狛荷屋配達員、娯楽小説を手にナタの地に立つ。   作:祈願擦抜真君

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ちょっとだけ加筆のつもりが、短編部分だけで前後半に分かれてしまいました。
あれえ……?

※短編の方を読んでいただいた方へ
内容は大体同じになります。
短編部分の前後を追加+全体的に少し加筆したものになります。


どうやらナタの方に八重堂のお得意様がいるらしい(2)

マーヴィカ様からいただいた地図を元に歩くこと数刻。太陽が南を少し過ぎた頃に俺はシトラリさんの家にたどり着いた。

 

途中明らかに集落に続いているようだった崖を反対方向に降り、外れの方にどんどんと足を進めていくことに若干の不安こそ覚えたが、そこまでの案内が完璧だったこともありそれを信じて歩く。おそらく『謎煙の主』と縁の深い竜なのだろう。コウモリにも少し似ている青色の竜が時々こちらを眺めているのを戦々恐々としながら進むと地図にもあった特徴的なラクガキが見えてきた。

 

何か小さい生き物が叫んでいるようにも見えるそれと、マーヴィカ様が目印と書いてくださったそれがほとんど同じに見えたことでここが目的地だと分かった。しかしマーヴィカ様絵がうまいな……多少デフォルメされているのかと思ったが本当にそのまま書いてあるように見える……

 

家の前にたどり着き、少し珍しい丸い扉をノックする。コンコンコン、と乾いた音が響くが扉の向こうからは物音が聞こえない。

 

「すみません、狛荷屋です。稲妻の八重堂からのお届け物をお持ちしました」

 

コンコンコン。再度ノックとともにそう声をかけてみるが未だに返答はない。数分待ってみても変わらないのを見ると、どうやら外出中のようだ。確かにかなり辺鄙な場所にあるし、なにか買い物に行こうとすればかなり時間はかかるだろう。

 

少し待たせてもらおうと近くの岩に座って待つ。ただ何もせずというのもアレなので聖火競技場で買ってきたものを軽く整理する。結局あれからまた弁当にとグレインラップと、グレインの実を少し分けてもらった。グレインラップは戻り際にでもまた食べようと思いつつ荷物の奥の方にしまい、グレインの実を一つかじってみる。

 

「んー……微妙!流石に火を通さないと駄目なのかな」

 

それこそ生の米をそのまま食べたような、仄かな穀物の甘みは感じられるがそれと言って他の味は感じられない。やっぱりこれは挽いて粉にしたものを生地にするのがいいのだろうか。今持っているさんが焼きにもそのまま使えそうな気がするんだけど……

 

流石に家の前で火を起こしてグレインの実を茹でるわけにはいかないので、それ以外の購入品……ナタにいる竜の子どもがアイシングされたクッキーの袋を開け一つかじる。スパイスの若干聞かせてあるクッキーに、甘いアイシングが合わさって中々に美味い。これは帰りにもお土産として買っていくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来ねえなあ」

 

クッキーの袋と水筒がからになる頃。時間にして数刻も経っただろうか。空が赤みを増してきてもシトラリさんは現れなかった。近くでこちらの様子を伺っていた小鳥たちもすっかり警戒をときクッキーの袋に残ったカスを狙っている。

 

まあ、しょうがないことではあるのだ。綺良々先輩もたまにこういった入れ違いがあったと前に話していた。その時はいつ頃向かいますよ、と事前に伝えを出すようにしていたとのことだが今回はその勝手が通用しないナタだ。何かしらの用事で一日家を外していた、なんてこともあるだろう。

 

これ以上ここにいると人様の家の前で寝袋を広げることになる。それはまずい。とりあえずは『謎煙の主』の集落まで行ってみようと腰を上げる。クッキーの袋をひっくり返して鳥たちにカスをくれてやり、そのまま来た道を戻る。

 

「あそこの分かれ道を逆側に進めば多分謎煙の主に着くと思うんだよなあ……」

 

坂を登り、先程の分かれ道を逆方向へ。崖と崖を結ぶようにかかっている橋を渡りながら北へ歩いていくと、すぐに大きな模様が描かれた山が見えてきた。あれは……カラスだろうか……?鳥の顔のように見えるそれを目指しながら歩くと、直に白と青紫を貴重とした服を着た人たちが見えてきた。おそらく『謎煙の主』の住民たちだろう。

 

俺はその中から一人の青年に向かって声をかけた。

 

「すいません、今ちょっといいですか?」

 

「ん、何かな。見ない顔だけど」

 

ややそっけない態度でそう返される。パカルの言っていた気難しさは今のところ感じられないが、目が流暢に「早く要件を言え」と伝えている。

 

「俺は稲妻から荷物を届けに来ました。『謎煙の主』のシトラリさん宛なんですけど」

 

「ひっ!……黒曜石の老婆(グラスバーバ)の……!?すまない、これから用事があるのを思い出したんだ、これで失礼させてもらうよ」

 

シトラリさんの名前を出した途端、今までの反応―――パカルさんやマーヴィカ様のそれとは桁違いに肩を上げた彼は、ビクビクした様子でこちらに背を向け走り去っていってしまった。

 

それにしてもまた新しい言葉が出てきた。黒曜石の老婆とは一体何なのだろうか。彼の言い方からおそらくシトラリさんのことを指しているのはわかる。老婆というからにはお年を召されているのだろうが、それにしてはあんな不便で辺鄙な場所にすむのは想像がつかない。頭に思い浮かぶのは絵本に出てくるような魔女の姿だ。いやいや、まさかそんな。

 

せめてシトラリさんがこの集落の中にいるかどうかだけでも確かめなければいけない。そう思いながら何人かに同様の質問を続けるも。

 

「ちょ、ちょっとわからないかな……」

 

「申し訳ないけどわからないなあ」

 

「黒曜石の老婆……試練……十回目……うう……」

 

世捨て人なのかシトラリさんは!怯えてる人も何人かいるし本当に何者なんだ……?ただ嫌われているような感じではない。不思議な人だ。ただ俺も俺で諦めるわけには行かない。片っ端から話しかけるうちに、ついに一人の女性が答えてくれた。

 

「彼女は昼過ぎに競技場の方へ向かっていくのを見たわ。家に行ってもいないのならまだ向こうにいるんじゃないかしら」

 

「あー……入れ違っちゃったかー……」

 

がっくりと肩が落ちる。確かに、この部族にはふわふわ浮いて移動する人たちがチラホラと見える。どういう理屈なのかはわからないがシトラリさんもそうやって動いていたのであれば地図を見るために下を向いていた俺とすれ違うのもしょうがないことだろう。とりあえず教えてくれた人にお礼をして、今晩を過ごせる場所を探そう。

 

「ありがとうございます。よかったらここで宿を取らせてもらって明日また向かおうと思うんですが、どこかに宿とかってありますかね?」

 

「ええと……申し訳ないけど謎煙の主に宿はないわね……普段から訪れる人もあまり多くないから、当日と言われると泊められる家もないと思うわ」

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

ダメ元で聞いてみたがやはりだめか。というのもこの謎煙の主という集落、山や崖の頂上に連なるように広がっているためかこだまのこと比べて家の数が少ない。彼女の言い方からして、外から誰かが来るときは基本的に誰かの家に泊めているのだろう。

 

こうなると一旦聖火競技場に戻ったほうが良いかな……?隣の集落にいるにもマーヴィカ様からもらった地図にはその情報はないし、変に迷って荷物が駄目になるのも避けたい。

 

親切な女性に別れを告げ、聖火競技場に戻る。日も暮れてきたしちょっと急ぐ(・・・・・・)か。

 

 

 

小高い丘に登り風の翼を広げる。普段は自然の風に任せるままに飛んでいたが今回は別だ。後ろから吹いてきた追い風でどんどん加速していく。

 

「砂漠でこれしようとすると砂で悲惨なことになるからできなかったんだよなあ……」

 

行きは全体的に登り坂が多かったためあまりこれも使えなかったが、帰りは下り坂になって楽でいい。追い風でいつもより早く進みながら下を見ると、謎煙の主でよく見た青い竜の他に、昼間も見ていた竜たちがチラホラと見えてきていた。そういえば、聖火競技場に行く途中の緑の竜は舌を何かに伸ばして体を引っ張ってたな……こう、手の先に伸びた何かを向こうから引っ張ってもらうような……っ!?

 

ぐんと手が引かれる感覚とともに、体が前のめりに進んでいく。思っていた以上の加速に体のバランスが崩れそうになる。これ風の翼広げてたら抵抗で錐揉みになる……!慌てて風の翼を閉じて一旦手を引かれるままに任せ、加速が落ち着いてから再度風の翼を広げて着地する。少しふらつきながらも、なんとか着地することができた。荷物も無事だ。

 

「これは……結構慣れと調整が必要だなあ……稲妻に帰ったら練習するか」

 

流石に一発成功はできなかったが、それでもかなりの推進力があった。これがうまく使えるように慣ればこれから速達とかにも対応できそうだし、もっと色んなところに行けるかもしれない。せっかく稲妻も門戸を開いたんだし、これからはテイワットの色んなところまで行ってみたいものだ。

 

本当はこのままここで練習していきたいが荷物もあるし、そろそろ日が暮れそうだ。聖火競技場も見えてきているし、ここからはさっさと向かってしまおう。

スキップするように軽く飛び上がりながらすすみ、足を踏み込むと同時に風で少し体を押し上げる。するとただのスキップが幅跳び程度の距離まで伸びて平地だとかなり早く進めるのだ。まあ結構疲れるから長距離を進むのには向いてないんだけど……このくらいなら問題ない。架け橋もトントンと飛び渡り聖火競技場の中に入った。

 

「確かこっちに宿みたいな施設があったはず……」

 

外周をグルッと回ると昼間に出ていた出店は店じまいをしており、物寂しさも感じられる通りになっていた。それでも中央に大きく上がっていた火柱は煌々と燃え上がり続けており、ナタが炎の国なのだと感じさせられる。

 

「稲妻は花火でも上がらない限り夜は暗いからなあ……こうやって夜も明るいのは不思議な感覚だ」

 

そのまま来た方向とは反対側の入口から中に入り、キャサリンさんにすごく似た人の近くを抜けると宿の受付が見えた。どうやら今の時期はそこまで混み合うことも無いようで、簡単に一部屋を取ることができた。鍵をもらい、とりあえずはと思い部屋に向かって荷物をおろし湯浴みをする。一日中動き回った疲れが湯とともに流れていくのを感じつつ体を拭いていると腹の音が低く鳴り響いてきた。

 

「流石に腹減ったなあ……確か下に食堂もあったしそこで何か食べるか。酒もおいてあるみたいだし軽く酒も飲もう」

 

部屋に鍵をかけながら下に降りると、何組かの客が酒と食事を楽しんでいた。軽く見回すと一角に比較的空いていた場所があったのでそこのテーブルにつく。

 

「いらっしゃいませ。ご注文は何にしますか?」

 

「あ~っと……実はナタに来るのが初めてなんだ。なにかおすすめはある?」

 

俺が席につくなり話しかけてきた店員にそう答えると店員は軽く苦笑いしながらおすすめを教えてくれた。

 

「あはは……まあなんとなくそうとは思ってたよ。うちのおすすめはタタコスなんだけど…ガッツリ食べるなら炎岩の歌かな。タタコスは生地で魚や肉と野菜を挟んだ屋台料理で、炎岩の歌はグレインの葉の中に具材と熱々の石を入れて蒸し上げた料理さ。大体は魚介と野菜でやることが多いね」

 

「じゃあそれを両方。あとは酒もあれば少し頼める?」

 

「もちろん。それじゃあちょっと待っててね」

 

そういうと店員さんは厨房の方に消えていく。改めて周りのテーブルを見てみるとたしかに、今言っていた2つの料理らしきものが多く見られる。本当に人気のメニューみたいだ。

 

そしてあまり触れてこなかったが隣のテーブルに目線をちらりとやる。そこには桜色の髪の女性…だよな?がうずくまっているのが見える。テーブルの上には空いた酒と料理の器が並んでいる。あれだけで酔いつぶれるのはあまりなさそうだし、結構な時間と量飲んでいたのだろう。周りの客もよく見る光景なのか、遠巻きに見るだけであまり気にしているようには見えない。

 

「~~~……、~~…………」

 

なにか言っているようにも見えるが……大丈夫なんだろうか……?そんなことを思いながら少し待っていると店員が隣のテーブルをチラと見て苦笑いしながらこちらに向かってくる。

 

「はいよ、おまたせ!先にタタコスとお酒ね!あとこれはおまけのドキドキポンポン!この岩炎の歌はもう少し待っててね!」

 

「ありがとう!」

 

酒と出来立ての料理がテーブルに置かれる。ドキドキポンポン……は初めて聞いたが稲妻にある米菓子のような見た目と香りがしているし似たようなものだろうか。少しつまむとバターの塩気が美味しい。もう一つつまめば果物のような甘みを感じるし、色んな味を楽しめるような菓子なのだろう。うまい。

 

そのまま料理と酒を楽しんでいると、隣で例の客と店員の声が聞こえてくる。

 

「もうおばあちゃん、今日は1杯だけって言ってたのになんでそんなに飲んじゃってるの!」

 

チアンカ……だってしょうがないじゃない。ワタシの家の前にずっと知らない気配がしてたんだから……

 

おばあちゃん……?顔は見えなかったが雰囲気的におばあちゃんとは思っていなかったが……あだ名か何かか?

 

それにしても酔ってる方の客の話、確かに自分の家の前で知らない気配が待ち構えていたらそれは中々帰りづらいだろうが……それにしてもこんなになるまで飲んでしまったら帰るのも一苦労なのではなかろうか。というかどうしてここから家の状況が分かるんだ?結構近くに住んでるんだろうか。

 

そんなことを思いながらタタコスをつまんでいると、再び話し声が聞こえてくる。

 

「もしかしたら用のあるお客さんだったかもしれないでしょ」

 

それはないわ!試練は必ず前日には申し出るように言っているし、それにナタで知ってるヤツの気配でもなかったもの

 

「じゃあ……遠くからの旅人さんとか?」

 

フン!何があれば遠くからの旅人が名前も知らないワタシの家に来るのよ!ウチは宿でも店でもないのよっ!

 

「それは……確かに……」

 

でしょ!こんなときは飲み明かすに限るわ、マスターおかわり!

 

「ちょっと、昼過ぎから来てずっと飲んでるんだから……」

 

まだ飲むのか……というか昼からずっと……?どんどん隣の話が気になってしまうのは酔ったからだろうか。酒も進んで少し顔に赤みが差しているのを感じていると、隣から聴き逃がせない声が聞こえた。

 

いいからいいから!おかわりをチョウダイ!

 

「もう……わかったわよ!ただ追加のお酒を出す前に、一杯だけでも水を飲んでよシトラリおばあちゃん!」

 

シトラリ。今店員は彼女のことをシトラリと呼んだか。今日ずっと聞きたかった名前に頭が冴えてくる。

 

確信を得ようと顔をそちらに向けると、厨房に戻る店員に手を振っていた彼女がこちらに顔を向け、ジトッとした目をこちらに向けて言ってきた。

 

なによキミ。ワタシは見せ物じゃないのよ。ジッと見てるんじゃないわよ!

 

「あー……っとすみません、少し気になる名前が聞こえたので。ええと……シトラリさん?」

 

恐る恐る尋ねたその声に、彼女は呂律のあまり回っていない声で盛大に応えてみせた。

 

そうよ!ワタシが黒曜石の老婆(グラスバーバ)のシトラリよ!何か文句でもあるの!?

 

それを聞いて少しの間放心してしまっていた俺を許してほしい。つまり、先程の話での『家の前にずっといた知らない気配』は俺のことであり、彼女はそれを警戒して現れなかったのだと。

 

まさかすれ違った彼女が聖火競技場にいるとは。もしかしてマーヴィカ様達と出会った後そのまま残っていれば彼女に出会えのではとかそんなことも頭をよぎる。ただまあ、兎にも角にも出会えてよかった。

 

俺はすっかり酔いの冷めた頭で体ごと彼女の方に向き直ると、何事かと胡乱げな目を向ける彼女へ伝えた。

 

「ええと……はじめまして。稲妻で狛荷屋で運送業をしている竜胆といいます」

 

うん……?稲妻から……?というか何でイマサラ自己紹介なんて……

 

「八重堂から荷物を預かっています。昼から家に伺っていたのですが会えず……入れ違ってたみたいですね……あ、あはは……」

 

昼から……?ウチに……?……って、ええっ!?」

 

彼女も頭の中で合点がいったのだろう。昼からずっと家の前にいた不審者が目の前にいたと分かり顔が赤くなったり白くなったりしている。……酔って吐きそうになってるわけじゃないよな?

 

「あら、おばあちゃんこのお客さんと知り合いだったの?」

 

店員が俺の頼んだ岩炎の歌とシトラリさんに追加の飲み物を持ってくるのといっしょに、怪訝そうな顔で俺と彼女の顔を見比べてくる。俺は苦笑いしながら店員に事情を説明した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあー……なるほどね。つまりお客さん……っと竜胆はおばあちゃんに荷物を届けにナタに来たけど、おばあちゃんとはすれ違ってずっと聖火競技場にいるのに気づかず家の前で待ちぼうけ……と。まるで絵本みたいな話だねえ」

 

「はあ……そうと分かってればワタシだってすぐに帰ったわよ……リンドウも悪かったわね」

 

「あはは、いえいえ問題ないですよ。それで荷物はどうしましょう?一応上の宿に置いてあるのですぐに持ってこれますけど……」

 

呆れ顔の店員……チアンカがそういいながらシトラリさんに水を渡す。流石にもう酒は渡さないようで、シトラリさんもそれを理解しているのか黙って水を飲んでいる。

俺としては今すぐ荷物を渡しても明日渡しても変わらないのでどちらでも良いという考えなのだが……それも伝えるとシトラリさんはパッと立ち上がり言った。心なしか声が弾んでいる。

 

「そんなの今すぐもらうわ!これで今夜のタノシミが増えたってもんよ!サインはどこにすればいい?」

 

「分かりました、今持ってくるので少々お待ちを。……チアンカ、これお代ね」

 

「はいよ、まいどあり」

 

部屋に戻るついでにチアンカに酒と料理の代金を払う。岩炎の歌はアツアツの石で蒸された魚介や野菜が蒸籠で蒸したそれとはまた違う風味で美味かったし、タタコスも味はもちろんのこと、グレインラップ同様つまみながら食べるのにちょうどよかった。旅先で食が合わないと辛い、みたいな話は聞くけど今のところナタの料理は俺好みでいいな。

 

経費で落ちないかという一縷の望みをかけて領収書の用意をしてもらっている間に俺は部屋にもどり、荷物の中から書籍の束を取り出す。社長から渡されていた受領書と一緒に食堂に戻り、シトラリさんにそれらを渡す。

 

「じゃあこちら確認をお願いします。『雷電将軍に転生したら、天下無敵になった』シリーズここ2年分の新刊と最新刊の付録ですね。サインはここに、料金も書いてありますので」

 

「これを待ってたのよ!続きが気になってたのにズイブンと待たせてくれたわね!」

 

「あ、あはは……最近までゴタゴタしてたので……それにしてもナタでもこれ人気なんですか?」

 

サインを済ませ、料金を置くとシトラリさんは早速本を見回している。表紙や裏表紙を丁寧に確認するあたり、コレクター気質なのかもしれない。

ふと気になって本の話を振ると、シトラリさんはケロっとした顔で答えた。

 

「さあ?ワタシ以外に読んでる人は見ないケド。それにしてもいい状態で持ってきてくれたわね!前の商人達はどうしても汚れがあったりしてて気になってたのよね…」

 

そうは言いながらも目線はずっと本の方に向かっている。それほど楽しみだったのだろう。ナタの人が自分の国のものをこんなにも喜んでくれると思うと嬉しくなってしまい、つい笑い声が漏れる。

シトラリさんは目ざとくそれを見つけると口をとがらせた。

 

「ナニよ。ワタシが娯楽小説に喜んでちゃダメなのかしら!?」

 

「違いますって。稲妻のものをナタの人が喜んでくれるのが嬉しいだけですよ。よかったらそれ以前のものや最近出た娯楽小説できれいな状態の物があればまた持ってきましょうか?」

 

「本当!?ぜひお願いするわ!」

 

「ええ。これからも狛荷屋をご贔屓に」

 

そう言って二人に挨拶をし、自分の部屋に戻る。初の国外配達だし、書類の不備がないかなどは早めに見てしまいたい。

ちょっと波乱があったことは否めないけど、随分と楽しく帰ることができそうだ。

 

 

 

 

 

なお、しばらく後に大量の注文が俺宛に来て四苦八苦することをこのときの俺は知らない。




蛇足ですが、本短編はもともとキィニチ→シトラリのボイスで
キィニチが稲妻の商人から本を買って届けた→狛荷屋はナタに来てない→自由に話が作りやすいんじゃ!?
と思って書いてみたんですよ。

さて、みなさん5.4の予告番組は見ましたでしょうか。
なんと稲妻のイベントで販売される屋台の商品をナタでも買えて、狛荷屋が届けてくれるそうですよ。
……考慮することが増えるじゃんか……

だいたい隔週くらいで頑張って更新を続けていこうと思うので、
よかったらまた読んでくださると嬉しいです。
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