狛荷屋配達員、娯楽小説を手にナタの地に立つ。   作:祈願擦抜真君

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短編版
銀等狛荷屋配達員、本を手にナタの地に立つ。


稲妻から璃月港へ降り立ち、スメール大森林と砂漠を抜けたその先。

砂漠とはまた異なる赤身を帯びた岩肌と、ところの壁に描かれている抽象的、幾何学的でカラフルな模様。

所長からナタへの長距離配達を頼まれた俺は、ここナタの地に足を踏み入れていた。

 

「暑いな……それに、ああクソ……ブーツにまだ砂が残ってる……気持ち悪い……」

 

ぶつくさ文句を言いながら足を進めると、すぐに集落……なのだろうか。谷を挟み行き交うようにして住まいが点在する場所にたどり着いた。少し遠くの方にはなにか賑やかな音も聞こえる。

稲妻出身の自分からすれば異国情緒溢れた風景を見回しながら、今回の配達先に関する情報を得られないかと手持ち無沙汰そうな人を探す。

 

ナタ。炎の国。炎神マーヴィカ様の収める戦争の国。

配送先のことはざっと調べたがいかんせんこのナタという国情報が少ない。我らが稲妻が少し前までそうだったように何かしらの理由でナタ人がナタから出ることが禁じられているようで、ナタから出てくる情報というものが少ない。

稲妻と違うのは外国からナタへ出入りすることは問題ないとのことで、行きがけにスメールで軽く調べた限りの特徴は『6つの部族が各地に散らばり暮らしながらそれぞれの得意なことを競い合っている』『人と竜とが協力して暮らし合っている』『帰化聖夜の巡礼という儀式が頻繁に行われている』といった程度。

今回の依頼先の細かい住所もわからないので、こうして現地で聞きながら対応せざるを得ないというわけだ。

 

「すみません、今ちょっといいですか?」

 

「ん?……稲妻からの客人は珍しいな。なにか用か?」

 

とりあえずと、踊っている人たちを遠目に見ている人に話しかける。手持ち無沙汰かと思っていたのは当たったようで、こちらへ気さくな様子で返してくれた。

 

「あんまり稲妻から外に出る人は多くないですからね。ま、これからは増えてくると思いますよ……っと失礼。俺は狛荷屋っている配達屋で働いてる竜胆って言います。稲妻から荷物を届けに来ました」

 

「狛荷屋……ナタで言う伝達使みたいなもんか。俺は『こだまの子』の族長のパカルだ」

 

「族長でしたか、それは失礼しました。何分ナタに関しては勉強不足なものでご勘弁いただけると」

 

「かしこまらなくていい。異郷の友人たちも皆最初はそうだからな。で、荷物の配達だっけか?」

 

「ええ……じゃななくてああ。『謎煙の主』のシトラリって人に届け物なんだけど……」

 

俺がその宛先人の名前を出した途端、さっきまで気さくに話してくれたパカルが急に苦虫を噛み潰したような顔になった。な、なにかまずい名前を出したのだろうか……

そんな不安を感じ取ったのか、パカルは顔の前で気にするなと手を振り言葉を続けた。

 

「ああ……悪い、気にしないでくれ。シトラリか……うちだとあまり関わりがある奴もいないし……シロネンは……ああ、マーヴィカ様からの依頼で出てるのか……」

 

ポツポツと知らない名前が挙がっていく中で一つ、『マーヴィカ』という名前が出たのを俺は聞き逃さなかった。

炎神マーヴィカ。俺はその神様のことを詳しくは知らないが、我らが稲妻にも同様に雷神がいらっしゃる。その雷神から直接なにかを依頼されたと思うと……そのシロネンという哀れな犠牲者には頼るわけには行かない。

 

「流石にその依頼中に追加で何かを頼むのは心苦しいな。もしよかったらそのシトラリという人の住まいを知っていそうな所を教えてくれないか?」

 

「ああ、それなら謎煙の主の集落か……聖火競技場だな。聖火競技場はいろんな部族が集まるから、謎煙の主の住民もいる可能性が高い」

 

「それは何より。じゃあまずはそこに向かうとするよ。礼ってほど畏まったものではないけどせっかくの縁だ。友好の印にでもこれを受け取ってほしい」

 

そういうと俺は背負った荷物から持ってきていたさんが焼きをいくつか包むとパカルへ手渡す。

俺の得意料理で、尚且つ日持ちもするから弁当兼手土産のつもりで多めに持ってきていて良かった。

 

「これは稲妻料理のさんが焼きって言って、たたいた魚と野菜を香ばしく焼いたシンプルな料理なんだけどこれがなかなかうまいんだ。よかったらもらってくれ」

 

「質問に答えただけだ。気にしないでくれ…と言いたいが美味そうだな。ありがたくもらおう。帰りにはぜひまたこだまの子に寄ってくれ。今度は俺がナタの料理でもご馳走しよう」

 

「それは楽しみだ。じゃあありがとうパカル!早速その聖火競技場ってとこに行ってみるよ」

 

「ああ。道なりに進めばいいから迷ったりはしないはずだ。謎煙の主の住民はどこか気難しいやつも多いから気をつけて行ってくれ」

 

俺はそういうパカルに手を振り、聖火競技場に向けて足を進めた。

まずはブーツに残った砂を全部出すところからだな。

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

数刻も歩かないうちにその建物は見えてきた。

温暖なナタの気候でもひときわ熱気のすごいその建物は、周囲に建てられた柱で燃え盛る炎が空気を揺らすその中に鎮座していた。

 

競技場……というのは初めて見る。中に入り少し歩いてみるとどうやら中心に設けられた舞台で何かを行うのを周囲で観るように作られているようだ。

外縁には屋台が立ち並び、中にもいくつかの店構えが見られる。職場のお土産にもなにか買っていこうかと気を持っていかれる。

中でもいい匂いをさせていた屋台の前で立ち止まり店主に声をかけた。

 

「とりあえず……おっちゃん、このグレインラップっての一つ頂戴」

 

「おう!うちのグレインラップは美味いぜ!2000モラだな!」

 

腹ごしらえに外縁の屋台でグレインラップという食べ物を買って食べてみる。聞けばグレインという植物の葉で肉でできた餡を包んだ生地を巻いて蒸した料理のようで、食べてみると蒸されてフカフカもちもちになった生地の中から少し濃い目に味がつけられた餡があふれる逸品だった。隣国だからか、どことなくスメールのようなスパイスの効いた味付けについバクバクと食べ進めてしまう。

 

「うま……めっちゃ美味いなこれ」

 

「だろう?うちのグレインラップはマーヴィカ様も気に入ってくださってな、時々買いに来てくださるんだ!」

 

自慢げにいう屋台の店主に本日何度目かの衝撃を受ける。神が屋台の料理を……?

厳格で有名な稲妻の神である雷電将軍が通りの屋台で食べ物を買う姿を想像できずに頭を唸らせていると、後ろからあまりにも大きな存在感を感じバッと振り向く。

そこには体に沿って全身を覆う革のような黒い服を身にまとった、燃え盛るような赤い髪をした女性がいた。

 

圧倒的な、それこそ生物として違う存在感でわかる。これは稲妻にいたときに何度か感じていた。

彼女こそが炎神マーヴィカだ。

 

何か俺は粗相をしてしまっただろうか。パカルに渡したさんが焼きはまだ傷んでいなかったはずだし、聖火競技場に来てからもだれかと揉めたこともない。

そんなことを悶々と考えていると店主が敬意を込めながらも彼女と親しげに話し始めた。

 

「これはマーヴィカ様!よくお越しくださいました!」

 

「雑務が一通り片付いたのでな。とりあえず20ほど詰めてくれるか」

 

「もちろんです!な、見たろ坊主!うちはマーヴィカ様も贔屓の店だって!」

 

「確かにお前の料理はなかなかのものだ。これからも楽しみにしている。そして君は……見ない顔だな。服装から観るに稲妻から来たのだろうとは思うが」

 

今日はこれまでの人生の中でも一番の衝撃を受けた日となった。もしかしたら腰に下げている神の目を賜った日に並ぶかもしれない。

屋台の店主と親しげに話す炎神マーヴィカ様の姿にカルチャーショックを受けていると、彼女はこちらに目を向けてくる。

その燃えるような赤い瞳に見られ、慌てて姿勢を正して挨拶をする。粗相のないようにしなければ……

 

「これは……お初にお目にかかります。私は稲妻にて配送業を営む狛荷屋という店で勤めております竜胆と申します。この度は炎神様のお目にかかる機会を頂きまして光栄にございます」

 

「ハハハ、そうかしこまらなくていい。聞いているかもしれないが、マーヴィカだ。遠く稲妻からよく来たな。配送業というからには何か荷物を届けに来たのか?」

 

「はい……謎煙の主のシトラリという方へお荷物をお預かりしています」

 

「…………ああ、彼女か……稲妻からの流通は止まっていたと思うが?」

 

「はい。お恥ずかしながらつい先日まで稲妻では内乱の影響で国内外の流通を制限しておりました。ですがある冒険者の活躍により鎖国は解除。これからは少しずつ流通も戻って来るでしょう」

 

「ふむ。私は雷神バアルと直接の関わりはないが、稲妻の内政が安定したのであれば何よりだ。それに君のように稲妻から新たに入ってくる風もある。その荷届が終わったあとにでも詳しい話を聞かせてくれないだろうか」

 

「ええ、マーヴィカ様のお気に召されるかはわかりませんが……」

 

「……バアル殿は随分と民と距離を取られているのだな……」

 

やや苦笑いのように見えるマーヴィカ様を見て、俺の中に一つの疑念がよぎる。

もしかしてマーヴィカ様って気さくでいい人なのでは……?

 

存在感はあるものの威圧感はなく、自国の民にかかわらずこうして異国の俺とも明るく会話をしてくださる。

今でこそ目狩り令は破棄されたが、以前の稲妻にあったピリピリとした感じもナタでは感じられない。

戦争の国といわれていたから警戒していたが、マーヴィカ様を含めナタという国もしかしていい場所なのでは……?

 

俺が密かにナタ移住計画を頭の中に思い浮かべていると、いつの間にか(!?)全てのグレインラップを食べ終えたマーヴィカ様が店主から受け取ったグレインの葉に何かを書いて俺に手渡してきた。

見るとどうやら地図のようで、ここから何処の場所へ案内しているようなものだった。

 

「ここがシトラリの家だ。彼女はあまり人と関わりたがらないが悪人ではない。気をつけて行ってくると良い」

 

どうしよう……本気でナタに引っ越したくなってきた……

帰ったら狛荷屋ナタ支部を作れないか相談しなければ。

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

「なんでいないんだよチクショウ……!」

 

夜も更け始める頃。聖夜競技場で俺は酒を片手に夕飯を食べていた。

マーヴィカ様の書いてくださった地図は大いに役に立った。シンプルながらもわかりやすい地図で、迷うことなくシトラリの家に行くことはできたのだ。

しかし、彼女は出てこなかったのだ。

 

家の前にある特徴的な絵も確認しノックをするも出ず。そのまま少し待って再度ノックをしてみるも出ず。所用で出ているのかと数刻待ってみるも出ず。日が沈みかける頃まで待って見るも現れず。

地図にあった謎煙の主の住民に聞いてみると、怯えながらも昼過ぎに外出しているところを見たと教えてくれた。なぜ怯えているのかはわからないが……完全に入れ違いである。

 

しょうがないと言われればそれまでなのだが、ここまで順調に来れただけに落ち込んでしまうのは許してほしい。

稲妻にいたときにもこういった事はあったし、異国ゆえ事前に伝えを出せるような状況でもない。それでもやはり万事がうまくいかなかったことへのやるせなさというのは残ってしまう。

謎煙の主には今空いている宿がないとのことで仕方なく聖火競技場へ戻り、宿をとって今こうして酒を飲んでいるということだ。

 

「……っと。酒がなくなったな。料理ももう少し頼み対し注文を……」

 

そう思いながら店員を探すためあたりを見回すと、店員が一人の酔いつぶれた客の相手をしているところだった。

テーブルに倒れ伏す彼女は薄紫ともピンクとも見れる長い髪に2つの髪飾りをつけており、うつむきながらふらついた声で店主と話している。

 

「もう、今日は1杯だけって言ってたのになんでそんなに飲んじゃってるんですか!」

 

だってしょうがないじゃない。ワタシの家の前にずっと知らない気配がしてたんだから……

 

「もしかしたら用のあるお客さんだったかもしれないじゃないですか」

 

それはないわ!試練は必ず前日には申し出るように言っているし、それにナタで知ってる気配でもなかったもの

 

フワついた声の主を気の毒そうに思いつつ、店員がそこに構っているので中々注文を言い出せず、結果それを眺めている形になってしまった。周りを見ればよくあることのようにそのテーブルを遠目に見ている。おそらくだが、この店員と客のやりとりはいつものことなのだろう。

確かに自分の家の前で知らない気配が待ち構えていたらそれは中々帰りづらいだろうが……それにしてもこんなになるまで飲んでしまったら帰るのも一苦労なのではなかろうか。

そう思いながら引き続き二人のやり取りを聞いていると、聴き逃がせない一言を聞くことになった。

 

「もう……わかりました!ただ追加のお酒を出す前に、一杯だけでも水を飲んでくださいシトラリさん!」

 

シトラリ。その名前を聞いた瞬間一気に酔いが冷めた。

今店員は酔いつぶれている彼女のことをシトラリと言ったか。

 

確信を得ようと二人の方を注視していると、暫定シトラリの彼女がこちらに気づいたのか、伏せていた顔をこちらに向けてきた。

明らかになった青い瞳がこちらを向いている……いや、あまり焦点はあっていないかもしれないが。

 

なによキミ。ワタシは見せ物じゃないのよ。ジッと見てるんじゃないわよ!

 

「あー……っとすみません、少し気になる名前が聞こえたので。ええと……シトラリさん?」

 

恐る恐る尋ねたその声に、彼女は呂律のあまり回っていない声で盛大に応えてみせた。

 

そうよ!ワタシが黒曜石の老婆(グラスバーバ)のシトラリよ!何か文句でもあるの!?

 

それを聞いて少しの間放心してしまっていた俺を許してほしい。

つまり、先程の話での『家の前にずっといた知らない気配』は俺のことであり、彼女はそれを警戒して現れなかったのだと。

どうやってそこまで離れた場所の気配をさぐれたのだとか、なんで昼に出会えなかったのかとかそんなことも頭をよぎるが、まずは伝えなければいけないことがある。

 

俺は酔いの冷めた頭で立ち上がると彼女の前に立ち、何事かと胡乱げな目を向ける彼女へ伝えた。

 

「はじめまして。稲妻の狛荷屋からの配達です。昼から家に伺っていたのですが会えず……こうして会えて良かった。こちら荷物にサインをいただけますか?」

 

そう言うとシトラリの顔は面白いくらいに色が変わっていき、頬は赤くなり目の焦点も定まり始めていた。酔いも覚めて来たのだろう。

彼女のやってしまったという気まずそうな、恥ずかしそうな顔でこのやるせなさは相打ちということにしようではないか。

 

 

 

これは、これから深く関わることになるナタの民と稲妻の配達員の物語だ。




こんな雰囲気の小説はいかがでしょうか……?
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