魔獣の討伐を終え麗さんに指定された場所に向かうと、そこには相変わらずタバコ片手に壁に寄りかかっている麗さんが居た。
髪の毛の灰色とタバコの煙が混ざり合って、普段の口調からは想像できないような儚さを醸し出している。
ん…?なんか変な気分…
「おお、討伐お疲れ様。一本吸うか〜?」
漂っている煙を霧散させるように手を振りながら麗さんは私に声をかけた。
「要らないです…けど、20になったらいただきますね」
「お前殺人と喫煙のバランスおかしくないか?」
「私のは愛ある殺人なのでセーフですから」
麗さんは少し顔を歪めた後、歩を進める。
彼女の手が私に届く範囲程度の距離で歩きながら、視界の端に流れるホログラムに目を奪われた。
『魔法少女による民家破壊!?彼女らは善か?悪か?』
そのホログラムには壊れた民家の画像と共にそう映っていた。
「…それが気になるか?」
麗さんは前を向いたまま立ち止まり、そう尋ねた。
「こういうのを見た奴が私のデスクに電話をかけてきやがる。「お宅の魔法少女がー」ってな。原因を作ってんのは魔獣だぞ?」
恨み言を吐き終わると麗さんは加えていたタバコをホログラムに向かって投げつける。
そのタバコは、スピーカーのノイズのような音を立てるホログラムをすり抜け、奥の壁に衝突した。
「…お前は、私に迷惑をかけてくれるなよ」
麗さんがそう告げると同時に、私たちはもう一度歩き始めた。
***
殺風景な歩道をしばらく進み続け、蛍光色のホログラムが眩しい一本道に辿り着いた。
「『ネオラウンジ』…魔法少女が一般に浸透した現代じゃ、必須ともいえる場所だ」
「私は…噂にすら聞いたこと無いですけど…」
「そりゃあ、魔法少女を管理してる『魔法少女協会』が徹底的に秘匿してるからな」
周りに見えるのは10台の女子ばかり。
だがよく見ると体に黒い宝石『曜石』が埋まっている。
あれは改造手術を受け魔法少女になった子の特徴。
それぞれ埋められる場所は異なるが、基本は首か胸元だ。
「魔法少女が魔法少女とばれる要因は『魔装』と『曜石』の二つ。魔装は解除さえすればどうにかなるが、曜石はどうやっても消えない。その特性上、私服でも魔法少女の身バレは起こりやすいわけだが…」
「それを防ぐための魔法少女専用の集会場ってことですね」
魔装は体内にある魔力を曜石に刻まれた設計図の通りに実体化することで着ることが出来る戦闘用装具だ。
デザインは魔法少女ごとに違い、有名な魔法少女になるとコスプレ衣装なんかも売っている。
「まあそんなところに来たって事は、今から超大事な話をする訳だ」
近くのカフェらしき場所に入り、席に腰を下ろした後、麗さんは一枚の書類を取り出した。
「これはお前が本格的に魔法少女になるための『登録書類』だ。魔法少女協会に提出する物だから慎重に書かにゃいかん」
「とか言いながら殆ど空欄ないじゃないですか」
「お前の負担を最小限に減らすための優しさだ、感謝しろよ?」
「逃げ場をなくすためですよねどう考えても」
いまだ空欄なのは魔法少女本人の署名欄と、もう一つ
「『魔法少女登録名』ってこれ、あのクソ痛いあだ名の事ですか?」
「クソ痛いってお前なぁ…みんな死ぬ気で考えてんだぞ」
「じゃあ麗さんの登録名教えてくださいよ」
「……」
何か恥ずかしい記憶を思い出したのか黙りこくってしまった麗さんを尻目に、私は少し考える。
人前で名乗るような物なら、目の前の彼女のように黒歴史になるような物ではないようにしないととか。
やっぱり可愛いキュアキュアな物が良いなあとか。
「ま、まあ私の話は置いといてだ。それ、明日中まで受け付けてる奴だから、気長に考えるといいさ」
「ん、えぇ??"もう"一日しかないんですか?」
「は?"まだ"一日もあるだろうが。だから家に帰ってじっくり考えても…」
……麗さん、意外と時間にルーズな人?
「今日はいったん帰ります。とにかく、明日の昼過ぎここに来てください渡すので」
「おー頑張れよ。じゃ、私はちょっと飲んでから帰るかな」
席を立ちその場を去ると、後ろからビールを頼む麗さんの声が聞こえてきた。
家に帰った私は、冗談みたいなスケジュールに頭を抱えながら、徹夜で電子辞書とにらめっこし、名前を考えることになるのだった。
執筆時間と評価くれると嬉しいです