訳アリヤンデレ魔法少女   作:あめざり

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久しぶりにも限度ってあると思う


3.寵愛を私に

カススケジュールを提示された翌日、麗さんに『魔法少女協会』の本部に来るよう言われた。

魔法少女協会とは、簡単に言えば魔法少女を管理する団体。

『ただの少女を兵器に変え、運用する団体』とも言えるかもしれない。

ここにいる魔法少女達は言うならばプロ、ちゃんとお賃金を貰って日夜魔獣をぶち殺している。

色んな地区に支部はあるらしいが、本部の建物は首都のど真ん中に聳え立つ100階建超えの高層ビル。

首を90度曲げてなんとか視界に全貌を収められる程だ。

 

「お、ようやく来たか」

 

声が聞こえた方を向くと、いつもとは違ってタバコを吸っていない麗さんが立っていた。

 

「登録書類は持ってきたよな?」

 

「もちろんです。名前もちゃんと書いてきましたよ」

 

「じゃあさっさと登録済ませるぞ、お前も疲れてるだろ」

 

そう言って麗さんはコツコツと靴を鳴らしながら協会の中に入っていく。

私も麗さんの後を追って中に入る。

 

ビルの中は外観に負けず劣らずの大迫力。

オシャレな内装と言うわけではなく、金属を多く使った要塞のような見た目だ。

あちらこちらに銃火器積みの監視カメラ、それだけでなくあちこちから視線を感じる。

恐らく警備として魔法少女が雇われてるんだろうけど…

 

「変な動きはすんなよ、私まで巻き添え喰らうのは御免だしな」

 

「別にどうにでもなると思いますよ…ここにいる奴全員相手でも」

 

「まあ…お前は強いからな、勝てる奴はそうそう居ない。ただ『そうそう』居ないだけだ、次元の違うバケモノが居るんだよ」

 

魔法少女の等級は上からS級、A級、B級、C級、そしてその他の未登録魔法少女…

改造手術を受けた直後に聞いたことだが、私はS級相当の強さらしい。

私以外のS級は11人、彼女達と戦ったら苦戦こそするだろうが、まあやりようはあるだろう。

生身で魔法少女と戦ったあの時とは違う。

 

「…測定不能級ってのが居てな」

 

苦笑いしながら麗さんはそう語る。

 

「文字通り強さをまともに測定出来ない、世間に一切の情報が出回らないよう徹底規制されてる超特別扱いの魔法少女だ。世界でたった3人のな」

 

「一人目は『ゴッドレイ』、防御無視かつ光速のビームを放つ魔法を使える超攻撃特化の奴でな。元はアメリカの猟奇殺人犯だから性格は控えめに言ってクソカス。アレと関わんのはやめとけよ」

 

「二人目は『ガルバナイザー』、元テロ組織兼新興宗教の教祖。魔法少女の中では比較的まともな倫理観してる。固有魔法は金属を媒体としたサポート向けのだから強さ自体はそこまでだが…後方にいる時はほぼ要塞だな」

 

「んで三人目は……いや、知らない方がいいな」

 

「何言ってるんです、そこまで言ったんだから教えてくれても…」

 

「お前がもっと上を目指すってんなら嫌でも耳に入るさ…それよりほら、着いたぞ」

 

私はその言葉が何を指すのか、よく分からなかった。

目の前には人一人いないだだっ広い空間だけ。

いったい何処に『着いた』と言うのだろうか。

 

『登録情報を確認します。前方に向かって登録書類を提示して下さい』

 

突如、何処かから機械音声が響いた。

何が何だか分からないまま持ってきた書類を前に向けて突き出す。

 

『本名『上野美海』、暫定魔法少女等級『S級』、確認しました。それでは等級確認試験を始めます。同伴者の方は直ちに赤い線まで下がって下さい』

 

「…?等級確認試験って何を…」

 

いや、私何も伝えられてないんだけど?

麗さんの方を振り向くと「頑張れ」と言わんばかりに笑顔で手を振っている彼女が見えた。

 

すると今度は、麗さんの少し前あたりで、天井まで届く巨大な金属の扉が勢いよく閉じた。

ああ、大体わかってきたかも。

私の等級はまだちゃんと計った訳じゃないから公式登録する為に計り直し…みたいな。

てことは強さを計るための何か…敵とか的が出てくる?

 

とか何とか、比較的甘い予想を立てていると、いつの間にか天井に吊るされていた巨大な機械が、私目掛けて飛びかかってきた。

私はその機械をなんとか回避する。

 

「これが…試験の敵?」

 

目の前の魔獣を模倣したであろう四足歩行の鋼鉄の機械は、赤色のヘッドライトを唸らせながら咆哮する。

 

(頭なんて働かせなくてもよく分かる…コイツ、この前の魔獣より遥かに…)

 

咆哮の残響が聞こえなくなると同時に、奴は私の身長の倍はありそうな火器を背から4つも生やし、銃弾を放った。

 

「──っ!!」

 

私は咄嗟に横方向へ全力で走る。

だが今の私なら銃弾程度簡単に避けれる…

それは相手も分かってるのか、はたまた元よりそう言う策なのかは分からないが、やっぱ銃身を変形させ複数発の小型ミサイルを放ってきた。

 

いや大丈夫、速度で言うなら銃弾とは比較にならないほど遅い。

1発、2発と体をくねらせながら避け、追撃の3発目を蹴りで返却してやった。

Uターンしたミサイルは狙い通り奴の頭部に直撃しゲームセット…と思ったらピンピンしてやがる…

自爆勝ちは狙えないと考えた方がいいかな…?

 

そうなると攻撃手段は魔法か物理。

魔法に関しては『一般魔法』と『固有魔法』の両方使えない。

一般魔法は初心者向けで比較的簡単らしいが、初陣の時も麗さんからは「殴りでどうにかしろ」と言われただけでどんなものなのかも知らない。

固有魔法はもう使えるには使えるらしいけど、それには『きっかけ』が必要。

 

つまり今の私が持つ最善は物理攻撃。

あの装甲を私の殴りと蹴りでぶち抜く以外の勝ち筋はない。

 

よし、やるか…

 

***

 

試験観戦用のモニターを見ながら、私は疑問符を浮かべていた。

 

…あれ、何でアイツ魔法使わないんだ?

魔法少女の等級は『固有魔法ありき』だぞ?

 

…………

 

………………

 

……………………

 

あっ魔法の使い方とか教えてねぇわ…

 

私は思わず頭を抱える。

自分のやった冗談じみたミスに気付いて。

 

「鶴城先輩…ってどうしたんですか。貴方そんなガチ悩みするキャラじゃ無いでしょう」

 

背後から声が聞こえた。

C級魔法少女の『フレイル』、アイツの初陣で殺されかけてた私の後輩だ。

 

「あれってこの前の…て言うかA級の仮想敵!?新しいS級魔法少女って本当だったんですね」

 

「…クッソ、今からでも止めるか…?いやそしたら再試験は1ヶ月後…」

 

「…おーい先輩、聞いてますか?」

 

「ん?ああ聞いてる聞いてる」

 

コイツ利用してどうにか無効試験扱いに出来ないかな…と少し頭によぎる。

例えば、"たまたま"協会内で魔法が暴発するとか…

 

「なあフレイル、今から最大出力で自爆できるか…?」

 

「できる訳ないでしょう!!??」

 

「そうかぁ…そうだよなぁ…」

 

どうやら無理らしい。

あんなに可愛がってやったのに…私に死ぬまで尽くせよ…

 

「気になったんですが…あの子、何で魔法使わないで戦ってるんですか?」

 

「いやな、私が魔法とか何一つ教えてなかったら"使わない"んじゃなくて"使えない"んだよなぁ…」

 

「え?は?魔法無しで?固有魔法も使えないのに?期待の新人を訓練せずにA級の仮想敵にぶつけた?」

 

「鶴城先輩知ってますよね、A級の仮想敵は一般魔法が使用可能なんです。つまりはただ火器を使うだけの能無しじゃないんですよ。協会の全技術をもって作られた兵器なんです、低級の魔獣相手の防衛機械としての構想もあります。いくらS級と言えど、訓練も魔法も無しで戦っていい相手じゃないんですよ」

 

「え…今の仮想敵ってそんな強いん…?」

 

「逆によくそんな知識で試験始めましたね。と言うか先輩、あの子まだ未登録ですよね?と言うことはあくまで『暫定S級』な訳です。まだ固有魔法の強さも分からないから魔力量とか身体能力で等級を仮定する訳です。暫定S級だからってS級になるとは限らないんですよ?分かってます?」

 

「……」

 

後輩から超長文のお叱りを受け、流石に少し堪えたぞ私は。

良い奴なんだけど私の後輩を務めるにしては真面目なんだよなぁ…

いや何も言い返せないんだけども。

 

「それじゃ、さっさと試験中断しましょう。仮想敵がトラウマになる子もいるんですから」

 

「いやだってさ、そしたら再試験は1ヶ月後になるだろ?それまで私がアイツ養わないとダメなんだぞ?」

 

「はいはいそうですね、ちゃんと責任持って育てましょうね」

 

「待て待て待て、あの情緒不安定に過剰戦力重ね合わせた奴だぞ?猫飼うのとは違うんだよ」

 

「そんなこと言ってる場合ですか。こんな話してる間にもあの子は……」

 

突如、地面が揺れた。

いや…震えていると言う表現の方が正しいかもしれない。

 

「地震か何かですかね…何でこんな時に」

 

違う。そう断言できる。

地震でも地割れでも無い、このプレッシャー混じりの揺れは…

 

「魔力放出…!」

 

「まさかあの子が魔法を!?」

 

一般魔法は学習が必要、つまりは努力の世界だ。

だが固有魔法は違う。

ちょっとしたきっかけさえあれば使えるようになる、言うならばひらめきに近い感覚。

 

視線をモニターに向けると、そこにはピンク色のオーラを纏ったアイツが立っていた。

間違いない、あのオーラは固有魔法を覚醒した時に現れるもの…

 

「訓練なしのぶっつけ本番で固有魔法って…本当に何者…」

「ほら、止めなくて正解だったろ」

 

 

「いやそれは結果論じゃ……」

 

「グチグチ言わず見ろよ。もしかしたら」

 

 

「アイツが世界を変えるかもしれないぞ」

 

***

 

いや…コイツ強すぎない?

全力で振り抜いた拳は弾かれるし、渾身の飛び蹴りは躱された。

物理攻撃が通る気が全くしない。

こっちの攻撃はほぼゼロダメージ…なのにコイツの武装は全部強いしウザイ。

 

まずは基本的な火器、銃弾もミサイルも休み無しに打ち続けてくる。

 

次に搦め手、攻撃しようとしたら閃光や火炎放射、それらを掻い潜ったら煙幕からの高速で逃走しやがる。

 

そして最後に…魔法。

他二つは当たっても大したダメージはない、ただこれは別。

当たると普通に痛いし血も出る。

そろそろ肌色より血の方が多くなって来たほどだ。

 

「コイツまた魔法を──」

 

現状分かってるのは3種類、追尾式のビームみたいな奴と不可視かつ広範囲爆発する地雷みたいな奴、それと近づいた時使ってくる光る剣…

1つ目は単純に避けれないし、2つ目は着地そのものがリスクの塊、3つ目は近接でのリーチが違いすぎて押し負ける。

 

つまりこっちはダメージ与えられないのに、相手だけ高火力の魔法をバンバン打ちまくれる理不尽。

 

もう目も霞んできた…まともに拳を握れているかも怪しい…

 

なのに、私は何故か降参も中断もしたくない……ッ

 

 

思えばあの時も、魔法少女と初めて戦ったあの時もそう。

 

何故私は挑んだ?

 

(それは…うざったかったから)

 

何故?

 

(それは…大好きな人を奪われたからで……)

 

 

 

 

(…違うな)

 

 

 

 

私の愛は大きいから、大好きな人に分けて余った分は、私が抱えるしかないから。

 

 

私はすっごく、私が好きだ。

 

 

そんな私を傷つけた奴はどんな奴?

 

(…そりゃ、悪い人でしょ)

 

じゃあ…悪い人は、どうすれば良い?

 

(…そんな……そんなの………)

 

 

 

「ぶち殺すしか…ッ!ないよねぇ!!!」

 

 

 

さっきまで血まみれだった視界が、ピンク色のハートに包まれていく。

これは、私が大好きな人を見た時に浮かぶハート。

このハートのためなら私は何でもできる…

 

人だって魔獣だって、全員殺せる!!!

 

それと…やっぱり魔法少女と言えば専用の衣装だよね!

 

イメージの通りに全身を覆い始める魔力製の布、それらが交わって、形作られる衣装…

見た目はゴシック+地雷系、色は黒と赤とピンク、私の好きを詰め込んでやった。

 

そしてもう一つ、さっき突然頭の中に思い浮かんだ知識がある。

まるでマニュアルをなぞるように手を胸に置いて、こう叫ぶ!

 

「『寵愛』!!」

 

私の固有魔法『寵愛』

性能自体は単純な能力強化…だが媒体に使われるのは魔力や物質では無く『愛情』だ。

この愛情という名のエネルギーは何にでも使える。

ビームにして発射もエンジンみたいに噴射して飛行もお手のもの。

そう考えるとこの魔法の本質は、私の愛情を万能エネルギー化するものなんだろうね。

 

さて、準備はできた。

力の抜けた拳を再度握り締め、うざったい鉄屑と対面する。

 

相手の初手は、小型ミサイル+追尾魔法。

相変わらず高追尾攻撃の引き撃ち戦術で来るのだろう。

先程までなら逃げる以外なかったこの攻撃が、今なら『避けれる』。

どっちに避けるか?右?左?いや……真正面!!

 

足回りに『愛情』を集中、その状態で地面を蹴ることで初速から最高速で唯一存在する直線を突っ切った。

その勢いのまま頭部に向かって全力の右ストレート、後方に勢いよく吹き飛んだ相手に向かって左脚の蹴り。

奴は奥の壁に高速で爆音を上げながら衝突した。

原型のないほどひしゃげた頭部からは火花が散り、辺りには破損した装甲が散らばっている。

文字通りの鉄屑と化した奴はもうピクリとも動かない。

 

『A級仮想敵の大破を確認。試験終了です、お疲れ様でした』

 

少し前にも聞いた機械音声がどこからとも無く聞こえて来た。

「試験終了」と言うことはつまり、勝ったと言うことで良い…んだろう。

心の中で足下の仮想敵とやらに中指を立てながら、私は大きく息を吐いた。

 

『試験終了に伴い等級を公式に『S級魔法少女』として認定します』

 

『それでは、魔法少女『アイリス』よ』

 

『アイリス』…これが私が一晩で考えた名前だ。

意味は英語で『虹彩』。シンプルにしたけど実際呼ばれると結構恥ずかしい。

いやよく考えたら魔法の名前叫ぶのとかも結構恥ずかしいな、うん。

 

『国の盾として魔獣を討ち倒し、世界に平和をもたらすことを期待しています』

 

機械音声がそう告げた直後、背後で扉が開く音がした。

 

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