川の商店街にある店かつ高校生のアルバイトを受け入れているというところだと、三択。ハンバーガー屋か定食屋かイタリアンレストラン。さて、この三択と時間が時間であることも考えると回れるのはせいぜい一か所。あとは偶然の遭遇を期待するしかない。

もちろん花海咲季をスカウトした後でスカウトに行けばいいという考えもあるが、おそらくそんな時間はない。入学式が終わったのなら早速プロデュースに移行するのが筋だ。くそ、もう少し早く動き出してさえいれば……

 

「過ぎたことは仕方ない、反省だ」

 

空腹でもある。なら学園から一番遠いハンバーガー屋で持ち帰りにして帰り道にシフト上がりの『藤田ことね』とエンカウントする。それが最も確率の高い方法だろう。そう決めたのなら、動くべきだ。

 

 


 

 

「いらっしゃいませ~」

「……」

 

いた。入店早々目が合った。だが止まってはいけない、不審がられる。冷静に列に並び財布を取り出すとともに、一緒に取り出した名刺に指定の場所を書き込む。

 

「こちらメニュー表になってま~す」

 

前の方から少女が客にメニュー表を渡している。しめた、表を受け取るついでに名刺を落として拾ってもらえれば認識されるか?

 

「メニュー表になりま~す」

「ありがとうございます、っと……失礼」

 

早々に自分の番がくる。名刺を持っていた手を伸ばし、手を開いてメニュー表を受け取るともくろみ通り名刺は落ちていく。

 

「っと、大丈夫ですか?って……」

 

少女はしゃがんで拾った名刺の文字列を見て目を見開く。拾うためにしゃがんだ俺はこのタイミングで声をかける。

 

「プロデューサー科の守月です、お話がありますのでお仕事終わり次第こちらの場所に」

 

少女から名刺を受け取り、礼を言って立ち上がる。これは僥倖。あとは注文するだけである。

 

「ご注文お決まりでしたらどうぞ~」

「ダブルビーフハンバーガーセットのポテト大盛り、メロンソーダの氷なしMサイズでお願いします」

「店内でご飲食されますか?」

「持ち帰りでお願いします」

 

 


 

 

指定した場所は思い付きで天川商店街から少し歩いた公園だった。初星学園も近いこの場所なら帰り際に立ち寄るにも違和感はないし、ここでハンバーガーを食べて人を待っていてもあまり不審がられることはないからだ。

 

「……来ましたね」

「ども……」

 

既にハンバーガーとポテトは食べ終わり、メロンソーダも最後の一口を飲み干したタイミングで少女、『藤田ことね』が現れる。

 

「改めまして、プロデューサー科の守月衛次です。藤田ことねさんですね?」

「は、はい。そですけど……」

「あなたをプロデュースさせてください」

 

ベンチから立ち上がり、目を見てはっきりと言葉にする。

 

「え、えぇ~!?そ、それってスカウトってことですよね!?」

「はい、資料を拝見しました」

 

吸い寄せられるように書いた手帳のページを横目に見ながら、俺はこの子の何に吸い寄せられたのかを図りかねていた。

 

「なら、どうしてあたしなんですか?」

「……確かに、藤田さんよりも成績のいい生徒はたくさんいます。ですが、そんなことはどうでもいい。それにプロデューサー科の成績は、担当したアイドルの活躍によって決まる」

「だったら、」

「だから、あなたを選んだ。いや違うな……」

 

優しい風が吹く中、眼鏡の位置を直して言葉を続ける。

 

「あなたが、俺に選ばせた」

「え……?」

「正直なことを言えば、俺もあなたを選んだ理由はわからない。資料を読んで、吸い寄せられるように魅入られた。何故かと自問しても何もわからない。ただ、この感覚は信じていい感覚だと、『藤田ことね』は『偶像(アイドル)』になると、そう感じている」

 

コートのポケットから手を伸ばし、開いた手で握りこぶしを作る。

 

「ちょ、ちょい待ちですっ!これナンパとかじゃないですよね?」

「まさか」

「本気で言ってるんですか!?」

「最初から本気だ……おっと失礼、本気ですよ」

 

素で話過ぎていた。ここも反省点だろうが、仮面を被り続けるのも無理はある。どこかで切り替える必要があるが、今じゃない。

 

「ちょ、ちょーっとだけ、考えます!」

 

さすがにまずったかと思いながら、俺も放置していたハンバーガーの容器などを軽く分別して時間を過ごす。家でゴミにするかこれは……

 

「その話、受けさせてもらいます!」

「そうですか、ありがとうございます。それではこれにサインをお願いします」

 

用意していた書類とペンを渡し、スカウトがうまくいったことに内心安堵する。明日はまずこれを提出してからだな……

 

「あたし、絶対叶えたい夢があるんです!1年間一緒に頑張りましょう!」

「はい。それでは明日、入学式後にこの教室へお願いします」

 

書類を受け取り、明日の予定を伝える。

 

「では、よろしくお願いします」

 

一礼して公園を後にし、帰宅する。

あとは明日、『花海咲季』のスカウトを先客に取られてなければいいが……それは明日の勝負だな。

 

 

 

 

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